「100メートル道路」で4分割された栄地区

名古屋市の代表的な商業エリアといえば、名古屋市中区の栄地区。そもそも栄地区とは名古屋のどのあたりで、どんな特長があるのか、まずはそれを説明しよう。

地名のとおり中区は名古屋市の真ん中(中央より若干北寄り)に位置し、面積は9.38平方キロメートル。名古屋市全体(全16区)の面積は約326.43平方キロメートルあるのだが、中区はそのうち下から数えて3番目という比較的コンパクトなまちだ。

栄地区というのは、そんな中区のさらに中心部で、江戸時代に名古屋城の城下町として築かれた場所だ。現在は、南北に走る「久屋大通」と東西に走る「若宮大通」という道路を軸に、地区全体が碁盤の目のように縦横に規則正しく区画された“碁盤割り”になっている。ちなみに、この2本の道路は通称「100メートル道路」といって実際に道幅が100mあり、名古屋名物の一つとして知られている。

古くから時代の変化に合わせながら繁華街として賑わってきた栄地区は、もちろん今も変わりなく繁栄している。ただ、「名古屋駅周辺の大規模開発によってさまざまな機能が名駅に一極集中してしまうのではないか」と危惧する声も聞かれ、将来に向けて「栄地区グランドビジョン~さかえ魅力向上方針~」の取り組みが始まっている。

そのけん引役であり窓口となっているのが、名古屋市住宅都市局都心開発部都心まちづくり課だ。リニア中央新幹線開業予定の2027年度をゴール目標に、取り組みを進めている同課の鶴田さんに話を伺った。

写真中央に縦に走っているのが「久屋大通」、ど真ん中にあるタワーが名古屋テレビ塔(画像提供:名古屋市)。イラストは「栄シンボル軸と魅力的な界隈」を表した図(「栄グランドビジョン~さかえ魅力向上方針~パンフレット」より抜粋)写真中央に縦に走っているのが「久屋大通」、ど真ん中にあるタワーが名古屋テレビ塔(画像提供:名古屋市)。イラストは「栄シンボル軸と魅力的な界隈」を表した図(「栄グランドビジョン~さかえ魅力向上方針~パンフレット」より抜粋)

栄をもっと魅力あるまちに「栄地区グランドビジョン」

「栄地区グランドビジョンは2004年に策定された“名古屋市都心部将来構想”の理念を踏まえ、新たに策定した基本方針です。名古屋市都心部将来構想というのは、市民・企業・行政の連携によって、名古屋駅・栄・伏見など都心部の市街地整備・改善を行うというまちづくりの指針でしたが、世界的金融危機の影響など社会情勢の変化、さらにリニア中央新幹線の開業を追い風ととらえ、都心部の魅力向上が急務となりました。そのため、2012年から2013年5月までの間に有識者や地域の方々を交えた懇談会を4回開催し、2013年6月には『栄地区グランドビジョン~さかえ魅力向上方針~』をとりまとめました」

こうして新たに策定された同ビジョンは“栄まるごと感動空間”を目標として掲げ、訪れる人たちが長い時間このエリアで楽しめるような空間づくりをめざしている。美術館やホールなどの文化施設をはじめ、ショッピング施設や飲食店などが立ち並ぶ一方で、歴史的建造物が点在していたり緑豊かな都市公園を備えていたりという多面性のある場所だけに、今よりもっと魅力ある空間にすることは十分可能だ。

「100メートル道路を中心に約200haの区域をグランドビジョンの対象エリアとし、〈公共空間の再生〉〈民間再開発の促進〉〈界隈性の充実〉という大きな3つの方針を立てて取り組みを進めています」

その3つの方針について、さらに詳しい話を伺った。

地上と地下の連続性向上をイメージしたイラスト(画像提供:名古屋市)。栄地区にはサカエチカ、森の地下街、セントラルパークという地下街があるが、地上と地下の連続性がいまひとつなのが課題といえる。これが解消されれば人の流れにもプラスに影響しそう地上と地下の連続性向上をイメージしたイラスト(画像提供:名古屋市)。栄地区にはサカエチカ、森の地下街、セントラルパークという地下街があるが、地上と地下の連続性がいまひとつなのが課題といえる。これが解消されれば人の流れにもプラスに影響しそう

久屋大通の「エリアマネジメント」

久屋大通公園北エリアのロサンゼルス広場。官庁街からほど近く、沿道には大手企業の本社ビルや法律事務所などが点在している久屋大通公園北エリアのロサンゼルス広場。官庁街からほど近く、沿道には大手企業の本社ビルや法律事務所などが点在している

「方針1の〈公共空間の再生〉というのは、久屋大通公園など公共空間に恵まれている栄地区を、より賑わいのある空間に変えていこうというものです。方針2の〈民間再開発の促進〉は、名駅では大規模開発が進められていますが、栄地区については現時点ではそれほど大きな更新がされていないので、規制の見直しなどを行って開発を促進していこうという取り組みです。そして、エリアの特長を引き出して栄地区らしさあふれるまちづくりをしようというのが方針3の〈界隈性の充実〉です」

3つの方針について伺うなかで特に気になったのが、現在検討中の「エリアマネジメント」という取り組みだ。

国土交通省の「エリアマネジメント推進マニュアル」によると、エリアマネジメントの特徴は“行政主導ではなく、住民・事業主・地権者等が主体的に進める”“必要に応じて行政や専門家・他組織等と関わりあいながら進める”とある。どんな取り組みをするかは各組織に委ねられており、もちろん栄地区も独自の仕組みをつくって地域の関係団体等と協働でエリアマネジメントを進めている。

エリアごとに個性あふれる空間を演出

久屋大通の歩道に設けられているオープンカフェもグランドビジョンの取り組みの一つ。店舗に付属するオープンカフェではなく、誰でも利用できる無料の公共休憩施設久屋大通の歩道に設けられているオープンカフェもグランドビジョンの取り組みの一つ。店舗に付属するオープンカフェではなく、誰でも利用できる無料の公共休憩施設

先に紹介した南北に走る100メートル道路の「久屋大通」は、中央部分が「久屋大通公園」という公園になっている。全長は1.8Kmほどだが、南側と北側では周辺にある施設が違うため雰囲気もずいぶん違う。そんな個性を持つ久屋大通を、北エリア・テレビ塔エリア・南エリアの3つにわけて再生していくのだ。

「桜通から北側の北エリアのテーマは『都会の安らぎ空間』です。緑豊かで落ち着いた雰囲気を活かし、近所に住む方々やオフィスワーカーの方々が気軽に立ち寄って休憩できるエリアにしていきます。また、桜通から錦通までのテレビ塔エリアは『観光・交流空間』がテーマで、登録有形文化財である名古屋テレビ塔のシンボル性を生かし、観光客や市民が広く交流できるような公園をめざしています。そして、久屋広場やエンゼル広場がある錦通から南側の南エリアのテーマは『にぎわいの空間』。週末などに大きなイベントが開催されていますが、より充実した空間にしていき、これまで以上に来場者が集い楽しむことができるエリアをめざしています」

さらに、南北に長い公園をどう連続化していくか、広域避難場所にもなっている公園の防災機能をどう高めるか、エリアの再整備にあたり民間のノウハウを活用しつつより質の高いサービスを提供するにはどうしたらいいか、久屋大通の下の地下街や駐車場などの地下空間と地上との連続性を高めるには、沿道との一体化を図るには……

などなど、紹介しきれないほどの計画が語られた。これらを13年後に完成させるとなると、さまざまな人のアイデアと力を持ち寄って動かさなければ、とても間に合わなさそうだ。

都会の便利さと豊かな自然環境を兼ね備えた住みやすいまち

ノース ヒサヤ フェスティバルの様子。近隣住民の方はもちろん、わざわざこのエリアに立ち寄って野菜を買って帰る人の姿も⾒られたという(画像提供:名古屋市)ノース ヒサヤ フェスティバルの様子。近隣住民の方はもちろん、わざわざこのエリアに立ち寄って野菜を買って帰る人の姿も⾒られたという(画像提供:名古屋市)

栄地区グランドビジョンの取り組みを進めるにあたっては、地域と協働でさまざまな社会実験も実施している。

久屋大通公園の北エリアはオフィスや店舗、住宅が混在してしており、ほかのエリアのように多くの人が行き来して賑わっている様子があまり見られない。そこで、まずは北エリアの魅力を知ってもらおうと、2014年11月に社会実験としてポートランドをテーマにした「ノース ヒサヤ フェスティバル」というイベントが開催された。

アメリカ合衆国オレゴン州のポートランドは、スローライフを掲げている都市。緑が多くゆったりしている北エリアはそのイメージにピッタリということで、このイベントが企画され、東海3県の農家の方たちが採れたての農産物を売ったり、久屋大通の沿道の店が出店したりと、北エリアらしいイベントが実現した。

また、同年12月にはテレビ塔エリアでクリスマスマーケットを開催。同時に、テレビ塔北側の駐車場をイベント空間として活用する試みも実施された。

社会実験のほかにも“久屋大通の再生(北エリア・テレビ塔エリア)に向けた整備の考え方”について意見を募集するなど、官民一体となってこのビジョンを推進していこうという姿勢がうかがわれる。

「久屋大通公園は地域ではよく知られていますが、全国的にはまだまだです。雪まつりなど大きなイベントを開催し全国的に知名度の高い札幌の大通公園のように、久屋大通公園もテレビ塔とうまく連携して都心部を代表する観光名所にしていきたいです。また、栄地区周辺は新しい住宅も増えてきています。今後さらに都会の便利さと豊かな自然環境を兼ね備えた暮らしやすい空間にしていきますので、住むにも魅力あるまちだと思いますよ」

と鶴田さん。栄地区には仕事や所用などでしょっちゅう足を運ぶので、どんな変遷を遂げるのか注目していこうと思う。「こんなふうになったんだ!」と感嘆の声を上げる日がやってくるのが今から楽しみだ。

【取材協力】
■栄地区まちづくりプロジェクト(名古屋市住宅都市局 都心開発部 都心まちづくり課)
http://www.city.nagoya.jp/shisei/category/53-10-17-0-0-0-0-0-0-0.html /

【関連リンク】
■国土交通省エリアマネジメント推進マニュアルWeb版
http://tochi.mlit.go.jp/tocsei/areamanagement/web_contents/shien /

2015年 01月12日 14時59分