「神山町をステキに変える」活動から7年、町史上初の“社会動態、人口増”へ

▲IT・デザイン・映像など、場所を選ばずに仕事ができる企業のサテライトオフィスが集まる神山町。古い空き家を改修したガラス張りのオフィスの中で、移住者がパソコンに向かいながらバリバリ働いている様子を外から眺めることも地元のひとたちにとっては刺激になる▲IT・デザイン・映像など、場所を選ばずに仕事ができる企業のサテライトオフィスが集まる神山町。古い空き家を改修したガラス張りのオフィスの中で、移住者がパソコンに向かいながらバリバリ働いている様子を外から眺めることも地元のひとたちにとっては刺激になる

「ITベンチャー企業のサテライトオフィスに選ばれたまち」として、一躍全国区の知名度となった徳島県名西郡神山町。

前回の【地方創生の成功例・神山町はどのようにして移住者を惹きつけたのか?①】では、“過疎のまち”から一転、ベンチャー企業のサテライトオフィスが集まるようになった経緯をお伝えした。

もともと過疎に悩む人口6000人足らずの小さなまちだったが、町からまちづくり活動の委託を受けた特定非営利活動法人『グリーンバレー』の先導により、「神山町をステキに変える」という取り組みが多くの人たちの関心を惹きつけ、国内外からの移住希望者が続々と集まるようになったのだ。

活動から7年が経った2011年には神山町史上初の“社会増”に転じ、平均年齢30歳・外国人を含む58世帯105名が新たに神山町での生活をはじめたことも『地方創生の成功例・神山モデル』として注目を集めるきっかけだった。

こうしたまちの変化は、もともと神山町で暮らしていた地元住民たちにどのような変化をもたらしたのか?『グリーンバレー』理事の大南信也さんにお話をうかがった。

お遍路さんの文化に根付いていた“よそ者を受け入れる風土”

空き商店を改築したオフィスや店舗が並ぶ神山町の寄井商店街では、多くの視察者がまちの中をぞろぞろと歩きながら建物を見学する。田舎町では都会よりも地元の人間関係が密接なぶん、外から来た人を受け入れることを嫌う人も多いはずだが、神山町の地元住民たちは“知らない人が自分たちのまちの中へ入ってくること”について拒否反応を示すことはなかったという。

「四国には特有の“お遍路さんの文化”があり、ここ神山町にも十二番札所があるので十三番札所に向かう人たちがいつもまちの中を通っていました。昔からよそ者が常に往来する場所だったため、よそから来た人たちを受け入れやすい風土があったことも一因なんでしょう。

それともうひとつ、 神山町では20年ほど前から小・中学校で子どもたちに外国語を教えるALT(外国語指導助手)の合宿をしたり、外国人観光客の民泊を受け入れて、毎年夏になると40人~50人の外国人が町内に滞在していました。毎年繰り返しそういう風景が続くと、地元の人たちも慣れてくるんですね(笑)。だから、移住を希望する人たちのこともすんなり受け入れられたのだと思います」(大南さん談)。

▲神山町中心部にある寄井商店街。古くからここで営みを続けている商店と商店の間に、<br />IT関連企業やデザイン事務所のサテライトオフィスが開設されている。ガラス張りのオフィスの中を覗いてみると、<br />純日本風の外観とは間逆のモダンなインテリアやきらびやかな照明が配置されていてスタイリッシュな印象だ。<br />周辺の家々を見学しながら軒先まで入りこむ視察者がいても、地元の人たちは特にそれを気にする様子はない。<br />まさに“もう慣れている”といった感じだ▲神山町中心部にある寄井商店街。古くからここで営みを続けている商店と商店の間に、
IT関連企業やデザイン事務所のサテライトオフィスが開設されている。ガラス張りのオフィスの中を覗いてみると、
純日本風の外観とは間逆のモダンなインテリアやきらびやかな照明が配置されていてスタイリッシュな印象だ。
周辺の家々を見学しながら軒先まで入りこむ視察者がいても、地元の人たちは特にそれを気にする様子はない。
まさに“もう慣れている”といった感じだ

まちの中にある空き家の一軒一軒が、地元にとって大切な資産

▲「未来の姿からまちを見てみると、今やるべきことが見えてくる」と語る『グリーンバレー』理事・大南信也さん。現在『グリーンバレー』では、地方創生を担う人材育成事業として『神山塾』を立ち上げ、地域活性化コーディネーターを育てる活動も行っている▲「未来の姿からまちを見てみると、今やるべきことが見えてくる」と語る『グリーンバレー』理事・大南信也さん。現在『グリーンバレー』では、地方創生を担う人材育成事業として『神山塾』を立ち上げ、地域活性化コーディネーターを育てる活動も行っている

神山プロジェクトはいかにも順風満帆のように見える。そこで「いま抱えている問題はあるか?」と大南さんに聞いてみた。

すると、「問題だらけやな。順調に問題だらけや」という意外な答えが返ってきた。

「でも、人間が生きる価値は目の前の問題を解決することにあるわけやから、解決策を探すことを楽しんでる感じです(笑)」

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現在神山町では、国内外からの移住希望者が後を絶たないにもかかわらず、その需要を満たす“家”がない。簡単な修繕で使える空き家はほぼ移住者で埋まってしまったからだ。

「だからこそ、まちの中にあるひとつひとつの空き家が僕らの資産です。その貴重な一軒の資産を最大限に生かせる人達に入ってほしい。家賃が見合ったからどうぞとか、住みたい人はどうぞではなく、その人が神山で何ができるのか?まちの中に変化を起こしてくれるような人や主導者の一員になってくれるような人に入ってほしいと考えています。

移住者を広く募るのではなく、神山町が移住者を厳選しているのです」(大南さん談)。

よそからの移住者を受け入れることで変わった地元の人たち

こうして、選ばれた移住者がまちの中で仕事をしたり、お店を開いたりしたことで、もともと神山町で暮らしていた地元住民たちの意識も変わってきた。

「最近は、移住者の方がオープンしたフレンチビストロのカウンターに、70歳を越えた地元のお年寄りがワインを飲みに来るようになりました。

お店のスタッフに向かって、“あんたらのことを見てたら、そんなにお金は持ってないと思うけど、なんだか楽しそうに暮らしているのがわかる。それを見てると、これまで『金儲けが一番』と思って生きてきた自分の人生、損してたような気がしてきたわ。だから、これからはもう少し楽しいことにお金を使いたいんや”と言って、グラス800円のワインを飲むようになったんです。

高齢者が使うお金が、まちで働く若者たちに渡ることによって、若者たちの暮らしが成り立つという非常に本質的な『地域内経済の循環』に気付いて変化してきたわけです。

もちろん地元の若者たちも変わってきています。

“今、神山は移住者たちの頑張りによって変わってきている。移住者があれだけ頑張ってるのだから、もともと住んでた俺たちにだって何かできることがあるはずだ”と、まちの外れに新しくカフェを作りビジネスをはじめた若者もいます。

こうした“まちの変化”を生み出すコツは、ひとつだけ。アイデアキラーにならないことです。

日本はどうしても『枠』にとらわれる社会なので、いろんな枠がひしめき合っています。例えば、外から来た人や若い人たちから、“こんなことをしてみたい”と相談を受けても、古い大人たちは“自分たちの枠に合わないからやめてくれ”と、新しいアイデアを止めてしまうんです。それではイノベーションは生まれません。

『グリーンバレー』で意識的にやってるのは、移住者や若者たちをリスペクトすること。その人たちを尊重した上で、やりたいことを目の前でやってもらう。どうしてもダメな場合は実際にやってもらったあとで結果を見てから止める。

“止めるポイント”をワンテンポずらすのがコツですね(笑)」(大南さん談)。

▲地元のお年寄りも常連だという古い民家を改築したフレンチビストロ。<br />もともと東京の高級ホテルでワインイベントを開いていたような実力のあるソムリエールが、神山へ移住して開業。<br />地元の人たちのためにビオワインを選び本格的なフランス家庭料理をふるまうビストロは、<br />住民だけでなく外国人観光客も評判を聞きつけて訪れるほどの人気店となった▲地元のお年寄りも常連だという古い民家を改築したフレンチビストロ。
もともと東京の高級ホテルでワインイベントを開いていたような実力のあるソムリエールが、神山へ移住して開業。
地元の人たちのためにビオワインを選び本格的なフランス家庭料理をふるまうビストロは、
住民だけでなく外国人観光客も評判を聞きつけて訪れるほどの人気店となった

地元の人と移住者が一緒に変化できる“ゆっくりしたスピード”が大切

▲「もともと雇用のない場所なので、まずは仕事を持った人を集めることが“核”となります。“核”となる人たちが増えたら地域の中で循環がはじまって、またそこで新たな雇用が生まれます。それが集積された結果、神山町にはレストランができたり、パン屋さんができたり、そこに付随したサービスが生まれるようになって全体がまわるようになりました」と大南さん▲「もともと雇用のない場所なので、まずは仕事を持った人を集めることが“核”となります。“核”となる人たちが増えたら地域の中で循環がはじまって、またそこで新たな雇用が生まれます。それが集積された結果、神山町にはレストランができたり、パン屋さんができたり、そこに付随したサービスが生まれるようになって全体がまわるようになりました」と大南さん

現状“移住者の住まい”が足りていない状況ではあるが、大南さんは大手不動産会社の宅地開発など大規模資本が神山町へ入ってくることは望まないと言う。

「もし今の神山に、いきなり200人の新たな雇用を発生させたら、変化が大きくなりすぎてまちの人たちが馴染めない状況になってしまいますから、それは地域にとってプラスではありません。地元の住民たちと移住者がゆっくり一緒に変化できる今ぐらいのスピードがちょうど良いですね。

もちろん、神山町の総合戦略としての人口増加目標はありますが、それはあくまでも目安であって絶対的に達成すべき課題ではありません。行政が打ち出す戦略というのは、自分たちが迷子にならないための灯台のともし火のようなもの。なんとなくそちらの方角を向きながら、自分たちのまちをステキに変える方法を見つけていくことが大切だと考えています」(大南さん談)。

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大南さんが発信する言葉の数々は、まちづくりだけでなく子育てや企業の組織づくりにも通じるものが多い。最先端の光ファイバー網の構築をきっかけにして注目を集めた神山町だが、その根底にはこのまちで暮らす人たちのアナログな温もりが存在し続けているのだ。

“お金とは違う価値観を求める人たちが集まるまち”…神山町の今後のゆっくりとした歩みが楽しみである。

■取材協力/特定非営利活動法人グリーンバレー
http://www.in-kamiyama.jp/about-us/

2017年 01月14日 11時00分