デベロッパーと地元がWin-Winの関係を維持する「地域共生型の街づくり」

戦後の高度経済成長期から約半世紀が経ち、いま東京都内では各所で大規模再開発が進行中だ。
古き良き下町『江東区亀戸』もそのひとつ。ここ『亀戸』は、東京都が首都機能分散のために定めた「7大副都心構想」の1エリア(錦糸町・亀戸エリア)に指定されており、これから街の機能が大きく変わろうとしている。その象徴的プロジェクトとして始まったのが、野村不動産が手掛ける『KAMEIDO PROJECT~サンストリート亀戸跡地開発~』だ。
通常、大規模な開発が行われる際には、「古くからの街の風景が失われてしまう」とか「大規模商業施設が登場すると地域の商売が成り立たなくなる」といったネガティブな理由から地元住民や商店街の反対を受けやすいものだが、本プロジェクトでは「地域の人たちと一緒に街をアップデートする」というコンセプトを掲げ、計画段階から地元の人たちの声に耳を傾けてきた。そのため、2020年2月19日に実施されたプロジェクト発表会の場でも、地元町会や商店街関係者が来賓として壇上に上がり、“開発者と地域の人たちとの良好な関係”が窺える記者発表となった。
デベロッパーと地元がWin-Winの関係を維持できる「地域共生型の街づくり」が叶えられた理由はどこにあるのか?『KAMEIDO PROJECT~サンストリート亀戸跡地開発~』を取材した。
アイドルイベントの聖地『サンストリート亀戸』の跡地を活用
本プロジェクトのスタートに先駆け、野村不動産では江東区や地元商店・住民らと会話の機会を重ねながら「いま街の中に足りないものは何か?」「ここにどんな施設ができたら暮らしが便利になるか?」等の協議・提案を重ねてきたという。その結果策定されたのが『亀戸六丁目まちづくり方針』。同社のグループ社員が地元小学校へ出向き、子どもたちと一緒に街のなかの人々や風景などを観察しながら「街づくりのアイデア」へとつなげていく出張授業を実施することもあったというから、地域に溶け込むための“草の根的な努力の跡”が随所に見える。
JR『亀戸』駅から徒歩2分という駅近立地ながら約2万4000m2という広大な敷地を持つ同プロジェクトの従前地は、大型ショッピングセンターの『サンストリート亀戸』(通称:サンスト)。
もともと『サンスト』は15年間の暫定運用として1997年に開業した施設で、本来であれば2012年に閉鎖される予定だった。しかし、館内にある常設ステージで毎週のように多彩なイベントが行われ、いつしか“アイドルイベントの聖地”と呼ばれるように。かの人気グループ・Perfume(パフューム)も、上京したての下積み時代に毎週『サンスト』のステージに立っていたというのは有名な伝説で、地元の人たちのみならず、ファンにとっても多くの想い出があふれる場所となっていた。
そんな『サンスト』の閉鎖を惜しむ声を受けて、運用期間は一時的に延長されたものの、2016年3月に営業終了。その跡地を引き継ぐことになったのが、本プロジェクトというわけだ。
聖地『サンスト』のDNAを継承する地域のフラッグシッププロジェクトに
地域住民へのヒアリングを行った結果、最も多く聞かれたのは「この場所に“広場”を残してほしい」という意見だったという。かつて『サンストリート亀戸』のステージがそうであったように、地域の人たちが集い、様々なイベントを開催できる『地域のコミュニティスペース』を設けること…これを再開発の第一条件に掲げて『KAMEIDO PROJECT~サンストリート亀戸跡地開発~』がスタートした。
実は、筆者が関心を持ったのは、再開発街区内に登場する新築分譲マンション『プラウドタワー亀戸クロス』の住居棟が“西向き”に設計されている点だ。通常のマンション開発の発想であれば、ユーザーニーズが最も高いと思われる南向き住戸を充実させるために、住居棟は南向きで配置されるはず。しかし、「南に大きな住居棟をつくると、地域住民の希望である広場空間(芝生エリア)の陽光が建物によって遮られ、街区全体の印象が暗くなってしまうから」という配慮により「あえて西向きに設計した」と担当者が教えてくれた。
誤解の無いよう補足しておくと、住居棟の方位を犠牲にした訳ではない。敷地の西側には『亀戸緑道公園』の静かな並木道が続いており、春には満開の桜の風景が低層階の窓辺に広がる。高層階からはのびやかな眺望と都心ビューを楽しめるため、結果的にはこの“西向きの住戸配置”が正解だったということになる。
また、街区内には近隣住民の動線を考え、南北×東西の通り抜けができる散策路を確保。わざわざ広大な敷地の外周を遠回りすることなく、JR『亀戸』駅前までの道のりをショートカット可能だ。さらに、その動線がクロスするポイントには広場スペースとして使える『芝生エリア』を確保。様々なイベントに対応できるようにアウトドアキッチンも設置されるとのことで、“サンストのDNAを継承する新たな聖地”として、地域の人たちに親しまれる場所となることだろう。
デベロッパーがフロアを保有し、地域に開放する『まちのリビング』
もうひとつ、筆者が注目した革新的な施設がある。それは住居棟4階に設けられる『まちのリビング』だ。野村不動産では、新しく開発された街を外部へ開くオープンコミュニティを推進し、その具体的な活動として『ACTO(アクト)=開く扉』を掲げているが、『プラウドタワー亀戸クロス』の中にも『ACTO』の活動拠点となる『まちのリビング』が開設される。
『まちのリビング』では野村不動産がフロアを保有し、そのスペースを住民のみならず周辺地域の人たちに向けて開放。再開発完了後も同社グループ社員が地域マネジメントを担う「エリアデザイナー」として常駐することで、地域の人たちをつなぐ役目を果たす。ワークショップやセミナーなどの定期イベントを通じて人々の交流を育むことにより、街の団結力を強め、街の魅力を高めていく狙いもあるという。
人と街が一緒に成長する街づくりを目指す再開発事業
大規模な再開発計画が立ち上がると、どこの街でも賛否の声があがる。
しかし、再開発は単に「街を壊すこと」ではない。丁寧に地元住民と対話を重ね、不足する生活機能を補い、防災性能を高めて、街の新たな強みを再発見できる開発が実現できれば、地元住民にも新しい居住者にも喜ばれる街づくりとなるかもしれない。
約2年後に完了予定の『KAMEIDO PROJECT~サンストリート亀戸跡地開発~』によって亀戸の人と街はどう変わっていくのか?
これから日本各地で行われるであろう「地域共生型大規模再開発」ケースとして、プロジェクトの進捗とその後の街づくりに注目したい。
■取材協力/野村不動産ホールディングス株式会社
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000223.000025694.html
カメイドタートルズ(情報発信メディア)
https://kameido-turtles.jp/
プラウドタワー亀戸クロス
https://www.proud-web.jp/mansion/b115280/
2020年 03月04日 11時05分