人口減少、少子高齢化時代を迎えたまちとの向き合い方

株式会社さくら事務所会長で不動産コンサルタントの長嶋修氏株式会社さくら事務所会長で不動産コンサルタントの長嶋修氏

少子高齢化が進行する我が国の人口は、平成22年にピークに本格的な人口減少社会へ突入している。日本大学の清水千弘教授らによれば、2040年の日本の住宅価格は2010年に比べて平均46%下がるという研究結果も報告されている。これは、少子高齢化が進行することで若年層の社会保障負担が増えることで住宅取得能力が低下してしまうためである。
また、こうした社会構造の変化は"空き家の増加"という形で現れている。総務省統計局の調査によれば、平成25年の全国の空き家率は13.5%と約7軒に1軒が空き家という状況で、10年前に比べて1.3ポイント上昇している。
注目したいのは、仮にエリアの価値が下落している地域でも差が生まれているという点だ。

2018年3月16日に開催された不動産コンサルタントの長嶋修氏によるセミナー「不動産から見た『住みたいまち』とは~長嶋修氏に訊く!!春日部の現状と将来~」。
高齢化が顕著に進む都市郊外のベッドタウンの中でも、将来的に深刻な人口減少が見込まれている埼玉県春日部市を事例に、まちの現状と将来の姿、今後起こすべきアクションが語られた。

大都市郊外のベッドタウンで起こっている現実とは

3極化する不動産市場(参照:株式会社さくら事務所資料)3極化する不動産市場(参照:株式会社さくら事務所資料)

春日部市は、さいたま市や千葉市などのベッドタウンと同じく、1955年から1973年までの、いわゆる高度経済成長期に同じ年代の世帯が大量に住み始めた地域だ。このエリアは当時団地の造成や市街地整備も進み、地方から出てきた当時の30~40代は、現在の国道16号周辺の都心から30~40km圏内に一斉にマイホームを建てたのだ。
長嶋氏によれば、昨今の不動産市場の特徴の一つとして、"三極化"が進みつつあるという。

「これまでは、都市部と郊外で不動産価格に大きな格差があったため2極化が進むと言われてきました。しかし、最近では、比較的人口の多い都市部でも価値の上がるエリアとそうでないエリアに分かれるようになりました。つまり、次のように"三極化"しているのです。

1)価値を維持する、あるいは価値が上がる不動産(10~15%)
価値が維持できたり上昇する不動産というと都心部の一等地を想像すると思います。しかし、地方をはじめベッドタウンにも一部こうした地域が存在します。

2)なだらかに下落し続ける不動産(70%)
時間をかけてゆっくりと価値が下落していくエリアで、大半はこの部分にあたります。下落率がどの程度かという点が問題になりますが、春日部市全体もこのこの中に入ります。

3)限りなく無価値になる、あるいはマイナス価値となる不動産(15%~20%)
最後は無価値、マイナス価値の取引きです。不動産を手放すことで管理の必要がなくなり、固定資産税も払わなくてもいいことから、お金を払ってでも引き取って欲しいという取引きが起こります。これらは地方の限界集落に限った話だけでなく、今後都心郊外のベッドタウンでも起こってきます。春日部市も今はまだ大丈夫だとしても、2020年2030年になるにつれ、三極化が進んでいくと思います」

沿線の人口動態から見る春日部の現状と将来

また、不動産価格に影響を与えるものとして「人口動態」は大きな要素の一つである。
国土交通省の鉄道沿線の予測分析によれば、首都圏において将来的に利用者の増加が見込まれている沿線がある一方、春日部駅のある東武伊勢崎線(東武スカイツリーライン)の状況は対極的だ。2035年時点で、定住している人口を示す夜間人口が、2005年時点よりも23.4%減、生産年齢人口に至っては36.1%減という状況である。この背景には、空き家の増加に加えて、担税力の低下による自治体財政の悪化が考えられるという。事実、春日部市における固定資産税収入および地方税収入は県内最下位で、市民所得も少ない状況だ。また、隣接する越谷市には2008年に商業施設が整備され、市民の買い物先が市内ではなく、越谷市などの市外に移ってしまっていることも挙げられる。

参照:国土交通省『東京都市圏における鉄道沿線の動向と東武伊勢崎線沿線地域の予測・分析』参照:国土交通省『東京都市圏における鉄道沿線の動向と東武伊勢崎線沿線地域の予測・分析』

行政サービスの効率化を目指す「立地適正化計画」

こうした状況の中、春日部市は「立地適正化計画」の策定に取組んでいる。

これは、市街地の枠を縮め、そのエリア内に住んでもらい税制の優遇などをすることで「まちをコンパクトにする」という対策だ。鉄道のあるエリアであれば、駅前を中心に医療機関や商業施設などの都市機能や生活エリアを集約することで効率的に税金を投じることを目指す取組みだ。
将来的に人口増加が見込まれない自治体では、人口の密度が低下して市街が拡散してしまうため、行政サービスの効率が悪くなってしまう。国土交通省が2014年7月に公表した「国土のグランドデザイン2050」では、現在は人が住んでいる地域の6割以上で人口が半数以下となり、2割は人が住まなくなるという指摘もある。
逆に言えば、この指定区域から外れた地域は、ゴミの収集やバス停などが遠くなり不便になるなど、日常生活への大きな影響が考えられるだろう。つまり、こうした地域においては、今後不動産の価値が下落することは免れないということも意味している。

参照:国土交通省『立地適性化計画策定』参照:国土交通省『立地適性化計画策定』

「住むまちをどうしていきたいか」という市民の意思

今回のセミナーでは、立地適正化計画において「20年後に公示地価を10%以上上昇させる」と目標を掲げる埼玉県毛呂山町や、子育てファミリーの誘致に力を入れている千葉県流山市など春日部市近隣の自治体の取組みが紹介された。長嶋氏は、春日部市にも今後、不動産の価値を維持、あるいは向上させる"伸びしろ"があると語る。

「これから春日部市を考える上で、アイデア次第でできることはたくさんあると思っています。一つの案ですが、日光東照宮を訪れる外国人観光客を春日部に留める仕掛けづくりや春日部駅の東口の古い街並を再生して生かした新たな観光スポットづくり、あるいは水辺の開発など地元にある資産をいかに観光資源として生かすなどが思い浮かびます。重要なのは、人の集まる都心部のようなおしゃれさや高級感などを目指すのではなく、春日部ならではの魅力をより打ち出していくべきという点です。こうした地域の魅力は、実際に春日部に住んでいる方が発信することが重要です。こうした取組みは、いくら市長や行政が頑張っても市民の方に関心がないと実現できません。自治体の経営は、結局のところ"市民のリテラシー"が問われていることであり、市長や政治家、行政と市民が連携が重要だと思います」

人口密度が低くなる中、まちの未来を考える上で、今後市民のアイデアやまちづくりへなどは、これまで以上に必要不可欠なものとなる。行政と市民が連携した取り組みなどによって、今後春日部市がどのような変革を遂げていくのか、引き続き注目していきたい。

会場となった春日部市市民活動センター「ぽぽら春日部」には、地元住民を含め多くの参加者が集まった会場となった春日部市市民活動センター「ぽぽら春日部」には、地元住民を含め多くの参加者が集まった

2018年 04月09日 11時08分