欧米の賃貸事情はどうなっている?

外務省の発表によると、海外在留邦人数は2014年度で約129万人と、年々増加している。日本人の海外留学者数は約6万人(2012年集計・文科省)と、2004年ごろのピーク(約8.3万人)からは減少しているものの、2012年の調査では数年ぶりに上昇の傾向が見られた。
仕事や留学などで海外に住むことになった場合、どのように賃貸物件を探し、またどんな点に注意すればよいだろうか?

前回、「日本の常識は世界の非常識?アジアの賃貸事情はどうなっている?」で韓国・中国・シンガポールの賃貸住宅事情について調べてみた。入居時にまとまった保証金を支払い、毎月の家賃は無料という韓国の制度「チョンセ」など、同じアジアでも住宅に関する慣習は異なることを紹介した。
今回は欧米にフォーカスし、アメリカ・イタリア・ドイツの賃貸事情について紹介したい。

【アメリカの場合】人気の街・NYに住むための高いハードル

「あこがれの街」として世界中から人が集まるニューヨーク。しかし若い人が1人で住むには、その高い家賃がまず大きなハードルとなる「あこがれの街」として世界中から人が集まるニューヨーク。しかし若い人が1人で住むには、その高い家賃がまず大きなハードルとなる

日本では住み替えの際に、「賃貸か購入か」がよく検討され、住まいを借りることと買うことを比較する人は多いが、アメリカのほとんどの地域では「家は買うもの」という考え方が強く、ライフスタイルの変化に合わせて家の売買を繰り返し、数年ごとに引越すのが一般的なようだ。

しかし、ニューヨークやロサンゼルスなどの大都市圏では賃貸物件も多く、ニューヨークの賃貸率は66%(American Community Survey 2006-2008 3-Year estimate)と、東京都の53.4%(平成22年国勢調査)と比較しても賃貸率が高く、賃貸での暮らしが一般的であることがわかる。ニューヨークの賃貸事情を見ていきたい。

人気の高い街であることからニューヨークの家賃は高騰が続いており、マンハッタンでは、日本でいうワンルームタイプの部屋でも1,800ドル~3,000ドル(約18万円~30万円)となる。そのため若い人は何人かとルームシェアをするケースが多いが、それでも1人当たり日本のワンルームの家賃に相当するぐらいの負担は必要となるようだ。また、入居審査も厳しく、家賃の数十倍の年収か貯蓄額の証明、またはアメリカ国内での連帯保証人が必要になる。やはり、憧れの街ニューヨークに住むことはハードルが高そうだ。

物件の探し方は、現地のエージェントや日系の不動産会社などに依頼するか、情報誌などで情報収集する。その点は日本とも似ているだろう。しかし、入居にかかる費用や退去時の慣習が日本とは異なる。
日本で不動産会社に支払う仲介手数料は「家賃の1ヶ月分」程度が多いが、ニューヨークの場合はおよそ「年間賃料の15%」(Security Deposit:セキュリティ デポジット)が必要となるそうだ。例えば2,000ドルの物件の場合、2,000ドル×12ヶ月×15%=3,600ドルで、家賃の約1.8ヶ月分と日本より高い仲介手数料となる計算になる。
一方、日本の礼金のような仕組みはなく、敷金に似た「保証金」が契約時に必要となる。これは家賃の1ヶ月分くらいで、よほど酷い部屋の使い方をするとそこから修繕費を引かれるが、ほとんどが退去時には全額返還されるという。また、賃貸物件に入居者が手を入れてカスタマイズすることにも寛容で、部屋の改修は通常使用の範囲と考えられ、退去時の原状回復義務も基本的に求められない。

【イタリアの場合】入居前に確認しておきたい、イタリアならではの意外なポイント

イタリアの賃貸物件の特徴というとまず挙げられるのは、築年数が経過した物件が多いことだろう。築20~30年の建物が多く、築200~300年以上というものもあり、中には文化財となっている物件もあるようだ。古い建物であっても価値があるという考え方から不動産価格も上がり、比例して家賃も高騰しているため、ローマなどの中心地区では学生など若者が1人で住むことは難しく、複数人でシェアして住むことが一般的だ。大学の掲示板などでは、同居人募集の貼り紙も多く見られるという。

物件の探し方は、不動産会社に相談するほか、新聞やフリーペーパー、インターネットでの検索などが主流で、日本での探し方と似ている。
不動産会社の仲介によって契約する場合は、仲介手数料が1年分の家賃のおよそ15%ぐらい。直接大家と契約をして手数料を浮かせることも可能だが、家賃の頻繁な値上げなどのトラブル事例もあり、できるだけ不動産会社を通して契約するほうがよいそうだ。

イタリアの賃貸住宅では、家賃に光熱費が含まれるケースがある。物件の契約によって異なるが、自分で払う場合、日本のように毎月検針があるのではなく、2・3ヶ月に1回、基本的に前年の使用料に基づいた予測請求がくるという仕組みだ。油断すると冬の暖房費がかさみ高額な請求がくることもあるそうだ。部屋の温度を左右する窓は断熱性能が高いものか、入居前に確認しておくことが、イタリアでの賃貸物件探しにおいては重要なポイントの一つのようだ。

イタリアといえば、この赤茶色の屋根が広がる景色。</br>古い建物を修繕して住みつなぐことで、まちの景観を維持しているイタリアといえば、この赤茶色の屋根が広がる景色。
古い建物を修繕して住みつなぐことで、まちの景観を維持している

【ドイツの場合】日本では考えられない“細かすぎるルール”とは

イタリアと同様に、ドイツも街並みの保全を大切にする文化がある。</br>景観の保全についても、たとえば植栽を配置するなど細かい決まりが定められていることもあるイタリアと同様に、ドイツも街並みの保全を大切にする文化がある。
景観の保全についても、たとえば植栽を配置するなど細かい決まりが定められていることもある

ドイツでは、学生、社会人、ファミリー層まで、様々な世代でルームシェアという暮らし方が浸透しており、家主が一緒に住むパートナーの募集をかけるウェブサイトなども一般に普及している。もちろん不動産会社に依頼するという方法もあり、その際の仲介手数料は家賃のおよそ2ヶ月分が相場。敷金は日本と同様に、家賃の1ヶ月~2ヶ月分が目安だという。

集合住宅に暮らす際のマナーや近所付き合いは日本でも気になるが、その点においてのルールが大きく異なるのがドイツだ。ドイツでは、集合住宅において遵守すべき住まい方のルールが、契約などで詳細に決められている。

例えば、大きな洗濯物を干す際に叩いても良い場所と日時が指定されたり、共用部の清掃当番や回数などが定められていたりする。13時から15時までの昼休みや深夜から早朝にかけての時間帯は、掃除機や洗濯機など騒音が大きいものの使用を禁止されていたり、入浴・トイレの水洗の音などにも注意が必要だ。音だけでなく、ドイツでは魚を焼いて食べる習慣がないため、日本人の魚を焼くにおいが原因でトラブルになった例もあるという。ルール違反をすると警察が呼ばれて対応し、トラブルは裁判で解決することが多い。そのため、賃借人が会費を払うことで弁護士保険に加入できる組織などが存在する。

日本では騒音などの問題はあるものの、「お互いさま」の精神やコミュニケーションによって解決するケースも多いが、そうした考え方がドイツでは通りにくということだ。真面目で約束は絶対に守る、というドイツ人の気質が住宅事情にも現れていると言っていいのかもしれない。

アジア・欧米と賃貸事情を見てきたが、近接している国でも暮らし方や住宅事情は大きく異なることにあらためて気付かされた。日本では想像できないような慣習をもつ国もあり、文化や国民性を背景とした住まいの捉え方の多様性はとても興味深い。

もしも海外に住むことになった時には、その国の住宅事情を事前にリサーチして備えるようにしたい。
暮らしに大きく関わる「住まい」の事情を知れば、その国の暮らし方の価値観を知ることができそうだ。

2016年 03月25日 11時06分