「大隅の台所」として栄えた中心市街地の衰退に危機感

鹿児島県鹿屋市(かのやし)。市の人たちには申し訳ないが、地名だけ聞いても、それがどこにあるかを知らない人も少なくないと思う。鹿児島県の南端、鹿児島市と鹿児島湾を挟んで向かい合う大隅半島中央部にある市で、2006年に周辺の3町と合併して10年余。面積は横浜市より千代田区ひとつ分くらい広く、人口は約10万人で、横浜市の37分の1くらいといえば、サイズ感がつかめるだろうか。

合併によって市域は広がり、一時的に人口は増えはしたものの、古くからの中心市街地である北田大手町・本町地区は年々衰退が続く状況だった。「子どもだった頃、鹿屋には中央市場通りを中心に、大隅の台所とまで言われた大きな市場がありました。ところが、20年以上前から市場は少しずつ消え、現在ではそこに市場があったことを覚えている人も少なくなってきている状況。もうひとつの中心地、2007年に再開発で生まれた鹿屋市市民交流センター(リナシティ)の近くにある北田商店街も最盛期には60店以上が並び、それは賑やかだったといいますが、現在営業しているのは8~9店ほど。このままではいけないと危機感を覚えました」とは10年前に鹿屋市に帰郷し、現在は建築設計事務所を営む川畠康文氏。

危機感を覚えたのはまちの疲弊に対してだけではない。「設計の仕事を始めようとして、このまちにはデザインにお金を使う人がいないということに気づいたのです。このままでは自分自身、仕事にならない上に住んでいて楽しくないし、まちとしての魅力も生まれない。なんとかしなくてはと、2008年から始めたのがリナシティ2階を使ったデザインイベントです」。

鹿屋には鉄道が走っておらず、鹿児島市からはバスで向かう。写真の通りが北田商店街で奥に見えているのがリナシティ。バスがこの通りに差し掛かった時にはあまりに閉まっている店が多く不安になった鹿屋には鉄道が走っておらず、鹿児島市からはバスで向かう。写真の通りが北田商店街で奥に見えているのがリナシティ。バスがこの通りに差し掛かった時にはあまりに閉まっている店が多く不安になった

来場者1000人のイベントが8年後には2万人規模に成長

回を追うごとに集まる人が増え、歩道から人がはみ出すほどの賑わいになったという回を追うごとに集まる人が増え、歩道から人がはみ出すほどの賑わいになったという

2008年3月に開かれた「デザインマーケット~雑貨やインテリアなど暮らしを楽しくするお店たち~」と題したイベントは家具や雑貨店、カフェに建築関係事務所、その他の15店が出店、1000人余を集めた。東京の感覚で言えばごくごく小さなスタートである。しかし、川畠氏が個人で始めたイベントと考えると、どうだろう。しかも、回を追うごとに来客数は増え、3回目には5000人を超す規模に。

2011年には場所を北田商店街周辺に移した。名称も「BARAIROフェスティバル」と変更、開催は2日間になり、内容も年々充実していく。「もう一度、商店街を賑やかにしたいという意図から既存店を巡るスタンプラリーを行ったり、空き店舗のシャッターを開けてもらうことをイベント化、みんなで清掃をしたり、昔、商店で使っていた品をお宝として掘り出したり。スタンプラリーでは20数ヶ所を1日かけて全部回った人が300人ほどもいて驚かされました。マーケットに加え、トークイベントやワークショップなど内容も多彩になり、始めた頃の出店は40~50店ほどでしたが、5年目には100店舗ほどに。鹿屋市内のみならず、福岡県、宮崎県はおろか、東京などからの出店もあったほど。来街者も2万人を超す規模になっていました」。

この時期にはフリーペーパーも作っていたそうで、これだけでもよくもいろいろ、手掛けていたものと驚かされるが、川畠氏は同時期にもうひとつの中心地、京町通りでも他のイベントを手掛けていた。

飲食店街活性化のために夜遊びイベントも開催

「昔の地図を見ると、かつて中央市場通りと呼ばれていた地域の旧名は京町。でも、その名まえを覚えているのはもう、60代以上しかいません。加えてこの地域も疲弊が激しく、飲食店が集まる一画にはおいしいおでん屋さん、夜中2時から営業している蕎麦屋さんなど面白い店も残っているものの、よく言えば昭和レトロ、はっきり言えば非常に寂れた雰囲気。そこでなんとかしたいと2013年8月から、ぶらり京町横丁というイベントを始めました」。

路地に机、椅子を並べて提灯を吊るし、ひょっとこの面を付けた人が練り歩いたり、音楽を演奏する人が出たりという夜遊びを楽しむイベントで、以降、4年間、年に1回ないし2回のペースで開催。こちらも毎回、鹿屋のどこにこんなに人がいたのだろうと思うほどの賑わいを見せた。普通だったら、これら2種類のイベントで満足しそうなものだが、川畠氏はまだまだ足りないと感じていた。

「年に1回、2回のイベントではまちは変わりません。それにイベント参加者は県外からの人も多く、それだけではまちは元気にならない。もっと日常的にまちに賑わいを生み出せないか。そこで2015年9月にまちづくり会社・大隅家守舎を設立、毎月第4日曜日に『食と暮らしのマルクト@おおすみ』という、毎月開催のマーケットをスタート。同時に京町通りをどうするか、まちづくりワークショップを数回重ね、今後の指針などを作っていたところに、2015年1月末に鹿屋でリノベーションスクールが開かれることになりました」。

路地に出されたテーブルの間をひょっとこが練り歩く、なんとも楽しい夜遊びイベント路地に出されたテーブルの間をひょっとこが練り歩く、なんとも楽しい夜遊びイベント

リノベーションスクール前後から中心部に新店続々

ご存じの通り、リノベーションスクールはまちにある空き家を勝手に題材とし、それをどうリノベーションし、まちにインパクトを与えるかを参加者が3日間かけて考え、プレゼンをするというもの。短期間に集中してグループで作業することもあり、非常に盛り上がるのだが、鹿屋の場合はその勢いで実際に店舗を作ることに。京町通りの、昼間はほとんど人の通らない場所にパン屋がオープンすることになったのだ。

「リノベーションスクール中にたまたま知り合った農家の人が実はパン屋さんをやりたいと話しており、それを聞いてぜひ、ここでやって欲しいと口説きました。元々はスナックだった場所で、こんな場所に人が来るのかと心配する人もいましたが、関係者一同で改修を手伝い、誕生したのが畑パン。2016年3月です」。

その後、畑パンの隣に京町食堂という地域の食材をシンプルに料理する飲食店が開業するなど、この前後から中心部には新しい店が続々と登場し始める。たとえば、「こんなに店内が丸見えでは客は入らない」と言われつつ、実際にはランチタイムには行列もできる、川畠氏設計のレストランTAKE、女性が一人で切り盛りするおばんざいの店716、かつて靴屋さんだったビルの1階を利用したSARUGGA、北田商店街と直交する水神横丁のビルにはサンドイッチ店Konomichi、カフェLiberation coffee、ドライフラワーショップGrabが入り、まちの名所になりつつある。東京ではまだまだ知られていないが、県内ではテレビでも紹介され、認知度も高い。

左上から時計周りに畑パン、京町食堂、SARUGGA、TAKE。畑パンでは地元で焼かれた煉瓦を使うなどしてこの土地らしい店作りになっている左上から時計周りに畑パン、京町食堂、SARUGGA、TAKE。畑パンでは地元で焼かれた煉瓦を使うなどしてこの土地らしい店作りになっている

中心市街地の賑わいを覚えている人がいるうちに再生を

この秋には中心市街地以外で、廃校となった小学校を活用した新たな取組みもスタートする。三方を海に囲まれ、海に一番近い小学校と言われた旧菅原小学校を利用、滞在を楽しむ宿泊施設をオープンさせるのだという。「左右に桜島、開聞岳を望む海辺の立地で、かつては子ども達が自分たちで採取した貝類が給食に出るような、地域の自然と一体化した小学校だったそうで、その歴史を生かした施設を作ろうと考えています」。

中心市街地を少しずつ変え、今度はまち全体に人を呼び込む施設を作ろうとしている川畠氏。立て続けに、できる手を10年余に渡って打ち続けてきたのは帰郷当初とは違う、新たな危機感だという。

「今の20代は中心市街地が栄えていた時代を知りません。かすかに記憶があるのは40代以上。だとしたら、その記憶があるうちにまちをなんとかしないと、『昔からこんなもんだった』と諦められてしまう。その前に、中心市街地に来ると楽しいね、ここに住みたいねという人を増やしたいし、鹿屋のファンになってくれる人を増やしたい。これから何年かが勝負です」。

もうひとつ、面白いと思ったのは川畠氏が自分の世代を評して言った言葉だ。川畠氏は40代。「物心ついて以来ずっと不景気だったので、今がそれほど悪いとは思わない、今よりはこれからを良くできると思っている」というのである。その上の、50代、60代はバブルその他急激に伸長する経済を覚えているから、まちの再生という言葉にもその感覚を持ち込む。今より未来を良くするのではなく、今を昔に返したいと考える。そのため、川畠氏のような地道な努力、少しずつしか成果の上がらない努力を馬鹿にするところがある。何か、大きなものをどかんと作れば、すべてを変えてくれることを夢見るというべきか。かつてリナシティを作った時には、まちの人たちはそれを夢見たのかもしれない。

だが、最終的には川畠氏がやってきたような、細く長く続く日常の延長がまちを変える。この秋の宿泊施設オープン、その後のまちの変化が楽しみだ。

大隅家守舎
http://ohsumiyamori.com/

食と暮らしのマルクト@おおすみ
http://ohsumiyamori.com/markt/

左上のビルにカフェ、ドライフラワーショップなどが入っている。右下のクレープはSARUGGAのランチ。野菜が地元産なのはもちろん、生ハム、ソーセージなども地元の農場、工房で作られており、これがどうしても紹介したくなるほど絶品。鹿屋は農業、酪農、漁業が盛んで美味しいモノには事欠かないまちなのだ左上のビルにカフェ、ドライフラワーショップなどが入っている。右下のクレープはSARUGGAのランチ。野菜が地元産なのはもちろん、生ハム、ソーセージなども地元の農場、工房で作られており、これがどうしても紹介したくなるほど絶品。鹿屋は農業、酪農、漁業が盛んで美味しいモノには事欠かないまちなのだ

2017年 04月28日 11時05分