単身高齢者に対して部屋を貸すことを嫌がる物件オーナーは多い
日本は今後ますます高齢化社会となっていく。国立社会保障・人口問題研究所の2018年人口推計によると65歳以上の人口割合は、2015年は26.6%(約4人に1人)だったが、30年後の2045年には36.8%(約3人に1人)に増加するという。そして単身高齢者世帯数は、2015年は601万世帯であるのに対し、20年後の2035年には762万世帯にまで増える見込みだ。
ここで問題となるのが高齢者の住まいだ。賃貸住宅の管理事業者などで構成される全国宅地建物取引業協会連合会のモニター会員および全国賃貸不動産管理業協会メルマガ会員を対象に行った調査(2018年12月)によると、高齢者世帯の民間賃貸住宅への斡旋を「積極的に行っている」事業者は、わずか7.6%だった。一方で「行っていない」事業者は24.8%もいた。
その理由としてもっとも大きいと考えられるのは孤独死の恐れだが、そのほかにも賃借人死亡後の賃貸借契約や家財の問題もある。賃借人が死亡すると賃借権と物件内の家財(残置物)の所有権は、相続人に承継される。ところが相続人の有無や所在が分からない場合もある。このようなケースでは、物件オーナーは賃貸借契約の解除や残置物の処分に困ってしまうのだ。これらの理由から特に単身の高齢者に対して部屋を貸すことを嫌がる物件オーナーは多い。そこで国土交通省は「残置物の処理等に関するモデル契約条項(ひな形)」を策定した。
契約関係と残置物を円滑に処理できるようにする契約書のひな形
同ひな形は、賃借人の死亡後に契約関係と残置物を円滑に処理できるように、事前に賃借人と受任者の間で締結する委任契約の条項を記したものだ。
主な契約内容は以下の2つになる。
①賃貸借契約の解除事務の委任に関する契約
・賃借人死亡時に賃貸人(物件オーナー)との合意によって賃貸借契約を解除する代理権を受任者に与える。
②残置物の処理事務の委任に関する契約
・賃借人の死亡時における残置物の廃棄や指定先への送付等の事務を受任者に委託する。
・賃借人は、「廃棄しない残置物」(相続人等に渡す家財等)を指定するとともに、その送付先を明らかにする。
・受任者は、賃借人の死亡から一定期間が経過し、かつ、賃貸借契約が終了した後に、「廃棄しない残置物」以外のものを廃棄する。ただし、換金することができる残置物については、換金するように努める必要がある。
「想定される利用場面」
単身高齢者(60歳以上)の入居時(賃貸借契約締結時)
「受任者に適した者」
・賃借人の推定相続人(現在の状況で相続が発生した場合、遺産を相続するはずの人)
・居住支援法人または管理事業者等の第三者(推定相続人が受任者になることが困難な場合)
受任者が相続人に代わって契約を解除し、残置物を処分
このひな形に沿って賃借人と受任者で契約を交わしておけば、賃貸人の死亡後に受任者は次のことが行える。
・把握できている相続人が引き続き居住することを希望するかどうか等の事情を確認したうえで、賃貸借契約を継続させる必要がなければ、賃貸人と合意のうえ、賃貸借契約を解除することができる。
・賃貸人の死亡から一定期間(少なくとも3ヶ月)が経過し、かつ、賃貸借契約が終了した後に残置物を廃棄することができる。また、賃貸人から送付先を指定されていた場合は、そこに送付できる。
なお、上記を行うために物件オーナーは、入居者が亡くなったことを受任者へ連絡したり、受任者から住居内へ入る際の開錠や残置物の搬出の立ち合い等の協力を求められることがある。
物件オーナーや管理事業者の不安解決の一助に
この条項自体のボリュームは、「指定残置物リスト」などの別紙も含めて10ページだ。しかし、今回策定されたひな形には、それぞれの条項に関する解説も付いており、全26ページとなっている。例えば第1条の「本賃貸借契約の解除に係る代理権」の条項は5行。これに対して「解除関係事務委任契約は、受任者が委任者の死亡を知った時から6カ月の経過により終了~」といった解説が30行も付いている。非常に丁寧で理解しやすい内容だ。
高齢者にとって、安心して暮らせる終の棲家(すみか)の確保はもっとも重要なことの一つだろう。それゆえ、高齢者の入居を拒む民間賃貸住宅は減らさなければならない。「残置物の処理等に関するモデル契約条項(ひな形)」がそのような住宅のオーナーや管理事業者に対しての不安解決の有効な手段となることを期待したい。
「残置物の処理等に関するモデル契約条項(ひな形)」
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