リノベーションが変えるのは住宅だけにあらず

家庭菜園は入居者以外も利用できる家庭菜園は入居者以外も利用できる

リノベーションといえば、一般的には住戸内に手を入れる、ある特定の個人のための手法と思われがちだが、今回3回目となるリノベーション・オブ・ザ・イヤー2015はグランプリ作品でその通念を大きくひっくり返してくれたところに意義がある。

グランプリを受賞した『こどもたちの駅前ひろば「ホシノタニ団地」』(ブルースタジオ)は団地のリノベーションなのだが、リノベーションで変わったのは住宅としての団地だけではない。元は小田急線座間駅の、駅前にありながら8年間も放置されていた団地だったというから、どんなに街のイメージダウンに寄与(!)していたかは想像に難くない。マイナスな存在だったはずである。

そこがリノベーションされ、豊かな外構部分は車の入ってこない、安全で人が集いやすい駅前広場に作り替えられた。団地の1階部分には子育て支援施設や農家カフェなどがあり、建物の間には貸し農園も作られた。かつての廃墟には今、子どもから大人までいろいろな人の姿、声がある。これが街を変えないはずはない。団地のリノベーションは街そのものをもリノベーションしたのである。

この事例はまた、開発という概念やデベロッパーの意味などをリノベーションしたともいえる。これまで開発といえば、かつてあったものをすべて捨て去り、新しく作り直す再開発が中心だった。しかし、かつてあったものを生かし、マイナスをプラスに変えられるとしたら、全国各地にある衰退しつつある団地や街の再生の可能性はかなり高くなる。デベロッパーのやることが新しく作ることだけでないとしたら、選択肢は広がる。その意味で今回のグランプリはリノベーションに新しい地平を切り開いたものといえる。

その分、これをグランプリに選ぶべきかどうかは激論になったそうだ。「これを選んでしまったら、来年は大変。一気にハードルが高くなる」という声もあり、最後は審査委員長の一票で決した。住宅に興味がある人ならぜひ一度訪れてみたい物件である。

見た目プラス性能という新しい観点

性能に子だわってリノベーションされた部屋。写真からでは暖かさが伝わらないのが残念だ性能に子だわってリノベーションされた部屋。写真からでは暖かさが伝わらないのが残念だ

もうひとつ、リノベーションの考え方の変化を感じた物件がある。審査員特別賞として設定された省エネリノベーション賞を受賞した「暖房なしでも暖かいマンション」(棟晶)である。これは北海道で築27年、カビだらけで1時間もいると息苦しくなるほどだったマンションを常に室温18度を保てるような部屋にリノベーションした事例で、住宅の性能を大きく向上させた点に特徴がある。

これまでリノベーションというと、どうしても見た目に関心が行きがちだったが、長く住むことを考えると、住宅の性能は無視できないポイント。特に日本のように細長く、多様な気候のある国ではその土地独特の気候風土に合わせた物件が必要だ。デザインだけでなく、性能も高く、快適な暮らしができるリノベーションが一般的になっていくことを期待したいところだ。

ちなみにこちらの住宅は北海道だというのに冬場の光熱費が月8000円程度で済んでいるとか。オール電化で10万円くらいはかかるという地でこの性能は素晴らしい。

貸し方そのものをリノベーションした事例も

こちらが妄想をかきたてる土間。玄関から入れるようになっているこちらが妄想をかきたてる土間。玄関から入れるようになっている

賃貸の仕組みをリノベーションした物件もあった。審査員特別賞のうち、賃貸リノベーション賞を受賞した「団地リノベ / コンクリートと無垢の家」(タムタムデザイン)である。これは1980年代に建設され、老朽化した団地をリノベーションしたものだが、注目すべきはあらかじめ設計、施工をしてから入居者を探すのではなく、まず入居者を探し、その人の希望に合わせて設計、施工をするという手法である。

これなら住む人にとって満足度の高い住まいになるのはもちろん、供給する側にも無駄がなくなる。この例に限らず、最近、たまに聞くようになりつつある仕組みで、これなら貸す側、借りる側のどちらもハッピーになれる。これをきっかけにこのやり方で借りられる賃貸住宅が増加することを期待したい。

また、この物件は全体にシンプルな内装、間取りが特徴だが、玄関直結で土間スペースが設けられているのが面白いところ。リビング、居室とは全く雰囲気の違う空間で、趣味の部屋はもちろん、来客用に、アウトドア基地にといろいろ使えそう。実際、ここに住んでいる人はどのような使い方をしているのか、間取り図を見ていると妄想は膨らむ。次回のリノベーション・オブ・ザ・イヤーではリノベ後の施主の暮らしも見せていただけると面白いかもと勝手なことを考えたりした。

話題のDIYでリノベーションスクール

このところ、女性誌などでも見ることが増えたDIYという単語。やってみたい人は増えているようだが、その反面、やる機会がない、やるからには教えて欲しい、どこで試せるかが分からないという声も聞く。そんなニーズに応え、かつちゃんとリノベーションも行ってしまったのが無差別級部門で最優秀賞を受賞した「DIYリノベーションスクール」(ナイン)。

これは大阪府住宅供給公社からの依頼で行われたもので、舞台となったのは築40年オーバーという泉北ニュータウンの公社茶山台団地。ここで毎週土曜日に全21回のワークショップが行われ、20代から60代の男女合わせて延べ500名が参加した。人数だけでもすごいが、このワークショップでもっとすごいのは普通なら職人さんがお金をもらってやる作業を参加者がお金を払って参加するという仕組みである。主催者は当初、参加者が集まらないことを危惧したそうだが、蓋を開けてみたところ、チケットは即日完売。募集開始すぐからキャンセル待ち状態になったという。DIY人気の高まりは本物ということだろう。

ワークショップでは解体から材料の荷揚げ、仕上げの塗装、フローリング工事などが行われ、最終的には45m2、3DKの5住戸がスケルトンからフルリノベーションされて終了。参加者間では互いの家のDIYを手伝いあうような関係も生まれたそうで、一緒に何かを作るという体験は得難いものであることが分かる。これは大阪のケースだが、どこか、首都圏の会社がやってくれたら行ってみたいなあと思った。首都圏の会社さん、ぜひ、お願いします。

右上ができあがった部屋。プロの手助けがあれば素人でもここまでできる右上ができあがった部屋。プロの手助けがあれば素人でもここまでできる

間取り、築年を気にせずに済む住まい

最後に個人的に惹かれた受賞作品を紹介したい。800万円以上部門最優秀賞「『特別などこか』へ行かなくても、日常こそが特別な暮らし『井の頭の家』」(リビタ)である。これは玉川上水に隣接して建つ、築31年の小さな部屋が多かった一戸建てをリノベーション、再販したもので、従前とは真逆の、目的を定めない広い空間が特徴の家。

一般的な常識からすると広すぎるほどの洗面所は使う人がいかようにも使える空間であり、そう考えるとわくわくする空間でもある。洗面所に限らず、家中、椅子を持って行けばどこでもそこが読書コーナーになり、座り込めばそこがエクササイズやうたた寝の場になる。間取りにこだわらずに済む暮らしは自由で、楽しそうである。

一方で築31年とはいえ、耐震性能は現行法に適合しており、断熱性能は新築でもまだ義務化されていないレベルの省エネ基準を超えたものにするなど、性能面も備えた住まいとなっており、これなら築年にこだわる必要はないと思える。緑に囲まれた環境も魅力で、自宅にいながら花見もできる住まいでもあるのだとか。早々に売れてしまったのは残念だが、分かる気はする。

以上、2015年の受賞作品を見て来た。広い地域での事例増が目立った2014年に比べ、リノベーションの対象が街、ビジネスモデルなどに進化した2015年。来年はどのような事例が出てくるか。期待したいところである。

リノベーション・オブ・ザ・イヤー2015
http://www.renovation.or.jp/expo/oftheyear/index.html

元々は右下のような解放感に乏しい家だったそうだが、リノベーション後は周囲の緑や光を取り込む、明るい住まいに変身している元々は右下のような解放感に乏しい家だったそうだが、リノベーション後は周囲の緑や光を取り込む、明るい住まいに変身している

2015年 12月15日 11時17分