金融庁が5年ぶりに国内銀行に対する業務停止命令を発令

金融庁は2018年10月5日、「スルガ銀行株式会社に対する行政処分について」を公表した金融庁は2018年10月5日、「スルガ銀行株式会社に対する行政処分について」を公表した

スルガ銀行が、金融庁から2018年10月12日から2019年4月12日までの6ヶ月間、投資用不動産向け融資と自宅部分が建物の50%を下回る住宅ローンの新規取り扱いを停止するよう命じられた。

スマートデイズ社の女性単身者向けシェアハウス「かぼちゃの馬車」をめぐる不適切融資問題が発覚して以降、融資を実行していたスルガ銀行が融資の審査書類の偽造や改竄に目をつぶったり、積極的に関与したりして実際の所得水準を大きく逸脱する多額の貸し付けを行っていたという事実も公になり、金融庁の対応が注目されていたが、結果的には極めて厳しい処分が下されたと言って良い。

金融庁の調査によると、スルガ銀行では、投資用不動産融資を扱う相当数の営業職員が不動産業者による不正行為を明確に認識、もしくは少なくとも相当の疑いを持ちながら業務を行っており、中には営業職員が、不動産業者に対して不正行為を能動的に働きかけて改竄を促す事例や、自ら改竄を行った事例もあったということが明らかになっている。

また金融庁は、検査によって併せて創業家関連企業への不適切融資や反社勢力との取引などがあったことが判明したとして、健全な業務運営態勢の整備を求めており、事実上、スルガ銀行の「解体的出直し」を求める内容となっている。
また、金融庁の調査が今後スルガ銀行以外にも広がる可能性も指摘されており、不動産投資と不動産融資を巡る状況からは、しばらく目が離せない状況にある。

金融庁2018年10月5日報道発表資料 
「スルガ銀行株式会社に対する行政処分について」
https://www.fsa.go.jp/news/30/ginkou/20181005/20181005.html

スルガ銀行が積極融資した「かぼちゃの馬車」のビジネスモデル

「かぼちゃの馬車」は上記の通りスマートデイズ社が運営する女性単身者向けのシェアハウスで、同社は2012年8月に設立されて以降、2013年7月期には売上高4億、約4年後の2017年3月期には300億と急成長を遂げている。
この急成長を支えたのは、「かぼちゃの馬車」に単身女性を無償もしくは安価な家賃で住まわせて就業を斡旋し紹介料を収益にするなど、これまでにない手法で不動産投資を成功させるとするビジネスモデルの特異性にある。

一般的な不動産投資の仕組みでは、投資家に対して物件を斡旋し、入居者から対価としての賃料=直接収益を得て投資金額の回収および金融機関への返済に充当するのだが、「かぼちゃの馬車」は入居者に対して就業先を斡旋して紹介料=間接収益を得ることで、物件竣工後に入居者をほぼ無償で住まわせるとするビジネスモデルを構築した(問題発覚の前には多くの入居者から家賃を取ることもしていたようだ)。他にも提携しているネイルサロンや旅行会社などのサービスを利用した際のマージンなども間接収益化して「家賃外収入」を極大化し、入居者からは賃料を取らないという「斬新」なものだった。

スマートデイズ社の創業者で破綻時の社長であった大地則幸氏の著書『「家賃0円・空室有」でも儲かる不動産投資-脱・不動産事業の発想から生まれた新ビジネスモデル』によれば、同氏はクリス・アンダーソンの「フリー<無料>からお金を生みだす新戦略」に書かれている、サービス自体は無料でも広告や提携先からのキックバックなどによって収益を上げることができるモデルを不動産事業において構築したとしている。

例えばGoogleやYouTubeは検索や閲覧という提供するサービス自体は無料であっても、そのサービスを利用する多くの「ユーザー=素材」に訴求するための広告掲載枠を販売することで多額の収益を上げており、「かぼちゃの馬車」も同じ手法で入居者という「素材」を賃料をもらわずに「活用」することによって収益モデルを維持しようという目論見であったようだ。

「かぼちゃの馬車」収益モデルの破綻と本当の収益源

確かに女性単身者に職業を斡旋して紹介料を得たり、入居者が提携先のネイルサロンを利用したり旅行に行ったりした際にマージンをコンスタントに得ることができれば、入居者も投資家も、もちろんスマートデイズ社もウイン=ウインの関係性を維持して特に問題はなかったのだが、世の中にそんなに「美味しい話」があろう筈もないことは歴史が繰り返し証明してきたことでもある。

実際の収益源は、上記のような「間接収益」ではなく、スマートデイズ社から投資家を斡旋された建設業者から多額の「業務委託費」という名目のキックバックだったことが明らかになっている(これ自体は違法な行為ではない)。
裁判所に提出された契約書のコピーを確認すると、キックバックの内訳として物件コンサルティング料や入居準備金といった項目が記載されているが、そのキックバックは工事代金の約50%にも相当する高額なものであったとされ、その金額の大きさに収益が厳しくなった建設業者が相次いで撤退する事態を招いている。

キックバックは不動産業界ではごく当たり前のことではあるが、その金額は3%~5%程度と言われ、多くとも10%程度とされている。これが50%近くにもなれば(それでも収益が出ると踏んだ建設業者もいるのだからどのような物件が建てられているのかは見当がつくと言うものだが)法外な金額と言わざるを得ない。

当然、このキックバックの原資は投資家が建築費として組んだアパートローン(正確にはシェアハウスローン)を前提としているため、スマートデイズ社が破綻した後、投資家と建設会社との間で工事代金の支払いを巡る訴訟が相次いで提起されており、「かぼちゃの馬車」は投資家だけでなく金融機関と建設業者まで巻き込んだ大掛かりな「事件」として関係者の記憶に留められることになりそうだ。

キックバックの原資は投資家が建築費として組んだシェアハウスローンを前提としており、</br>スマートデイズ社が破綻した後、工事代金の支払い訴訟が相次いで提起されているキックバックの原資は投資家が建築費として組んだシェアハウスローンを前提としており、
スマートデイズ社が破綻した後、工事代金の支払い訴訟が相次いで提起されている

「かぼちゃの馬車」の投資家に積極融資したスルガ銀行

スルガ銀行がスマートデイズ社の顧客に融資した総額は、約1,000億円に上ると言われているスルガ銀行がスマートデイズ社の顧客に融資した総額は、約1,000億円に上ると言われている

この不当に高額なキックバックを得てスマートデイズ社がビジネスを継続させるには、金融機関から多額の融資を引き出すことが必要になるが、その融資の全面的な受け皿として機能していたのがスルガ銀行ということになる。

専らスルガ銀行から融資を得て事業を展開していた不動産業者によれば、築20年超物件に30年返済で融資を実行してくれ、預貯金の通帳確認も原本ではなくコピーで可というのがスルガ銀行であり、こういう積極的に不動産融資を展開する金融機関であるからこそ、年収や貯蓄が足りない投資家にも「かぼちゃの馬車」のオーナーになってもらいたいスマートデイズ社側と、金利が年3.5%~4.5%と他行より高くても実績を積み上げたいスルガ銀行側の思惑が一致したという見方ができる。

スルガ銀行がスマートデイズ社の顧客に融資した総額は、約1,000億円に上ると言われている。
投資家を支援する弁護団は、多額のキックバック料を含む不当に高額な建設費を請求され、すでに自殺者も出ているとしてスルガ銀行を刑事告発する方針であると言う。

「かぼちゃの馬車」が不動産投資&融資に残したもの

スルガ銀行は、現状把握している不適切行為について記者会見を開いて公表した。それによると、シェアハウスを含む投資用不動産融資の書類改竄への行員の黙認・関与が1546件(!)、融資実行時に顧客にとって特に必要のないカードローンや保険商品などを売りつける抱き合わせ販売が534件、暴力団などの反社勢力と分かっていながら新規口座を開設した例が46件、既存取引先が反社勢力と判明した後もカードローンの与信枠内で融資を続けていた例が22件あった。
投資用不動産への融資業務だけでなく、様々なモラルハザードが行内全体で発生していた状況が垣間見える結果である。

特定の金融機関が引き起こした状況とはいえ、不動産投資マーケットおよび融資する金融機関には当然のことながら大きな影響、特に心理的な影響が出てき始めている。少なくとも一般消費者には、今回の一件でやはり不動産投資&儲け話というのは怖いものだという警戒心が高まったことは間違いないし、クレジットスコアが高く不動産投資に関して属性の高い人でも、改めて金融リテラシーや投資リテラシーを高めることを意識したであろう。

時が経つに連れて風化するとは言え、このような「美味しい話」には必ず裏があるものだということを忘れずにいることが、基本ポジションとして望まれる。ただし、投資にはリスクが付き物であるから、リスクテイクするための理論武装、知識吸収と最新情報を得てのマインドセットが不動産投資には欠かせない要件となる。

一方、融資を実施する金融機関側にも融資基準をより厳しくする措置を実施するところが増え始めている。
1つには中間省略案件(三為案件)の減少である。三為とは三角取引でAからB、BからCへと不動産が売買されるケースでAから直接Cに売買したと見せる契約形態(Bの登記なし)のことで、仲介手数料が省略できるなどのメリットもあるが、AB間の売買で利益がいくら上乗せされているかCにはわからず、不当に高い金額で売りつけられる可能性の高い売買手法でもある。この手法においてもスルガ銀行は積極融資していたため、全般的にこういった一般にあまり知られていない取引に融資するということ自体に急ブレーキがかかっている状況にある。

2つめは融資基準そのものの見直し。これは金融機関によって比較的大きな温度差があるようだが、筆者が確認したところによると、少なくともサラリーマン大家には融資しないとしたり、スマートデイズ社以外にも投資家の提出する書面を改竄していたことが明らかになったことで、融資の審査に必要な書面を厳格化したりする金融機関が出てきている。投資案件を扱う不動産業者の信用力が失われていることも影響していると考えられる。

まさに不動産投資市場は、かぼちゃの馬車ショック&スルガ銀行ショックの真っ只中に置かれている状況である。これまで、仕組みの瓦解は詐欺的手法も含めて幾度となくあったが、金融機関の不動産融資に対する姿勢がここまで明確に指摘を受けた(=指摘を受けるような行いをした)のは初めてのことだ。

こうなると、現状のショック状況から抜け出さない限り、マーケットは巡航速度に戻ることが難しいと考えられるが、全般的に投資意欲が減退した時にこそチャンスが生まれるのも投資の常である。
他人の行動と常に反対の行動をとることが投資成功への道、と言われるとおり市場環境が大きく変わっている状況である今、不動産投資について考える好機なのかもしれない。

ムーディーズ・ジャパンは2018年10月4日、スルガ銀行の長期預金格付けを「Baa1」から投機的等級とされる「Ba2」に一気に4段階も格下げし、しかもさらに格下げする見通しであると発表した。
事実上、金融機関としての信用が現状ゼロという判断であり、スルガ銀行の存続にも影響する事態であると考えるべきだろう。

2018年 11月12日 11時05分