冬寒く、夏暑い日本の家の救世主は断熱か?!

ヨーロッパで実用化されている高性能省エネ建物「パッシブハウス」の外壁。外壁の内外に分厚い断熱材が見えるヨーロッパで実用化されている高性能省エネ建物「パッシブハウス」の外壁。外壁の内外に分厚い断熱材が見える

真冬、お風呂から上がって、寒い廊下を走ってリビングでひと息つく…こんな経験のある人は多いのでは。
暖房で温めた部屋と、冷えたままの廊下やトイレの温度差は10度以上ともいわれ、この急激な温度差は心臓発作を起こす「ヒートショック」の危険がある…。冬寒く、夏暑いという、当たり前に我慢していた日本の住まいの常識は、実は先進国のなかでは驚くほど低い住宅性能だ。今回は、欧米では常識の「高断熱な住まい」を考える。

断熱とは名前の通り、熱を断つこと。外気の影響を抑制し、室内を一定の温度に保つことで快適な暮らしを実現する方法のひとつである。
断熱の方法はビルやマンション等のコンクリート建物と木造住宅で異なる。コンクリート建物の場合は、断熱材で建物を外部から覆う「外断熱」と、室内からウレタン等を吹き付ける「内断熱」。木造住宅は断熱材を柱間に充填する「充填断熱」と、建物を主に発泡プラスティック系の断熱材で覆う「外張り断熱」がある。一般的な日本の木造住宅は、今までほとんど充填断熱でつくられてきたが、最近ではドイツで普及してきている高性能な省エネ住宅「パッシブハウス」のように、充填断熱+外張り断熱も少しずつ増えてきた。

1970年代のオイルショック以降に世界的に広まったエコ意識のなかで、欧米の住まいに取り入れられた外断熱(※木造住宅の場合は充填+外張り断熱)。断熱材で建物をすっぽりと覆うこの工法は、壁の外に設置した断熱材が外気による温度変動を防ぐため、1年中室内を一定温度に保つことができ、特に熱容量の大きいコンクリートの建物に有効だ。北海道の木造一戸建てには比較的外張り断熱工法が普及しているが、外断熱のマンションは寒冷地の一部の公共施設で採用されている以外では、ほとんど存在しない。

※日本建築学会ではコンクリート建物は外断熱、木造住宅は外張り断熱と呼称を分けているが、一般には木造も外断熱といわれることが多い。

外断熱が日本で普及しない理由は?

特定非営利活動法人 外断熱推進会議の芝池さん(左)、堀内さん(右)特定非営利活動法人 外断熱推進会議の芝池さん(左)、堀内さん(右)

高断熱住宅をつくる手段として外断熱は最適な手法に見えるが、日本で普及しないのはなぜか。特定非営利活動法人 外断熱推進会議の堀内さん・芝池さんに聞いた。

「木造一戸建ての外張り断熱は、北海道では30年ほど前から普及しています。ヨーロッパで外断熱が広まったのは、冬が非常に寒いため高断熱化が死活問題だったからです。北海道でも同じことがいえるのでしょう。ただ、本州は我慢できる寒さであることと、暖房設備の性能が向上したこともあって普及していません。また、外断熱のマンションは一時期供給されましたが、現在では高性能な外断熱マンションはほとんど建てられていません。これは、マンションを購入する消費者が外断熱を必須性能とは認識していないこと、供給する本州のデベロッパーが分かりやすくアピールできる、立地や利便性等に主力を注ぐことが原因していると考えられます」

高層マンションを供給できる資金力のあるデベロッパーは数が限られており、そのほとんどが東京に本社を置いている。戸数の少ない寒冷地のマンションを外断熱にするより、目に見える室内設備や共用施設を充実させたほうが、消費者の反応が良いのだろう。

――外断熱は外壁で断熱材と仕上げ層を支えるので、地震に弱いというデメリットを挙げる人もいるが。
「北海道では1993年の釧路沖地震以前から外断熱の施工事例があります。それらの家は地震の後もきちんと機能しています」

――外断熱は工事費が上がるのではないか? だから普及しないというということはないか?
「木造の場合、単純に外張り断熱だけを考えると、充填断熱工法との違いはありません。ただ、外張りを選ぶ施主は高断熱の住まいにするために、窓やドアも高性能のものを選びます。これが工事費が高いというイメージの理由でしょう」

コンクリート建物の外断熱には、躯体に断熱材を接着させる「湿式工法」と、コンクリートの躯体から支柱を張り出して断熱外壁を支える「乾式工法」がある。より施工費がかかるのは「乾式工法」と言われているが、水蒸気が通気層から確実に排出できる・使用材料の制限がほとんど無い等、乾式ならではの利点もあるためコストと設計の見極めが必要だ。

異常に遅れている日本の「断熱」

ヨーロッパのコンクリート建物の工事風景。この躯体に断熱材を貼って外側にレンガを積んでいくヨーロッパのコンクリート建物の工事風景。この躯体に断熱材を貼って外側にレンガを積んでいく

日本では、2013年に住宅の省エネルギー基準が改正され、2020年までに全ての新築建築物に「次世代省エネルギー基準」を満たした断熱化が義務付けられた。ただこの次世代省エネルギー基準、そもそも欧米基準の最低レベルであることは、国内ではあまり知られていない事実。一方ヨーロッパでは、2020年に暖房設備を使わない住宅を義務化しようとする動きも出ており、日本の断熱化は大きく遅れをとっている。

これは、日本の経済評価が土地主体で考えられているのに対し、欧米では家そのものに価値があることが関係しそうだ。例えば、日本の一戸建ては30年で価値がゼロになると言われており、住み始めた直後に20%、10年で半値になり、そこから20年ほどかけて除々に価値ゼロに近づいていく。この状態で初期投資をして高断熱な家をつくる・買おうとする人は少ないのだろう。
一方ヨーロッパでは、家は住み継いで価値を高めていくという考えがあるため、断熱という初期投資で住宅の価値を保っている。また、オイルショック以降の石油価格上昇により、国をあげて住まいのエネルギー消費を減らす政策が取られ、高水準の省エネ基準を実現している。現在、ヨーロッパ諸国では、建物の省エネ基準の共通ものさしである「エネルギーパス」と呼ばれる住まいの燃費表示が義務付けられている。

「外がどんなに厳しい環境でも、家は夏涼しく冬は暖かいシェルターであることが欧米では常識だと気付いて欲しいですね。日本は断熱レベルは低いまま局所暖房で部屋を温めますが、それでは電気代もかかるし、ヒートショックで生命の危機にも脅かされる。高断熱な住まいは健康にすごすためにも必要です。住宅の資産価値の面から見ても、転売した時の資産価値を考えて30年先を見越した住宅性能に投資をすべきです。今から30年後、住宅の高断熱化は進んでいるはずですから」と堀内さん・芝池さん。

高断熱住宅は新築だけでなく、中古住宅を改修してつくることもできる。外断熱の場合は、壁の外に断熱材を入れるので住人が暮らしながら工事が可能だ。また、内断熱と外断熱の電気使用量を比較すると、暖房の場合で約55%の使用に抑えられるという実験結果もある。(※体感ルームにて2月26日15時~27日15時まで実施。室内温度22~24度の場合)
このように総合して見ると、初期投資はかかるものの高断熱住宅をつくるために外断熱を採用する選択はあってもいいだろう。

無制限なエネルギーの消費は最終的に自分たちの将来を脅かす。自分たちにとって価値ある住宅を選び、維持する大切さとともに、資源に限りある地球に暮らしている一員として、エネルギー消費リテラシーが今後問われるかもしれない。

2014年 10月24日 11時21分