温泉付き物件の魅力と注意点。必要な費用やメンテナンスは？

"温泉王国"九州。なかでも「別府」は代表的な温泉地である

温泉に浸かって癒される。多くの読者にとって至福の時だろう。なかには「毎日でも温泉に入りたい」なんて考えたことがある人もいるかもしれない。そんな夢を叶えるのが、蛇口をひねればいつでも温泉が出てくる「温泉付き物件」だ。

温泉付き物件について知ろうと、大分県別府市に本社を構える不動産会社、株式会社別大興産を訪ねた。別府市といえば地獄めぐりで有名な鉄輪（かんなわ）温泉など、長い歴史をもつ別府八湯を擁する言わずと知れた温泉都市。扇山（大平山）の麓からとめどなく立ち上る湯けむりは別府を象徴する景色だ。

「別府の魅力は、何といっても温泉です。源泉数、湧出量ともに日本一と豊富な湯量があり、市内どこを探しても温泉があります。別府では毎日温泉に入る人も珍しくなく、もちろん温泉付きの物件もあります」（別大興産 石垣店 店長 上熊健嗣さん）

自宅に温泉のある生活が魅力的であることは想像に難くない。しかし、「温泉付き物件」という夢を叶えた人にしかわからない深い魅力や、一方で苦労する点があるのではないかという疑問も湧く。上熊さんに「温泉付き物件」の魅力と注意点を聞いてみた。

共同浴場タイプと専用温泉タイプの2種類

そもそも、物件に付く温泉は大きく2種類に分けられる。複数の住戸で一つの浴場を使用する共同浴場タイプと、一つの住戸につき一つの浴場を使用する専用温泉タイプだ。

「どちらも温泉に入れるというぜいたくには変わりありません。当社で取り扱う賃貸物件では共同浴場タイプが多く、ホテルや旅館にあるような豪華な温泉から、少し古びた感じのものまでさまざまです。一方の専用温泉タイプは一戸建て住宅に多く、自分だけのために温泉をためて入浴するという、かなりの贅沢が体験できます」

共同浴場タイプの例。大きさも一家族でいっぱいになるものから、大浴場タイプまでさまざまだ

上熊さんは、温泉付き物件の2つの魅力を教えてくれた。

大きな魅力は、いつでも温泉に入れること。毎日入り続けると…

第1の魅力は、いつでも温泉に入れるという点。公共の温浴施設や宿泊施設の温浴施設の場合、営業時間が限られていたり、入浴可能時間が定められていたりして、いつでも入浴できるわけではない。しかし、温泉付き物件なら温泉は自宅の一部だ。当然いつ立ち入っても問題ない。早朝であろうと深夜であろうと、気の赴くまま温泉に浸かることができる。（一部の共同浴場タイプは、入浴可能時間が定められているものもある）

「当社で温泉付き物件に入居された方が、しばらく経って再度来店された際、『血色が良くなった』『仕事への活力がみなぎるようになった』などと聞くことがあります」と上熊さん。
一定期間温泉に入ることの療養効果については、2021年より研究機関と別府市等が実証実験を行っている。健康にも好影響があることが証明されれば、毎日温泉に入ることの魅力はますます大きくなる。どのような結果が得られるか楽しみである。

水道代・ガス代の節約にも。実は経済的な温泉付き物件

毎日温泉に入るという”贅沢”をするにあたって、気になるのが「お金」。上熊さんは、温泉付き物件の第2の魅力として、家計に優しいという点を挙げる。

前提として、温泉付き物件に温泉を引く方法は大きく2つ。敷地内で掘削した温泉を使用するパターンと、他の敷地に湧出する源泉から温泉を引くパターンだ。
一戸建ての持ち家であれば、前者の場合は温泉を使うための直接的な費用はかからない。ただし、諸々の維持管理費用がかかることになる。後者の場合は、源泉の所有者に使用料を支払うことになる。使用料は、源泉の維持管理にかかる費用や、温泉を汲み出す機械を動かすための電気代などを考慮した金額を支払うことが多い。安くて月額数千円からだというが、権利購入時の初期費用や、設備更新のタイミングで100万円程度のまとまったお金の支払いが必要なケースもある。分譲マンションの場合は、住民同士でこれらの費用を出し合うことになり、金額は管理組合等で定められている。

一方、賃貸物件の場合も基本的な仕組みは同様であるが、源泉の維持管理や源泉所有者への利用料の支払いは、物件オーナーの役割である。入居者はこれら費用を加味して決められた温泉利用料や共益費などを、オーナーに毎月支払うことになる。金額は住戸単位や住民単位などさまざまだが、相場は数千円とのこと。なお、温泉付き物件だからといって家賃が高いということはあまりないそうだ。

続けて上熊さんは、「毎日温泉に入ることは、節約にもつながります」と教えてくれた。どういうことだろうか。

「温泉が出る蛇口は水道とは別の蛇口です。温泉をどれだけ使っても、水道代はかかりません。蛇口から出る温泉は大抵定額なので、温泉に入りすぎたからといって負担する費用が増えるわけではありません。つまり、温泉に入る代わりに通常の風呂に入らないことで、水道代の節約になります」

「また、温泉は高温のためガスを使って湯を沸かす必要がないので、給湯に使うガス代も節約できます。特に別府市内は、一般的にプロパンガスを使用している住戸が多いので、ますます温泉付き物件の経済的メリットが際立つんです」

こういった事情から、別府の温泉付き物件では、通常の浴室が物置きと化していることが多いそう。

「お金のことを気にせず、1人入るごとに湯を入れ替えることもできます」と上熊さん。
なるほど、贅沢をすればするほど節約になる、なんとも嬉しい仕組みだ。

ここまで、温泉付き物件の魅力を教えてもらったが、気を付ける点はないのだろうか。

デッキブラシが置かれている。温泉成分の付着を防ぐために、通常の浴室掃除と比べると、力が必要だという

大切なのは日常のお手入れ

「温泉旅館などで、湯口に石化した温泉成分が付着しているのを見たことがあるのではないでしょうか。いわゆる湯の花です。温泉水にはさまざまな物質が混ざっており、これらは条件によって固形化するため、自宅の温泉も放置すれば蛇口や配管を詰まらせることがあります。とはいえ、特別なことは必要ありません。使用後に、蛇口など見える範囲をきちんと磨くことが大切です。また、湯船の色が変わってしまいますので、湯船に温泉をためっぱなしにしないよう心掛けてください」

配管などは通常より傷みが早くなる可能性があるという。別府には専門の清掃会社があるので、日頃手が届かない箇所は、大掃除の際など定期的に清掃を依頼することが望ましい。

温泉の原状回復はどこまで必要？

一般的に賃貸物件の退去時は原状回復が行われる。通常使用による損耗はオーナーの負担だが、入居者が善管注意義務を怠ったことが原因で損耗や毀損が発生した場合は、入居者もその費用を負担する必要があるとされている。温泉の場合、どのようなケースが善管注意義務違反に問われるのだろう。

「付着したまま放置された温泉成分は石のようになり、原状回復時にはかんなで削るような感じになります。一概には言えませんが、そういったことにならないよう日頃の清掃をきちんとしておけば、善管注意義務違反とはならないのではないでしょうか」

ただし、これらの注意が必要なのは専用温泉の場合。共同浴場場合は、設備の維持管理や清掃はオーナーが担うことになる（入居者が持ち回りで清掃を行う物件もある）。

温泉は自然の恵み

最後に、もうひとつ注意点を話してくれた。
「温泉は天然のものです。源泉の湯量が減ってしまったり、温度が下がってしまったりする可能性も、全くないとは言えません」

温泉が出ることが決め手となり、住宅や土地を選ぶこともあるだろう。しかし、温泉が出なくなる可能性は否定できない。そうなったときには、不動産価値が下がってしまう可能性はあるし、当然自宅に温泉のある暮らしができなくなくなってしまう。温泉が自然の産物である以上、そのリスクは免れない。天然の恵みに感謝しながら、温泉付き物件を楽しみたいものだ。

「温泉付き物件」について教えてくださった上熊さん

検索サイトではフリーワード検索

温泉付き物件を探すにはどうしたらよいのだろうか。「LIFULL HOME’S」などの不動産情報サイトでは、残念ながら検索条件に「温泉付き」などという項目はない。フリーワード検索で「温泉付き」や「専用温泉」「共同温泉」などと検索すると、温泉付き物件が検索できる。

上熊さんは「不動産会社に問合せをしてみてください。温泉地の不動産会社には温泉好きのスタッフがいることも多いので、詳しい話が聞けると思います」と教えてくれた。

地域の浴場の組合員になるという手も

実は、別大興産が別府地区で取り扱う物件のうち、温泉付き物件は1割に満たないという。
都合のよい温泉付き物件が見つからなかった場合、せっかく別府に住んでも、日本一の温泉都市の恩恵を受けられないのでは？と危惧したが、心配は無用だという。

「別府には”組合員専用浴場”という共同浴場があります。これは、決められた月額を払って組合員になると、入り放題になる温泉です。自宅に温泉がなくても、近所の温泉の組合員になれば、開放時間中に限りますが、気軽に温泉に入れますし、経済的にも温泉付き物件と同様のメリットがあります」

組合費の相場もさまざまだが、月額1,500～3,000円程度のケースが多いという。「昔の、銭湯通いのような暮らしをイメージしてもらえれば」と上熊さん。しかもそれは、沸かした湯ではなく、温泉である。

夢の「毎日温泉に入る暮らし」は、案外難しくないのかもしれない。