地元の山の木を使ったアイデア商品『コダマデスク』

『コダマデスク』の発案者、みずのかぐの水野照久氏『コダマデスク』の発案者、みずのかぐの水野照久氏

私たち日本人の住まいにとって欠かせない「木」の存在。しかし、木造住宅が8割以上を占めていた昭和の時代に比べ、現在では木造の割合は徐々に低下し、平成25年では57.8%と6割を下回っている(※)。しかも、日本の国土における森林率は67%(平成24年度・林野庁調べ)と豊富な資源があるにも関わらず、輸入材におされている状況が続き、国内林業の不振が叫ばれて久しい。
こうしたなか、少しでもこの状況を変えていくことはできないかと奮闘している家具屋があると聞き、取材に訪れた。

訪れたのは、名古屋市守山区にある有限会社みずのかぐ。ここでは、岐阜県の山から切り出したスギを使い、オリジナルの学習机を制作・販売しているが、その販売方法が一風変わっている。『コダマデスク』と名付けられたこの机、なんと体験合宿付の学習机だというのだ。
販売は2013年からスタートし、今年で4年目。年間20台ずつの生産で、毎年すべて完売する人気の商品となっている。
何を体験するのか。なぜこの商品が生まれたのか。
発案者でもある同社の代表取締役社長・水野照久氏にお話を聞いた。


※総務省平成25年住宅・土地統計調査による

親子で山で一泊二日の体験合宿。机となる木を切り倒すところから見学できる

まず、何を体験するのか。
「自分の机がどうやって作られるのか、親子で山に行って体験するツアーなんです」と水野氏。『コダマデスク』の代金には、体験合宿の費用も含まれている。狙いは、将来を担う子どもたちに山について興味をもってもらうこと。
「子どもたちに難しい話をしてもこんなオッサンの話なんて聞いてくれないしね(笑)、プリントを渡しても読んではくれない。“楽しい”と思えることで自分たちの想いを伝えられないかと思って、この合宿付きの学習机を考案したんです」と、水野氏は振り返る。

合宿は毎年3月。入学前に一泊二日、親子で山に泊まりに行き、木を切り倒すところを間近で見たり、丸太切りをしたり、湧き水を飲んだり、遊びながら山とふれ合うのだ。二日目には、自分のランドセルやカバンをかけるフックを職人の指導のもと親子で作る。合宿が終わり、家に帰るとしばらくして『コダマデスク』が届けられ、合宿で作ったフックを取り付ければ自分だけの学習机が完成というわけだ。
「子どもたちは、自分の道具がどこでどうやって作られているか、なかなか見る機会もないでしょ。山で切った木がこうして自分の机になっているんだって知るだけでも、山に対する意識や自分の道具に対する気持ちが変わると思うんです」と、水野氏は語る。実際、『コダマデスク』を使う子どもたちからは、合宿の感想や机の使い心地などをつづった、かわいらしい手紙が届くという。素材から製造過程を見て自分の手元に届いた机は、愛着もひとしおだろう。

また、水野氏によると
「今まで山で仕事をしていた人というのは黙々と作業するだけで、その先の使い手の顔を見ることがなかったわけです。この合宿を開催するようになってからは、自分たちが切った木を使う子どもたちに直接会えるようになったことで、やる気につながっていると聞いています」。山の職人たちにとってもこの合宿は、仕事へのモチベーションが向上するという効果もあったようだ。

実際に木にふれ「やわらかい!」「木って面白い!」とはしゃぐ子どもたち。合宿では丸太切りに挑戦したり、チップの山で遊んだり、合宿の最後にはお父さんやお母さんと一緒にかばんをかけるフックを作る(写真右下)。写真提供:みずのかぐ実際に木にふれ「やわらかい!」「木って面白い!」とはしゃぐ子どもたち。合宿では丸太切りに挑戦したり、チップの山で遊んだり、合宿の最後にはお父さんやお母さんと一緒にかばんをかけるフックを作る(写真右下)。写真提供:みずのかぐ

成長のピークを迎えた主伐材の利用法を模索。

スギをブロック状に加工し、あえて色の違うものを組み合わせることによってデザイン性の高い仕上がりなった『コダマデスク』。この加工により、スギの和風すぎるイメージを払拭、反りやひび割れやすいという針葉樹の欠点までもカバーしている。写真提供:みずのかぐスギをブロック状に加工し、あえて色の違うものを組み合わせることによってデザイン性の高い仕上がりなった『コダマデスク』。この加工により、スギの和風すぎるイメージを払拭、反りやひび割れやすいという針葉樹の欠点までもカバーしている。写真提供:みずのかぐ

家具屋の二代目として、多くの家具を扱ってきた水野氏だが、
「名古屋にある家具屋なのに、売っているのは外国の木で作った家具。木曽川をたどればスギやヒノキなどの針葉樹が豊富な岐阜の山にたどり着く。それなのに、どうしてわざわざ外国から輸入した木を使っているのか疑問だったんです」と、当時を振り返る。疑問をたどっていくうち、山の木を伐採しても売れないという現場の嘆きを聞き、何とかしなくてはと思い始めたという。

「高度経済成長の時代は、山が丸裸になるくらい木を切り倒して家や家具を作っていました。それで丸裸になった山に、国策で成長の早いスギを植林したのが約60年前。その木が成長している間に、外材を輸入したほうが安いという状況になって東南アジアや北欧あたりから木が輸入されることになってしまったんですよね」と水野氏。

国策で植林された大量のスギ。間伐されずに残った木(主伐材)は、今まさに成長しきってピークの段階にあるにも関わらず、有効利用されていないのが現状だと水野氏は言う。
「昔は山で切った木を下流の街で使っていました。その循環が崩れてしまった今、このまま放置していたら山は廃れてしまう」。危機感を抱いた水野氏は同志を集め、地元の山の針葉樹を使ったプロダクトを制作しようと「コダマプロジェクト」を立ち上げたのだそう。こうして、主伐材を有効活用するアイデアとして生まれたのが『コダマデスク』なのだ。

コストをすべてオープンに! 家具を売るプロとしての挑戦

構造や外装、内装まですべて岐阜の東白川村のスギとヒノキを使用。村で組立まですべて完了したものを街に運んで設置する仕組みだという『コダマベース』。写真提供:みずのかぐ構造や外装、内装まですべて岐阜の東白川村のスギとヒノキを使用。村で組立まですべて完了したものを街に運んで設置する仕組みだという『コダマベース』。写真提供:みずのかぐ

コダマプロジェクトに携わるのは、販売店であるみずのかぐ、木工所、集成材工場、林業、森林インストラクター、デザイナー。毎月1回のミーティングを重ね、『コダマデスク』のアイデアを形にしていったのだそう。そして今年の夏、同プロジェクトは、次の段階へコマを進めた。
学習机同様、岐阜県産の木を使用したコンパクトな小屋『コダマベース』の制作だ。
「山の針葉樹の需要を増やすには、建築用の建材として利用すればたくさん使えるので一番いいんでしょうけど、僕のような家具屋が手掛けるには新築の家は大変すぎるので、まずは小屋を作ってみようと考えました」
駐車場一台分のスペースに設置でき、建築申請などがいらない手軽な小屋とあって8月の発表からすでに3棟が販売されたという。

食品と違って木材の産地を地元の山だと明記したところで、家具を購入する動機には弱い。
「ここからが家具を売るプロとしての挑戦だと思っています。どれだけの価値を高めていけるか、デザインや値段、売り方についてチャレンジする必要があると思っています」(水野氏)
その第一歩として、『コダマデスク』は、価格をすべてオープンにしている。
例えば、
木工加工に5万5,000円、伐採、製材に1万2,000円、といった具合に、それぞれの段階で1台の机にいくらかかるのかを公開している。
「14万8,000円という学習机は決して安いものではないけれど、中身の内訳を明確に見せることで納得して買ってくれる人がいるんですよね。この机に関しては値引き交渉とかもされたことありませんし(笑)。」

上流の山と下流の街。作る人と使う人をつなぐコダマプロジェクト

インターネットでなんでも買える時代。
「名古屋のこの場所に家具屋があることに意味がある、そんな仕事をしない限り生き残れない。コダマプロジェクトは、うちがここにあって産地の山が岐阜にあって、山に携わる人たちがいて成り立っています。これが軌道にのっていけば、この場所で家具屋をやる意味があると思っているんです」と水野氏。
『コダマデスク』など、コダマシリーズが展示してあるショールームは「CONNECT」と名付けられている。上流の山と下流の街。作る人と使う人。まさにCONNECT=繋ぐ役割を担う同社のイメージを象徴しているようだ。

「川は日本中に流れているし、日本中同じように山の荒廃問題を抱えていると思うんです。
このプロジェクトがしっかりとした結果を残せたら、全国各地で同じようなことができると思います。たとえばコダマ静岡版とかね」と話す水野氏。
全国でこの仕組みが流用できたら、日本の木の需要は少しずつ変わっていくかもしれない。

水野氏は「山を活かすためには街の人たちの意識を変えていく必要がある」とも話していた。
山に生きる木は、綺麗な水と空気を作り、土砂災害から街を守ってくれる。街での生活は、山があり森林があってこそ。街に住む私たちが山の現状に目を向けることが必要だと感じた。

コダマプロジェクト
http://kodama-p.com/

コダマデスクの相関図。川の上流から下流まで、プロジェクトに関わる人と、そこにかかる費用が一目瞭然! 机を使う子どももプロジェクトの一員だコダマデスクの相関図。川の上流から下流まで、プロジェクトに関わる人と、そこにかかる費用が一目瞭然! 机を使う子どももプロジェクトの一員だ

2016年 11月24日 11時05分