福岡から始まり、名古屋へ

現在、名古屋では田口さんが事業開発担当として、営業やPR活動に奮闘中。数名の自転車メンテナンスを行うスタッフとともに、シェアサイクルの普及に取り組んでいる現在、名古屋では田口さんが事業開発担当として、営業やPR活動に奮闘中。数名の自転車メンテナンスを行うスタッフとともに、シェアサイクルの普及に取り組んでいる

移動手段としてシェアサイクルが注目されている。シェアサイクルは、ポートといわれる専用の駐輪場で自転車を借り、利用後は再びポートに返却するサービス。事業者の専用駐輪ポートであれば、借りたポートとは異なる場所のポートで返すことができるのも特徴だ。東京、大阪など都市圏ではすでに数社の民間事業者が展開しているほか、実証実験を始めた自治体もある。

そんななか、2020年7月に名古屋でシェアサイクルサービス「Charichari(チャリチャリ)」が運用を開始した。運営するのは、neuet(ニュート)株式会社。名古屋で創業したIT企業の株式会社クララオンラインが、株式会社メルカリから第三者割当増資により株式を引き受け、子会社化した。

チャリチャリは、2018年にメルカリの子会社であった株式会社ソウゾウが福岡でスタートさせた「メルチャリ」を引き継いだものとなる。

中国で15年ほどビジネスコンサルティングに携わるクララオンラインは、シェアリングエコノミーや支払いの電子化、そしてシェアサイクル事業の知見があったことから、メルチャリの立ち上げ時から支援していた。

取材に応じてくれたのは、名古屋で事業開発・営業を担当するneuetの田口大輔さん。

neuetが運営を引き継いでから約1年が経ち、福岡での事業は順調に拡大。軌道に乗ったことで、国内2拠点目として、親会社であるクララオンラインが創業した名古屋を選んだ。もちろん、市場として見込みがあったからでもある。

公共交通を補完する役割

名古屋での開業にあたり、本格的に準備に動き始めたのは2020年2月だが、新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛の影響を受けた。対面での営業活動なども自粛となり、調整が難航したからである。

しかしそんななかで、福岡でシェアサイクル需要は高まっていたことで、名古屋での開業も決めた。ちなみに、福岡での月単位での利用回数は27万回(2020年11月時点)にも及ぶという。福岡市内では1,500台の自転車が稼働しているので、1日に1台につき6~7回利用されていることになる。

名古屋をはじめとする東海地区は、自動車産業が盛んで、車を利用した移動をする人が多い。そんな名古屋への進出について、田口さんに質問をぶつけてみた。

「車社会の名古屋で自転車のニーズってあるの?と、よく言われるんです。でも、郊外に比べて市街地は道路標識が複雑なところもあり、車で入れる場所、駐車可能な場所も限られています。目的地近くの駐車場が満車の可能性もあります。そんなとき、車を少し離れた駐車場に止めて、そこから目的地までのラストワンマイルにシェアサイクルを活用すると便利です。

シェアサイクルは公共交通を補完する役割だ、とよくお話しさせていただいています。名古屋は碁盤の目のように電車やバスが整備されています。それでも不便に感じる瞬間はあって、降車した駅・バス停から目的地まで2kmほど離れていることもあります。この距離こそが自転車が最も得意とする距離。自治体によっては、電動キックボードなど新しいモビリティの実証実験が始められていたりしますが、環境や法整備などが追いついていません。自転車は老若男女問わず、どなたでも気軽に乗れる移動手段なんです」

2020年12月末現在の稼働中ポートの一覧。名古屋駅、栄地区という2大商業圏と、名古屋城、市役所などの官庁街といった、名古屋中心部をカバー(資料提供:neuet)2020年12月末現在の稼働中ポートの一覧。名古屋駅、栄地区という2大商業圏と、名古屋城、市役所などの官庁街といった、名古屋中心部をカバー(資料提供:neuet)

“ちょい乗り”ニーズに対応し、他社サービスと差別化

チャリチャリを利用する場合、まずスマートフォンに専用アプリをダウンロードし、自転車のサドル下のスマートロックについているQRコードをスキャンして鍵を開ける。アプリ上にはポートの場所とそこにある自転車の数が出るようになっている。利用後はポートに返却し、鍵をかければ完了(借りた場所とは別のポートへの返却でもOK)。料金は月ごとの請求で、初期設定時に登録したクレジットカードから引き落とされる。

利用料は1分4円(税込み)。名古屋市内で展開するシェアサイクルサービスはチャリチャリが3つ目となるが、「この料金形態が当社の大きな特徴のひとつだと思います」と田口さんは語る。

チャリチャリは24時間利用可だが、一時的な駐輪をOKにし、鍵が開いている時間だけ課金される。利用中、コンビニなどに立ち寄ったときは、駐輪場に入れて鍵を閉めると課金が止まり、用事が済んだら、再びQRコードで鍵を開ければ利用を再開できる。最終的には必ずポートに返却しなければいけないが、この移動している間だけの明確な料金というのは利用者にとってはうれしい。なお、駐輪禁止エリアに駐輪した場合は、アプリに警告メッセージが表示される。

この料金設定からも10~15分ほどの“ちょい乗り”距離での利用の多さを想定している。そのためサービス立ち上げ当初は、いわゆるシティサイクルで導入コストを下げ、その分、多くの車体を配備することで、利便性を高めているそうだ。

左上/自転車についているQRコードをスマートフォンで読み取り、開錠する仕組み。貸し出し時間は自転車があれば24時間いつでもOKで、事故やトラブルも保険サービスで24時間対応可。左下/専用アプリでは、目的地までのルートを検索することができ、実際に走ったルートとライド料金も表示される。右上/名古屋市役所前のポートに並ぶチャリチャリの自転車。右下/自転車とポートのメンテナンスのため、365日、スタッフが巡回する(左下、右下の写真提供:neuet)左上/自転車についているQRコードをスマートフォンで読み取り、開錠する仕組み。貸し出し時間は自転車があれば24時間いつでもOKで、事故やトラブルも保険サービスで24時間対応可。左下/専用アプリでは、目的地までのルートを検索することができ、実際に走ったルートとライド料金も表示される。右上/名古屋市役所前のポートに並ぶチャリチャリの自転車。右下/自転車とポートのメンテナンスのため、365日、スタッフが巡回する(左下、右下の写真提供:neuet)

自転車は人の回遊性を高める乗り物

自宅の最寄り駅またはバス停近くの駐車場に自家用車を止め、そこから公共交通機関で移動する「パークアンドライド」の取り組みも増えており、そこにシェアサイクルを追加してつなげていくことができる(写真提供:neuet)自宅の最寄り駅またはバス停近くの駐車場に自家用車を止め、そこから公共交通機関で移動する「パークアンドライド」の取り組みも増えており、そこにシェアサイクルを追加してつなげていくことができる(写真提供:neuet)

シェアサイクルは、まちづくりの面でも期待される。

「自転車は人の回遊性を高める乗り物であること、気になったところに立ち寄りやすく、まちなみを見ながら移動できる乗り物であることがいいところだと思っています。ポートを置いていただくオーナーさんにもよくお話しすることですが、これまで集客エリアが徒歩圏内だった場所では商圏が広がります。距離のある観光地の点と点を線でつなぐこともできます。

あとは、商店街だと、どこか1つのお店を目的に行くということもありますが、通り抜けて楽しむ場所でもあります。そんなとき、直線にのびる商店街のうち、片方だけにしか駅がないと、往復が必須ですが、シェアサイクルでポートを点在させれば、商店街の入り口でいったん返して、通り抜けて買い物をした後に、またあらたなポートで借りて、まちの回遊の続きを楽しんでいただくことができます」

実際に、名古屋市内のある地区からエリア拡大のラブコールを受けているそうだ。

「この仕事を通して、その土地の方とお話をしていると、名古屋ってかめばかむほど味が出るというか、面白いところだとあらためて感じています。隠れた魅力というようなものが各所に根付いているまちなので、そこをつなぎ合わせることで、名古屋がもっと面白くなるんじゃないかなと。その橋渡しとして、シェアサイクルを使っていただけるようになるといいなと思います」

「まちの移動の、つぎの習慣をつくる」

赤い車体が目印のチャリチャリ。エコな移動手段として、自転車の活用が国の法律でも期待される(写真提供:neuet)赤い車体が目印のチャリチャリ。エコな移動手段として、自転車の活用が国の法律でも期待される(写真提供:neuet)

2017年には「自転車活用推進法」が施行された。環境に優しく、健康増進にも寄与するなど、自転車の活用を期待するものだ。シェアサイクル施設の整備は、国の計画のひとつとして掲げられている。

「公益性の高い事業だと自覚しているので、お客さまのマナーを我々としても呼びかけていく必要があると考えています」と、利用回数の増加とともに今後の課題であると話した。

また、最後に「neuetの企業ミッションは、『まちの移動の、つぎの習慣をつくる』ことです。自転車をお貸しすることはあくまで手段で、あらたな移動の習慣をつくる、その移動を支えることでまちに寄与していきたいというのが、一番のコアバリューです。まちづくりの一助になればうれしい」と結んだ。

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2020年9月には東京でチャリチャリ事業がスタートした。自転車は、新型コロナウイルスの影響で、”密“を回避する移動手段としても注目を高めたが、田口さんたちが目指すように、まちの活性化へのつながりを大いに期待したい。

取材協力:neuet株式会社 https://charichari.bike/

2021年 01月20日 11時00分