『住宅幸福論 Episode.3~ひとり暮らしの時代』

2020年6月9日にLIFULL HOME'S 総研から新たなレポートが発表された。これまでLIFULL HOME'S 総研から発表された『住宅幸福論』の第3弾である。

Episode.1『住まいの幸福を疑え』では、平成の終わりに昭和に形成された日本人の「住宅の幸福感」を解体する試みとなっていた。いわゆる住宅双六のゴールといわれてきた「新築・持ち家」がもたらす幸福感の解体であった。
続くEpisode.2の『幸福の国の住まい方』ではEpisode.1で幸福感の要素の手掛かりとなった暮らし方に焦点をあて、国連の幸福度ランキングで上位常連の国であるデンマークと日本の暮らし方の差を調査し、日本人の住生活の実態を振り返った。その中では、主体的な暮らし方が住まいの幸福度を上げる要因であることをあぶりだし、インテリアの可能性にふれている。

今回のEpisode.3のサブタイトルは『ひとり暮らしの時代』。271ページにも及ぶ調査レポートは、日本のひとり暮らし世帯の幸福と不幸がテーマであるという。
新しいレポートについて、LIFULL HOME'S 総研所長の島原万丈氏に話を聞いた。

日本の世帯の現状~単身世帯増加の実態

「今回何故、ひとり暮らしに焦点をあてたのかというと、これまでの住宅幸福論シリーズを振り返ると、2人以上世帯に比べても、デンマークの単身世帯と比べても、一貫して日本の単身世帯の住まいの満足度が低かったことが気になっていたからです。増加するひとり暮らしの割合と、世の中に供給されている住宅や制度にズレがあるのではないかと思うんです」と、島原氏。

国立社会保障・人口問題研究所の統計によると、日本の単身世帯数の数と割合は1970年には624万世帯で全体の約20%であったが、2020年では1,934万世帯でおよそ3倍に増えており、世帯数の割合は35.7%と増加している。ちなみにファミリー層世帯数は1、413万世帯で約26%。さらに予測では、2040年には単身世帯の割合はおよそ40%になるとされており、つまり、日本でもっとも一般的な暮らし方は「ひとり暮らし」ということになる。

「東京23区や福岡市では、すでに全世帯数の半数が単身世帯となっています。続いて大阪市、名古屋市・札幌市・仙台市と、いずれも40%を超える割合が単身世帯となっています。大都市圏ほど単身比率が高いんです。
さらに男性の3人に1人は生涯独身という未来も予測されています。将来的には日本の15歳以上の半数近くが未婚、離別、死別も含めると独身者ということになります。ワンルームマンションといえば若い人が住んでいるイメージがあると思いますが、今や、ひとり暮らしは“若い時の一時的な暮らし方”ではない、ということです」

晩婚化が進む中、単身世帯は増えており、全年齢層に拡がっている晩婚化が進む中、単身世帯は増えており、全年齢層に拡がっている

ウェルビーイング指標を加えた「住まいの幸福」と住環境。未婚単身の中年男性の危機

一方、ひとり暮らしの住環境は…というと「軽視されてきた」と島原氏はいう。

「いつかは家族をもち3人もしくは4人で暮らすことが前提だった時代は、ひとり暮らしの住まいは、あくまでも一時的な住まいという若い年齢層のみを前提につくられてきました。1970年代に出現したワンルームマンションは16m2前後が主流でした。時代につれて多少広くなったとはいえ、2020年に入っても23m2あたりが平均的な広さです。狭くても外にいる時間が長く、寝に帰るだけだから、という考え方でつくられた住まいが多いのが現状です」

では、こういった状況の中、ひとり暮らしは幸せなのであろうか?
今回の調査レポートでは新しく「ウェルビーイング」の概念を元に調査を行ったと島原氏はいう。
「ウェルビーイングは医療や看護、健康分野でよく聞く言葉ですが、近年幸福研究で注目されている概念です。直訳すれば「より良い状態」を示しますが、それはただ単に「満足している」だけではなく、「幸せを感じている」や「倫理的に善い状態にある」などを含む幸福の概念です。具体的には、個人のコンディション(状態)を示す言葉で個人の満足度、感情、そしてエウダイモニアというのですが、良い人生を送るうえで重要な心的態度や経験を指す概念です。今回はその概念に基づいて、家の満足度・家でのポジティブ感情・家でのネガティブ感情・家がもたらすエウダイモニアを調査しました」

すると、現状のひとり暮らしの住まいのウェルビーイングでは以下のことがわかったという。
・独身のひとり暮らしは住まいの幸福度が低い
・男性は女性よりも住まいの幸福度が低い
・男性は加齢で住まいの幸福度が下がるが、女性は変化が小さい

「単身男性の住生活の満足度は40~59歳のミドル層で最低となり、一般的にいわれる“中年男性の危機”のような現象が住生活にも表れています」という。

ウェルビーイングの指標でみると、家のスペックだけでなく、住まいの幸福度には様々な観点が含まれていることがわかるウェルビーイングの指標でみると、家のスペックだけでなく、住まいの幸福度には様々な観点が含まれていることがわかる

おひとり様社会における「いえ」と「まち」の役割

では、ひとり暮らしの住まいの幸福度を高めるためにはどういったポイントが見えてくるのであろうか?

暮らし方・住まいのウェルビーイングを調査すると以下の構造がみてとれるという。
・家の満足度はハードのスペックと管理への評価が影響している
・ポジティブ感情を左右するのは家への感覚的評価(心地いい、気持ちいい)とコミュニティが重要
・エウダイモニアを左右する要因は、主体的な住まい方
・ネガティブ感情は住宅内部ではあまり改善されない

「ひとり暮らしは実は、ストレスは低いが孤独度は高いという結果が出ています。では、孤独の緩衝材は?というと、ポジティブ感情やエウダイモニアが高まる暮らし方、地域社会との緩いつながり、多様性の高い街選び、といったことが調査からみえてきたことです。

住まいの幸福度を高めようと思ったら、建物や設備のハードが良いにこしたことはありませんが、もっと定性的で感覚的な家の価値や住まい方そのもの、人との繋がりに注目すれば、ただ家に満足しているだけではなく、ポジティブで有意義な時間が過ごせると思います」

「コロナ禍の中で住まいの役割は変わりつつあります。居心地をよくすることに目が向くだろうと考えています。また、今までは会社の仕事をすることでコミュニティが担保されていた部分は、一部住んでいる場所や他のコミュニティで補うことも必要になってくるでしょう。コミュニティに接近する口実となる空間、例えば銭湯やカフェなどもまた新しい役割を担っていくのかもしれません」という。

日本の個人化した現代社会で幸せに暮らすためには、個の住宅では自身を大切にできる心地よい空間を、そして社会や街との良質なつながりと主体的な自らの関心と関与が必要なようだ。

今回の『住宅幸福論 Episode.3~ひとり暮らしの時代』の終章には、島原氏の思いが表現されたタイトルがつけられている。そのタイトルは、「ご機嫌なおひとり様社会をつくるために」。これから世帯数の大半を占める「おひとり様」単身世帯。その「おひとり様暮らし」が、これから幸せであることを祈りたい。それが社会全体の幸福度をあげることにもなるであろう。

多くの調査と実例に基づいたこの調査レポート。それぞれが手に取って、じっくりと読んでいただきたい。きっとたくさんの発見があるに違いない。

■LIFULL HOME'S総研
https://www.homes.co.jp/souken/

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LIFULL HOME'S 総研所長 島原 万丈氏LIFULL HOME'S 総研所長 島原 万丈氏

2020年 06月10日 11時00分