仕事も家事も育児も一緒に取り組む夫婦がDIY可物件の大家に

舟橋謙一さんと陽子さん。いつもはアパートから少し離れた名古屋市内で3人の子どもたちとにぎやかに暮らす舟橋謙一さんと陽子さん。いつもはアパートから少し離れた名古屋市内で3人の子どもたちとにぎやかに暮らす

自分好みの部屋にできるDIY可能な賃貸物件が増えてきた。だが、新築でというとまだまだ少ない。そんななか、2019年8月、DIYができる新築賃貸アパート「コウノミBASE」が名古屋市に誕生した。約半年後の2020年2月に満室となり、順調なスタートを切っている。

同アパートの大家は、舟橋謙一さん、陽子さんのご夫婦。謙一さんは30歳ごろまでビジネスを立ち上げて成功し、誰かにまねをされたらやめてということを何度か繰り返した後、ニューヨークに語学留学した。帰国後に「腰を据えて」取り組んだのが、タイ料理・カオソーイの移動販売車で、約20年の経歴になる。今では主催者と移動販売車を仲介するコーディネート業務やセミナー開催なども行う。一方、消しゴムはんこ作家だった陽子さんは、育児のため活動はお休みだが、謙一さんの仕事のサポートもしている。

「夫婦で常に一緒にやっていくというのがうちの方針」という舟橋さんご夫婦。“大家”として歩みだしたお二人に話を伺った。

模索しながらアパート建築に向けて動く

アパート経営のきっかけは、2016(平成28)年に謙一さんのお父さまが亡くなり、実家の隣の土地を相続したこと。もともとご両親は貸し駐車場にすることを考えていたが、相続した謙一さんが調べてみると税金の負担が大きく、収益がそれほど見込めないことが分かった。そこで、「アパートならどうか」とざっくり計算してみると、「これならいけるんじゃないかな」と思ったという。

「親が大事に引き継いできた土地なので、(リスクも考えられるような)アパート、マンション経営に関してはやっちゃいけないと心に誓いながら、駐車場経営で手堅く進めようとしていました。ところが、僕はカオソーイ販売のように、どうしても変わったことをやってしまう性格をしておりまして(笑)。相続して1年半くらいたって、僕たちが気になる、心くすぐられるような人に出会ったり、物件を見てしまったんです」と謙一さん。

その1年半の間、大手ハウスメーカーなどに相談もしていたそうだが、「常に一緒に」というはずの陽子さんが、アパート経営についてはまったく口を挟まなかった。アパート経営となると、移動販売車の仕事がある謙一さんに代わって陽子さんが関わることが多くなるはずと考えていた謙一さんは怒ったそうだが、陽子さんは謙一さんがすべてのお金を工面しているため、どこか遠慮があったという。「アパート建設にかかる金額が大きすぎて、ついていけないというか。ハウスメーカーさんなどとの打ち合わせに参加していても、自分事に全然なっていなかった」と陽子さんは語る。

二人はそれまで30軒以上の物件を見学したが、どれも似たり寄ったり。そんなとき、DIYをしている人や、リノベーションを手がける会社の話を聞いたほか、まちで偶然見かけて気になった家に、アポなしで話を聞いたことも。謙一さんは「面識のない方のご自宅に突然伺ってお話を聞いたりしました。すると、その方も僕たちと同じようなことをしていることが分かったり。ほとんどの人はやらないですけれど、気になるデザインの物件を見つけたら直接話を聞きたいと考える人もいるんだなぁと思いました。だから、僕たちが造る物件というのは、おそらく一部の人から見ると噂をしたくなるような、物件ができあがった後のことを聞きたくなるようなことをやるべきだよねとなったんです」と話す。

進むべき方向が決まり、アパート経営に向けて動きだしたが、考えていることが消防法など建築上のルールによってできないことが分かっていく。「だからアパートはどうしても同じような建物になるのかもしれないなと思いました。でも、ルールを理解しつつ、その範囲の中できっと面白いものができるはずだと、とにかくいろいろ模索しながらやっていった感じです」

方向性が見え、アパート経営を本格的に決めてからは「ワクワク度がまるっきり違った」と謙一さん。ところが、依頼した工務店から想定した予算額の倍以上の見積もりを提出された。そんなとき、以前から参加したいと思っていた名古屋での大家の集まりに行くことができ、その話題を出すと、たくさんのアドバイスが。そこで工務店や建築会社を数軒紹介してもらうこともできた。「最初からここになぜたどり着かなかったのだろうというぐらい、1軒1軒がすばらしい会社で、今度はそこから選ぶのが困るほどでした」と謙一さんは振り返った。土地相続からアパートの完成まで約4年かかったのは、こんな紆余曲折があったのである。

アパートの名前「コウノミBASE」のコウノミは町の名前。BASEは「秘密基地のようにワクワクした暮らしを楽しめる部屋にしたい」という思いから。さらに基地=BASEを構成するものとして、B=シンプルで最低限の基本的(ベーシック)な部屋の設え、A=暮らしのなかにアートが溶け込んでいると素敵だなぁ、S=笑顔で暮らせるといいなぁ、E=食べることが好きな人が集まるといいなぁ、といった舟橋さんたちの思いが込められている。外観の文字は、DIYできる賃貸ということで、手書きにしてもらい、サイズや文字間もかなり考えたというアパートの名前「コウノミBASE」のコウノミは町の名前。BASEは「秘密基地のようにワクワクした暮らしを楽しめる部屋にしたい」という思いから。さらに基地=BASEを構成するものとして、B=シンプルで最低限の基本的(ベーシック)な部屋の設え、A=暮らしのなかにアートが溶け込んでいると素敵だなぁ、S=笑顔で暮らせるといいなぁ、E=食べることが好きな人が集まるといいなぁ、といった舟橋さんたちの思いが込められている。外観の文字は、DIYできる賃貸ということで、手書きにしてもらい、サイズや文字間もかなり考えたという

DIYした部屋を次の入居者へつないでいく

上/アパートのエントランスドアはアンティークの木の扉を希望していたが、木は反ってしまうためオートロック対応ができないなどの壁にぶつかり、既存の製品をアイアン風に加工した。取っ手は工具のスパナにしてDIY賃貸を表現。下/DIYが映える、シンプルだが洗練された部屋上/アパートのエントランスドアはアンティークの木の扉を希望していたが、木は反ってしまうためオートロック対応ができないなどの壁にぶつかり、既存の製品をアイアン風に加工した。取っ手は工具のスパナにしてDIY賃貸を表現。下/DIYが映える、シンプルだが洗練された部屋

そして、舟橋さん夫婦が検討した結果、進むべき方向とした「DIY可能」のアパート。謙一さんに聞いた。

「リノベーションを手がけている会社に相談に行ったとき、僕たちの好みの物件が多かったんです。ただ、DIYができる賃貸というと、ほとんどが中古物件なんですよね。でも新築って、少したったら中古になっていくわけじゃないですか。僕たちがいいなと思ったのは、そういうDIYの物件だった。であれば、新築から始めても何も問題はないんじゃないかなと。誰もやっていないのであれば、自分がと考えてしまうので」

また、「僕たちが目指すDIYの世界は、入居者の方が、できれば僕たちも入れてもらって、一緒にかっこよくしていく、かわいくしていく、そして次の人たちに受け継いでいくという形を考えているんです。だから、うちの場合は原状回復をする必要はないです」とのこと。前の住人が工夫した住み心地のよさがつながれ、また新たな工夫が加えられていく。愛着のある住まいは、価値も高まるだろう。

「実際に自分たちが住んでいる家も自分たちでいじったりしているので、楽しいよね」とDIYの楽しさを明かしてくれた陽子さん。先の謙一さんの言葉のなかにも「僕たちも入れてもらって」とあったが、実は「コウノミBASE」はすでに謙一さんたちのDIYが施されているほか、自宅DIYの経験が生かされた造りもある。

自宅のDIY経験からいうと、例えば窓。少し築年数の長い自宅での冬の寒さ対策で、窓に気泡緩衝材を貼り付けてみたところ、体感がまったく違うことに驚いた。そこからさらに勉強して、熱伝導を考えるとアルミサッシの部分に貼らないと意味がないことに気づいた。その経験で、アパートの窓にはコスト面では高くなるが樹脂とアルミの混合サッシを採用してもらった。

また、各部屋の床には無垢材を使っているが、その雰囲気が伝わるように外観にも木を使用したかった。だが消防法の関係で一部分なら可能だが、全体ではできないと分かり、真っ白にすることにした。そこで、室外機や水道メーターなどを舟橋さんたちがこだわって白く塗って仕上げたという。

菓子製造業可や広い土間など、独創的な部屋の造り

アパート経営を決意するまでの物件巡りも、アパート建物をどうするかも、かなり舟橋さんたちは勉強をして、やりたいことを明確にして完成させた。「次々と更新していったので、経緯を覚えていないくらい」と設計にも二人のアイデアが取り入れられている。そこには移動販売車で得た経験や考えを詰め込んだ。

「アパートやマンションは1階の道路側が不人気と聞いて、実際に空いているケースも多いと知りました。しかし、移動販売車じゃなくても、移動販売などをする人にとっては、荷物の出し入れには1階道路面が一番使いやすい、いい場所なんです。アパートとしては防犯面で不人気だけれど、そこで逆転の状況が生まれるんですね。妻のアイデアで、そういう人向けにしてはどうかと。そこから、業務用のオーブンを入れたいという希望があったときに、電気工事が簡単にできるようにあらかじめ対応してもらっておいたり、菓子製造許可が取れる間取りにするため保健所にも相談しました」。偶然にも実際にこの部屋は想定していた職業の人が住むことになった。

また、「コウノミBASE」は3階建てで、各階に3部屋ずつあり、Atype、Btype、Ctypeに分かれている。ホームページで公開されている間取りを見ると、土間が広く取られていることに興味を引かれた。

アパート建設を始める前の物件見学で「土間の面白さを僕たちはいくつか見てきました」ということから、組み込んだ。「アクティブに動く人が住む場合、土間があるといろいろ遊べるんですよね。僕たちの仕事面でも、土間にいったん荷物を置いておけるのは便利」と謙一さん。現在の入居者は、事務所のようにしたり、運動器具を置いたりと、上手く使っているそうだ。

先の項でも少し触れた無垢材のフローリングは、賃貸物件では珍しいが、「傷ついたり、汚れたりしたら、張り替えるの?というのが、みなさんが気にしているところ。でも僕たちは、部屋を住み継いでいくことを想定していて、“傷”ではなく、かっこよくなっていく年輪のように考えています」と謙一さんは語る。

①移動販売やマルシェに出店する人などを想定した101号室の間取り。Atypeのひとつ。②Btypeの間取り。③Ctypeの間取り。以上、この間取り図は陽子さんの手描き!④キッチンは全部屋に業務用を採用。ガステーブルコンロは、料理好きの間で好まれているというリンナイのVamo.(バーモ) 。部屋の動線は陽子さんのアイデアが生かされている。⑤使い方はアイデア次第の広い土間①移動販売やマルシェに出店する人などを想定した101号室の間取り。Atypeのひとつ。②Btypeの間取り。③Ctypeの間取り。以上、この間取り図は陽子さんの手描き!④キッチンは全部屋に業務用を採用。ガステーブルコンロは、料理好きの間で好まれているというリンナイのVamo.(バーモ) 。部屋の動線は陽子さんのアイデアが生かされている。⑤使い方はアイデア次第の広い土間

コミュニケーションを大切にする温かい雰囲気

上/共有スペース「おどりばカフェ」。下/エントランスの掲示板には、舟橋さんたちがおすすめの、アパート近隣にあるショップを紹介する掲示板を設置上/共有スペース「おどりばカフェ」。下/エントランスの掲示板には、舟橋さんたちがおすすめの、アパート近隣にあるショップを紹介する掲示板を設置

入居者の募集も舟橋さんたちは工夫した。「うちは特殊な物件だったので、そのことを分かってくれると思われる1軒の不動産屋さんに仲介の依頼を絞りました。ネットに掲載された情報を見て不動産屋さんに問合わせが入ることはあっても、面談はマストなど細かな項目を設けていたこともあってか、不動産屋さんから、店舗を直接訪れた人にうちの物件を紹介してもらえることはなかったんです。なので、アパートを紹介するショップカードのようなものを作って、僕たちがターゲットにするお客さんがいそうなショップに置いてもらったり、ホームページを作成しました。不動産屋さんに問合わせがあったケースと、ホームページを見て直接問合わせがあったケースと、ちょうど半々で満室になりました」と謙一さんは教えてくれた。

面談をマストにしたのは「顔の見える大家」でありたかったから。アパートのターゲット層をアクティブに動く人と仮定していたことで、自転車を活用すると考え、自転車置き場にもなるように共有スペースは広めに設定。今はそこを「おどりばカフェ」として、入居者とのコミュニケーションの場とした。

「入居してからもコミュニケーションをとるのが大事だと思っていて、イメージは昔ながらの大家ですね」と謙一さん。ここで飲み会を開催したこともあり、新型コロナウイルス対策で中断しているが、落ち着いたら今後も継続していきたいそうだ。

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今回は新型コロナウイルスによる緊急事態宣言中だったため物件を実際に見学できず残念だが、オンライン取材を通して舟橋さんご夫婦の思いはひしひしと感じた。住んでもらう人が快適なようにと、こまやかな工夫が施された物件。舟橋さんたちが造りながら抱いた“ワクワク”した思いは、借主にもつながり、“ワクワク”しながら住めることだろう。

「まだやりたいことはあるけれど、この後も進化していきたいので途中までにしておきました。大家が先に行きすぎるとダメだなと思って。アイデアをいくつか引き出しにため込んでおいて、時期が来たら、と思っています」と謙一さん。その進化もきっと“ワクワク”するものに違いない。

写真提供:コウノミBASE https://www.kounomibase.com

2020年 06月24日 11時05分