岐阜の都心部で、県産の木に親しめる場所

2020年7月17日、岐阜県岐阜市に「ぎふ木遊館(もくゆうかん)」がオープンした。同施設は、岐阜県が推し進める「ぎふ木育」の拠点として、岐阜の木に親しみながら遊びや学びなどができる場所だ。

“木育”とは、2004年に北海道で生まれた言葉で、子どもをはじめとするすべての人が「木とふれあい、木に学び、木と生きる」取組み。子どものころから木を身近に使っていくことを通じて、人と、木や森との関わりを主体的に考えられる豊かな心を育むことを目指す。その取組みは全国に広がった。

「ぎふ木遊館」は、当初のオープン予定は4月28日だったが、新型コロナウイルスの影響で延期に。当面は感染防止対策を施しながら、事前予約制で開館時間を短縮。午前50人、午後50人の受け入れ(2020年8月時点)となっているが、オープンから予約でいっぱいの状況が続く。取材に伺った当日も、子どもたちが元気いっぱいに遊び、にぎやかな声が響いていた。

「ぎふ木遊館」の外観。入館料は大人300円、高校生以下は無料。JR岐阜駅または名鉄岐阜駅から車で約15分のところに位置する「ぎふ木遊館」の外観。入館料は大人300円、高校生以下は無料。JR岐阜駅または名鉄岐阜駅から車で約15分のところに位置する

30年のスパンで取組む「ぎふ木育」

岐阜の県土面積に占める森林面積(森林率)は82%に及び、日本で2番目に多い。はるか昔から木工産業が盛んで、木材資源が全国各地で利用されてきた歴史を誇る。

「岐阜県の木育が始まったのは2008年からです。その前から森林環境教育という、森の中で活動して、森に親しんでもらう、理解してもらうという取組みはありました。そこから、より人の暮らしに近い町のなかで木とか森との“つながり”を感じてもらうことに力を入れていくことになりました」と教えてくださったのは、ぎふ木遊館の企画運営係 技術主査の長沼慶拓さん。

「ぎふ木育」は、受け継がれてきた「木と共生する文化」を将来へつないでいく取組みで、岐阜県の豊かな自然を背景とした「森と木からの学び」と定義。子どもをはじめとするすべての人々が、森林に対して責任ある行動(森林や山村に存在する多くの課題の解決に向けた直接的な行動はもちろんのこと、森林および山村地域の産業を日々の暮らしの中の消費行動などを通して支えていくこと)をとることができる人材となることを目指す。

その目標に向かうために2013年3月に策定されたのが「ぎふ木育30年ビジョン」。”30年“というのは、人が生まれてから次の世代を育てるまでの1つのスパンの目安だ。その期間を6つの段階で継続的に展開。ステップ1「ふれあう、親しむ」にはじまり、ステップ2「関心をもつ、気付く」、ステップ3「調べる、理解する」、ステップ4「考える、判断する」、ステップ5「参加する、行動する」、ステップ6「伝える」となっている。

「ぎふ木遊館は、主にこのステップ1とステップ2のところに重点を置いて造った施設」とのことで、主な利用者は子どもたちとその家族となる。

「ぎふ木育30年ビジョン」の段階的・継続的な取組体系(ぎふ木遊館HPより)「ぎふ木育30年ビジョン」の段階的・継続的な取組体系(ぎふ木遊館HPより)

建物の構造材は98%が県産材

「ぎふ木遊館」開館より前の木育の取組みは、岐阜産の木を使ったおもちゃを開発し、それを保育園や幼稚園などに貸出しし、親しむ機会を徐々に広げてきたという。「県内の木工家さん、家具メーカーの方にもご協力いただきながら、岐阜の木を使ったおもちゃを増やしてきました。そういう取組みに共感していただける方が増え、ようやく、この木遊館という施設ができました」と長沼さん。

建物は木造平屋建てで、建築面積968.8m2、延べ床面積は836m2。構造材は98%が県産材で、構造自体はカラマツの集成材。「これだけの大きな空間を確保するということで、コストと強度のバランスがよいカラマツを柱梁として採用することに。山側(生産者側)に流通状況の確認を行い、カラマツ材を確保しました」。強度の関係で一部外材のベイマツが使用されている。そのほか、ヒノキ、クリ、ナラなどが使われている。

「あとは、地元の企業が手がけたスギの圧密の床、調湿作用などがあるとされるヒノキの樹皮を練り込んだ土壁など、地元の技術を細かいところに取り入れています」

入館と同時に木の香りに包まれ、思わず深呼吸してしまった。長沼さんによると、来館者の多くも香りの良さに「わぁ!」と歓声をあげるそうだ。

①正面と左右の三方に設けられた軒は深めで、寺院の造りをイメージ。「回廊状に軒があり、多少の雨でしたらしのぐことができます。館内での活動と、外に植えられている木のつながりなど、内と外で今後プログラムなどを展開していきたいと思っています」と長沼さん<br>②館内模型<br>③木の香りがあふれる館内には、岐阜で育った樹齢400年のスギの巨木のトンネルなどの遊具や木製おもちゃが充実<br>④木製おもちゃは岐阜の木でできたものを中心に全国から100種類ほどそろえる。ゆくゆくは150種類くらいまで買い足す予定。なお、現在は新型コロナウイルス感染予防のため、4~5セットに分けて出すようにしており、スタッフが消毒作業を定期的に行っている(③④写真提供:ぎふ木遊館)①正面と左右の三方に設けられた軒は深めで、寺院の造りをイメージ。「回廊状に軒があり、多少の雨でしたらしのぐことができます。館内での活動と、外に植えられている木のつながりなど、内と外で今後プログラムなどを展開していきたいと思っています」と長沼さん
②館内模型
③木の香りがあふれる館内には、岐阜で育った樹齢400年のスギの巨木のトンネルなどの遊具や木製おもちゃが充実
④木製おもちゃは岐阜の木でできたものを中心に全国から100種類ほどそろえる。ゆくゆくは150種類くらいまで買い足す予定。なお、現在は新型コロナウイルス感染予防のため、4~5セットに分けて出すようにしており、スタッフが消毒作業を定期的に行っている(③④写真提供:ぎふ木遊館)

“飛山濃水”、岐阜の風景をイメージした館内

館内は、子どもや大人が木製遊具や木製おもちゃで遊べる「木育ひろば」、2歳未満の子どもを対象にした「赤ちゃんひろば」、飲食可能な休憩できる「ひといきスペース」、手作り体験など木育プログラムを実施する「木工室」、岐阜県の森林や県内で活躍するおもちゃ作家などを紹介する「ギャラリー」、岐阜県をはじめ全国の木のおもちゃや雑貨などを販売するショップ「響hibi-ki STORE」という構成。

「建築のコンセプトは、岐阜に古くからある言葉で“飛山濃水(ひざんのうすい)”。県北部の飛騨地方の山々から南の濃尾平野という平野を流れる川の水までつながっているという、岐阜の自然を表しています。建物正面にある駐車場から建物に向かって実はゆるやかな傾斜になっています。窓を挟んで広場の平らなスペース、そして階段があって、その先にある壁には北アルプスの山並みのモチーフがあります。壁の下は飛騨地域を表現し、合掌造りをイメージした木製遊具を置いています。階段は、ゆるやかな曲線を描いており、木曽三川と呼ばれる、長良川、木曽川、揖斐川を表現しています。山と平野をつなぐ川ですね。階段下にある平らな広場のスペースは岐阜県民のほとんど住んでいる平野部を表現しています」

駐車場は、隣接する愛知県、三重県をとおって木曽三川の水が流れ込む伊勢湾のイメージとなり、その壮大な造りに感動を覚えた。樹齢400年のスギの巨木を使ったトンネルといった遊具や、100種類ほどそろえているおもちゃに夢中になっている間に、自然と岐阜の風景に包まれているというわけだ。

館内は、はだしで利用することが推奨されており、広場のヒノキの無垢材、ギャラリーあたりのスギの圧密フローリングなど、異なる木の温もりを直に感じられるのもいい。

また、遊具のほかに、本物の木が12本設置されている。「10種類12本の木を、県内で古くから林業を営んでいらっしゃる方たちから寄贈いただきました。なるべく森にあるそのままの姿で置いて、ごつごつした感触や苔が生えている様子などを実際に手に触れて感じてもらうことができます。枝ぶりの力強さも感じてほしいですね。針葉樹は防火の関係で樹皮を取り除いていますが、広葉樹は樹皮付き。子どもたちが『なんだろう、これ?』『皮をむいてみたいな』という気持ちを大事にしたいので、樹皮をむくことを禁止してはおらず、むいた樹皮を入れてもらうボックスを用意しました。その樹皮はあとでワークショップや館内の飾りなどに再利用したいと思っています」

①岐阜の自然“飛山濃水”を表した造りになっている「木育広場」。奥の壁上部が北アルプス、その下で合掌造りをイメージした三角形の遊具があるフロアが飛騨地方、曲線を描いた階段で長良川、木曽川、揖斐川と県を流れる川、その下が多くの県民が住む濃尾平野に<br>②「ひといきスペース」の入り口は、照明の光が木漏れ日を表現する造り<br>③北アルプスのモチーフのところには、そこに生息する国の天然記念物・ライチョウの姿も!<br>④2歳未満の子どもを対象にした「赤ちゃん広場」(現在は新型コロナウイルス対策のため閉鎖中、写真提供:ぎふ木遊館)<br>⑤広場に設置された木の皮に興味を持った子どもたちがむいたときに入れるボックスもかわいらしく演出①岐阜の自然“飛山濃水”を表した造りになっている「木育広場」。奥の壁上部が北アルプス、その下で合掌造りをイメージした三角形の遊具があるフロアが飛騨地方、曲線を描いた階段で長良川、木曽川、揖斐川と県を流れる川、その下が多くの県民が住む濃尾平野に
②「ひといきスペース」の入り口は、照明の光が木漏れ日を表現する造り
③北アルプスのモチーフのところには、そこに生息する国の天然記念物・ライチョウの姿も!
④2歳未満の子どもを対象にした「赤ちゃん広場」(現在は新型コロナウイルス対策のため閉鎖中、写真提供:ぎふ木遊館)
⑤広場に設置された木の皮に興味を持った子どもたちがむいたときに入れるボックスもかわいらしく演出

木育から文化、産業へとつなげていく

「児童館などとは違い、子どもを遊ばせておく、子どもだけで来るというところではなく、基本は家族で来て、一緒に遊ぶということを推奨しています。家族で一緒に遊んでコミュニケーションをとっていただけたら」と長沼さん。

広場には約4人のスタッフが常駐しているが、「この木はこうやって遊ぶといいよ」「この木はこういう特徴があるんだよ」といった一言をスタッフが声かけをして、家族のコミュニケーションのきっかけをつくる意識をしているという。

今後の課題について聞いた。「こういう取組みを進める中で、木っていいなとか、親しみを持っていただけたりするのですが、まだまだ日常のなかでは木製品自体が身近なものではないですし、もっと言うと国産材、岐阜の木を使ったものが欲しいと思ってもすぐに手に入らない状況もあります。おもちゃ作家さんも増えてきてはいますが、選択肢として岐阜の木のおもちゃや家具がもっと増えていくといいなと思います。

また、木育の指導者を、ぎふ木遊館でも木育指導員という形で施設ができる2年ほど前から育成しています。ですが、木育の指導者やおもちゃ作家さんたちが生業としてやっていけるかというと、正直、まだまだかなというところ。今後、消費者の方が選択肢のひとつとして、身近な木を意識していただけるようになれば、それが結果的には木育を伝える方々が職業として続けていきやすくなるのではと思います。そういう循環が出来上がるには時間はかかると思いますが、ここでそのつながりを作っていけたらと思っています」

新型コロナウイルスの影響で取りやめていた木工室での木育プログラムも8月下旬からスタートさせた。「ただ楽しいとか遊ぶだけでなく、気付き、学びにつながるプログラムを増やしていきたい」と長沼さんは意気込みを語った。

岐阜の木の良さを再認識できる施設として、子どもたちだけでなく、大人世代への訴求もできる。「将来的に家を買うときに岐阜の木で、ということになればいいですね。そういう意味で、工務店さんや設計会社さんと組んだ企画をするのも面白いかなと思います」とも。

誇るべき郷土の自然を感じられる施設として、将来へつながる着実な一歩を踏み出したと思う。

取材協力:ぎふ木遊館 https://mokuyukan.pref.gifu.lg.jp/

①木工室には電動糸のこやレーザー加工機などを用意<br>②木育プログラムで製作予定のカスタネットなど<br>③同じ形でも木の種類によって重さ、肌触りが全く違うことを知ることができる。長沼さんは「多様性豊かな素材というのが木の良さでもあると思います。多様性というと難しいですけれど、いろんな違いがあるということを知るというのは、これからの時代、大事なことかなと思います」と語る<br>④今回、取材にご対応いただいた長沼さん①木工室には電動糸のこやレーザー加工機などを用意
②木育プログラムで製作予定のカスタネットなど
③同じ形でも木の種類によって重さ、肌触りが全く違うことを知ることができる。長沼さんは「多様性豊かな素材というのが木の良さでもあると思います。多様性というと難しいですけれど、いろんな違いがあるということを知るというのは、これからの時代、大事なことかなと思います」と語る
④今回、取材にご対応いただいた長沼さん

2020年 09月10日 11時05分