まずは私の自己紹介から

私は有限会社松尾設計室の代表取締役と一般社団法人パッシブハウスジャパンの理事を兼任している。本業は夏涼しく、冬暖かい木造住宅を年に25棟くらい設計している設計事務所である。それと同時に建築専門誌への連載、工務店向けに正しい省エネ住宅の知識の啓蒙活動として年間70回くらい講演をしている。

これからいろいろ書いていく上で、皆さんに知っておいていただきたい前提がいろいろとある。初回である今回は、そのあたりを説明したいと思う。

「省エネ住宅」「エコハウス」「スマートハウス」といった言葉を近年非常によく聞くようになってきた。しかしながら、それらの目指すところの「本質」を理解し実践しようとしている住宅実務者がどれだけいるのか?ということを考えると残念ながら非常に少ないと言わざるを得ない。

こういった言葉の本質は「持続可能性」(サスティナビリティ)ということに尽きる。
CO2問題しかり、エネルギーの大半を輸入に頼っている我が国の安全保障の観点から見ても持続可能性は非常に重要なテーマである。今最も多い勘違いは「自然素材を使えばエコハウスである」という勘違いだと思っている。確かに「エコハウス」の中に「自然素材住宅」はたくさん存在する。しかしながら、「自然素材住宅」だから「エコハウス」という条件が必ず成り立つとは限らない。自然素材住宅でも断熱、気密が弱く、日射取得、日射遮蔽がうまくできていないのであれば、それは決してエコハウスではない。仮にそういった住宅が年に100万戸建ったとすると今後持続可能にはならないからだ。

この勘違いを起こる最大の原因は、自然素材住宅=ナチュラルハウス=エコロジーという観点から来ているのだと思われる。私自身、自然素材は大好きである。しかしそれは、あくまできちんと省エネ住宅の本質を押さえた上での話だと思っている。

2009年からの3年間で産業部門は-0.9%、運輸部門で-2.6%の合計-3.5%削減となっている。</br>ところが家庭部門が+2.1%ビル部門が+2.2%で建築部門では合計4.3%もプラスとなっている2009年からの3年間で産業部門は-0.9%、運輸部門で-2.6%の合計-3.5%削減となっている。
ところが家庭部門が+2.1%ビル部門が+2.2%で建築部門では合計4.3%もプラスとなっている

建築部門が足をひっぱるCO2排出量と一次エネルギー使用量

2012年のデータで日本のCO2排出量、及び一次エネルギー使用量のうち約37%が建築物(家庭部門+業務その他部門,業務その他部門が住宅以外の一般建築を指す)から、16%程度が住宅から排出されている。2009年からの3年間で産業部門は-0.9%、運輸部門で-2.6%の合計-3.5%削減となっている。ところが家庭部門が+2.1%ビル部門が+2.2%で建築部門では合計4.3%もプラスとなっている。総量が変わっているので単純なプラスマイナスではないが、それでも差し引き0.8%の悪化の主因となっているといえる。産業+運輸部門は全体の51%も占めているのに対し、建築部門は37%しか占めていないので、いかに建築部門が足を引っ張っているのかは明らかである。
この理由は建築実務者がつくっている肝心の「箱」そのもの、すなわち屋根、外壁、窓といった部分の断熱性能の低さ、また冬の日射取得、夏の日射遮蔽という省エネ住宅の基本中の基本ができていないことにある。
2020年に省エネ基準が義務化されるということで業界内は話題となっているが、そのレベルもたかだか次世代省エネ基準(平成11年基準、大手住宅メーカーの標準的な断熱水準)程度だと言われている。
今現在、新築戸建住宅における次世代省エネ比率は60%くらいではないかと思う。「次世代」というネーミングが付けられたがゆえにその基準を「あがり」だと勘違いしてしまった会社が大半であった。大手量産メーカーですらこの勘違いに見事に乗ってしまった。しかもその状況が15年(2020年まで続くのなら21年も続くことになる)も続いてしまったのは国家的損失としか言いようがない。

次世代省エネ基準では残念ながら「夏涼しく冬暖かい生活と省エネ」を両立させることは不可能である。だから「最低義務基準」に設定されるのだ。この基準を決められた熱環境の先生方は、次世代省エネが十分ではないことをよくご存知である。しかしながら、「義務化」できるのは「最低限度の生活」を守るためのものであって決して、「理想的な水準」を担保するものではない。その勘違いを解消するところが最初のスタートになる。

「日本は部分間欠暖房の国だから欧米よりもエネルギー使用量が少ない」という言葉がちらほら聞かれる。国交省の関係者からこういった資料が出ることすらある。しかしこれは新築住宅においては全くあてはまらない。10年以上前の既存住宅においては確かにそういうことが言えたかもしれない。しかし、今の新築住宅を同条件にそろえて比較してみると次のようになる。

エネルギー基準の比較エネルギー基準の比較

日本のトップランナー基準の本当

断熱性能基準の内訳(既存住宅5700万戸の内訳)断熱性能基準の内訳(既存住宅5700万戸の内訳)

日本の左側3つの基準は国が定める基準だが、ドイツとスイスの基準は民間が出している中で最高レベルの基準である。国の基準と民間の最高レベルの基準を比較するのは少々ハンデがある。しかし、ここでいうパッシブハウス基準レベルがEUでは2020年を待たずして全ての新築建築物において義務化されようとしている。

最初に断っておくが、暖房負荷というのは主に「断熱性」「気密性」「日射取得量」で決まるもので、暖房器具がどうだとか太陽光発電がどうというものでは決してない。「建物自体の暖かさに対する素の性能を明らかにする値」である。

結論だが、改正省エネ基準はドイツのパッシブハウス基準、スイスのミネルギー基準の6.3倍も暖房エネルギーを消費するということがわかる。トップランナー基準でも4倍もの差がついている。更に日本が得意な「部分間欠暖房」で暖房負荷を計算しても改正省エネ基準で2.6倍、トップランナー基準でも1.7倍くらいエネルギーを消費することが読み取れる。要約すると「ドイツやスイスの住宅で家全体をぽかぽかに過ごすよりも、日本のトップランナー基準の住宅で居るとき居る部屋だけ暖房するほうが1.7倍暖房エネルギーを消費する」ということになってしまうのである。これは、東京や大阪を含む旧Ⅳ地域でのシミュレーションだが、寒冷地になればなるほどこの差はさらに大きくなる。

改正省エネ基準は次世代省エネ基準相当だと言われている。しかしながら、そんな「お粗末な」次世代省エネ基準ですら、日本の既存住宅の5%程度でしかないという実態がある。

スマートハウスは、「裸でカイロを貼る」ようなものかもしれない

断熱はそこそこに設備でクリアできればそれで良い」という考え方は、裸にカイロで外を歩くようなものである。この写真のカイロと同じく設備機器は定期的に更新が必要である断熱はそこそこに設備でクリアできればそれで良い」という考え方は、裸にカイロで外を歩くようなものである。この写真のカイロと同じく設備機器は定期的に更新が必要である

私はリフォームも手がけるので現場の実態はよくわかっているつもりである。その感覚から言うと、昭和55年基準も「無断熱」、といって差し支えないと思う。
そうすると「日本の戸建て住宅の8割は無断熱住宅」と言ってもあながち大げさではない。それどころか、さらに本音を言うと平成4年基準ですら、現実的には寒くてたまらない住宅である。これが日本の戸建住宅の実態なのだ。これだけ外皮性能が劣る現状において、省エネ設備がてんこもりで掲載される。そしてそれが「スマートハウス」(賢い住宅)と言ってもてはやされる状況はもはやブラックジョークにしか聞こえない。

私にはスマートハウスは右の写真のようにしか見えない。「断熱はそこそこに設備でクリアできればそれで良い」という考え方である。この写真はある動画サイトで一個人が、「【裸で実験】全身にカイロを貼って初詣に行ったら寒くないのか」という素朴な疑問を実験している写真なのだが、今の我が国の制度ではこれが許されてしまう。そして量産メーカーも「スマートハウス」と称してでガンガン営業をかけている。当たり前の話であるがこの写真のカイロと同じく設備機器は定期的に更新が必要である。今回はカイロを例に取ったが、このように本質から完全に外れた「なんちゃって省エネ住宅」が住宅業界には至る所に存在している。

本質から外れるということは、省エネ、健康、快適性、経済性の全ての面で費用対効果が非常に低い結果をもたらす。しかも、それが悪意ともってなされているわけではなく、「知識不足」「慣例」「思い込み」「勘違い」によって行われていることがほとんどである。私は、そういった項目を一つづつ引き剥がしていきたいと考えている。

2014年 11月04日 11時22分