渋谷区×三井不動産が生んだ新たなランドマーク

渋谷に新たなランドマーク「MIYASHITA PARK」が登場した。JR渋谷駅の北側、高架沿いの宮下公園一帯が整備され、渋谷区立宮下公園、商業施設、ホテルなどが一体となった、新しいかたちのミクストユース型施設である。目的の根底には宮下公園の再整備があるが、単に商業施設と一体化しただけではない。横断歩道の新設などにより渋谷・原宿間の回遊性向上を目指すなど、歩行者を含めたランドスケープを描いた挑戦的な取り組みといえる。

また、このプロジェクトは、渋谷区と三井不動産がパートナーとなり推進する PPP(パブリックプライベートパートナーシップ)事業として推進された。本来であれば、2020年6月に全面開業をする予定であったが、新型コロナウイルス拡大の影響で延期となり、2020年7月からの段階的な開業となった。しかし、スタートは遅れたものの、新たなランドマークとしての存在感は抜群だ。新型コロナの影響で屋外施設に人気が集まるとはいえ、9月の連休には、お花見シーズン並みの賑わいを見せた。今現在も、平日を含め大勢の人々が来訪し、ショッピングや芝生の上で語らう姿が見受けられる。

渋谷の新たな顏として認知された「MIYASHITA PARK」。いったいどのような思いがこの新たなランドマークをつくりあげたのだろうか。2014年からスタートしたという本プロジェクトを牽引してきた数少ない初期メンバーの渋谷区 土木部 公園課の明石真幸氏にお話しを伺った。

「MIYASHITA PARK」南北街区。元宮下公園の敷地周辺を再整備。1階から3階は商業施設となり、その上の4階が公園。右の奥に見えるのがホテル「sequence MIYASHITA PARK」だ「MIYASHITA PARK」南北街区。元宮下公園の敷地周辺を再整備。1階から3階は商業施設となり、その上の4階が公園。右の奥に見えるのがホテル「sequence MIYASHITA PARK」だ

区の庁舎と同様に、税金投入なしの再整備を検討

宮下公園一帯の再整備に計画段階からプロジェクトを担当してきた渋谷区 土木部 公園課の明石真幸氏宮下公園一帯の再整備に計画段階からプロジェクトを担当してきた渋谷区 土木部 公園課の明石真幸氏

MIYASHITA PARKの前身は1966年に東京都初の屋上公園として整備された渋谷区立宮下公園である。当時、高度経済成長期を歩んでいた日本では、駐車場の枯渇が課題となり、公共施設に大型駐車場建設が盛んに進められる時期だった。地下には下水道が走り駐車場をつくることが難しいため、1階を駐車場に、そのため2階の屋上を公園としたのが宮下公園だった。

「公園ですから当然樹木が植えられています。しかし屋上型公園ではこれが問題になりました。時が経つにつれ、木々は成長していき、重量が増すと耐震性に問題がでてきたのです。もちろん時代にあわせバリアフリーの動線確保や防災面での対応なども求められていました」と明石氏は、宮下公園の再整備の理由を語る。

そこで渋谷区では宮下公園一帯の再整備を計画、民間とのPPPを選択した。というのも渋谷区では2019年に耐震性の問題などから新庁舎を建てているが、一切税金を投入しない方法で行っている。敷地の一部を定期借地権設定し民間の分譲マンションの建設、庁舎建設費用に充てる仕組みだ。

「当然、宮下公園も民間との協業で、区民に費用負担がいかない形を選択しました。そこでPPPとしてコンペを行い、民間事業者さんに様々な提案をいただきました。まずは柔軟な提案が欲しいということでほとんど白紙の条件での提案をお願いしたのです。結果、三井不動産さんの新たなランドマークをつくろうという意思の現れた提案を選択しました」(明石氏)

公園×商業施設×ホテルが一体に、さらに歩行者を呼び込む

公園では、スポーツ機能もより多機能に。サンドコート仕様の多目的運動施設(上)を新設したり、以前から人気のボルダリングウォール(下)も継続して設置されている公園では、スポーツ機能もより多機能に。サンドコート仕様の多目的運動施設(上)を新設したり、以前から人気のボルダリングウォール(下)も継続して設置されている

生まれ変わった「MIYASHITA PARK」のポイントは大きく分けて次の3つだ。

●公園・駐車場という従来の都市機能に商業施設・ホテルを融合
もともと南北2つの街区に宮下公園は分かれていたが、その街区を活かして、1階から3階には商業施設として「RAYARD MIYASHITA PARK」を誕生させた。ラグジュアリーブランドやレコードショップ、横丁など約90もの個性豊かな店舗が集う。そして4階は道路上空も含めて公園として一体化し、約1ヘクタールのフルフラットでバリアフリーな多機能空間を実現した。
北街区には、“やさしいつながり”をコンセプトに特別な空間や体験を提供する三井不動産の次世代型ライフスタイルホテルブランド「sequence」を開業。公園につながる4階のホテルラウンジにはカフェもあり、ツーリストとローカルコミュニティをつなぐビジターセンターとしての役割を狙う。

●スポーツ機能を継承し、より多機能な空間利用を実現する公園
南北の街区が一体となった4階の公園では、かねてより区民や来街者に親しまれてきたスケート場やボルダリングウォールに加え、多目的運動施設(サンドコート仕様)を新設。また北街区には様々なイベントが開催できる約1,000 m2の芝生ひろばを整備した。

●新たな交流拠点としての機能を新設
MIYASHITA PARKは、渋谷駅周辺、原宿、青山、表参道、さらには、国立代々木競技場(代々木公園)をつなぐ結節点に位置してる。そんな立地特性を活かし、渋谷駅からのアプローチを容易にする遊歩道の整備や神宮前六丁目交差点への横断歩道を新設。新たな歩行者ネットワークと様々なイベントを通じた多種多様な人々の交流を促進する文化発信拠点の形成を目指した。
もちろん耐震性能が向上し、災害発生時には周辺地域滞在者など帰宅困難者の一時退避場所としても機能することになる。

こだわりの歩行によるアクセス

これだけのプランが実現するためには、実は苦労も多かった。まず、道路や駐車場などは、もともとある東京都の都市計画と変更の協議をかけていかなければならない。地道な調整が必要だったと明石氏は振り返る。

「これだけの商業施設を入れることができたのは、宮下公園がもともと立体だったという利点があったからです。新しく公園を屋上にもっていくとなると理由がないと許可されません。今回、神宮前六丁目交差点に横断歩道の新設をしているわけですが、これは東京都側との協議も必要でしたし、当初の話にはなかったものです。住民の要望を聞いていく中でプロジェクトの後半で追加した内容です。このあたりは、予算が年度で区切られている行政ではなかなか柔軟な対応が難しいところ。民間とのPPPだからこそスピーディに対応できた部分です」(明石氏)

その成果もあり、MIYASHITA PARK周辺の遊歩道には活気が生まれた。かつては明治通りに人の往来が集中していたが、いまではそれを超える人の往来がある。

また、公園をこれまでの2階から4階にすることもかなりの努力が必要とされたという。JRとメトロに挟まれているMIYASHITA PARKの立地では、人々の往来の振動などが線路に影響すると計画に許可がおりなくなる懸念があった。何度も構造計算とシミュレーションを繰り返し、線路に影響がでないことを確認したうえでこのプランが実現したそうだ。

「歩行によるアクセスにこだわったのがMIYASHITA PARKです。下から公園が見える大階段を一直線にあがっていける。それだけに、階段のピッチにも実はこだわっています。それこそ様々な階段を上って試して。今回ピッチの広い階段を採用しているのは、歩きやすさを考慮してのこと。ふらりと訪れてもらいやすい公園のための細部までのこだわりです」(明石氏)

多種多様な人々を受け入れる、新たな交流拠点を目指した「MIYASHITA PARK」多種多様な人々を受け入れる、新たな交流拠点を目指した「MIYASHITA PARK」

緑のキャノピーが成長する公園を演出

かつて、宮下公園はホームレスに占拠されていた時期もあった。公園内の樹木の成長は喜ばしい半面、豊かに育った木々の枝が日差しを遮り、少し薄暗く近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。

そんな公園が、日夜往来の絶えないMIYASHITA PARKへと変貌を遂げた。すでに成功と言える来訪者の数を毎日記録しているが、明石氏は「MIYASHITA PARKの是非を語れるのはまだまだこれから」と次のように語る。

「個人的に、今回のプランで魅力だと感じたのが緑のキャノピーです。以前の宮下公園の経験を踏まえて大きな樹木は設置しにくい。だけど公園ですから緑が欲しい。その策として提案されたのがキャノピーです。緑のトンネルが完成するには5年はかかると言われています。緑のトンネルがどのように成長していくのか。また公園がどのように利用されて成長していくのか。見守っていくのも楽しみです」

現在は、特にホテルなどは、計画時とは状況の異なる新型コロナの影響がある。インバウンドは現在のところまだまだ期待はできない上に、地域との“つながり”も限定的にならざるをえない。公園を含めさまざまなイベントが自粛傾向にあるが、ニューノーマルの時代、ソフト面での新たな取り組みも必要になってくるだろう。渋谷の新ランドマークがこれからどのように成長していくか期待が寄せられる。

グリーンが鮮やかな芝生と上部にはキャノピー。これから時間をかけて緑のトンネルとなる予定だグリーンが鮮やかな芝生と上部にはキャノピー。これから時間をかけて緑のトンネルとなる予定だ

2020年 12月04日 11時05分