中古住宅の流通促進に向け、避けて通れない住宅診断

勉強会が行われた研修施設。実際の中古住宅をまるごと使い、実際の”診断”の体験ができるようになっている勉強会が行われた研修施設。実際の中古住宅をまるごと使い、実際の”診断”の体験ができるようになっている

今や日本の「新成長戦略」の一つである、既存住宅の流通活性化。これまでにもHOME’S PRESSでは何度か既存住宅の流通や活用の取り組みについて紹介してきた。
住宅取得者全体ではまだまだ新築志向が強いが、最近では中古住宅にリノベーションを施し、自分らしい住まいをつくるという消費者も増えている。
日本では一般的に木造住宅の価値は20年で償却されてしまうとされている(RC造は40年)。建物の価値ゼロと言われると、消費者としてはそこに資産を投じて良いものか、まだまだ使えそうに見えたとしても建物の耐震性の懸念や不具合があるのではと不安を感じる。国はそうした物件の不安を払拭し、まだまだ住み続けられる中古物件を流通させたい、しかし消費者にとってはハードルが高い…といった状況だろう。

そんな課題の解決策の一つとして、第三者の立場から目視・非破壊の範囲で建物の状態について調査・診断するのが「ホームインスペクション(住宅診断)」だ。消費者が、物件の購入前に建物の状態と補修の必要性を確認でき、「住宅の健康診断」とも呼ばれている。

中古住宅の活用が見直される動きとともにホームインスペクションを取り扱う会社が増加する中、その方法やサービス提供の留意事項等について指針を示し、事業者の適正な業務実施と既存住宅インスペクションの円滑な普及を図ることを意図し、平成25年6月には国土交通省が「既存住宅インスペクション・ガイドライン」を制定した。

そうした中、9月29日に国土交通省の職員が参加するホームインスペクション勉強会が開催された。
国として中古住宅の流通を推し進める中で避けて通れないホームインスペクションについて、机上だけでなく現場を知ることで理解を深めるため、診断の様子を見学する勉強会をしたいと国土交通省住宅局よりNPO法人日本ホームインスペクターズ協会に依頼があり、実現したものだ。協会は、それを可能とする施設とプログラムを持っていないため、会員企業のさくら事務所に勉強会の開催を委託し、同社の研修施設で勉強会が開催された。
今回、HOME’S PRESS編集部は同勉強会に参加。実際の建物診断についても体験した様子をレポートする。

経年変化、それとも不具合?難しい建物診断

埼玉県川口市にある研修施設。施設と言っても築31年(1983年築)、140m2の重厚な木造一戸建て住宅だ。勉強会の最初は、国交省職員を含む約10名の参加者で、チェック項目を見ながらそれぞれ室内と外回りのホームインスペクションを実体験した。

チェック項目は、以下のようなポイントだ。
■建具 :日常で使うように開閉し、引っ掛かりなどがないか
■床・壁:内装の傷みの中に、複数のひび割れや水染みなどがないか
     室内を歩行して気になる傾きが無いか
■外壁 :外壁と基礎の表面に複数のひび割れがないか
■水道 :洗面所やキッチンなどで水を流し、水の量が少なくないか、蛇口下の配管が濡れていないか
上記はほんの一部だが、建物の表面の外壁や内装や建具などから、床下の基礎や構造といった内側までを、目に見える部分の目視チェックと動作の異常から不具合を発見することが、インスペクションの調査内容ということだ。

参加者は思い思いにドアを開け閉めしたり、傾きを調べるため廊下を何度も歩いたりと“診断”している。開放された床下の様子や、押入れの天井から上部を覗いて屋根裏の断熱材などの様子を確認する人も。
実際に診断体験に参加したが、意外にシンプルで一般的とも思えるチェック項目に対して、不具合を発見するのが難しいと感じた。例えば壁の染みを見つけても、それが不具合につながるものか、経年による通常の範囲の変色なのか、素人としては判断がしにくい。「この部分は傾いている」と事前に聞いた箇所でも、明確に傾きを感じる事はできなかったので。ホームインスペクションの専門家であるホームインスペクター(住宅診断士)には、小さな変化も見逃さない経験と、五感も必要な要素であると感じた。

左上:押入れの天袋から屋根裏の様子を確認する人も。<br />右上:扉を開け閉めし、開けにくい場所が無いかを確認する。<br />左下:台所の床下も見せてもらった。基礎の様子を見れるのは貴重な機会だ。<br />右下:水染みに見えるが、色褪せに見えなくもない…素人では判断しにくい壁の変色左上:押入れの天袋から屋根裏の様子を確認する人も。
右上:扉を開け閉めし、開けにくい場所が無いかを確認する。
左下:台所の床下も見せてもらった。基礎の様子を見れるのは貴重な機会だ。
右下:水染みに見えるが、色褪せに見えなくもない…素人では判断しにくい壁の変色

目視や体感の他、専用機器を利用して詳細に確認

壁に十字のレーザーを照射し、建物の傾きを見るもの。柱の角と、レーザーの縦の線が微妙にずれていることで傾きがわかる壁に十字のレーザーを照射し、建物の傾きを見るもの。柱の角と、レーザーの縦の線が微妙にずれていることで傾きがわかる

参加者による診断体験が終わると、ホームインスペクターによる不具合箇所の“答え合わせ”が実施される。まずは外から建物を確認する。建物の表面だけでなく、敷地から出て建物全体を見ることで、近くで見るとわかりづらい雨樋の変形などを確認することができる。また、建物に接する木部の腐食や外壁の塗装の剥がれなどを発見した場合、室内への水染みなどを疑った方が良いそうだ。
確認の際には様々な器具を使うこともある。金属の棒状のもので基礎部分を触り、他の部分と音が違う事で異変を見分けれられる機器、また、建物の傾斜を確認するため壁に十字にレーザーを当てる機械などだ。素人ではまったく傾斜を感じなかった部屋が、レーザーを当てると確かに壁とずれている事がわかる。こうした器具を利用することで、目視で判別できない部分の確認や、傾きなどの不具合を定量的に確認し、より詳細に調査している。

さて、内見で経年による変色なのか水染みなのか判断できなかった室内の壁の部分、正解はやはり「水染み」。「実際に住んでいると、こうした変色は気づきにくい部分です。いつ頃から染みがあるかを質問しても、『覚えていない』という居住者さんが多いですね。しかしこれらは、家のどこかに何か異常が発生しているシグナルでもあるので、注意が必要です」と、説明を担当したホームインスペクターの川野武士氏。

室内の水染みは、外壁部分にも不具合が見られる箇所だったので、その部分から雨などが染み出していることが原因と考えられる。水染みは外壁などの大きな亀裂の予兆であったり、構造躯体にも影響を及ぼすカビの発生などの可能性も考えられるため注意が必要だ。また建物の傾きは、程度によっては構造上の問題や、地盤沈下の可能性を懸念する必要があるそうだ。

結果、室内では20箇所以上、屋外では30箇所以上の指摘事項がある事が明かされたが、参加者の正解数は、平均してそのうち約3分の1程度。普通にぱっと見ただけでは気付かないような細かなひび割れやズレが、建物の不具合につながる箇所だという事を表している。

課題も残る現状。現場の把握で、より実際に即した解決策を

研修施設を提供した、株式会社さくら事務所 代表取締役社長 大西倫加氏。参加者からは様々な質問が飛び交い、活発な質疑応答の時間になった研修施設を提供した、株式会社さくら事務所 代表取締役社長 大西倫加氏。参加者からは様々な質問が飛び交い、活発な質疑応答の時間になった

勉強会の最後には、通常のインスペクションについて株式会社さくら事務所 代表取締役社長 大西倫加氏による解説と質疑応答が行われた。
質疑応答では参加者から多くの質問が飛び交い、国交省職員のインスペクションのへの興味の高さが見て取れた。「購入時に診断を受けた人が、数年後に再度受けるという事はあるか?」「今後、建物の維持管理の方法の一つになっていくのか?」などの問いから、現在では主に売買時に実施されるインスペクションを、今後建物メンテナンスや管理の方法としても利用されていくことを視野に入れていることを伺わせる。

不動産流通に関わる事業者と金融機関などが、中古住宅流通活性化に向けて意見交換をするために2013年から開催されている「中古住宅市場活性化ラウンドテーブル」や、取引時にユーザーへの情報開示がスムーズになることを目指した2014年4月発表の「不動産に係るストックシステム基本構想」など、国交省は中古住宅流通のため様々な施策を打ち出している。
その一つとして今回の勉強会は、机上にとどまらず自ら現場に参加することで、実際に見て経験してみようということのあらわれと言える。
中古住宅の流通促進に欠かせないホームインスペクションだが、こちらも普及には環境の整備が急務だ。官民が連携した今回の勉強会のような実際の体験により理解がさらに深まり、今後多くの課題が現場に即して解決されることを期待したい。

住宅売買取引全体の70~90%の割合でインスペクションが行われるアメリカのように、今後日本でも常識になっていくのだろうか。新築志向の強い日本の住宅業界。「古くても価値がある」ことの意識付けと環境整備は、既存住宅の流通促進には避けて通れない道だ。既存住宅の健全な取引の確保に向けて、今後の普及が期待される。

2014年 10月25日 14時05分