人口の約30%が65歳以上となった忍者の里

▲伊賀市の玄関口である伊賀鉄道『上野市』駅。ロータリーの目の前に建っているのが街づくり拠点となる『ハイトピア伊賀』だ。館内には観光案内所やコミュニティスペース、一般店舗だけでなく、商工会議所、法人会、ロータリークラブも事務所を構えており、地域活性には欠かせない“行政と地元経済界との横の連携”も絆が強められている▲伊賀市の玄関口である伊賀鉄道『上野市』駅。ロータリーの目の前に建っているのが街づくり拠点となる『ハイトピア伊賀』だ。館内には観光案内所やコミュニティスペース、一般店舗だけでなく、商工会議所、法人会、ロータリークラブも事務所を構えており、地域活性には欠かせない“行政と地元経済界との横の連携”も絆が強められている

『伊賀』と聞くと『忍者』を連想する方も多いのではないだろうか。

三重県北西部にある伊賀市は、忍者の里として知られる山間の観光都市。古くは、豊臣秀吉の家臣であった筒井貞次によって築城され、藤堂高虎によって拡張改修された『伊賀上野城』の城下町として栄えた歴史を持ち、かの『松尾芭蕉』が29歳まで過ごした生家が残されている。

毎年春の『伊賀上野NINJAフェスタ』の開催時には忍者に変身した観光客で賑わうなど、観光資源には恵まれた街だ。

しかし、約9万4,000人の人口のうち30.8%が65歳以上の高齢者となった現在、若者たちの地元離れにより人口の減少をたどっている。

そんな伊賀市が、内閣府の地方創生推進事業への取り組みのひとつである『中心市街地活性化基本計画』の認定を受けたのは、平成20年11月のこと。上野城下町を中心とする140haの伊賀市中心市街地で、新たな街づくりがおこなわれた。

活性化への本格的な取り組みから8年。担当者が感じた『活性化に本当に必要なもの』と『今後待ち受けている課題』とは何なのか?伊賀市の街づくり拠点となっている『ハイトピア伊賀上野』を訪れ、話を聞いた。

「この街に何があるのか知らない…」地元離れの原因は情報不足?

「僕自身も伊賀市で生まれ育ったのですが、専門学校進学をきっかけにして18歳で地元を離れました。“オトナになったら地元から出て行く”というのは、当時の同級生たちはみんな当然のことだと考えていたと思います。でも、7年間京都で暮らして久々に地元に戻ってきたら、この街は何も変わっていなかった…その様子を見て“故郷の伊賀を、若者たちが住みたいと思える街に変えていきたい”と思ったのが、この仕事に携わるようになったきっかけです」。

そう語るのは、現在33歳の森川幸治さん。伊賀市の街づくりのために、商工会議所や地元企業の共同出資によって設立された『株式会社まちづくり伊賀上野』のスタッフだ。

「当時は伊賀市の中心街であるはずの駅前を歩いていても、若者とすれ違うことはほとんどありませんでした。駅前の商店主の方たちは高齢化してしまい、若者たちが興味を持てそうな店がない…すると、これから子育てをしようとする若い世代は、他の街まで車で出やすい伊賀市の郊外に家を建てて、駅周辺には集まらなくなるのです。

一度、地元の若者たちに「どうして地元で遊ばないのか?」と話を聞いたことがありますが、その答えは「この街に“何があるのか知らない”から」という衝撃的なものでした。“そうか、地元に何があるのかわからないから、つまり、情報の発信力が足りないから、若者たちの関心を惹くことができないんだな”と思いました」(森川さん談)。

▲左から:株式会社まちづくり伊賀上野の森川さん、石橋専務(上野商工会議所副会頭)、南畑さん。<br />伊賀市のまちづくり推進のために設立された株式会社まちづくり伊賀上野のスタッフは4人。<br />地元の団体や商店のPRにまつわる相談窓口になっており、インタビュー中も途切れることなく地域のひとたちが事務所を訪れていた▲左から:株式会社まちづくり伊賀上野の森川さん、石橋専務(上野商工会議所副会頭)、南畑さん。
伊賀市のまちづくり推進のために設立された株式会社まちづくり伊賀上野のスタッフは4人。
地元の団体や商店のPRにまつわる相談窓口になっており、インタビュー中も途切れることなく地域のひとたちが事務所を訪れていた

まずは地元の人たちに“地元のことを知ってもらう”ことからスタート

▲『伊賀学認定』のテキスト。初級は1,500円(中学生以下1,000円)、中級は2,000円(中学生以下1,500円)、上級は3,000円で受験できる。テキストの内容は、上野商工会議所が中心となり有識者と作成しているという▲『伊賀学認定』のテキスト。初級は1,500円(中学生以下1,000円)、中級は2,000円(中学生以下1,500円)、上級は3,000円で受験できる。テキストの内容は、上野商工会議所が中心となり有識者と作成しているという

他の都市へ流出してしまう若者たちを地元に留めるためには、まずこの街を『住みたい街』に変えることが課題だったと話す森川さん。

市民の地元への理解や関心を高めるために、伊賀市では平成25年から『伊賀学観光文化検定』というご当地検定を実施し、市内の小学校・中学校をまわって出張授業をおこなうようになった。

初級・中級・上級と難易度別に3段階が設けられているが、その内容は芭蕉・城・忍術・祭・文化財・歴史・文学・自然・生活文化・雑学等『伊賀』に関する事柄全般から出題されており、ざっとテキストに目を通すだけでも“この街に何があるのか?”について知ることができる。

「この『伊賀学検定』は、東京でも年に1度受けることができます。今年の2月に開催された検定で、もう11回目を数えるようになったのですが、地元についての知識を深めることで、“あれ?伊賀ってけっこうおもろいやん!”と感じてくれる若者たちも増えているようです」(森川さん談)。

30代・40代女性をメインターゲットに、お洒落なガイドブックを制作

▲カラフルな表紙、やさしい手触りの紙質、キレイな写真と読みやすいレイアウトデザインなど、女性の好みに合わせて制作されているガイドブック『daco』。城下町だっただけに、伊賀には京都や金沢にも通じる“職人文化”が今も息づいている。『daco』をはじめとする情報発信の中でモノづくりのストーリーを丁寧に紹介することによって、地元の職人さんや工芸品にもスポットライトが当てられるようになった▲カラフルな表紙、やさしい手触りの紙質、キレイな写真と読みやすいレイアウトデザインなど、女性の好みに合わせて制作されているガイドブック『daco』。城下町だっただけに、伊賀には京都や金沢にも通じる“職人文化”が今も息づいている。『daco』をはじめとする情報発信の中でモノづくりのストーリーを丁寧に紹介することによって、地元の職人さんや工芸品にもスポットライトが当てられるようになった

また、情報発信力を高めるために、無料配布の観光ガイドブックのデザインや内容を一新した。

都会の出版社で編集の仕事に携わっていた伊賀市在住の女性ライターや女性デザイナーに制作を依頼し、トレンドに敏感な30代・40代の女性たちが思わず手に取りたくなるような小冊子『daco~だーこ~』を発行。レイアウトや色合いのビジュアル的なお洒落さと、セカンドバッグの中にも入れて持ち歩きやすいサイズ、ストーリーのある記事構成が受けて、『daco』を片手に街なかを散策する女性グループが目立つようになってきた。

「この“だーこ”というのは、伊賀弁で“〇〇してちょうだい”という意味の言葉です。市内のレストランや雑貨店に置かせてもらったり、イベントで配布をしたりしていたのですが、発行回数を重ねるごとに評判を呼んで、『daco』に載っているお店を訪れるために県外からやってきたという女性旅行客も増えましたね。

地方の自治体は、どうしても情報発信が苦手なのでお金をかけずに自前で済ませてしまうケースが多いのですが、やはりプロの力を借りて、どこへ向けてどういう方法で情報発信をしていくのか…そこを明確にしてPRに力を注ぐことは、地域活性効果に直結すると実感しました。

地域活性のために、“何か”を変えたワケではありません。ただ、若い世代から振り返ってもらえるように、今あるものを“女性目線”で発信しただけ。1点モノの工芸品、1人だけの職人さん、ひとつだけのデザイン、そのまちの“人”や“モノ”にスポットライトを当てることで、伊賀の街全体が輝きはじめたような気がします」(森川さん談)。

地域のオトナたちが『地元への誇り』を取り戻すことが地域活性のカギ

城下町ならではの歴史や文化、そして代々受け継がれてきたモノづくりへのこだわりなど、地元の人たちが当たり前だと感じていた『日常』が、実は他の地域から見ると素晴らしいと感じられる『地域の財産』であったことに気付く…オトナたちが“自分の街に誇りを感じること”こそが、若者たちの関心を地元に引き留めるために欠かせない要素なのかもしれない。

さて、次回の【忍者の里・三重県伊賀市の取り組み②】では、伊賀市が抱えるもうひとつの課題、『空き家対策』についての取り組みをご紹介しよう。


■取材協力/株式会社まちづくり伊賀上野
http://www.m-igaueno.co.jp/

▲ハイトピア伊賀3階にあるコミュニティ広場には、制服姿の学生グループの姿も目立つ。<br />ここ伊賀市には何があるのか?地元の歴史や文化に親しむ環境を提供することで、<br />将来の“地元に貢献するオトナの卵たち”をじっくりと育んでいる▲ハイトピア伊賀3階にあるコミュニティ広場には、制服姿の学生グループの姿も目立つ。
ここ伊賀市には何があるのか?地元の歴史や文化に親しむ環境を提供することで、
将来の“地元に貢献するオトナの卵たち”をじっくりと育んでいる

2016年 04月28日 11時07分