
本記事では、不動産売買で必要な所有権移転登記の流れや、必要な費用、書類について解説します。
不動産売買の手続きにおいて、所有権移転登記には重要な役割があります。所有権移転登記を正しく行わなければ、トラブルのリスクも高まります。
- 所有権移転登記はいつ必要になるのか?
- 所有権移転登記はどれくらい費用がかかるのだろうか?
- 所有権移転登記には何の書類が必要なのだろうか?
- 所有権移転登記についての流れを知りたい
所有権移転登記について、上記のような疑問を抱いている人は、ぜひ参考にしてください。
この記事で分かること
- 不動産売買の所有権移転登記にかかる費用
- 不動産売買における所有権移転登記の必要書類
- 不動産売買の所有権移転登記にかかる費用を安く抑えるポイント
- 不動産売買における所有権移転登記の流れ
- 不動産売買の所有権移転登記に関するよくある質問
もくじ
不動産売買における所有権移転登記とは?

不動産売買において、所有権移転登記は重要な手続きです。なぜなら、所有権移転登記をしないと、売却後のトラブルにつながるリスクが高まるからです。
- 所有権移転登記を行う理由
- 所有権移転登記はいつ必要になるのか?
ここでは、上記2つの内容を詳しく解説します。
所有権移転登記を行う理由
不動産売買で所有権移転登記を行う理由は、不動産の所有者であることを公に証明できるようにするためです。
不動産の登記簿には主に以下の内容が記載されていて、誰でも参照することができます。
- 土地や建物の所在地・面積
- 所有者の住所・氏名
- 所有権や抵当権など権利に関する事項
所有権移転登記とは、不動産の所有権を他者へ移転するときに行う登記であり、登記の変更を法務局に申請する必要があります。
しかし、所有権移転登記をしないと所有権を変更できないわけではありません。 民法第176条では、以下のように定められています。
物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる
※引用:民法 - e-Gov法令検索
物権とは物を直接に支配する権利のことで、「物権の移転は当事者の意思表示のみで原則生じる」と明記されています。つまり、当事者の合意さえあれば、所有権の移転が可能です。
一方で、民法第177条では以下のように定められています。
不動産の物権変動は登記なしには第三者に対抗することができない
※引用:民法 - e-Gov法令検索
つまり、不動産売買契約を締結して代金を支払ったとしても、不動産登記にて所有権を移転していなければ、所有権を第三者に主張できません。
所有権を主張できない場合、不動産を担保にお金を借りることや売却手続きをスムーズに進められなくなります。
不動産の性質上、所有者が誰であるかを明確に周知させることは難しいため、不動産の物権を正しく主張するために不動産登記を行う必要があるのです。
※参考:不動産登記のABC|法務省
所有権移転登記はいつ必要になるのか?
不動産の所有権移転登記が必要になるのは、主に以下の場合です。
- 不動産を売買するとき
- 不動産の遺贈や贈与をされたとき
- 不動産を相続したとき
- 離婚などで財産分与が発生するとき
遺贈とは、遺言によって贈与することです。これらの不動産の所有権を他者に移転しなければならないタイミングで、所有権移転登記が必要になります。
不動産売買の所有権移転登記にかかる費用

不動産売買の所有権移転登記にかかる費用を、以下の3つに分けて解説します。
- 登録免許税
- 登録免許税の軽減措置
- 各種手続きにかかる費用
順番に見ていきましょう。
登録免許税
登録免許税とは、不動産売買の所有権移転などにおいて、登記手続きする際にかかる税金のことです。
- 土地の登録免許税
- 建物の登録免許税
- 登録免許税の計算方法
土地の登録免許税
不動産売買における土地の登録免許税は、以下の通りです。
| 内容 | 課税標準 | 税率 | 軽減税率(※) |
|---|---|---|---|
| 所有権の移転 | 固定資産税額 | 2.0% | 1.5% |
| 抵当権の設定 | 固定資産税額 | 0.4% | - |
※令和5年3月31日まで
抵当権とは、住宅ローンなどを借りて不動産を購入する場合に、金融機関が担保として設定する権利です。金融機関が抵当権を設定することで、不動産購入者の住宅ローン返済が滞った場合、不動産を競売にかけて住宅ローンの返済に充てることができます。
なお、令和5年3月31日までは、土地の所有権の移転に軽減税率が適用されます。
建物の登録免許税
不動産売買における建物の登録免許税は、以下の通りです。
| 内容 | 課税標準 | 税率 | 軽減税率 |
|---|---|---|---|
| 所有権の保存 | 固定資産税額 | 0.4% | 一部適用あり |
| 売買による所有権の移転 | 固定資産税額 | 2.0% | 一部適用あり |
所有権の保存とは、建物を新築した場合などで所有権が登記されていない不動産において、最初に行われる登記のことです。
建物の登録免許税の軽減措置については後述します。
※参考:No.7191 登録免許税の税額表|国税庁
※参考:登録免許税に関する資料|財務省
登録免許税の計算方法
登録免許税額は、原則以下の式で算出されます。
登録免許税額=課税標準額×税率
課税標準額とは、各市町村で管理している固定資産課税台帳に記載された、土地や建物の評価額である固定資産税額のことです。
固定資産税額の確認方法は、主に以下の3つがあります。
- 不動産を管轄する役所で固定資産税評価証明書を取得する
- 市町村から毎年送付される固定資産税課税明細書を確認する
- 役所で固定資産課税台帳を閲覧する
たとえば、土地の固定資産税額が2,000万円の土地を、令和5年3月31日までに所有権移転した場合の登録免許税は、軽減税率が適用されて「2,000万円×1.5%=30万円」となります。軽減税率は年度によって異なる可能性があるため、詳しくは国税庁のホームページを確認しましょう。
※参考:No.7191 登録免許税の税額表|国税庁
※参考:登録免許税はどのように計算するのですか?|法務局
【あわせて読みたい】
▶︎不動産売却の登記費用は誰が負担する?費用相場や計算方法、必要書類も解説
登録免許税の軽減措置
住宅用家屋における登録免許税の軽減措置は、令和6年3月31日までは主に以下のようになっています。
| 項目 | 概要 | 軽減税率(※) |
|---|---|---|
| 住宅用家屋の所有権の保存登記 | 個人が新築住宅を取得して住んだ場合の保存登記 | 0.15% |
| 住宅用家屋の所有権の移転登記 | 個人が新築住宅を取得して住んだ場合の移転登記 | 0.3% |
| 特定認定長期優良住宅の所有権の保存登記など | 個人が認定長期優良住宅を新築して住んだ場合の保存や移転登記 | 0.1% |
| 認定低炭素住宅の所有権の保存登記など | 個人が認定低炭素住宅を新築して住んだ場合の保存や移転登記 | 0.1% |
| 特定の増改築などがされた住宅用家屋の所有権の移転登記 | 個人が宅地建物取引業を営む不動産会社により一定の増改築などをした住宅の取得にかかる所有権の移転 | 0.1% |
| 住宅取得資金の貸付けなどにかかる抵当権の設定登記 | 個人が住宅を取得し住んだ場合において、住宅の購入資金の貸付けなどにかかる抵当権の設定登記 | 0.1% |
※令和6年3月31日まで
登録免許税の軽減措置を受けるには、床面積が50㎡以上であることや、新築もしくは住宅取得後1年以内に登記するなど一定の要件を満たす必要があります。詳しくは国税庁のホームページを確認してください。
各種手続きにかかる費用
登録免許税以外にかかる費用としては、主に以下の2つです。
- 書類をそろえるのにかかる費用
- 司法書士への報酬
自分で書類をそろえる場合は、数千円程度で手続きすることができます。司法書士に依頼する場合は別途数万〜5万円程度の費用が必要になります。
不動産売買における所有権移転登記の必要書類

所有権移転登記の手続きは、状況に応じて必要書類が異なります。
- 必ず用意しなければならない書類
- 贈与または売買、遺贈の場合の必要書類
- 相続の場合の必要書類
- 司法書士に依頼する場合の必要書類
順番に詳しく見ていきましょう。
必ず用意しなければならない書類
所有権移転登記で、状況問わず必ず用意しなければならない書類は以下の通りです。
| 必要書類 | 入手先 | 入手費用(相場) |
|---|---|---|
| 登記事項証明書 | 法務局(オンラインサイトでも入手可) | 480円〜600円 |
※参考:登記手数料について|法務省
贈与または売買、遺贈の場合の必要書類
不動産売買や遺贈、贈与の場合、所有権を移転する側とされる側で必要書類が異なります。
売主・遺贈・贈与する場合の必要書類
不動産売買における売主や遺贈、贈与する方の必要書類は以下の通りです。
| 必要書類 | 入手先 | 入手費用(相場) |
|---|---|---|
| 所有権移転登記申請書 | 法務局(オンラインサイトでも入手可) | 無料 |
|
【登記原因証明情報】 ・売買契約書 ・贈与契約書など |
保有物 | - |
| 登記識別情報または登記済権利証 | 保有物 | - |
| 印鑑証明書(発行から3ヶ月以内) | 役所や証明サービスコーナーなど | 300円前後 |
| 固定資産評価証明書 | 各市町村の役所 | 1枚あたり200円〜400円 |
|
【身分証明書】 ・運転免許証 ・健康保険証 ・マイナンバーカードなど |
保有物 | - |
| 実印 | 保有物 | - |
買主・遺贈、贈与される方の必要書類
不動産売買における買主や遺贈、贈与をされる方の必要書類は以下の通りです。
| 必要書類 | 入手先 | 入手費用(相場) |
|---|---|---|
| 所有権移転登記申請書 | 法務局(オンラインサイトでも入手可) | 無料 |
|
【登記原因証明情報】 ・売買契約書 ・贈与契約書など |
保有物 | - |
| 住民票 | 市町村の役所やコンビニ交付 | 200円〜300円 |
|
【身分証明書】 ・運転免許証 ・健康保険証 ・マイナンバーカードなど |
保有物 | - |
| 実印 | 保有物 | - |
相続の場合の必要書類
相続で、不動産を所有権移転登記する場合は、主に以下の書類が必要です。
| 必要書類 | 入手先 | 入手費用(相場) |
|---|---|---|
| 所有権移転登記申請書 | 法務局(オンラインサイトでも入手可) | 無料 |
|
【身分証明書】 ・運転免許証 ・健康保険証 ・マイナンバーカードなど |
保有物 | - |
| 戸籍謄本(相続人全員) | 市町村の役所 | 450円前後 |
| 住民票 | 市町村の役所やコンビニ交付 | 200円〜300円 |
| 印鑑証明書(相続人全員) | 役所や証明サービスコーナーなど | 300円前後 |
| 実印 | 保有物 | - |
相続の場合は、所有権を移転される方からの単独申請で手続きが可能です。しかし、相続人の総括として、主に以下の書類も準備しなければなりません。
| 必要書類 | 入手先 | 入手費用(相場) |
|---|---|---|
| 被相続人の住民票除票 | 市町村の役所 | 750円 |
| 被相続人の戸籍謄本 | 本籍地の市町村の役所 | 450円 |
| 固定資産評価証明書 | 市町村の役所 | 200円〜400円 |
| 遺産分割協議書 | 市町村の役所やコンビニ交付 | 200円〜300円 |
| 相続関係の説明図 | 自らもしくは司法書士が作成 | - |
| 遺言書・検認調書(ある場合) | 検認調書は遺言書を基に家庭裁判所が作成 | 1,000円程度 |
相続の場合は、相続のパターンによって必要な書類や申請書が異なり複雑であるため、司法書士に依頼する方が良いでしょう。
司法書士に依頼する場合の必要書類
司法書士に依頼する場合は、委任状が必要です。
| 必要書類 | 入手先 | 入手費用(相場) |
|---|---|---|
| 委任状 | 司法書士が作成 | - |
委任状は司法書士が作成することが一般的で、依頼者は委任状に署名、捺印を行います。
不動産売買にかかる所有権移転登記の費用を抑えるポイント

不動産売買にかかる、所有権移転登記の費用を抑えるポイントは以下の2つです。
- 複数社に見積もりを取る
- 仕訳で経費を計上する
順番に見ていきましょう。
複数社に見積もりを取る
所有権移転登記を司法書士に依頼する場合、複数の司法書士事務所に見積もりを依頼すると良いでしょう。
司法書士への報酬は事務所によって異なります。複数の事務所から見積もりを取ることで相場が分かり、安い事務所へ依頼することで費用を安く抑えられる可能性が高まります。
ちなみに所有権移転登記は、司法書士に依頼せずに自分で手続きすることも可能です。自分で手続きをすれば、司法書士に報酬を支払う必要はありません。ただし、必要書類の作成や準備など手間がかかる上に、専門知識が不十分であればトラブルのリスクもあります。そのため、司法書士に依頼した方が無難でしょう。
仕訳で経費を計上する
店舗や事務所など非居住用物件の場合は、所有権移転登記の費用を経費として計上することが可能です。
司法書士への報酬の他にも、必要書類の発行手数料や法務局への交通費なども仕訳で経費計上できます。経費にすることで確定申告の際に控除対象となり、節税効果が期待できます。
不動産売買における所有権移転登記の流れ

不動産売買における、所有権移転登記の流れを順番に解説していきます。
- 書類の作成・準備
- 法務局に提出
- 書類審査
- 完了書類の受取り
まずは、登記申請書に記入するなど、必要書類の作成、準備をします。もし自分で手続きする場合は、事前に法務局で書類を確認してもらうと良いでしょう。
必要書類を準備したら、不動産を管轄している法務局に提出します。提出方法は直接持参する以外にも、郵送やオンラインでの提出も可能です。
不動産を管轄している法務局は、法務局のホームページから調べることができます。法務局は、提出された書類を基に所有権移転登記の審査を行います。書類に不備などがあった場合は、訂正や再提出が必要です。
所有権移転登記が完了すると、登記完了証と登記識別情報が交付されるので受取りに行きます。申請してから登記が完了するまでは、1週間から2週間ほどかかるでしょう。
なお、司法書士に依頼すると、上記の手続きを司法書士に代行してもらうことができます。
不動産売買の所有権移転登記に関するよくある質問

最後に、不動産売買の所有権移転登記に関する、よくある質問を3つ紹介します。
- 所有権移転登記は誰がする?
- 不動産売買で所有権移転登記をしないリスクは?
- 所有権移転登記の際に売買契約書なしでも問題ない?
順番に詳しく見ていきましょう。
所有権移転登記は誰がする?
所有権移転登記は、原則として売主と買主が共同で行う必要があります。
当事者同士が共同で登記を申請することで、当事者の意思を登記官が確認でき、円滑に登記を進められます。
なお、司法書士に手続きを委任することも可能であるため、本人が行わなくても問題ありません。
※参考:登記の申請は誰がしなければならないのですか?|法務局
不動産売買で所有権移転登記をしないリスクは?
不動産売買で所有権移転登記をしないと、以下のリスクが高まります。
- 第三者に不動産の所有権を主張できない
- 不動産を担保にしてお金を借りることができない
不動産は、登記をしなくても合意があれば不動産の所有権移転が可能です。しかし、不動産登記をしないと自分が所有権であることを公に主張するのが難しくなります。
所有権移転登記をしないとトラブルへと発展するおそれがあるため、不動産売買の際は必ず所有権移転登記を行いましょう。
所有権移転登記の際に売買契約書なしでも問題ない?
所有権移転登記の際に売買契約書なしでも手続きは可能です。
しかし、契約締結時に契約の内容に合意していても、後から当事者の考えが変わるとトラブルへとつながりやすくなります。
契約締結時に売買契約書を作成しておかなければ、契約の内容に合意していた証明ができません。不動産売買で所有権を移転する場合は、必ず売買契約書を作成しておきましょう。
※参考:登記申請の際に必要とされる「登記原因証明情報」とは,どのようなものですか?|法務局
不動産売買の所有権移転登記は速やかに手続きを

本記事では、不動産売買における所有権移転登記について解説しました。
所有権移転登記は速やかに手続きをすることが大切です。しかし、専門性が高く難しいと感じる人も少なくありません。
所有権移転登記の手続きは、不動産会社に司法書士を紹介してもらうなど、フォローしてもらうことで負担が軽減されます。そのため、そうしたサポートが手厚い不動産会社を選ぶことがポイントです。
LIFULL HOME’Sの一括査定であれば、全国にある3,500社以上の提携不動産会社から査定を依頼する不動産会社を選べます。さらに、各社のサービス内容や強みなどを一覧から確認し、納得がいくまで比較できます。
自分に合う不動産会社をじっくり探すためにも、LIFULL HOME’Sの無料一括査定をぜひご利用ください。
記事執筆・監修
矢野 秀一郎(やの しゅういちろう)
不動産会社で2社勤務。1社目では時間貸駐車場の開発営業を中心に携わり、2社目では不動産売買の仲介営業や、一戸建ての分譲工事のプロジェクト、および新築・リフォーム工事の現場監督など、幅広く業務を担当。現在はフリーのライターとして不動産や金融に関する内容を中心にライティング・記事監修を実施。