「都心から一番近い森のまち」流山はここ10年余で大きく変わった

最初の挑戦で落選、その後、年に4回自ら書いた市政ニュースを全戸に配るなど地道な活動を続け、2度目の選挙で当選、今回3期目の井崎義治流山市長最初の挑戦で落選、その後、年に4回自ら書いた市政ニュースを全戸に配るなど地道な活動を続け、2度目の選挙で当選、今回3期目の井崎義治流山市長

つくばエクスプレス開業の2005年。沿線に南流山、流山セントラルパーク、流山おおたかの森の3駅を擁し、秋葉原から約30分に位置する千葉県流山市の人口は15万2000人だった。しかも、人口のボリュームゾーンはいわゆる団塊の世代。私は開業2年くらい前から取材で沿線を歩いていたが、当時の沿線エリアは雑木林ばかりが目につく、いくら歩いても人に会わない場所だった。

それが昨年2013年には16万9000人に増加。昨年末には「人口が17万人を越すのはいつでしょう?」というクイズまで行われた。しかも、増加しているのは30代から40代の子育て世代。街全体が若返っているわけで、実際、流山おおたかの森駅を始め、どの駅周辺を歩いても、ベビーカーを押すお母さんや子どもたちが増え、街が大きく変わったことを痛感する。

その変革を推進したのが2003年に市長に就任、現在、3期目を務めている井崎義治さんである。民間のシンクタンクから政治家に転じ、誰も知らなかった田舎の街(失礼!)を東の二子玉川と言われるほどに変えたとして、マスコミにも頻出しており、街づくりに関心のある人ならご存知だろうと思う。ここではその井崎さんに、この10年余に流山で行なってきたことについて語っていただいた。

駅前送迎保育ステーションなど独自施策を可能にした行政の変革

流山市の教育環境をアピールするポスター。都内の駅などに貼られ、人目をひいた流山市の教育環境をアピールするポスター。都内の駅などに貼られ、人目をひいた

経済誌その他で流山市の人気の秘密を解説する記事を読むと、必ず取り上げられているのが流山市独自の待機児童解消策「駅前送迎保育ステーション」や、マーケティング課の存在などである。前者は市内2つの駅をハブとして、親が連れてきた子どもを預かり、各保育所にバスで送迎するというもので、保育所が遠隔地にあっても親が通所に余分な負担を強いられることがなくなり、仕事と保育の両立がしやすくなると子育て世帯に人気の仕組み。また、マーケティング課は流山市の認知度アップに欠かせない存在である。

しかし、個人的にはそうした施策そのものよりも、施策を実現できる環境を作ったことに意義があるのではないかと思う。私が知っている範囲で言えば、お役所という組織は悪意ではなく、前例に倣うことを良しとし、新しいことをやりたがらない。ついでに多くの自治体ではお金がない。それを打ち破らなければ、どんな良い施策を考えても実現は難しいのである。

井崎さんは市長に就任直後、財政立て直しのために特別職(市長、副市長、教育長など)給与を2割削減する案を出した。自分たちの給与にも及ぶことを心配した一部の職員は反発した。「流山市の財政事情はそれほど悪くはない、新しいサービスなど考えずにこのままやっていれば赤字は増えないと、幹部の職員ですら言いました。社会が変われば、新しいサービスが必要になるのに。それは無視して十年一日の業務を続けていれば良いのだと。当然、市の将来を考えたブランディング、マーケティングという発想もない。その意識を変えるために数年にわたって研修を行い、危機、問題意識を共有する努力を続けました」と当時を振り返る。

その結果、流山市役所は大きく変わった。財政状況を立て直し、職員の意識を変えた結果、東洋経済や日経グローカルなどといった雑誌による自治体評価の各種指標はここ数年で飛躍的にアップ。情報公開度全国1位(全国市民オンブズマン連絡会議)、市民一人あたりの行政コスト全国最小(日経グローカル)などなど、開かれた、親切なサービスを少ないコストで提供できる自治体になったのである。

また、2014年4月からは民間企業のように、人事評価と給与が連動する仕組みも導入される予定で、将来的に財政事情が変化してもそれに対応できる組織となる。『まず、隗より始めよ』で、財政状況に無頓着な自治体では困る。敏感に対処できるほうが良いのは言うまでもない。

行政と住む人の間の信頼感が住みやすい街を作る

流山市庁舎入口には様々な掲示があり、市民に行政を説明しようという姿勢を感じた流山市庁舎入口には様々な掲示があり、市民に行政を説明しようという姿勢を感じた

市の行政変革だけでなく、市民と行政の間に信頼関係を築いてきた点も大きい。「市長になって気づいたのは、市民の中にはいろいろな方がいるということ。公共には注文が言いやすいのでしょう、時には無理難題のようなことを言って来る方もいる。それを受けて職員が守りに入ってしまう気持ちも分からないではありませんが、それでは問題は解決しない。それに流山には前向きな方も多い。そこで、市民が行政に何か言いたい時にはアクセスできるポイントを増やし、対話を図るようにしてきてきました」。

そのひとつと位置づけられるのがタウンミーティング。「予約なしで参加でき、事前に質問を提出することなく、自由に質問でき、私や担当の部長などがその場で質問に対応します。そこで、回答がすぐできなかったり、提案された解決案を採用できない場合は、なぜ、できないかをきちんと説明する、あるいは代替案を出す、他の事案との優先順位があることを説明するなどという対処をしてきました」。

本来、自治体とそこに住む人との利害は住みやすい街を作り、人口減少を食い止めるという点で一致する。人口減少は自治体には存続の問題になりうるし、住んでいる人には利便性、資産価値の減少という問題になるからだ。だが、互いに不信感を持ち、文句を言い、聞くだけの関係になってしまっている例は少なくない。それは例えば、予算や法律の制限のために実施できない施策の、実施できない理由がきちんと伝わらないことに端を発していたりするのだが、その無益な感情を廃することができれば、行政はもっと効率的になる。流山市では行政が虚心坦懐、誠実に、地道に対処することで、互いが住みやすい街を作るという共通の目標を持っていることを確認しながら、信頼関係を築いてきたというわけだ。

その結果、東日本大震災後の除染に関するタウンミーティングの場では「市も被害者なのだから、一緒に努力しよう」などと建設的な声が多数あがり、説明に他市から訪れた専門家を驚かせたという。また、流山市が毎年行っている「まちづくり達成度アンケート」平成25年度調査で、「流山市の行政を信頼している」と答えた市民が77.1%と過去最高を記録した。

自分の住む街で自己実現。それもこの街に住む魅力

流山おおたかの森駅前の広場では様々なイベントが行われている。写真はクリスマスのイルミネーション流山おおたかの森駅前の広場では様々なイベントが行われている。写真はクリスマスのイルミネーション

井崎さんはこれを「市民の知恵と力を活かす街」という言い方で説明する。「例えば、これまでの市民まつりはずっと同じメニューを続けてきました。お金を出して誰か有名な人に来てもらってというようなやり方です。しかし、なんであの人なの?などと不満も出やすい。そこで、前回はお金をかけずにやろうと市民の声を聞き、オーディションを行い、そこで選ばれた人たちにパフォーマンスをしていただきました。(出演者に)お金をかけないだけで、市民のみなさんが日頃研鑽してきた結果を発表できたと満足する人が多く、レベルも高い。また、観客からの評判も上々でした」。

市民まつり以外にも市内では市民の自主企画事業が多くあり、毎日のようにイベントが開催されている。住んでいる人の中には各所で行われる、種類豊富なイベントがこの街に住む魅力のひとつとさえ言う人もいるほどで、特に子どものいる家庭には大きな楽しみとなっているようだ。

「お母さん、子どもだけではありません。お父さんの子育て準備セミナーで知り合った人たちがサークルを作ったり、民間企業を定年退職した人が地元の公民館で館長となり、周囲に必要とされる充実した時間を過ごしたりと、地域に溶け込み、繋がりのある暮らしを実現している人が増えています。流山市には地域の問題に取り組むNPOも多く、自分たちの暮らしを自分たちで変えようとする人も少なくありません。ここに住むことで自分の力を活かし、自己実現できる。それも街の価値のひとつではないでしょうか」。

緑の多い住環境と子育て支援、教育の充実が人気の要因

こちらはグリーンフェスティバル。ガーデニングに熱心な家庭も多く、街のあちこちで自然を感じられるこちらはグリーンフェスティバル。ガーデニングに熱心な家庭も多く、街のあちこちで自然を感じられる

ここまで、いささか抽象的な部分での住みやすさについて書いてきたが、最後に流山市が多くの子育て世帯に選ばれている具体的な理由、施策についてまとめておこう。

「人口減少時代に、それでも選ばれる街であるためには大きく3つのポイントがあると考えています。ひとつはなんといっても良質な住環境。家が余る時代にあっては、どんな環境の場所にあるかは重要なポイントです。そのため、流山市では緑を増やし、整備しています。あとの2つは子育てと教育。子育てに関しては保育所、学童保育などを増やし、働くお母さんをバックアップできる体制を整えています。駅前送迎保育ステーションもそのひとつです」。

流山市では200戸以上のマンションを建設する際には保育所を設置するよう協力要請する要綱があり、人口増がイコール待機児童数増にならないように配慮されている。とはいえ、人口増に伴い、小中学校の不足などが顕在化しており、嬉しい悲鳴とか。人気にはメリットもデメリットもあるわけだ。

教育に関しては市内の全小中学校に算数・数学学習指導員や外国人講師、英語活動指導員を配したり、自己啓発、能力開発書として用いられることの多い「7つの習慣」を取り入れた教育を試験的に実施するなど、熱心に新しい取り組みを行っている。「3年前に教育長が替わった際には学力向上に関して具体的な目標値を掲げることを要望、その結果、全国学力試験では全国、千葉県平均を上回る成績を上げるようになってきています」。

住環境、子育て支援、教育の3本柱が流山市を若返らせた具体策というわけだが、これらについては稿を改め、現場の声なども含めて紹介していきたい。

2014年 02月17日 10時01分