「天神ビッグバン」の一環で2021年8月末に閉館
かつて、こんなに福岡のまちづくりや人々に深く影響を及ぼした商業ビルがあっただろうか。九州随一の繁華街・天神にそびえたつイムズが、2021年8月31日に32年の歴史に幕を下ろした。
福岡市が天神エリアの約80haで推進している「天神ビッグバン」。国家戦略特区の特例で航空法による建物の高さ規制が緩和されたことを受けて、民間投資を呼び込み、老朽化したビルを先進的なビルに建て替える再開発プロジェクトだ。市では2015年から10年間で30棟の建て替えを目標としていたが、実際には大小70棟ほどが建て替わる見込みとなっている。
華々しい開発の裏側では、歴史あるオフィスビルや商業ビルが次々と姿を消している。中でもイムズの閉館にあたっては地元メディアを中心にいくつも特集が組まれ、最終日には別れを惜しむ人たちの姿が館内にあふれていた。
「情報発信基地」をテーマに半歩先の情報や文化を発信
八角形をモチーフとした独特のフォルム、黄金に輝く有田焼の外壁タイルが街に映え、天神でもひと際大きな存在感を放っていたイムズ。敷地はもともと福岡市の市有地で、事業コンペによって三菱地所と明治生命グループが選ばれ、株式会社イムズ(現・三菱地所プロパティマネジメント)が管理運営を担った。
イムズが誕生した1989年4月12日、日本はバブル景気の真っただ中。イムズ(IMS)という名前の由来は「インター・メディア・ステーション(Inter Media Station)」で、インターネットがなかった時代に「情報発信基地」をテーマとして、モノを売るだけでなく、半歩先のコトの情報や文化を発信するというコンセプトを掲げた。
建物の最大の特徴は、地下2階から地上8階まで貫く巨大な吹き抜けだ。商業ビルとしてはフロア面積が広いほど売上が上がるにもかかわらず、大胆に吹き抜けを作ったことで開放感と一体感が生まれていた。地下2階ではさまざまなイベントが行われ、吹き抜けを大型ビジョンやオシャレなアートが彩る光景は、来館者をワクワクさせた。また、地下2階から地下1階へ緩やかなカーブを描いてのぼる「スパイラルエスカレーター」は国内でも珍しいもので注目を浴びた。
ホールやギャラリーなど心を豊かにするテナントが勢ぞろい
開館から32年の間、テナントにもそのコンセプトは貫かれていた。イムズホールでは多彩なライブやイベントが行われ、フジテレビ系列の人気番組「笑っていいとも」が生放送されたことも。ギャラリーや地元ラジオ局のスタジオ、福岡市の情報プラザ、留学生を支援するレインボープラザ、多様なメイクアイテムを自由に試せるスポットなど、個性あふれるテナントが入っていた。4階の自動車ショールームにはトヨタ、日産、三菱、スバルの4社が自慢のモデルを展示していて、いつどのように車を出し入れしているのかテレビ番組で紹介されたこともある。
もちろんファッションや雑貨、飲食店もそろい、屋上テラスは憩いの場となっていた。広告表現が洗練されていて、キャッチコピーや仕掛けがたびたび話題をよんだのもイムズらしさ。たとえ目的がなくても、「イムズに行けば、何か楽しいことがある」「最新の上質な情報に出合える」、性別や年代を問わず、多くの人たちにそんな期待を抱かせる唯一無二の存在となっていた。
笑いあり涙ありの「閉館セレモニー」で感動のフィナーレ
みんなに愛され続けたイムズは、「2021年8月31日をもって閉館する」と2年半前にアナウンスされた。最後の1年は「おしまイムズ」と題して、イムズの思いを外壁懸垂幕やポスター、ウェブサイトなどで展開。最終日が近づくと、別れを惜しむ人たちがつめかけて、思い思いに館内を歩き回り写真を撮り、自らの思い出や感謝の思いをSNSにアップしていた。
そしていよいよ最終日の夜、事前公募で集まった180人を前に、ホールで1時間の「閉館セレモニー」が開催された。その様子はネットで同時配信されて、公式ホームページでも10月末まで公開されている。イムズの32年間を振り返りつつ、天神のビルをモチーフにした演劇で人気の「ギンギラ太陽’s」による舞台、ゆかりのある有名人からのメッセージなどを披露。ラストはイムズの関係者が舞台に並び、テナントの方々、そして古場館長の挨拶で幕を閉じた。笑いあり涙あり、あたたかい雰囲気に包まれて胸が熱くなるセレモニーだった。
■公式ホームページで閉館セレモニーの動画を公開(2021年10月末まで)
https://ims-tenjin.jp/
イムズが終わっても、イズムはずっと続いていく
「イムズはおわる。イズムはつづく。」―これはイムズが最後に掲げたコピーだ。閉館セレモニーの挨拶で、古場館長は次のように話した。
「『世の中の半歩先を行くカルチャー発信』ということを身上とし、さまざまなイベントを展開してきました。お客様お一人お一人のかけがえのない日常に寄り添い、その日常をより良いものにするために、そっと背中を押す存在であり続けたいと願ってきたその思いこそが、イムズの真骨頂であり、『イムズイズム』であったような気がします。
イムズのイズムが、新しく生まれ変わる新しい天神のまち、そして福岡の未来にさらに優しく降り積もっていくことを祈念して、お別れとお礼のご挨拶に代えさせていただきます。32年間のご愛顧、本当にありがとうございました」
まさに、人々の日常をより良くしたいという思いをブレずに持ち続けたことで、みんなの人生を彩り、深く愛されてきたイムズ。今後は2022年度内に新築工事の着工が予定されており、新たな建物が誕生するが、イムズのイズムは福岡のまちで、人々の心の中で輝き続けるに違いない。
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