名古屋駅から徒歩15分の場所にある憩いの場

「文化と出会い、森に憩う」をコンセプトにした複合施設、ノリタケの森。日本を代表する洋食器メーカー・ノリタケが、工場跡地に創業100周年を迎える事業の一環で2001年につくった施設だ。入園無料の緑地スペースのほか、オールドノリタケを展示する有料のミュージアムや製造工程を見学できるクラフトセンター、ノリタケの食器を使ったレストラン、食器や雑貨を販売するショップなどがある。名古屋駅から徒歩15分ほどと好アクセスで、観光客はもちろん、近隣住民をはじめとする多くの人々に親しまれている。

ここは、さまざまな賞を受賞している。2015年には公益財団法人 都市緑化機構が主催する「第3回 みどりの社会貢献賞」。その都市緑化機構による、民間事業者が管理して社会、環境に貢献している緑地を認定する「都会のオアシス」のひとつでもある。そのほか、「グッドデザイン賞2003」、「平成14年度 名古屋市都市景観賞」など。また、敷地内にある建物は、経済産業省の近代化産業遺産群、名古屋市の認定地域構造物資産に認定された。

憩いの場であると共に、歴史ある建物が残された貴重な町の資産でもあるノリタケの森を訪れた。

豊かな緑と歴史建造物が美しい景観を織り成すノリタケの森(写真提供:ノリタケの森)豊かな緑と歴史建造物が美しい景観を織り成すノリタケの森(写真提供:ノリタケの森)

日本の洋食器を発展させ、産業の近代化に貢献したノリタケ

ウェルカムセンターにある明治・大正期に輸出された製品(オールドノリタケ)と、1943(昭和18)年当時の工場のジオラマ。ミュージアムでは、日本初のディナーセットをはじめとする歴史ある食器が飾られる。その絵柄や模様にはその時代の流行が感じられ、とても興味深いウェルカムセンターにある明治・大正期に輸出された製品(オールドノリタケ)と、1943(昭和18)年当時の工場のジオラマ。ミュージアムでは、日本初のディナーセットをはじめとする歴史ある食器が飾られる。その絵柄や模様にはその時代の流行が感じられ、とても興味深い

なぜ、経済産業省の近代化産業遺産群になっているのか。まずは、ノリタケの歴史に触れたい。

1876(明治9)年、福沢諭吉にアドバイスを受けた森村市左衛門が東京・銀座に貿易商社となる森村組を設立。ニューヨークに輸入雑貨店を開いて、民間人による日本初の本格的な海外貿易を開始した。そんな中、1889(明治22)年にパリで開催された万国博覧会で、ヨーロッパ製の美しい陶磁器に出合い、「この美しい磁器を日本で作りたい」と決意。ヨーロッパに技術者を派遣して技術を学ばせ、国産原料を使った白色硬質磁器作りに挑戦することとなった。

そして1904(明治37)年、ノリタケの前身となる日本陶器合名会社を創立。現在のノリタケの森がある地に、近代的な設備を整えた工場を建設した。そこからしばらくは試行錯誤の日々となったが、1914(大正3)年に日本初のディナーセットが完成。アメリカに輸出すると、瞬く間に人気となり、日本の外貨獲得に大きく寄与した。

ノリタケの歴史は、日本の洋食器の歴史に重なる。こういった背景から、ノリタケの工場跡地は近代陶業発祥の地と言われ、ノリタケの森に残された赤レンガ建築や、陶磁器焼成用トンネル窯煙突が近代化産業遺産群と認定された。

この歴史については、ノリタケの森の中にあるウェルカムセンターやミュージアムで紹介されているので、ぜひ見てほしい。

歴史を感じさせる赤レンガ建築と煙突

先述の赤レンガ建築は、ノリタケの森を象徴する建物だ。1つは創業した1904(明治37)年に作られたもので、製土工場だった。幕末から輸入され始めたレンガは明治期には国内でも作られるようになったという。新たな時代のものでもあった。この工場は1975(昭和50)年まで使われており、現在は中を見ることはできないが、その趣ある雰囲気は記念写真スポットとしても人気だ。ちなみに、この建物の基礎に埋め込まれていた、創業者・森村市左衛門ら6人の宣誓文がミュージアムに飾られている。

もうひとつの赤レンガ建築は、工場に隣接。現在、食器などのショップとなっている。ここも明治末期築とされ、昭和初期に強度補強し、白いモルタルで外壁を覆っていたが、それを外して赤レンガ建築を表に出した。

その赤レンガ建築の間の道を北へ進むと、巨大な煙突が6本ある。1933(昭和8)年の工場大改造時に建造された陶磁器焼成用トンネル窯の煙突だ。当時は高さ45メートルあり、名古屋城に次ぐ高い建造物だったという。1979(昭和54)年の工場移転に伴い、一部を残して撤去された。現在は、緑化され、近くの芝生広場と緑の景観を成している。

左上の写真は、創業時の赤レンガの工場(写真提供:ノリタケの森)。右上と右下の写真は、現在の赤レンガ建築。左下は煙突のモニュメント左上の写真は、創業時の赤レンガの工場(写真提供:ノリタケの森)。右上と右下の写真は、現在の赤レンガ建築。左下は煙突のモニュメント

昆虫や鳥が集うビオトープも整備

芝生広場とビオトープ。芝生広場の奥には名古屋駅の高層ビルが見える芝生広場とビオトープ。芝生広場の奥には名古屋駅の高層ビルが見える

このノリタケの森が評価されているのは歴史建造物だけではない。今回、施設内を案内してくださった広報担当の中井宏美さんは、「環境への寄与というのも一つのコンセプトなので緑も多くしています。木も設立時からだいぶ成長しました。でも、まだ“森”には程遠いですけどね(笑)」と言う。名前の通り、“森”のような豊かな木々に囲まれた施設を目指しているそうだ。

「みどりの社会貢献賞」は、地域の緑化への貢献のほか、近隣の公園・大規模緑地とのネットワークを形成することで鳥や昆虫の共生の場となったことなどが評価されたという。

園内の北端には、ビオトープを作り、アメンボなどの昆虫やカルガモなどの鳥たちの姿を見ることができる。緑が少なくなっているといわれる都市部において、貴重な場所となっているのだ。

文化的価値と地域の景観に潤いをもたらす

ノリタケのCSRとして作られたノリタケの森。会社の歴史を留める意図もあるが、会社が発展した感謝として、地域にも貢献できたらという思いだ。「大きさ的にも丁度いいのではないでしょうか。警備員が常駐しているのも安心できるのではないかとも思います。お買い物をする方もいれば、観光の人も。社会見学でのご利用もありますし、保育園のお散歩も。今後も地域の方々に愛される場であればと思います」と中井さん。

歴史を後世に残す役割と、地域に緑豊かな地を提供するという2つの側面を併せ持つ。数々の賞でも評価されているが、多くの人々がにこやかに過ごす様子を実際に見ると、一企業が作った憩いの場として町づくりにいい影響があると思う。

歴史的な建築物を残すことについて、中井さんは「大変なのは、残すだけでなく維持していくこと」と語ってくれた。日本の貴重な資産でもあり、施設の趣を出している存在でもあるので、ぜひこのまま存続してほしいと願う。

取材協力:ノリタケの森 http://www.noritake.co.jp/mori/

赤レンガ建築の前には水路が設けられている。ベンチに腰をかけ、眺めを楽しむ人が多い赤レンガ建築の前には水路が設けられている。ベンチに腰をかけ、眺めを楽しむ人が多い

2017年 12月26日 11時04分