かつてのマンモス団地の中心に創業支援施設がオープン

入居が開始された1959年当時、現在の東久留米市から西東京市にまたがるひばりが丘団地は日本最大の団地だった。野球場やテニスコート、公園、学校、スーパーに商店街なども作られはしたが、中心は180棟全2714戸の住宅。その後に続くマンモス団地の先駆けであり、住むためだけの場所だった。

1999年から老朽化に伴う建替え事業がスタート。団地部分はひばりが丘パークヒルズとして再生、集約された。それによって生み出された敷地では従来からあった保育園、児童館等の公共施設や商業施設の建替え、再配置に加え、新たに民間事業者による高齢者福祉施設、分譲住宅等が建設されている。働き盛りの子育て世代中心だった頃に比べると、多世代が住むまちに生まれ変わったわけだが、そこに2018年3月、新たにまちを多機能にする施設が加わった。キッチン、ショップ、ワークスペースからなる創業支援複合施設「HIBARIDO」(ひばりどう)である。

立地するのは敷地中央にある分譲マンション敷地内で、同物件の共用施設を借上げて作られている。マンションの共用施設はマンション住民のみが利用できるのが一般的だが、ここでは限定されていない。住民であっても、周辺に住む人であっても利用できる施設となっているのである。

大きな窓が印象的で開放的なHIBARIDO外観大きな窓が印象的で開放的なHIBARIDO外観

キッチン、ショップ、ワークスペース。3つの機能を持つ複合施設

キッチン全景と既存のシェアキッチンの利用風景。女性が大半キッチン全景と既存のシェアキッチンの利用風景。女性が大半

企画、運営に当たっている株式会社タウンキッチンの田中郁美氏によると、発端はマンションサイドからの「ひばりが丘団地全体の住民自治に貢献する拠点として、交流の場となる場所を作る予定だが、実際にどんな施設にするべきか、悩んでいる」という相談。開設にあたっては西東京市の創業サポート施設開設支援事業の公募がタイミングよく合致し、その一環としてオープンするに至った。

ひばりヶ丘団地では再生にあたり、エリアマネジメントを導入する他様々な社会、時代の変化を先取りするような試みが導入されているが、この施設の背景にもそうした意図があるのだろう。それが形となったのがこれまでにない、マンションの共用施設ながら、地域に開かれた施設というわけである。

さて、そのHIBARIDOは大きく3つの施設からなる。ひとつは1階にあるシェアキッチン。大型の冷蔵庫やオーブン、シンクその他を備えた広いキッチンで一時に2人が利用でき、定員は16人。2018年6月時点ですでに8人がメンバーとなっている。

パン・スイーツなどが調理できる菓子製造業、デリ、カフェ、ケータリングなどが営業できる飲食店営業の2種類の営業許可を取得でき、消防検査もクリア済。この施設を利用すれば自分が作った食品を店頭、ネット、イベントなどで売ることができるようになるのである。利用料金は共益費も入れて月額3万円ちょっと(月30時間利用できる)と、自分で店を借り、設備を用意するよりもはるかに安価にチャレンジできる仕組みである。

ワークスペースは個室、フリー席の2種類

ICHI-BAスペース。営業時間その他は運営する人に任せてあるというICHI-BAスペース。営業時間その他は運営する人に任せてあるという

1階にはもうひとつ、1坪(3.3m2)単位でショップとして使える11区画のICHI-BAがある。こちらは取材時点で4区画が埋まっており、プリザーブドフラワーや家具、ペーパークラフトを作っている人などが出店している。販売のほか、サロンや教室、展示スペースとしても使える空間である。利用料金は月額1万5,000円(什器、電源の有無で多少異なる)に月額利用料の10%の共益費(以下ワークスペースも同じ)が付く。

ICHI-BAとキッチンの間はカフェスペースとなっており、ワークスペース利用者の待ち合わせの場などとしても使える。キッチン利用者なら、カフェスペースに向けて設けられたカウンターを利用して食品を売ることもできる。

大きな吹き抜けに面した2階はワークスペースである。階段を上がったところの中央にフリー席があり、その周囲には1人あるいは2人くらいまでの利用に向いた個室が9区画。個室には固定電話を引くことができ、登記や住所表記も可能。利用料金は月額2万3,000円~と共益費で、これから起業する、起業したての人にはうれしい設定だろう。現在は士業、カメラマンなどが利用しているとか。コンパクトながら、大きな窓がある部屋があるなど、居心地の良さそうな小規模ワーキングスペースである。

フリー席は会社から持ち帰った仕事をする、ゆっくり本を読む、資格試験のための勉強をするなど、自宅ではできない仕事をする場として想定されており、言ってみれば我が家の外にある書斎といったところか。こちらの利用料金は月額8,000円+共益費。個室とフリー席合わせて、6人の利用者がいる。

働く場へのニーズは想像以上

ワークスペース。中央がフリー席、その周囲に個室が配されているワークスペース。中央がフリー席、その周囲に個室が配されている

現在の利用者について聞いてみるとキッチンは大半が女性で主婦。一部、遠くから通ってきている人もいるものの、多くは近隣に住む人だという。業種は焼き菓子系がメイン。タウンキッチンでは多摩に他にも8施設を運営しているが、シェアキッチンではどこも女性中心だという。そして逆に2階は今のところ、全員が男性。男女でやりたいことが違うということだろうか。

ただ、いずれにしても、反応の良さは予想していた以上だという。開業当初は週に1~2回ほどの頻度で、3ヶ月後からは内覧申し込み時に随時、内覧会を開いてきているが、毎回10人以上の、年齢、性別、勤務先などが異なる人が集まってきているというのだ。住宅街での働く場のニーズはかなり高いのである。

「この地域の住民は都心で働いている人が大半。そんな団地のど真ん中でシェアキッチン、ワークスペースなどが成り立つだろうかという思いもありましたが、朝晩、仕事の前後に利用する人、子どもを預けてキッチンを使う人、都心でバリバリ働いている以外の人など、多様な利用者が集まってきています」。

地域の課題解決型の起業が地域を変える

都心以外で複数の創業支援施設、シェアキッチンなどを運営してみて気づいたこともあるという。それは住宅街での起業には地域の課題を解決したいとするものが多いこと。

「小金井市、武蔵野市などの住宅街では介護や教育その他、地元に密着した課題で起業を目指す人が多いのです。お菓子を作るのでもアレルギー対応など個のニーズに対応している人がいます。そうした、地元やそこに住む人達を対象にした起業には地域を変える可能性があるのではないかと思っています」。

住まいの近くに働く場が生まれることは地域だけでなく、社会そのものにも大きな影響がある。長時間の通勤が不要になれば、子育て中、介護中の人や障がいがある人など、これまで働けなかった人が働けるようになるからだ。起業して自分の会社で働くとなれば、自分のスケジュールに合わせて働けるようにもなる。職と住が近寄っていくことは個人にも、社会にも可能性を生むのである。

そして、高度経済成長期に職と住を切り離すかのように作られた団地が今、それと逆の方向に向かうという歴史の面白さ。団地は常に時代の先端を行っていると言っても良いのかもしれない。今後のHIBARIDOの動きに期待したい。

タウンキッチン 
http://town-kitchen.com/

建物の前には広い空間もある。今後、人が集まるようになってくれば、利用を考えていきたいとのこと建物の前には広い空間もある。今後、人が集まるようになってくれば、利用を考えていきたいとのこと

2018年 07月22日 11時00分