昨今目立つ公共交通機関の縮小・衰退

鉄道や路線バスなど公共交通機関は、過疎地域になるほど縮小・衰退の傾向が高くなっている鉄道や路線バスなど公共交通機関は、過疎地域になるほど縮小・衰退の傾向が高くなっている

利用者が減って採算が合わなくなった鉄道や路線バス。ドライバーが不足して街中で見かけなくなったタクシー。昨今は少子高齢化、人口減などの影響により公共交通機関の縮小・衰退が目立つようになっている。

特に過疎地域(人口5万人以下)ではその傾向が顕著で、通勤・通学に自家用車を使用する割合(自動車分担率)は67.8%を占める(経済産業省『新しいモビリティーサービスの活性化に向けて』より)。日常の移動において自家用車はなくてはならないものになっていて、高齢者ドライバーが増加する要因にもなっている。公共交通機関が不足する地域でこのまま無策の状態が続けば、運転免許を返納したくてもできない高齢者が今後も増えていくだろう。

一方、都市部では慢性的な交通渋滞が起きており、駐車場不足や路上駐車、排気ガスなど、地方とは異なる問題を抱えている。また、高齢者ドライバーによる事故の増加は、日本全国に共通する課題である。

このような公共交通機関の不足、慢性的な渋滞、排気ガスといったさまざまな交通問題を解決する方法として今、期待されているのがMaaS(マース)だ。

交通手段の検索から予約、決済までを一括で行えるサービス

MaaSとは「Mobility as a Service」の略。地域住民だけでなく、その地域を旅する観光客もターゲットに、複数の移動手段を最適に組み合わせて、検索から予約、決済までを一括で行えるサービスだ。従来、自家用車以外の交通手段を利用して移動をしようとすると、自分で出発地から目的地までの鉄道、バス、タクシーといった移動手段を調べ、場合によっては個別に予約、支払いもしなければならない。一方でMaaSは、スマホのアプリによって出発地から目的地までの移動を一つのサービスとして検索、予約、支払いができる。また、飲食店、ホテル、病院、行政サービスなどの予約・支払いも一緒に行うことが可能だ。

MaaS(マース)のイメージ図。スマホのアプリを利用して複数の交通機関の検索・予約・決済が一括でできるだけでなく、移動途中で利用する飲食店や病院などの予約や支払いも可能になる(出典:『国土交通省のMaaS推進に関する取組について』)MaaS(マース)のイメージ図。スマホのアプリを利用して複数の交通機関の検索・予約・決済が一括でできるだけでなく、移動途中で利用する飲食店や病院などの予約や支払いも可能になる(出典:『国土交通省のMaaS推進に関する取組について』)

すでにヘルシンキで成功事例も

すでにヘルシンキ(フィンランド)で実用化されているMaaSアプリ「Whim(ウィム)」の画面(出典:『国土交通省のMaaS推進に関する取組について』)すでにヘルシンキ(フィンランド)で実用化されているMaaSアプリ「Whim(ウィム)」の画面(出典:『国土交通省のMaaS推進に関する取組について』)

ここまで読むと近未来の話のように思えるかもしれない。ところが実際の成功事例がすでにある。2014年、フィンランドのヘルシンキでは、域内の自家用車を2025年までにゼロにするロードマップが示された。そして2016年、さまざまな公共交通機関を一括で検索・予約・支払いできるアプリ「Whim(ウィム)」がスタート。これが世界で初めて実用化されたMaaSとなった。具体的には以下の3つのプランが用意されている。

「Whim Unlimited(月額499ユーロ)
・市内バス、鉄道、地下鉄、トラム(路面電車)の1ヶ月定期券
・タクシー(5kmまで)、レンタカー、シェアサイクルが使い放題

「Whim Urban30」(月額62ユーロ)
・市内バス、鉄道、地下鉄、トラム(路面電車)の1ヶ月定期券
・タクシーは5kmまで10ユーロ
・レンタカーは1日49ユーロで利用可能
・シェアサイクルは最初の30分が無料

「Whim To Go」(月額は無料)
・使用した分だけ支払い

同サービスが開始されたことによって48%だったWhimユーザーの公共交通機関利用率が74%となった。その結果、都市部における渋滞の削減や環境負荷の低減、公共交通機関の運行効率化といった効果が見られたのだ。

現在、この成功事例を見習おうと欧州をはじめ、アメリカ、中国、インドなど世界各国でもMaaSの試みが始まっている。

日本でもMaaSの実証実験が開始

もちろん日本政府もMaaSの実用化に向けて着手している。たとえば、2019年6月、国土交通省は全国を対象に「新モビリティサービス推進事業」の公募を行い、19の「先行モデル事業」を選定した。これは①大都市近郊型・地方都市型、②地方郊外・過疎地型、③観光地型の3つの類型に分け、北海道から沖縄県まで19地域の実証実験を支援するものだ。

その一部の例を紹介しよう。

「大都市近郊型・地方都市型」(群馬県前橋市)
前橋市の自動車分担率は75%と極めて高い。また、高齢者ドライバーの事故率も年々増えている。一方で公共交通機関のネットワークは不十分で、利便性は低い状況だ。そこでモデル事業では、AIの活用によって配車の効率化を図るデマンド(予約型)バスや自動運転バスなどの実証実験を行っている(2020年3月10日まで)。

「地方郊外・過疎地型」(島根県大田市)
大田市では、路線バスが走っていない地域が点在している。また運行していても本数が少なく、病院や買い物に行こうと思っても時刻が合わないといった不便さが問題となっている。これらを解決するため同事業では、定額タクシーの実証実験を行っている(2020年3月31日まで)。平日の8時30分から16時30分まで月額3,300円でタクシーが乗り放題。MaaSアプリを利用することで、予約や支払いもできる。

「観光地型」(静岡県伊豆地域)
観光地として有名な伊豆地域では、路線バスやタクシードライバーの高齢化と人手不足により本数や台数の減少が課題となっている。また、それに伴い観光客の約8割がマイカーで来訪しており、幹線道路の渋滞も起きている。そこで伊豆版MaaSアプリ「Izuko」が開発された。同アプリを利用すれば、スマホ上で鉄道、バス、AI オンデマンド乗合交通、レンタカー、レンタサイクルといった交通機関を検索・予約・決済できる。現在はこのアプリの操作性や運用性を大幅に改善させたフェーズ2の実証実験の最中だ(2020年3月10日まで)。

以上のようにMaaSが実用化されれば、たとえ過疎地に住んでいたり、自動車の運転ができなくても自由な移動が可能になる。そのうえ、排気ガスの排出量が減ることで地球環境の改善にもつながる。とはいえ、日本では今のところまだ実証実験の段階だ。一日も早く課題点などを洗い出し、日本全国で実用化されることを期待したい。

2020年 02月29日 11時00分