ゲストハウスをつくる第一の条件は、観光地ではない場所で

尾張瀬戸駅から徒歩7分の場所にある「ゲストハウスますきち」尾張瀬戸駅から徒歩7分の場所にある「ゲストハウスますきち」

やきもののまちとして知られる愛知県瀬戸市に、2018年11月「ゲストハウスますきち」がオープンした。

オーナーの南慎太郎さんがゲストハウス開業に思い至ったのは大学4年生のとき。大学3年生の終わりごろから同級生が就活に励むなか、「就職は卒業後、のんびりしてからでもいいかな」と考え、その期間にゲストハウスのヘルパースタッフをしながらいろいろな地方を見てみたいと思うように。

旅行で利用したこともあったゲストハウス。調べているなかで、オーナーたちによるブログなどを読んでいると、「資金が最初から潤沢になくても、あるいは、その地域にずっと根差していない方々でも、ちゃんと地域に沿ったゲストハウスができているんだなと感じました」と南さん。「ヘルパーよりも、案外自分で作ったほうが面白いのではないか」と決意した。

開業場所の条件は、まず観光地ではない所。「お客さんが来やすい場所で、早いサイクルで回り、ほかのライバルと価格競争していくより、地域で何か面白いことがある場所で、そこの面白い人を紹介したり、地道にファンが増えていくようなスタイルがいいなと。もうひとつ、伝統産業がある所も条件として考えました」

すると候補として思いついたのが、出身地である瀬戸市だった。とはいえ、実家は瀬戸市でも名古屋に近いベッドタウンと呼ばれるエリアで、やきものの伝統的なエリアからは離れていた。しかも、南さんの大学は北海道ということもあり、物件情報などは分からず。

そこで瀬戸市役所の空き家バンクに問合せをしてみると、その担当者が北海道出身で同じ大学の先輩ということが判明し、すぐに意気投合。物件のみならず、地元の人々を紹介してもらえることに。「僕の運が良かった部分で、そこから物事がスムーズに進んでいったところはありますね」と南さんは語る。

陶工が住んだ築140年超えの古民家を改装

北海道から帰省した大学4年生の夏休みのうちに、物件を決定。さらには、古民家を改装する大工、地元の陶芸家、市役所の他部署の人などを紹介してもらい、人脈を広げたという。

物件は、ちょうど帰省したタイミングで開かれていた、活用のためのワークショップや相談会に参加。「大家さんに直接お話しさせてもらい、契約となりました」。大学を卒業したら、住みながら改装をしていくことになった。

ゲストハウスに生まれ変わるのは、1874(明治7)年に建築された、江戸末期から明治にかけて活躍した陶芸家・川本桝吉さんの邸宅だ。日本で初めてコーヒーカップを作ったり、1878(明治11)年のパリ国際博覧会に出品したりするなど話題になった陶芸家で、ゲストハウスの名前に付けさせてもらった。

実は大家さんは、この邸宅を本社として、瀬戸市、尾張旭市、長久手市のコミュニティFM「ラジオサンキュー」を2006年に設立。事務所機能は移転したが、玄関入ってすぐの部屋が今もスタジオとして使われている。

だが、使われていたのはその部屋だけ。庭も含めると約300坪という広大な敷地の邸宅は、30年以上にわたって空き家状態で、内部はモノが腰の高さくらいまであふれかえっていた。

「幸い時間はあったので、片付ける代わりに、家賃を相談させてもらうのが、僕にはいいんじゃないかなと思ったんです」

大学を卒業して瀬戸市に戻り、片付けを開始。それとともに、まちの人々と話して、自分のことを知ってもらったほか、豊田市や名古屋市のゲストハウスオーナーなどと交流を重ねた。

資金は、瀬戸に戻ってからの1年間で行ったアルバイト料と大学時代の貯金、さらにはクラウドファンディングの支援と、融資も少し受けた。

紹介してもらった大工さんには、資金の節約のため、難しいところはお願いしたが、自分でできる箇所はアドバイス料をお支払いして教えてもらいながら改装を進めた。

そして「たくさんの人と一緒にゲストハウスをつくりたい」という思いから、できるだけ多くの人に関わってもらおうと、SNSや直接会った人に声をかけて手伝ってもらうことにした。改装は8ヶ月をかけ、延べ300人以上の人が参加したという。

改装中の様子。「今の時代は、自分で改装してみたいという方も多く、たくさんの方に集まってもらうことができました。来てくれた人が楽しんでくださり、本当にありがたかったですね。そして、次は友達を連れて来てくれるというように広まっていったんです」(写真提供:ゲストハウスますきち)改装中の様子。「今の時代は、自分で改装してみたいという方も多く、たくさんの方に集まってもらうことができました。来てくれた人が楽しんでくださり、本当にありがたかったですね。そして、次は友達を連れて来てくれるというように広まっていったんです」(写真提供:ゲストハウスますきち)

瀬戸市のまちの特徴を感じられる部屋作り

改装は、古民家を生かしつつ、瀬戸市を感じてもらえるような工夫を施した。「理由は二つあって、まず単純に資金不足ということがあったんですが、もうひとつはできるだけ瀬戸市になじむもの、ゆかりのあるものでやっていきたかったんです」と南さん。

周囲に古民家が多く残る雰囲気になじむものに。そして、床には、廃業した窯元から譲り受けたという、陶器を天日干しする際に使う“もろ板”と呼ばれる板を使用したほか、瀬戸市で作られるタイルやガラス作家の照明などをちりばめた。

「壁を作ったり、床を張ったりというのは、やり方が分かれば案外すぐにできるし、達成感があります。けれども、一番大変なのは、隙間を直すなど、細かな調整をしなければならないところ。そういうところは1日やっても目に見えるほどの変化がないので、達成感を感じにくいんですよね。そういうときにモチベーションをキープすることが大事なのかなと思いました。

自分がモチベーションを保てたと思うのは、あまり期限を設けないようにしたんです。気を張りすぎず、休むところは休んで。ありきたりなことですが、そこは意識しました。何かを始めるときは、最初がいちばんモチベーションが高い。けれど、そのモチベーションの高さに頼ってばかりだと、疲れてしまうし、燃焼してしまう。なので、最初から一定に進んで、オープンしてからも気持ちが続くように心がけました」

ゲストルームは、ドミトリータイプが2部屋で、6人までの男女混合ルームと、3人までの女性専用ルーム。そして4人まで泊まれる個室の3部屋でスタート。2020年3月からは、これまでの利用者のニーズから、空き部屋を新たに2~3人用の個室として改装し、稼働させる。

左上/昔ながらの広々とした玄関でゲストを迎える。左下/ドミトリータイプの部屋は、もともと茶室だったところを区切って、6人用と3人用の部屋に改装した。右上/4人まで利用できる個室。(以上、写真提供:ゲストハウスますきち) 右下/2020年3月から稼働する新たな個室。すっきり落ち着いた和の空間に左上/昔ながらの広々とした玄関でゲストを迎える。左下/ドミトリータイプの部屋は、もともと茶室だったところを区切って、6人用と3人用の部屋に改装した。右上/4人まで利用できる個室。(以上、写真提供:ゲストハウスますきち) 右下/2020年3月から稼働する新たな個室。すっきり落ち着いた和の空間に

ゲストハウスの営業は週3日が基本

共有スペースは4ヶ所設けた。その理由を南さんは「僕は一人遊びをする人が好きで。ゲストハウスに泊まっても、各々が楽しく過ごせる環境が好きだったりするんですね。でも日本のゲストハウスは、共有スペースが1ヶ所しかないところも多い。それはそれでアットホームで楽しいのですが、僕自身は息苦しさを感じてしまう部分もあるなと思っていて。それもあって広さのある建物でやりたくて、共有スペースでも1人になれるように、4ヶ所作りました」と話す。

また、営業は基本として、金、土、日曜。ゴールデンウィークや夏休みなどの大型連休期間は営業するというが、なぜ週3日なのだろうか。

「自由な時間をつくりたかったというのと、観光地ではないため平日にお客さんが来ることはあまり考えられなかったからです。実際、泊まりに来てくれる方は、半分くらいはこの“ますきち”に興味を持って来てくれる方なんですね。だとすると、金土日にまとめて来てくださったほうがありがたいなと。少ないベッド数で営業日数を増やすよりは、ベッド数を多くして、宿泊可能日にたくさん泊まってもらうようにしたかったのです」

この営業形態ながら、2019年の1年間で予想を超える800人のゲストに利用してもらえたそうだ。ゲストハウスの営業日以外は、ワークショップやイベントのためのスペースとして貸し出し、地元の人も集う場所となっている。

「地元の人と、ここに泊まりに来る人のバランスがトントンになったらいいなと思っていたんです。地域の人も来てくださって顔見知りになれば、その後にお互いに紹介し合うことができる。例えば、僕もお客さんにあそこの喫茶店いいですよと勧めたり、その喫茶店に来たお客さんが宿泊施設を探しているような人だったらここを紹介してもらえたりと」

上/入り口すぐの場所にある共有スペース。下/中庭に面した共有スペース。床のガラス部分は、邸宅時代に庭にあった池に泳ぐ鯉を見られるようにしたものだとか。かつての風流な暮らしが分かる。強度的に問題がなかったため、そのまま活用している(写真提供:ゲストハウスますきち)上/入り口すぐの場所にある共有スペース。下/中庭に面した共有スペース。床のガラス部分は、邸宅時代に庭にあった池に泳ぐ鯉を見られるようにしたものだとか。かつての風流な暮らしが分かる。強度的に問題がなかったため、そのまま活用している(写真提供:ゲストハウスますきち)

情報のHUBとしての存在に。新たに空き家を改装し、瀬戸市ならではの事業もスタート

上/「ゲストハウスますきち」オーナーの南慎太郎さん。ゲストハウスの運営は、これまで基本1人で行ってきたが、2020年4月からはPRチームや粘土店の女性スタッフ2人に週1回ずつゲストハウスにも入ってもらうように。「女性目線でも見てもらって、変化を加えていこうと思っているところです」とのこと。下/南さんと新しい事業を始める窯業原料会社・5代目の牧幸祐さん(左)上/「ゲストハウスますきち」オーナーの南慎太郎さん。ゲストハウスの運営は、これまで基本1人で行ってきたが、2020年4月からはPRチームや粘土店の女性スタッフ2人に週1回ずつゲストハウスにも入ってもらうように。「女性目線でも見てもらって、変化を加えていこうと思っているところです」とのこと。下/南さんと新しい事業を始める窯業原料会社・5代目の牧幸祐さん(左)

「地域の人とつながることで、まちへの楽しさみたいなものも上がっていくかな」とも語る南さん。「口コミの力はとても大きい」と言い、ゲストハウスに関してもそうだが、地域とのつながりでは特に感じたそうだ。

2019年にはライターの女性と一緒にPRチーム「ヒトツチ」を結成。地域のカメラマン、デザイナーと連携して、ホームページや紙媒体の編集、制作、イベント企画などを行っている。

「ゲストハウスをやっているなかで、いろんな情報が入ってきますし、情報のHUBみたいになったらいいなと思っています」

そのなかでも、やはり、瀬戸はやきもののまちということがポイントになる。ただ、さまざまな問題を抱えていて、残念ながら産業自体もかつてほどの活気がないといえるだろう。

そこで南さんは、「ますきち」の大家さんでもあり、瀬戸の窯業原料会社の5代目、牧幸祐さんと新しい事業を2020年4月から始める。粘土の販売と陶芸のシェアスペースの店だ。そこも商店街の空き家を改装したものとなる。

瀬戸でやきものが発展したのは、良質の粘土が採れたことに由来するが、個人で使うための少量の粘土を購入するのは難しい。また、陶芸体験ではろくろだけ、あるいは絵付けだけなど、陶芸の作業全体の何パーセントかしかできないということからも、切り口を見いだした。新しい事業では、粘土を1kgから購入できるようにし、ろくろ、窯も備えたシェアスペースで、自分の作品を一から作り上げることができる。

ゲストハウスも、PRチームも、粘土店も、「きっかけづくり」という側面があると言う南さん。3つのバランスをとりながら、瀬戸市を盛り上げていく活動に期待したい。

取材協力:ゲストハウスますきち https://seto-masukichi.com/

2020年 03月06日 11時05分