熊本地震発生直後から被災者の避難所として活用されたドームハウス

気象庁の観測史上初めて、最大震度7の巨大地震を2度も観測した熊本地震から半年が経った。
特に被害が大きかった益城町や南阿蘇村では、いまだ倒壊住宅の瓦礫撤去が進んでおらず、1万人を超える被災者が仮設住宅生活を余儀なくされているが、震災直後からいち早く避難場所の提供を申し出て注目を集めた施設がある。
熊本県阿蘇郡南阿蘇村の『阿蘇ファームランド』にある発泡ポリスチレン造のドーム型ホテルだ。
1995年に開業した阿蘇ファームランドは、自然と元気をテーマにした健康テーマパーク。東京ドーム21個分という広大な園内には、温泉やレストラン、動物園、運動施設などがあり、2001年からはまるでおまんじゅうのようなドーム型ホテルがずらりと並ぶ『阿蘇ファームヴィレッジ』が開業して阿蘇の観光拠点を担ってきた。
しかし、2016年4月に熊本地震が発生。
地元・南阿蘇村は甚大な被害を受け、阿蘇ファームランド全体も被災施設となったが、ドーム型ホテルは地震の影響をまったく受けることなく無事だったため、南阿蘇村の避難施設として多くの被災者を受け入れ話題を呼んだ。
“2度の巨大地震に無傷で耐えたドームハウス”は、はたして『究極の防災住宅』なのか?
阿蘇ファームランドを取材した。
2度の巨大地震に襲われてもまったく被害を受けなかったドーム型ホテル
「熊本地震では、4月14日と16日に2度の大きな地震が起こりましたが、被害が広がったのは16日の本震の後でした。ここ南阿蘇村は揺れもひどく被害が大きかったので、いろいろな場所で土砂崩れが起こり、国道57号線という幹線道路が遮断され、阿蘇大橋が崩落してしまいました。
阿蘇ファームランド内でも園内の道路が地割れを起こしたり、建物の壁が崩落したり、ガラスが割れるなどの被害があったのですが、阿蘇ファームヴィレッジのドームハウスは、全450棟がまったく無傷の状態だったのです」
阿蘇ファームランドの広報担当・森山千鶴さんは、自らも被災者でありながら南阿蘇の被災者支援に尽力したひとりだ。
南阿蘇村からの要請を受けて最優先で温泉施設を修理し、4月30日から無料開放を実施。また、水道・電気・ガスなどライフラインの整備を行いながら、5月21日からはドーム型ホテルに村の人たちを受け入れ、全壊・半壊で自宅を失った被災者のべ700人に宿泊場所を提供した。
「丸い形のドームの中は柱が無い構造になっているので、建物自体で揺れを吸収して、屋根が落ちてくることもありません。本震が起こったのは深夜だったため、地震発生時も約200名のお客様がドームハウスの室内にいらっしゃったのですが、ドームの安全空間に守られてみなさん幸いご無事でした。
ドームハウスが地震に強い構造だということは以前から認識していましたが、今回の地震で改めてそれが実証される形になりましたね」(森山さん談)。
お菓子製造会社を営むアイデアマン社長が考えた“まぁるい部屋”
そもそもこのユニークな丸い形の建物が誕生したのは社長のアイデアがきっかけだった。
「当時、石川県でお菓子の製造会社を営んでいた社長は、全国の観光地で販売するお土産用のおまんじゅうの製造を手がけておりました。アイデアマンとしても有名で、“このおまんじゅうみたいな形の建物を作ったらどうなるんだろう?”と、丸い構造体に興味を持っていたそうです。
ちょうどその頃、阿蘇の観光活性を目的とした企業誘致のお話を受け、“阿蘇の雄大な大自然の中に、他にはないホテルを作りたい。おまんじゅうの形のまぁるい部屋で泊まれたらきっと楽しいに違いない”という発想から生まれたのが阿蘇ファームヴィレッジでした。
ただ、社長が想い描く“まぁるい部屋”が完成するまでにはいろいろな苦労があったようですから、詳しくは開発担当者に聞いてください(笑)」(森山さん談)。
※ドームハウスの開発秘話や構造特徴の詳細については、次回【発泡スチロールでできた防災住宅②】に続く。
ドームハウスの材質は、建物用に開発された強固な発泡スチロール(特殊発泡ポリスチレン)でできているため軽くて断熱性が高い。しかも、丸いドーム型の空間に滞在していると、まるで母親の子宮の中を想わせる“包み込まれるような感覚”があり、「不思議と気持ちが落ち着く」「安心して眠ることができる」という声が宿泊客から多く寄せられたという。
こうした好反響を受けて、2004年に日本で唯一の発泡スチロールを使ったドームハウス建材メーカーである『ジャパンドームハウス株式会社』を設立。現在は阿蘇ファームヴィレッジのような宿泊施設だけでなく、店舗や一般住宅としても建設ニーズが高まっている。
熊本地震が全国から注目を集めるきっかけに、今後は観光復興を目指す

熊本地震から半年、“2度の巨大地震を受けても無傷だった丸いハウス”の評判は様々なメディアに取り上げられ、阿蘇ファームランドとドームハウスの存在が全国に知られることとなった。
また、震災後休園していた阿蘇ファームランドは8月1日から一部の営業を再開し、少しずつだが阿蘇を訪れる観光客を取り戻しつつある。
「今回ドームハウスが“地震に強い家”として注目されたことは、ある意味大きな情報発信につながり、阿蘇に関心を持っていただくきっかけになったのではないかと思います。わたしたちがいま行わなくてはいけないことは、第一に南阿蘇村の地域のひとたちへの避難支援、そして、第二に一般観光客の方々に新しい情報を発信し阿蘇の観光復興を牽引していくことです。
幹線道路の復旧にも何年かかるかわかりませんし、そもそもうちの園も被災をしているためすべてがマイナスからのスタートになりますが、健康テーマパークとして常に元気を発信していくことで阿蘇全体を活性化させて地元に貢献していきたいと考えています」(森山さん談)。
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次回の【発泡スチロールでできた防災住宅②】では、注目を集めるドームハウスの開発秘話と“防災住宅”としての可能性を探る。
■取材協力/阿蘇ファームランド
http://www.asofarmland.co.jp/
2016年 11月01日 11時10分