アメリカ的価値観とのかかわりをなぜ強調するのか?

新しく会長に就任したスティーブ・ブラウン氏の演説は、NARがどうやってアメリカの社会経済に貢献するのか、歴史の中でどのような役割を果たしていくのかを述べた、見事なものだった新しく会長に就任したスティーブ・ブラウン氏の演説は、NARがどうやってアメリカの社会経済に貢献するのか、歴史の中でどのような役割を果たしていくのかを述べた、見事なものだった

サンフランシスコで行われたNAR(National Association of Realtors)のThe 2013 REALTORS® Conference & Expoに参加した。7日に到着してその足で新しい会長に就任したスティーブ・ブラウン氏の就任パーティーに参加させてもらった。
コンベンションセンターの最も大きなボールルームを借り切った、まさに映画でしかみたことのない世界が広がっていた。新会長の就任パーティーは新体制のお披露目式も兼ねているらしく、2000人以上のリアルターが出席して会場はかなり広いにもかかわらずぎちぎちな感じ。
就任式ではまず、南北戦争以降のアメリカの歴史が振り返られ、NARがその中でどのような役割を果たしてきたのかがフロアが一体となって確認するところから始まった。その後、檀上にはキリスト教徒、イスラム教徒、仏教徒など異なる宗教のリアルターが勢ぞろいし、アメリカの多様性に貢献することがアピールされた。

スティーブ・ブラウン氏自体の紹介に移る。そのやり方は日本人にはなじみがなく、どうかと思うような人もいるかもしれない。結婚式で流されるような人となりやこれまでの経歴、出身母体のオハイオのリアルターからの紹介が映像で繰り返される。
最後にスティーブ・ブラウン氏の演説が行われた。これは、僕の目から見ても、NARがどうやってアメリカの社会経済に貢献するのか、歴史の中でどのような役割を果たしていくのかを述べた、見事なものだったと思う。

ネットワーク外部性の維持

NARは110万人の会員を有する不動産業者の団体であり、全米最大の政治的な影響力を有する団体だと言われているNARは110万人の会員を有する不動産業者の団体であり、全米最大の政治的な影響力を有する団体だと言われている

この経験からNARとはどんな組織なのかを少し考え見たい。NARは110万人の会員を有する不動産業者の団体であり、全米最大の政治的な影響力を有する団体だと言われている。このNARがこれほどまでに多くのメンバーを獲得し、強固な結束を誇っているのはなぜかについて考えてみる。

第一に、不動産業というのはネットワーク外部性という技術的特性を持つ産業だということが挙げられる。
買い手に物件の紹介を行うためには、たくさんの物件情報があった方がいいし、良いマッチングをするためにも多くの優良の買い手情報を持っていることが好ましい。しかし、一つの業者が全ての買い手、売り手の情報を有することはあまり現実的ではない。このため、米国をはじめとして先進国では個々の業者のネットワークを強化する手法が選択されており、米国ではMLS(Multi Listing Services マルチリスティングサービス)という仕組みが採用されている。事業者の有する物件情報のみならず、周辺の地域情報、売買履歴が蓄積され、消費者に伝えられる、非常に使い勝手のいい仕組みであり、また地域の不動産市場の情報がほとんど網羅されているため、MLSのネットワークから排除されることは、商売ができなくなるに等しい。
「できるだけ多くの情報を相互に利用することが効率性を保証する」ネットワーク外部性という技術を有する産業であるため、
・MLSを使用した地域独占を達成したため大規模化
・それから排除されることはネットワーク外部性を利用できないこと
を意味するため、その維持に成功している。

ブランディングとしての倫理綱領

第二にNARの構成員は、「社会に貢献する」ために働いているという意識を意識的に醸成されている。
不動産業とは地域に密着した商品を扱っているため、基本的に地域独占の仕組みを作り上げればそれでいいはずであった。しかし、住宅税制をはじめとした連邦ベースの政策は不動産業者に大きな影響を与える。その場合は、全国ベースの交渉を行う必要が出てくる。また、米国人は非常に流動性が高いため地域独占を超えた活動を展開する必要が出てくるし、不動産の証券化以降はグローバルなレベルでの仕事も増えている。この場合、やはり全国ベースの組織を作り上げる必要があろう。
ギボンによれば、ローマ帝国がローマ市周辺を支配していた時は、ローマ軍の忠誠を保つためには彼らの愛国心に訴えればよかった。しかし、世界帝国となった後のローマ軍の忠誠を保つためには、ローマ軍旗、それに付随したパクスロマーナの維持者という価値観を作り出したということが言われている。NARも同様ではないか。NARは倫理綱領というアメリカ社会のために何を行いうるのか、それを実現するためにどんな行動を行うかという内部規則を持っている。しかしそれは、相互監視によってモニタリングし、それに違反したものにはMLSが利用できないなどの厳しい罰則を持つ。
このようなことを通じて、NARに属するリアルターのブランド価値を上げ、消費者の不動産サービスの消費自体も増加させるという効果も得ている。このようにしてNARはさらなる大規模化とその維持を行っている。

感心したこと、だけどまだわからないこと

印象的なのは、以前NARのJason 渡部氏を招いて日本大学でモチベーションの講演をしてもらったことがあった。その際、NARの社会貢献とは何かという質問に、氏は例えば住宅税制に関するロビー活動を例として答えていた。
この答えは僕にはいささかショックであった。消費者のために事業及びロビー活動をやっていると、全てのメンバーが信じているとすれば、観点が一緒であるため、産業界と政策部門の対話はおそらくスムーズなものになる。一致するかしないかは別として、目線が一致しているという土俵にたてるからだ。
しかし大きな目でみて、これが好ましいことなのか僕にはまだ判断ができない。

米国の歴史の中での自分たちの役割、米国の価値観との関係を繰り返し整理した新会長の就任式から、そんなことを考えてみた。

2013年 11月19日 10時14分