ほかの自治体に先がけて、産業観光を推進

産業観光に力を入れる北九州市は各地でフェアを開催産業観光に力を入れる北九州市は各地でフェアを開催

観光による地域活性化の新しいスタイルとして、注目が高まっている「産業観光」。ものづくりの現場などを訪れて、携わっている人たちと交流を図るなど、産業を通してその土地を深く知る観光のことだ。日本では2001年に初の「全国産業観光サミット」が開催され、都市や地域レベルで取り組む動きが広がってきた。

そんな国や自治体の動きに先がけて、産業観光を推進してきた都市のひとつが福岡県北部の北九州市だ。取り組みは全国的に評価され、市は2009年に「産業観光まちづくり大賞」金賞を受賞。官民が連携し、受入事業者と体制づくりに力を入れている点などが受賞につながった。
2014年には、北九州商工会議所と北九州市、北九州市観光協会(現・北九州観光コンベンション協会)が共同で「北九州産業観光センター」を作り、ワンストップで産業観光に対応する窓口を開設。すると同年に北九州商工会議所が「全国商工会議所きらり輝き観光振興大賞」大賞、北九州産業観光センターが「産業観光まちづくり大賞」金賞を受賞。産業観光客数は、2014年42.8万人から2016年57.4万人へと増加した。

「かつてはどこのまちにも産業がありました。まちの背景を理解して、それを生かそうという視点を持ち、さらには企業やボランティアなど多くの人たちの協力があってこそ、産業観光は成り立つのです」と北九州産業観光センター会長の木本昭宏さんは説明する。

キーワードは「工場見学」「資料館」「環境」

1901年、明治政府による官営八幡製鐵所が創業し、日本の近代化を牽引してきた北九州市。今なお「ものづくりの街」として知られ、この地で誕生し世界へと進出する企業もある。また、国内最大規模の筑豊炭田から石炭が運ばれてきた若松港、国際貿易の拠点として栄えた門司港など、市内各所に当時を物語る建物が残っている。
一方で、産業発展に伴って発生した深刻な公害問題を、市民・企業・行政が一体となって克服。その経験をもとに、世界の環境未来都市として先進的なチャレンジを続けている。

北九州産業観光センターでは、北九州市の産業観光として3本の柱を打ち立てている。
1つ目は「工場見学」と「資料館」で、市内の工場や産業資料館など50以上の事業者と提携。工場見学では、産業用ロボットで世界シェアトップクラスの「安川電機」、トイレや浴室など水回り商品を国内外で展開する「TOTO」、日本鉄鋼業界をリードしてきた「新日鐵住金 八幡製鉄所」、無添加の石けんを製造する「シャボン玉石けん」などがある。資料館はゼンリン地図の資料館や九州鉄道記念館、環境ミュージアムなど幅広いラインナップで、環境に配慮した事業者や施設も多い。「当初は大企業中心でしたが、だんだん中小企業にも広がっています」(木本さん)

左/官営八幡製鐵所の東田第一高炉、右上/安川電機みらい館、右真ん中/TOTOミュージアム、右下/しゃぼん玉石けん工場見学左/官営八幡製鐵所の東田第一高炉、右上/安川電機みらい館、右真ん中/TOTOミュージアム、右下/しゃぼん玉石けん工場見学

世界遺産を含む「産業遺産」と「工場夜景」も魅力

2つ目の柱は「産業遺産」だ。産業都市として100年以上の歴史がある北九州市には、世界遺産「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の構成資産である官営八幡製鐵所をはじめ、明治時代から日本の近代化を支えてきた数多くの産業遺産が現存する。旧三菱合資若松支店、旧松本家住宅、旧門司税関、河内貯水池など国指定重要文化財や国登録有形文化財もあり、往時の栄華を感じられる。

そして3つ目は「工場夜景」。北九州の工場夜景は、圧倒的なスケールで幻想的と評される。化学工場や製鉄所のプラント群、ライトアップされた煙突などが立ち並び、週末には工場夜景観賞クルージング、夏にはビアクルーズを開催。新日本三大夜景に選ばれた皿倉山や、日本夜景遺産の高塔山から望む夜景にも、美しい工場群が浮かび上がる。

工場夜景クルーズは、小倉港と門司港発の2コースがある。夜の観光企画は宿泊客を増やすために重要な要素だ工場夜景クルーズは、小倉港と門司港発の2コースがある。夜の観光企画は宿泊客を増やすために重要な要素だ

チーム北九州として、今あるものを最大限に生かしていきたい

北九州産業観光センター会長の木本さん(右)と吉田さん北九州産業観光センター会長の木本さん(右)と吉田さん

センター会長の木本さんは、もともと北九州商工会議所の職員で、現在も商工会議所産業観光推進室の室長を兼務している。2010年に商工会議所の会頭が「北九州の特性を生かした産業観光で地域振興をしよう」と提唱したことから、翌年、同所は「産業観光推進室」を新設。担当に抜擢された木本さんは「全国515ある商工会議所の中で、このような名称の部署ができたのはおそらく初めてだったでしょう」と振り返る。

3年後の2014年、北九州市および観光協会と3者で北九州産業観光センターを設立。旅行会社などと組んで市内外発着のツアーを手がけ、バスツアーでは市民ボランティア80人ほどがガイドとして活躍している。「最初は1日で3つの工場を回ることもありましたが、後半は疲れてしまう方も多くて…今は地元のグルメもウリにして、家族連れから女性グループ、男性シニアまで幅広い方々に喜ばれています」(木本さん)。
そのほか年間30団体ほどの視察受け入れに対応。さらに、世界遺産のお土産として菓子店「グランダジュール」が開発した「ネジチョコ」のPRにも協力したところ、2016年2月の発売から国内外で人気を集め、2年間で350万セット以上販売という大ヒット商品になった。

「産業観光は、テーマパークや商業施設のようにどんどん新しいものを作ることができません。今あるものをいかに活用していくかという点が難しさであり、そこに大きなやりがいもある。北九州といえば産業観光というイメージをもっと広め、地域の活性化につなげていきたい」と木本さん。産学官民が一体となり取り組む姿勢こそ、北九州市の産業観光の強みだと言えるだろう。

北九州産業観光
http://sangyokanko.com/

2018年 06月02日 11時00分