コロナ禍で働き方が変わる中、注目を集めるタイムシェア別荘
新型コロナウイルス感染症(COVID‑19)の影響により、リゾート地として知られる地域の地価上昇が続いている。国土交通省によると令和3年(2021年)の長野県軽井沢町の住宅地[軽井沢-1]の地価上昇率は10.0%、長野県白馬村の住宅地[白馬-1]の上昇率は12.5%と、首都圏に近いリゾート地域に再び注目が集まっている(※)。働き方がフレキシブルになりつつある今、移住や都心のほかに複数の拠点を持とうとする動きが増えているようだ。
しかし、別荘をはじめ建物を所有するとなると、維持管理費やメンテナンス手間など、所有者にかかる負担は大きい。また、バブル時代の別荘やリゾートマンションが「負動産」と言われることもあるように、コロナ収束後を思えば建物を手放す際の費用と労力も課題となる。そんな中、注目を集めているのが、別荘を複数人でシェアする「タイムシェア別荘」だ。
山梨県南東部、富士山の麓に広がる山中湖村。富士山と山中湖を望めるロケーションに、全17棟からなるタイムシェア別荘「フェザント山中湖」がある。
2005年にオープンしたこの施設。約7,000坪の広大な敷地に、丸太のログハウスや幾何学的なデザインのドームハウスなど、個性的な木の家々が立ち並んでいる。
コロナ禍の影響により客足が遠のいた時期もあったそうだが、ここ1年ほどは新たな利用者が増えているという。運営するのは、ログハウスブランド「BESS」を手がける株式会社アールシーコア。今注目されるタイムシェア別荘の仕組みと魅力を、支配人の宮下 哲さんに伺った。
BESSが手がけるタイムシェア別荘「フェザント山中湖」
『本物のスローライフをもっと気軽に、もっと気楽に』がオープン当初からのコンセプト。従来の別荘に比べ、より気軽に身近なものとして別荘ライフを楽しめるという。そもそもタイムシェア別荘とはどのような仕組みなのか。
「フェザント山中湖は、従来型の別荘ではなく、”タイムシェアできる別荘”です。別荘を一人で所有するのではなく、一つの建物を最大50人の会員でシェアします。利用する分だけ、1週間単位で別荘で過ごす時間を購入できる仕組みです」(宮下さん、以下「 」内も同)
海外では、別荘をシェアして楽しむことは古くから一般的だという。近年カーシェアリングや家電のサブスクリプションサービスなど、さまざまなシェアサービスが広まりつつあるが、シェア別荘はその先駆けといえるかもしれない。
「コロナ禍の影響で、ここ2年ほど観光業界は苦しい状況が続いていますが、フェザント山中湖においては新たに会員登録いただく方が増えています。タイムシェア別荘に魅力を感じていただける方が増えているのは、ありがたい限りです」
一棟単位で利用できるシェア別荘は密を避ける意味でも有益であるし、場所にとらわれない働き方や暮らし方が広まる中、自宅以外の空間を持ちたい人にとって選択肢の一つとなっているようだ。
タイムシェア別荘の大きな魅力は、コストや手間もシェアできること
タイムシェアの基本的なシステムはこうだ。まず、1年を50週に分ける。そのうち好きな季節の1週間と、基本の建物を選択する。会員期間は10年、15年、20年。建物と利用期間は決まっているが、どちらも「交換利用券」という仕組みで振り替えることができる。行けない日程があれば、他のタイムシェア棟や他の週での利用をリクエストできる。
「つまり、会員になれば10年間、フェザント山中湖の好きな建物を、1年のどこか1週間、いつでも利用できるということです。1週間を分けることもできます。”別荘の魅力を多くの人に気軽に楽しんでもらいたい”という開業時の想いがそのまま形になっています」
会員費は10年間の契約で116万6,000円(※2021年12月時点)~。時期と基本の建物により変動する仕組みだ。正月・ゴールデンウイークなどのトップシーズン、連休前後のハイシーズン、その他のフレックスシェアシーズンなど、会員費は3つのシーズンランクに分かれている。その他年会費12万6,400円を合わせると、年間約30万円で山中湖に別荘を持つ体験ができることになる。この費用を高いと感じるかは個人差がありそうだが、もともと別荘を所有・維持するためのコストや手間は大きな負担となる。
「別荘を持つ魅力はもちろんありますが、楽しさよりも維持・管理の労力が上回ってしまうことがあります。その点タイムシェア別荘は、別荘で過ごす”時間”だけでなく、維持管理の”コスト・手間”もシェアできるのが大きな魅力です」
タイムシェア別荘であれば、到着したときにはすでにべッドメイクや室内のクリーニングがなされている。もちろん建物の修繕を会員が手配することもない。別荘特有の煩わしさを会員でシェアし、BESSが請け負う仕組みだ。
BESSのタイムシェア別荘は居心地の良さも魅力
利用者の声を聞いていると、フェザント山中湖の魅力に「空間の居心地の良さ」を挙げる人が多いようだ。年に数回しか訪れることができない別荘は、どうしても殺風景になりがちだ。その点、この施設では季節の飾りや調度品などさまざまな演出がなされている。お話を伺ったセンターハウスも、各タイムシェア棟も、内装や小物、調度品からは、BESSならではの温かみと遊び心あふれるセンスが感じられる。敷地内のランドスケープもBESSの顧問デザイナーが手がけたという。
また、滞在中のサービスは良い意味で”ほどほど”だ。もちろん必要な案内は十分であるし、接客も丁寧だが、過剰と感じるようなサービスは一切ない。自分で別荘の鍵を開け、コーヒーを淹れ、家族や友人と一緒に薪ストーブに薪をくべ、自由にときを過ごす。それこそ自宅にいるような感覚で、肩肘張らずにのんびりと時間を過ごすことができるのだ。
旅行中の朝といえば、すぐにホテルをチェックアウトして出発したくなるものだが、この施設ではなかなか帰ろうとしない客も多いという。「家に帰りたくなくなるんだよね」と支配人の宮下さんにこぼしながら別荘を後にし、また次の季節を楽しみに待つ会員が多いという。
最近はワーケーションのニーズも。大自然の中で体験してみた
タイムシェア別荘の利用者が増えた背景には、シェアの価値観が広まったこと、そしてもう一つ、コロナ禍により高まったワーケーションの二ーズがある。ワーケーションとは、「ワーク(work:働く)」と「バケーション(vacation:休暇)」を合わせた造語であるが、タイムシェア別荘でのワーケーションはどのようなものになるのか。
実際に体験してみて、宮下さんも冗談で口にしていたことではあるが、「仕事に集中するには、強い意思が必要」というのが正直な感想であった。やはり目に入る光景が、BESSの空間が生み出す居心地が、どこもかしこも素晴らしいのである。もちろんWi-fi環境や電源設備は整っているし、朝食もランチボックスも彩り豊かでおいしくいただける。仕事をするための環境としては申し分ない。とはいえ少しでも気を抜くと、つい窓の外の雄大な自然を眺めてしまう瞬間がある。
山中湖の湖畔に位置するフェザント山中湖は、山中湖と富士山を一望することができる。都心のコワーキングスペースに比べれば、仕事に没頭しにくいと感じる瞬間はあるかもしれない。しかしそこは利用者次第。やるときはしっかり集中して仕事をこなし、余暇の時間は思いきり山中湖の自然を満喫する。心身ともにリフレッシュすることで、新しいアイデアが生まれることもある。そのような過ごし方こそ、ワーケーションの醍醐味といえるだろう。
また、ペットと一緒に泊まれる建物が多いのもフェザント山中湖の特徴だ。ペット同伴可の宿泊施設は少ない中、「ペットと一緒にワーケーションをしたい」と訪れる客も増えているそうだ。
利用者のライフスタイルの変化とともにある、タイムシェア別荘
フェザント山中湖の最短契約期間は10年。10年も経てば、ライフスタイルが大きく変わることもある。契約期間満了後は、そのまま同じ条件で更新してもよし、違う建物で契約してもよし、その時々のライフスタイルに応じて判断できる。これが所有となると、簡単にはいかない。10年も経てば維持管理のコストはさらに上がり、売却したくとも大幅に建物価格が値下がりしている可能性もある。年数が経って分かる、タイムシェア別荘の魅力といえるだろう。
「タイムシェア別荘をご利用いただく中で、お客様の人生にはさまざまなライフイベントが起きます。小さかった息子さんが大人になって、いつしか恋人を連れてきたり、反抗期真っ只中だった娘さんが一緒に来てくれるようになったり、お孫さんが生まれたり。お客様の日常にフェザント山中湖があるんだなと感じる瞬間が一番嬉しいですね」
こうした地域の垣根を越えたエピソードや現地で新たに生まれる雇用などは、昔ながらの別荘では生まれ得ないものであるだろう。所有からシェアリングへ、新たな選択肢として、タイムシェア別荘を選ぶ人は今後も増えていくかもしれない。
※国土交通省 令和3年(2021年)地価公示より
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/content/001391267.pdf
※本文中の価格は税込表記
■取材協力
フェザント山中湖 https://www.pheasant.ne.jp/
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