女性の社会進出に伴う、仕事と子育ての両立の問題
日本における少子高齢化と人口減少は、労働力人口の減少にもつながっている。
厚生労働省は、平成28年版労働経済白書『人口減少下の中で誰もが 活躍できる社会に向けて 』の中で「労働力減少を抑制するためには女性、高年齢者の就労参加が重要」としている。女性の社会進出と労働力としての活躍は、社会課題の解決として期待されている。
日本が戦後の復興と高度経済成長の中で、労働力として期待される中、共働き世帯は増加を続けている。1985年に男女雇用機会均等法が成立し、1991年に育児休業法、1993年にパートタイム労働法、 2003年に次世代育成支援対策推進法、2015年に女性活躍推進法が成立し、主に女性の就労環境を改善する法律が整備されてきている。
とはいえ、少子化は進んでいる。一つの原因として「仕事と子育ての両立」の問題がある。働くための法律や雇用はあるが、子育てを支援する具体的な動きがなかなかついていっていないという現実問題があるようだ。女性の労働力の活用に際し、「就業希望のある60歳未満女性が求職活動を行わない最大の理由は、「出産・育児のため」であり、子育て世代の女性の就労を促進するには、育児と就労の両立が可能な環境の整備が重要となることを確認した。」と政府も課題をあげている。
子育てと仕事の両立は、何も家庭だけの問題ではない。日本の経済を支えるための大きな課題であるといえる。
「住みたい街」という調査は様々な媒体でも出ているが、「子育てしやすい街」とはどういった街なのだろうか。
今回、首都圏などの都市部自治体の保育施策について独自に調査をし、2001年度より継続して「保育力充実度チェック」を発行してきている「保育園を考える親の会」の前代表で現在アドバイザーを務めている普光院 亜紀さんにお話を伺ってきた。
1983年に創会された「保育園を考える親の会」
「実は、私自身、仕事と子育ての両立に悩んだひとりです」と「保育園を考える親の会」の代表の普光院さん。
「私は三代目の代表となりましたが、『保育園を考える親の会』は、1983年に創会され、“仕事も子育ても、普通にできる社会”を合い言葉に、働く親たちがつながるネットワークとして活動してきています。女性の社会進出が進む中、私も当時、出版社に勤めていましたが、毎日忙しい日々を送る中で結婚し子どもを産みました。仕事を続けるため、一体幼い子どもをどこに預けたらよいのか、悩んでいるときに『保育園を考える親の会』があることを知ったんです。
保育園を考える親の会が『保育園110番』という本を出していて、とても役に立ったことを覚えています。当時は保育園の情報がまとまっているものなどなく、そういった悩みを抱える親たちが多くいたんです。私は、1988年の入会ですが、1990年代の後半には約600名まで会員がふえました。保育園情報が行き渡るようになった今でも、約400名が会員として在籍しています」という。
「100都市 保育力充実度チェック」とは
現在、普光院さんがアドバイザーを務める「保育園を考える親の会」は、毎年「保育に関する調査」を行い、その結果を「100都市 保育力充実度チェック」という冊子にしている。
東京都・千葉県・埼玉県・神奈川県の主要都市と政令指定都市等のデータとなっており、自治体別のデータ調査を行っているという。
その項目は、
・認可・認可外の数や定員
・園庭保有率
・待機児童数・入園の難易度
・保育料の額・無償化の内容
・延長保育・休日保育
・0歳児保育・障がい児保育・病児保育
・人員配置・保育室の広さ
・認可外保育施設への施策
・民営化 その他
と幅広いデータ項目が並ぶ。
普光院さんは、
「『保育力充実度チェック』は、首都圏など都市部自治体の保育施策について、当会が独自に行う調査のまとめで、2001年度より発行をしてきました。保育利用者(保育希望者)の方々には、自分の住む街にはどんな保育があるのか、どの街に住めば保育が確保しやすいのかの指標として、行政関係者や研究者・事業者の方々には、地域間の施策の比較や地域の現状が分かる情報として参考にしていただくためのものです」という。
2021年度版「100都市 保育力充実度チェック」にみる現在の傾向とは
近年、待機児童問題などが多く取り上げられ、地域行政は改善に取組んでいる。
現在「100都市 保育力充実度チェック」は最新の2021年度版が発行されているが、各地域の保育の実態は実際にはどうなのか?現在の状況を聞いてみた。
「待機児童数では、実は入園の難易度はわかりません。入園難易度を知るために入園決定率(新規入園の申込児童のうち認可に決定した児童の割合)というのがあります。その入園決定率をみると全体の傾向では、約8割が認可に入園できており改善傾向にあります。しかし、認可に申請して認可を利用できなかった児童数は、待機児童数の27倍にもなっており、隠れ待機児童数といわれる数は依然多くなっています。
また、数年続くコロナ禍の影響で育児休業を延長する人がふえており、保護者がコロナウイルス感染症の不安から復帰を遅らせているものも多いようです」。
また、入園事情の改善が見られる一方で、保育環境については疑問を感じる点もあるという。
「待機児童対策のために、従来の認可保育所に加えて、認定こども園、地域型保育(小規模保育)など新しい認可制度がふやされ、認可外でも企業主導型保育事業がつくられました。自治体が助成する認可外保育施設(地方単独事業)は減少していますが、保育施設の内容や事業者は多様になり、保育の質の格差も広がっているように見えます。
また、施設環境として近年注目されるのは“園庭がない保育施設の増加”です。従来であればほとんどの認可保育所に園庭がありましたが、待機児童対策で園庭のない園をふやした都心部などでは、園庭のある認可保育所が2割程度になってしまったところもあります。子どもの心身の発達のためには戸外遊びはとても重要なので、次世代の健康問題として現れないか、心配しています」
子育てしやすい街に。行政に望むことと、保育園選びに必要なこと
普光院さんに、子育てしやすい街にするために、必要なことを聞いてみた。
「子どもを育てる観点で考えると、まずは、データを活用して、現状と課題の把握をしていただきたいです。今、街の再生がさまざまなところで行われていますが、自治体には、再開発業者であるディベロッパー任せだけにせず、子育ての観点からも、必要なものがある街になるのか、望まれていく街になるのかを考えてもらいたいですね。
例えば、子どもはよく病気にもかかりますし、小児科や歯科、皮膚科など地域医療体制の問題は、高齢者問題と同じように重要です。そして、保育施設の充実はもちろん、学齢期の子どもが地域を自由に歩き回るようになったときに、安全に遊んだり歩いたりできる地域になっているかどうかも重要です。保育施設は数が足りればよいというものではなく、子どもが安心して心身を育めるように、質を見守る必要があります。その点、自治体の巡回支援指導などの事業にも注目しています。安心・安全な街づくりを、住んでいる人の視点で考えていくことが必要です」という。
保育園選びを考えている保護者にメッセージを聞いてみた。
「保育園との出会いは、とても大事です。良い保育園を選ぶことができたら、子育てそのものが本当に助けられます。そういった意味でもデータを活用しながら、自身で足を運んで確かめて、温かみのある保育をしている園を選んでほしい。
そして、子育ては周囲の手や目を借りてもよいものです。園や地域のコミュニティも大切です。私自身も独身で働いていた時は気にもしなかったのですが、子どもをもってからは、地域のコミュニティのありがたさを実感しました。父母会や親睦会などを"忙しいから"と面倒に思う保護者もいらっしゃいますが、毛嫌いせずに参加したほうが良いと思います。商店街がある街では、商店を営む人たちを中心に地域関係がつながり、子どもたちを見守ってくれていることも多いようです。地域の方々の顔がみえてくると、子育ての安心感も違いますよ」という。
さて、具体的には、どの都市が「保育力」が充実しているのだろうか?
冊子の中には、さまざまな項目で保育力がデータ化されているので、興味のある方は問い合わせてみるとよいだろう。
■「保育園入園から住まい選びを考える」 首都圏版 はこちら
https://www.homes.co.jp/cp/br/007/
取材協力:
■保育園を考える親の会
https://hoikuoyanokai.com/
■「100都市 保育力充実度チェック」
https://hoikuoyanokai.com/guide/check/
公開日:











