賃貸住宅のクレームの約6割は管理会社が原因

「退去時の原状回復費用の金額が納得できない」。「10年間のサブリース契約と聞いていたのに2年で家賃を値下げすると言われた」--。入居者、物件オーナー問わず賃貸住宅に関するトラブルは後を絶たない。

国土交通省の『今後の賃貸住宅管理業のあり方に関する提言(案)』によると、国民生活センターに寄せられる賃貸アパート・マンションに関する相談件数は毎年3万件強で横ばい状態だ。また、商品・役務等別の相談件数でも賃貸アパート・マンションは毎年上位に入っている。

賃貸アパート・マンションに関する相談件数は、賃貸住宅管理業者登録制度の創設以降若干減少しているが、3万件強で横ばい状態。その中の敷金・原状回復に関する相談件数も同様の傾向(出典:国土交通省『今後の賃貸住宅管理業のあり方に関する提言(案)』)賃貸アパート・マンションに関する相談件数は、賃貸住宅管理業者登録制度の創設以降若干減少しているが、3万件強で横ばい状態。その中の敷金・原状回復に関する相談件数も同様の傾向(出典:国土交通省『今後の賃貸住宅管理業のあり方に関する提言(案)』)
賃貸アパート・マンションに関する相談件数は、賃貸住宅管理業者登録制度の創設以降若干減少しているが、3万件強で横ばい状態。その中の敷金・原状回復に関する相談件数も同様の傾向(出典:国土交通省『今後の賃貸住宅管理業のあり方に関する提言(案)』)国民生活センター等へ寄せられる相談の中で「賃貸アパート・マンション」に関する相談件数は、毎年上位に入っている(出典:国土交通省『今後の賃貸住宅管理業のあり方に関する提言(案)』)

では、誰に対して不満があって相談しているのだろうか。不動産適正取引推進機構に寄せられた相談内容を確認すると、賃貸管理に関する相談がもっとも多く毎年6割以上で推移している。要するに管理会社に対して不満があるのだ。

賃貸アパート・マンションに関する相談件数は、賃貸住宅管理業者登録制度の創設以降若干減少しているが、3万件強で横ばい状態。その中の敷金・原状回復に関する相談件数も同様の傾向(出典:国土交通省『今後の賃貸住宅管理業のあり方に関する提言(案)』)不動産適正取引推進機構の賃貸に関する相談内容。2007年以降常に賃貸管理に関する相談がもっとも多く、6割強が続いている(出典:国土交通省『今後の賃貸住宅管理業のあり方に関する提言(案)』)

サブリース契約のトラブルを防止する、賃貸住宅管理業法

昨今は人口減少の時代に入り、空き家の増加が問題になっている。ところが核家族化などによる賃貸住宅需要やサラリーマン大家の増加といった要因で、管理会社へ賃貸管理業務を委託する戸数は年々増加傾向だ。国土交通省の同資料によると、2014年第1四半期では約500万戸だったが2017年第4四半期には720万戸を超えている。

登録業者数とその管理戸数の推移。2014年第1四半期の管理戸数は497万3794戸だったが2017年第4四半期には722万6480戸に増加している。これは民営賃貸住宅の約5割に当たる(出典:国土交通省『今後の賃貸住宅管理業のあり方に関する提言(案)』)登録業者数とその管理戸数の推移。2014年第1四半期の管理戸数は497万3794戸だったが2017年第4四半期には722万6480戸に増加している。これは民営賃貸住宅の約5割に当たる(出典:国土交通省『今後の賃貸住宅管理業のあり方に関する提言(案)』)

特に転貸借(サブリース)契約の増加が顕著だ。2014年第1四半期の約156万戸が2017年第4四半期には約294万戸と倍増している。この傾向にともないサブリース契約に関するトラブルも増えているようだ。サブリースとは、オーナーから空室の有無にかかわらず物件を借り上げ(マスターリース契約)、入居者を見つけて転貸借することだ。サブリース契約のトラブルで記憶に新しいのは、2018年の「かぼちゃの馬車事件」だろう。サブリース会社が、割高なシェアハウスをサラリーマンを中心とする投資家に販売し、約60億円の負債を抱えて倒産。大勢のオーナーが多額の負債を負う結果となった。また、前述のように「サブリース契約をしていた物件の家賃を突然下げると言われた」といったトラブルは日常茶飯事と言ってもいい状態だ。

このような背景から2020年6月12日に「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」が成立し、その中の「賃貸住宅管理業に係る登録制度」が2021年6月15日よりスタートする。

登録業者数とその管理戸数の推移。2014年第1四半期の管理戸数は497万3794戸だったが2017年第4四半期には722万6480戸に増加している。これは民営賃貸住宅の約5割に当たる(出典:国土交通省『今後の賃貸住宅管理業のあり方に関する提言(案)』)「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」の対象となる取引形態。サブリース方式の場合、物件オーナーは入居者ではなく、サブリース会社と賃貸借契約を結んで空室の有無にかかわらず毎月家賃を受け取る。受託管理方式は従来の管理契約で、物件オーナーと入居者が直接賃貸借契約を結び、管理会社は集金代行や清掃、クレーム対応などを行う。この場合、空室が出れば物件オーナーに家賃が入ることはない

賃貸住宅管理業に係る登録制度は、管理会社の登録を義務化

「賃貸住宅管理業に係る登録制度」は、賃貸住宅の入居者と物件オーナーを守るため適正な賃貸管理を推進するためのものだ。賃貸住宅管理を行ういわゆる管理会社の登録制度は以前からあったが、それはあくまで任意だった。しかし、2021年6月15日からは義務化されることになる(2022年6月15日まで経過措置期間)。

登録が義務付けられる事業者は以下の3つだ。

・賃貸住宅管理会社(管理戸数200戸以上の場合)
・サブリース会社
・勧誘者(サブリースすることを目的とした物件の建設や販売を行う建築会社やハウスメーカーなど)

すでに任意で登録していた事業者も管理戸数が200戸以上ある場合は、2022年6月15日までに改めて登録をしなければならない。また、登録は5年ごとに更新することになっている。

今回の登録制度によって登録事業者は次の4つの義務を負うことになる。

1.重要事項の説明
物件オーナーに対して管理受託契約締結前に管理報酬などの重要事項を書面にて説明する(説明者は賃貸不動産経営管理士が望ましい(国交省ガイドラインより))。

2.業務管理者の配置
管理業務の管理や監督をする責任を負う業務管理者(賃貸不動産経営管理士等)を、各営業所若しくは事務所に1名以上配置する。

3.財産の分別管理
入居者から集金した金銭は、事業者の資金と分けて管理しなければならない。

4.定期報告
業務の実施状況等に関して物件オーナーへ定期的に報告しなければならない。

業務管理者の要件として国家資格となった賃貸不動産経営管理士

ここで注目したいのが賃貸不動産経営管理士の存在だ。同資格者は、アパートや賃貸マンションなど賃貸住宅の管理に関する知識、技能、倫理観を持ったエキスパート。従来不動産管理業界の業界統一資格だったが、賃貸住宅管理業に係る登録制度のスタートを受けて、2021年4月より賃貸住宅管理業務を行う上で配置が義務付けられている業務管理者の要件として国家資格となった。

業務管理者の要件(法律施行規則第14条)
管理業務に関して2年以上の実務経験を有する以下の人のいずれか
1.賃貸不動産経営管理士試験に合格して登録した人
※すでに賃貸不動産経営管理士資格を取得している人で「移行講習」を修了した人は上記1.とみなす。
2.宅地建物取引士で「指定講習」を修了した人

賃貸不動産経営管理士の活躍による管理の質の向上に期待

賃貸不動産経営管理士は、上記の重要事項説明や業務管理者といった一般的な管理業務のほか、空室対策や空き家をリノベーションし再利用、節税・相続対策など賃貸経営全般のサポートも中立的な立場で行う。

その結果、入居者と物件オーナーには次のようなメリットがあるはずだ。

「入居者」
 ・入居物件について一定レベル以上の管理体制となる
 ・敷金を返す、返さないといった様々なトラブルに適切に対応してくれる

「物件オーナー」
 ・オーナーに不利な契約条件でも隠さず説明してもらえる
 ・入居者や周辺住民などからの様々なクレームに適切に対応してもらえる
 ・収益増加やリフォームなどに関して長期的な視点で適切な提案をしてもらえる

需要が増える賃貸住宅管理業務。入居者や物件オーナーとのトラブルを防ぎ、良好な関係を築くことは、賃貸住宅管理業界の成長に不可欠である。その担い手となる、賃貸不動産経営管理士の活躍に期待したい。

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