都市型集合住宅における次世代エネルギーシステムと、人と人のつながりの創出

2015年12月1日、大阪ガスが建設した実験集合住宅「NEXT21」の第4フェーズ居住実験中間報告会と居住実験開始21周年記念シンポジウムが開催された。
NEXT21は、1994年以来、実際に大阪ガスの社員とその家族が居住し、その時々に社会的なテーマを反映した実験課題を5年おきに設定。建築や設備に関する開発技術を公開し、実験の成果を検証している。
HOME'S PRESSでも以前、「大阪ガス実験集合住宅[NEXT21設計パートナー・コンペティション]プロジェクト最優秀賞住戸を取材」でも取り上げたが、改めてこのNEXT21の居住実験の目的を記載すると、
1)環境共生住宅としての実証
 ・大規模建物緑化の実現
 ・環境に配慮した先進エネルギー・設備システムの実証
 ・省エネルギーを追求した住まい方の実証
2)スケルトン住宅・長期優良住宅ストックとしての実証
 ・少子高齢社会に対応し、環境にやさしい住宅の提案と住み方調査による検証
 ・リフォームによる建築システムの検証
 ・コミュニティ形成促進に関する実験
3)住宅機器・設備の実験とモニター評価
となる。

過去、第1フェーズ(1994-1999)では、「ゆとりある住生活と省エネルギー・環境保全の両立」、第2フェーズ(2000-2005)では「地球環境と人の暮らしへの配慮」、第3フェーズ(2007-2012)では「接続可能な居住を支える住まい・エネルギーシステム」というテーマ設定をし、居住実験を行っている。

そして、2013年6月から進行中の第4フェーズでは、「2020年頃までの都市型集合住宅」を想定し、
1)より高い省エネ、省CO2性と共に、東日本大震災で顕在化した「節電」と「独立したエネルギー供給」の必要性
2)少子高齢化と単身世帯の増加による「人と人のつながりの創出」
という、人・自然・エネルギーとの関係を深める「環境にやさしい心豊かな暮らし」を追求している。

今回開催された第4フェーズ居住実験中間報告会では、集合住宅における省エネや省CO2の追求を目指した「エネルギーシステム」に関する実験結果と、多様なライフスタイルに対応する心豊かな暮らし方の追求を目指す「住まい方」という2つの分野に関する実験結果が報告された。
第4フェーズ実験開始から2年半、いったいどのような実験結果が得られたのだろうか。

NEXT21第4フェーズ開始から2年半の居住実験の中間発表に加え、</br>NEXT21実験開始から21年を迎えたシンポジウムが同時に開催されたNEXT21第4フェーズ開始から2年半の居住実験の中間発表に加え、
NEXT21実験開始から21年を迎えたシンポジウムが同時に開催された

省エネ、省CO2削減を実現したエネルギー供給実験の成果

NEXT21のエネルギーシステム実験結果を発表する大阪ガス株式会社 リビング事業部 計画部 技術企画チーム副課長 目堅智久氏NEXT21のエネルギーシステム実験結果を発表する大阪ガス株式会社 リビング事業部 計画部 技術企画チーム副課長 目堅智久氏

NEXT21では、高い省エネ性、省CO2性を実現するために、電力会社から提供される一般的な電力系統よりも発電効率が高い「固体酸化物型燃料電池(SOFC)」を採用している。
この燃料電池は、天然ガスから水素を取り出し、その水素により発電を行っている。また同時に排熱もされるため、この熱を利用した給湯など、CO2排出量の少ないクリーンな電力源として注目されている。
第4フェーズでは、この固体酸化物型燃料電池(SOFC)を利用して電気と熱を取りだすガスコージェネレーションシステム「エネファーム type S」を各住戸に分散設置をして実験を行っている。

結果としては、エネルギー効率が高い700Wという定格出力で運転し続け、発電したものの余ってしまった電力を電力会社線側に戻す逆潮運転(※)を想定、及び余った電力を住戸間で融通したり、蓄電池に充電して再利用することで、省エネ・省CO2に大きく貢献したという。
さらに、住民自身が現在の電力使用状況や電気料金などのエネルギー状況をリアルタイムに把握することのできるHEMS(ホーム エネルギー マネジメント システム)」端末を活用することで、集合住宅内で使用電力が集中する時間帯を避けて節電を意識するといった居住者の意識改善、具体的な節電活動につながったのだ。

つまり、
1)発電効率の高い燃料電池のポテンシャルを最大活用
2)集合住宅全体で電力・熱を融通、及び自立するシステム化
3)HEMS(ホーム エネルギー マネジメント システム)」端末等を利用した住民に対する省エネ意識と行動変容

この3つの観点から行われた実験のいずれも、現状以上の効果が確認できたのだ。
同社リビング事業部 計画部 技術企画チーム副課長 目堅智久氏は、「第4フェーズ居住実験を通じて、省エネ・省CO2、系統電力負荷低減の効果を確認できた。これらの技術を集合住宅だけでなく、戸建住宅は元より、都市のエネルギーシステムへの展開も視野に入れて実験を続けていきたい」と実験の手応えを語った。

今回の結果を受けて、こうしたエネルギーシステムの効率化は、集合住宅だけでなく戸建住宅や宅地開発エリアなど、都市のエネルギーシステムへの展開も検討されているといい、今後の有用性が期待される。
※2015年12月現在、燃料電池の余剰電力の売電はまだできない。

人と自然、人と人のつながりを創出する住まいの「中間領域」

NEXT21の少子高齢化に対応した住まい研究の発表する大阪ガス株式会社 エネルギー・文化研究所 加茂みどり氏NEXT21の少子高齢化に対応した住まい研究の発表する大阪ガス株式会社 エネルギー・文化研究所 加茂みどり氏

第4フェーズの居住実験では、省エネや省CO2を目指すエネルギーシステムの追求に加えて、人と自然の関係性の再構築、人と人のつながりを創出という、いわば「住まい方」をテーマとした、少子高齢化や単身世帯の増加という今後の家族環境の変化に対応する住まいの追求を実験した。

近年の集合住宅は、断熱性能、防音性能を高めるため、外部空間と室内空間が壁によってはっきりと分断される傾向にあるという。これは、断熱により空調効率を上げるという省エネルギーの観点から見ると当然のことといえる。
しかしながら、「外部と室内に関係性をもたせ、縁側などで季節感を楽しむといった、外部空間の快適性を取り入れながら生活することが本来の日本の居住文化の特徴ではないのだろうか」と、住まいの快適性について言及したのは、大阪ガス株式会社エネルギー文化研究所 加茂みどり氏である。
つまり、日本家屋の”縁側”に代表される私的な空間と公的な空間の質を併せ持つ「中間領域」があれば、人を招き入れることでコミュニティが形成され、そこでうまれるアクティビティが人と人とのつながりを創出することを期待しているのだ。

実験はNEXT21の異なる3つの部屋を使い、「中間領域」の使われ方を記録、分析をした。
1)「余白に棲む家」
自宅の中にありながら外部空間と親和性のある「土間」を中心に、居住者による学童保育や学習塾の開催など、日常的に子供が集まり、居場所を見つけ出す家をコンセプトに設計された住戸。
2)「しなやかな家」
定年退職した夫と元料理講師の妻が暮らす家を想定し、自宅の中に料理教室を開催できるキッチンと、食事室と外部空間をつなぐ露台の存在など、住戸内に人々が訪れ交流することを想定して設計された住戸。
3)「住み継ぎの家」
最外壁で室内と外部を寸断させることなく、半屋外における豊かな生活・居住文化を継承する空間として、複数の建具によって「環境調整空間」を設けつつ、室内の温度調整をする手法の可能性を検討。

実際に、「余白に棲む家」では、塾に通う子どもたちが玄関ではなく土間を通じて住戸に入り、比較的自由な時間に訪れていた。また、夫婦にとっても土間は、読書やくつろぎの場として機能しており、来客があった場合は立ち話の空間として機能するなど、私的な単独行動と公的な相互行為の両方が適宜使い分けられることが確認できた。
「しなやかな家」では、料理教室として利用する居室と外との空間を繋ぐ「露台」を中間領域とし、居住者が大人数を招いてホームパーティを開催した。その結果、ホームパーティ中に露台で会話するグループがうまれたり、参加者自身もパーティ中の体感温度によって居場所を変えたり、快適性を求めて住戸内で活動範囲を広げる行動も見られた。
「住み継ぎの家」では、複数の建具による環境調整空間を活用することで、空調面積が減り、空調負荷低減につながったといい、今後季節に応じて建具を開閉することで、最適な快適性を取り込むことが考えられるという。

住まいにおける「中間領域」は、人と人のコミュニケーションの創出や外部の快適性や季節性を取り入れることのできる調整空間として機能することがわかった。防音や断熱性を求めるあまり、人との関係性さえも遮ってしまう"壁"のあり方を改めて考えさせられる結果となった。

NEXT21から見える、これからの住まい・暮らしとは?

日本は今後、今以上に少子高齢化や進み、家族環境が多様化、「誰と、一緒にどのように住むのか、誰と何をシェアするのか」といった問いかけが当たり前になる時代を迎えつつある。
こうしたNEXT21の実験結果は、日本における将来の住まいがどうあるべきか、その可能性を示す一つの答えではないだろうか。また、「環境にやさしくこころが豊かになる暮らし」を目指すことは、省エネ・省CO2の追求はもちろんのこと、人と自然の関係性も着目されるべき点である。

今回の中間報告会の第2部で開かれた記念シンポジウム「NEXT21から、これからの住まい・暮らしを考える」で、NEXT21 設計パートナーコンペティションのコンセプトメイキングを担当した株式会社オープンエー代表 馬場正尊氏は、京都大学大学院 教授 髙田光雄氏との対談の中で次のように述べている。

「20年ぶりにみたNEXT21は、当時見たような煌々と輝く近代建築ではなく、外壁のコンクリートに植栽が生茂っているという『人工物と自然物が拮抗する新しいNEXT21の姿』だった。人々は現代まで、欲望のままに自然を埋め尽くして住宅を建て続けてきたのに、いまのNEXT21の姿をみると、我々は次の世紀、再び自然を取り戻そうとする欲望に駆られているのではないかという印象を受ける。同時に、このNEXT21の自然はいわば人工的にコントロールされた自然であり、人と自然の共存のバランスさえも高いテクノロジーによって操作できていくのではないかというメッセージを発信しているような気がする」

将来の都市型居住を見据え、「人、自然、エネルギー、住まい」といった関係性におけるデータを蓄積し続けるNEXT21。本来はエネルギーを扱う大阪ガスが、省エネ・省CO2の追求という枠を越えて多様な環境の変化に対応すべく社員自らが住み、未来の住まい方を追求する取り組みは、実に意義深いことである。
大阪ガス株式会社取締役 常務執行役員の藤原敏正氏は、冒頭のあいさつで「NEXT21は、大阪ガスの社会の役に立ち続けるという長い視点と、新しい課題に挑戦し続ける姿勢を体現している。人の暮らしやこれからのエネルギーシステムがどうあるべきか、環境にやさしい豊かな生活とは何かを常に考え続けていきたいと考えている」と話した。

第4フェーズの実証期間も残り2年半。
多様に変化するこれからの住まいを考える上で、NEXT21から発信され続けるメッセージに期待しつつ、引き続き注目していきたい。

京都大学大学院工学研究科教授 髙田光雄氏と株式会社オープン・エー代表取締役の馬場正尊氏による対談</br>「NEXT21から、これからの住まい・暮らしを考える」の様子京都大学大学院工学研究科教授 髙田光雄氏と株式会社オープン・エー代表取締役の馬場正尊氏による対談
「NEXT21から、これからの住まい・暮らしを考える」の様子

2016年 01月21日 11時07分