産学官の連携による、長く健やかに暮らせる団地・まちづくり
国民の約27.7%が65歳以上となり少子高齢化が加速する中、国では「地域包括ケアシステム」を推進している。「地域包括ケアシステム」とは、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けられるように…と、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体となって提供するサービス体制のことだが、その構築に資するために団地を活用したプロジェクトがある。
舞台はUR賃貸住宅。
全国で約72万戸(2018年12月現在)の賃貸住宅を管理しているUR都市機構では、“UR賃貸住宅の地域医療福祉拠点化”の取組みを始め、団地を含む地域一体で、“多様な世代が生き生きと暮らし続けられる住まい・まち”の実現を目指しているという。
その一事例として愛知県豊明市の【豊明団地】をご紹介したい。
UR都市機構と豊明市、そして、近隣の藤田医科大学間でそれぞれ協定を締結し、産学官協働による地域包括ケアシステムづくりを2014年にスタート。今では団地の自治会や商店街等も協力し、良好な連携態勢で『けやきいきいきプロジェクト』が展開されている。
具体的には、団地内の賃貸施設を活かして医療・福祉機能をもつ拠点を設置するなどしているのだが、藤田医科大学の学生や職員が団地内に居住し、団地で開催される各種コミュニティ活動へ参加していることも大きな特徴だ。
学生や教職員が団地内に住み、相談・講座の実施やコミュニティ活動に参加
愛知県のほぼ中央部にある豊明市は、日本最大級の病床数を誇る藤田医科大学病院による高度先端医療や、特別養護老人ホーム・老人保健施設などの介護資源も充実している。
同市にあって大学病院を同じ敷地内に有する藤田医科大学は、地域医療福祉への貢献にも力を入れており、学校法人として全国初の「地域包括ケア中核センター」を大学内に持つほどだ。
そんな藤田医科大学の学生70名・教職員10名ほど(2018年12月時点)が豊明団地に住み、活動拠点として団地内に『ふじたまちかど保健室』を開設・運営。ここを中心として住民のための健康講座や無料相談を行うほか、団地自治会主催のコミュニティ活動に参加するなどしている。
団地の住人となった学生には各々に“役目”があり、さまざまな活動に対して年40時間の“単位外活動”が決められているそう。そして、活動に対する支援として、UR都市機構では「学生向けの住宅改修」や「家賃減額」を実施している。
「パッと見は古い団地ですが、39~50m2という学生の一人暮らしには十分な広さの住宅を、彼らが不便なく・心地よく暮らせるように改修しています。藤田医科大学へ徒歩15分ほどの団地なので、通学面でも快適なのではないでしょうか。5階建ての団地は基本的には階段移動。エレベーターの設置にも取り組んでいますが、完全バリアフリー化は難しいのが現状です。年配の方は下層階を好まれますので、上層階を体力のある学生の住まいにすることで、空室を減らすことにも繋がっています」
(UR都市機構 中部支社 住宅経営部 首藤晋也さん)
将来は医療福祉に従事する学生が多いため、暮らしながら“現場体験ができる”ことは彼らの大きな財産になるだろうし、“若者がたくさん住む団地”には明るい雰囲気が漂うだろう。学生住人・既住人・そして団地自体にも良い影響となっているようだ。
団地内に『ふじたまちかど保健室』。子育てサポートも
豊明団地における藤田医科大学生たちの活動には、例えば、買い物支援や移動支援、独居高齢者との食事会や防災訓練、公園清掃などの自治会活動への積極的な参加がある。
彼らの活動拠点は、団地内の賃貸施設に開設された『ふじたまちかど保健室』。
ここでは、同大学の教員や医療専門職が、医療・介護・福祉などに関する無料相談を受け付けるほか、体操やウォークラリーをはじめ各種講座・イベントを年に20回ほど開催。学生による「夏休み寺子屋教室」なども行われ、幅広い年齢層が多数参加している。「ここに来ると友達も知識も増えて元気になる!」「フラッと寄って病院では聞きにくいことも教えてくれて助かる」といった声が届いていると聞く。参加した住人が後に自分の得意分野を活かして講師になるなど、楽しみを広げ、生き甲斐を生んでいるケースもあるのだとか。
また団地商店街には、豊明市が子育て支援事業の一環として病後児保育室を開設。このように乳幼児から高齢者までケア・サポートする場であり、地域住民の交流を育む場があることで、団地に足を運ぶ人が増えているのもプロジェクトを進める中での変化だ。
集会所棟を改修し、医療・介護に関する機能を加えた『けやきテラス』に
さらに2016年には既存の集会所棟が『けやきテラス』としてリニューアルした。
1階には、さまざまなイベントが開催される「集会室」と「地域包括支援センター」。
新しくなって利用の幅が大きく広がった集会室は、地域交流や健康増進の活動場所として利用されている。
2階には、在宅医療・介護の相談窓口となる医療介護サポートセンター「かけはし」と「RSH(ロボティックスマートホーム)実証研究施設」。移乗支援ロボットなど最先端の支援機器開発・実証がこの団地内で行われているのも興味深い。
数千人が暮らす団地ゆえの展望。将来は「団地内に“働く場”の提供も進めたい」
このようにハード・ソフトともに充実した支援がある豊明団地の今後について、UR都市機構 中部支社の首藤さんに聞いた。
「地域医療福祉拠点としてある程度のカタチは整ってきたと思うので、今後は、団地に"働く場"をつくりたいというビジョンがあります。団地内商店街に豊明市内で就労支援事業を行う企業の支所が開設予定で、そこを拠点に、団地にお住まいの方々に働く場を提供できないか検討中です。数千人が暮らす団地だからこそ、団地内で生活や生きがいをサポートできることがあるのではないでしょうか。
また、2015年に藤田医科大学の学生・教職員の団地内居住がスタートして今春で4年になりますが、入学と同時に入居した学生さんが大学生活をここで送り、ここでの経験を活かして医療の専門職としてこれから活躍されることを嬉しく思います。
若い世代の『団地』のイメージを払拭しながら、高齢者はもちろんのこと、多様な世代が、長く安心して暮らし続けられる住まい・団地づくりを今後も進めていきます」
地域との連携・協力が不可欠なこの取組みにおいて、UR都市機構では、2020年度までに100団地程度の拠点形成を考えているそう。
今後どんな地域色を出した「生き生きと暮らし続けられる団地」が生まれるのか楽しみだ。
2019年 02月18日 11時05分