2015年の海外在留邦人数は131万人

カンボジアには、ユネスコの世界遺産リストに登録された文化遺産がふたつある。シェムリアップにあるアンコールワット遺跡(写真)と、タイとの国境そばにあるプレアヴィヒア寺院だカンボジアには、ユネスコの世界遺産リストに登録された文化遺産がふたつある。シェムリアップにあるアンコールワット遺跡(写真)と、タイとの国境そばにあるプレアヴィヒア寺院だ

いつ、どこの国へと明確に決まっていなくとも、漠然と海外での生活に憧れを持っている人も少なくないのではないか。転勤や起業、留学や家族の都合…と、さまざまな理由が想像できるが、海外で生活をする日本人が増えているという。

外務省の「海外在留邦人数調査統計」(平成28年要約版)によると、2015年の海外在留邦人数は約131万人。平成元年以降毎年増加しており、2015年は昨年の129万人から2万人増加(+2.09%)した。海外在留邦人の割合が最も多い地域は北米で全体の37%、次いでアジアが29.3%だった。
そのアジアのなかで、割合としては多くないものの、2015年の在留邦人が2,492人と、5年間で2倍に増加したのがカンボジアだ。
カンボジアは1970年代の内戦により、大量の自国民が虐殺される悲劇的な歴史があったが、現在は治安も安定。外務省によれば、カンボジアの経済は2011年以降約7%で成長を続けている。堅調な縫製品などの輸出品、建設業、サービス業および海外直接投資の順調な増加により、今後も安定した経済成長が見込まれている。

徐々にカンボジアで生活する人が増えているようだが、実際に移住した人はどう感じているのだろうか?脱サラしてカンボジアに移住し、スパを経営する夫婦に聞いてみた。

カンボジアに移住を決めたきっかけ

カンボジアのシェムリアップで、プレアガーデンというスパ施設の経営をはじめた速水夫婦。
シェムリアップにあるアンコールワットは、トリップアドバイザーの「トラベラーズチョイス(TM) 世界の人気観光スポット2016 ランドマーク編」で、第3位を獲得し、世界でも有数の観光地なのだ。

どうしてカンボジアを移住先に決めたのだろうか?

「学生時代に、NGOのタイ視察で感じた貧富の差があまりにも衝撃的で、おぼろげに、いつか海外で働きたいと思っていました。その思いが社会人になってもずっと心にあり、人生を見直すときに、今しかないと思いました。移住する国を決めるときは、まずいくつかの国を抽出するところからはじめました。移住するとしたら、比較的初期投資がおさえられるスパをやろうと決めていましたので、スパをやるならどこかいいか…と、バリ島、タイ、マレーシア…と良さそうな候補を挙げました。観光客数や最低資本金、競合の数、競合の強さなどを各国ごとに調査して、その中で、どこならお店をだせそうか、点数をつけていったところ、カンボジアが良さそうという結果に。その後現地を訪れ、土地が見つかったこともありましたが、最終的には、はじめてカンボジアを訪れたときに感じた心地よい"なつかしさ"が決め手になりました。」
と、亮子さんは移住先決定までの経緯を教えてくれた。当初から観光客向けのサービスをしたいと考え、東南アジアの人気都市の法規制、言語、治安、最低資本金、経済成長率、世界各国と比較し今後も観光客に来てもらえる強みがあるか?も含め、十分に検討した結果だという。非常に戦略的な考え方は、経営コンサルタントとして飲食業界や、温浴施設などを多数見て回り、ノウハウのある速水さんならではである。
とはいえ、ずっと日本で生活し、働いてきた速水夫婦。住む国も、仕事も変えることに抵抗は感じなかったのだろうか。
「生きているうちにたくさんの土地を見て、多様な価値観を知り、夫婦で多くの経験をしたいと思っていました。二人で日本で起業という方法もありますが、経済的に厳しそう。いつか海外に…という気持ちがずっとあったので、自然な流れで決まりました。その時は前進するのみで必死だったので、不安も感じませんでした。」

シェムリアップの中心地からトゥクトゥクで15分ほどの場所にある、PREAH GARDEN(プレアガーデン)を経営する速水夫婦。左から孝吉さん、亮子さん。孝吉さんは、株式会社サイバーエージェントを経て楽天株式会社へ入社。トラベル部門において、Webディレクターをしていた。亮子さんは、株式会社船井総合研究所での経営コンサルタントを経て、楽天株式会社へ入社。結婚後は株式会社ジャルパックへ出向。現在は二人でAKO株式会社を設立し、カンボジアへ移住しているシェムリアップの中心地からトゥクトゥクで15分ほどの場所にある、PREAH GARDEN(プレアガーデン)を経営する速水夫婦。左から孝吉さん、亮子さん。孝吉さんは、株式会社サイバーエージェントを経て楽天株式会社へ入社。トラベル部門において、Webディレクターをしていた。亮子さんは、株式会社船井総合研究所での経営コンサルタントを経て、楽天株式会社へ入社。結婚後は株式会社ジャルパックへ出向。現在は二人でAKO株式会社を設立し、カンボジアへ移住している

移住したものの…スパの建設が進まない!

移住に際して、ビジネスビザの取得、労働許可証(ワークパーミット)申請、業務ライセンスも取得。速水さんは現地の詳しい人に相談しながら手続きを進めたそうだ。スパ起業に向け、自己資金に加えて経済産業省の補助金や区の融資あっせん制度による借入も受け、準備は万端。あとはスパの建設が順調に進むのを待つだけ…だったのだが、肝心の建設が進まないというトラブルに見舞われる。

「最初は順調だったのですが、クメール正月にあたる4月に入ると、『雨が降ったから』、とか『忙しい』という理由で建設が休みがちに…。その後、資材が届かないと言われ2~3ヶ月が経過。最後には来なくなりました。施工会社を変えて、それからは毎日スケジュールを管理しましたが、完成前に施工に粗雑な部分を発見し、部分的に改修をしながら進めました。結果的に、スパの完成は当初の予定から8ヶ月遅れになりました。」
速水さん夫婦は、クラウドファンディングを活用して支援を募り、多くの人のサポートを受け無事にスパを建設することができた。スパ建設までの間、特に苦労した点については、
「建設が遅れるとは思っていなかったので、すでに現地スタッフを採用していました。日本人のトレーナーを呼び、研修も終わったのにスパが出来上がっていない。スタッフも飽きて、だんだんと不安な様子になっていきました。食事をしたりと、コミュニケーションを密に取るようにしましたが、モチベーション管理が一番苦労しましたね。」と、当時の状況について話してくれた。

PREAH GARDEN(プレアガーデン)のスタッフと速水夫婦。約6.200m2 の敷地にレセプション棟、スパ棟、カフェ、ヨガを行う丘を建設した。スタッフはこれまで数名辞めてしまったが、なかには辞めてから戻ってきた人もおり、半分以上はオープン当初からのメンバーだそうだPREAH GARDEN(プレアガーデン)のスタッフと速水夫婦。約6.200m2 の敷地にレセプション棟、スパ棟、カフェ、ヨガを行う丘を建設した。スタッフはこれまで数名辞めてしまったが、なかには辞めてから戻ってきた人もおり、半分以上はオープン当初からのメンバーだそうだ

移住前の準備と、移住してわかったこと

オープンまでを振り返ってみて、これから海外に移住して起業しようとしている人へアドバイスはあるだろうか。

「短期間でも住んでみてから起業することをおすすめします。毎日予想外のことが起こり、交渉や契約が多くありますが、現地に来たばかりだと、金額の妥当性、契約して問題ないのかなど、分からないことばかりです。何かあった時に相談できる人脈をあらかじめつくっておくといいですね。私の場合、情報を知らないことで後悔したことがいくつかありました。また、思っている以上の資金が必要になるので、多めに準備しておいた方がいいですね。プレアガーデンは、建築の遅延もあり、遅延の期間は営業売上がゼロに。オープンまでの人件費も発生しました。建築資材を輸入する場合があり、コストが高くなる可能性もあります。」

移住して感じたこと、よかったことについても聞いてみた。

「いいところは、動物や自然と共に暮らせることですね。郊外になると動物が多く、うちの店では虫や鳥、犬、牛の声がずっとBGMです。スタッフたちを見ていると、カンボジア人は分かりやすく、陽気で元気ですね。こちらが様子を伺ったり気を遣ったりする必要がなく、接しやすいです。あとは、生活費の安さでしょうか。メニューにもよりますが、外食が1回あたり2,3ドルでできます。市場にいけば野菜やフルーツが安く手にはいりますし、スイカ一玉1ドル以下、マンゴーもいい時期なら1つ1ドル以下です。一部の輸入の食品や電気代などは高いです。」

PREAH GARDEN(プレアガーデン)でのヨガ風景。ヨガをする後ろを牛が散歩することもPREAH GARDEN(プレアガーデン)でのヨガ風景。ヨガをする後ろを牛が散歩することも

動物と共にある大自然の風景はカンボジアの大きな魅力

遺跡だけではなく、カンボジアの自然も感じてもらえたら、と速水さんは言う。
「他のアジアの国でも失いかけているノスタルジックな田舎風景がカンボジアには残っています。街中から少し離れるとだだっ広い田園風景が広がっていて、訪れたときは感動しました。この自然の美しさを、自分のお店の強みにしたいと思いました。この風景や牛たち、夕日の美しさ、多くの星空を見てもらいたいです。遺跡はもう十分に見た、という人がまた訪れたくなるような観光スポットになればと、広い敷地内にスパ施設、大自然の中でのヨガ、カフェと、複数のサービスを提供する施設にしました。」

いつかは海外で暮らしたいと思っている人にとって、国は違えども、速水さん夫婦のアドバイスは参考になる部分もあったのではないだろうか。入念な下調べと資金、試しに住んでみることや人脈づくりなどの移住に必要なステップ。そして、そこに移住したときに、本当に自分の目的が実現できるのかどうかを見極めることは、最も重要であると感じた。

取材協力 / PREAH GARDEN(プレアガーデン)
オフィシャルサイト
https://preahgarden-siemreap.com/

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最近提供をはじめたという「大自然お散歩ツアー」で見れる、シェムリアップの田園風景。「近場の農園と連携し、村の人々や景観、自然を活かしたプランやサービスをどんどん考えていきたい」と、速水夫婦。二人のチャレンジはこれからも続く最近提供をはじめたという「大自然お散歩ツアー」で見れる、シェムリアップの田園風景。「近場の農園と連携し、村の人々や景観、自然を活かしたプランやサービスをどんどん考えていきたい」と、速水夫婦。二人のチャレンジはこれからも続く

2016年 12月16日 11時00分