9割を超える不動産事業者が「企業活動に影響」

新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)は、「ニューノーマル」という言葉が使われるように、これまでの経済活動や生活様式を大きく変えようとしている。当然、不動産業界も例外ではない。
ではコロナ禍は、生活者の物件探しや不動産会社の営業方法などにどのような変化をもたらしているのだろうか。

株式会社LIFULLが運営する不動産情報サービス LIFULL HOME'Sでは、3月と4月にコロナの影響が及ぼす不動産事業者の意識調査(※1)を、4月には同じくコロナの影響による生活者側の住み替え行動に関する調査(※2)を実施している。

4月の不動産事業者の意識調査の結果を見ると、9割を超える不動産事業者が「企業活動に影響が出ている」と回答し、具体的には、「内見者の減少」「来店者の減少」「問合せの減少」がTOP3を占める結果となった。当然ながら、今後の企業活動への影響についても不安感は強く、ほぼすべての事業者が「今後の影響を心配している」と回答した。

この調査を担当したリサーチャーの髙橋氏は「不動産事業者への1回目の調査を3月上旬~中旬に、2回目を4月上旬~中旬にかけて実施しました。1回目より2回目のほうが多くの項目でコロナによる企業活動への影響の悪化が窺えます。GWを挟み、国から外出自粛が強く要請されたことにより、不動産事業者の不安は更に増していくことが想定されます」と説明する。

一方、4月の中旬から下旬にかけて実施された生活者側への調査でも、住み替え・建て替えを延期するなどが7割を占めており、様子見の傾向が窺える。20.4%がコロナの影響で、実際に不動産会社への訪問を控えたという回答が寄せられている。

今回のコロナは、容易に収まる見込みは薄く、第2波や第3波が引き続き懸念される状況だ。
いずれにしても事業者にとって、このコロナ禍は一時的なものではなく、今後も企業活動に影響を及ぼし続けるのではないかと思われる。

4月に行った不動産事業者への意識調査の結果では、9割を超える不動産事業者が「企業活動に影響が出ている」と回答4月に行った不動産事業者への意識調査の結果では、9割を超える不動産事業者が「企業活動に影響が出ている」と回答

オンライン内見の伸び率、コロナ禍で195%にも

そこで、不動産業界のニューノーマルとして注目されるのが、相談や内見、重要説明事項(※3)のオンライン対応だ。
いまや、インターネットでの物件検索は一般的になったが、その先のステップをオンライン化するものだ。LIFULL HOME'Sでも2017年から、オンライン上で検索から問い合わせ、内見、相談、契約(IT重説)まですべて行えるアプリ「LIFULL HOME'S LIVE」を提供している。

「LIFULL HOME'S LIVE」は、事業者側が小型カメラとPCさえあれば物件ごとにオンライン内見、オンライン相談、契約(IT重説)を個別設定しながら実施できるというサービス。相談や契約の際には、テレビ会議システムのようなインターフェースで利用者と事業者側が通常の対面と同じように顔をみながらコミュニケーションが可能になる(ただし、利用者は画像を表示させない選択も可能)。リアルタイムで資料や文書を共有し、その場での質疑応答も可能なため、物件紹介や契約時のコミュニケーションもとりやすい。

オンライン内見については、事業者側のスタッフが実際に現地に赴き、カメラで室内の様子を利用者に配信する流れだ。リアルタイムに双方向でのやり取りを行うため、間取り全体はもちろん、コンセントの位置など細かな点もその場でリクエストしながら物件を確かめられる。

「LIFULL HOME'S LIVE」は、2017年から実施してきたサービスだが、ここに来て利用者は大幅に増加しているという。
アプリの契約者数は2020年3月と比較し4月には149%、5月には263%。LIFULL HOME'S LIVEを介した「WEB接客・内覧数」の伸びも、4月で201%、5月には343%にも上っている。先の生活者に向けた調査では、「住み替えや建て替えを中止した方の3割がオンラインでの対応に期待する」という結果が出ていたが、実際にオンライン利用は急速に広がっているのだ。

LIFULL HOME‘Sのオンライン内見・IT重説サービスLIFULL HOME‘Sのオンライン内見・IT重説サービス

生活者がメリットを実感したオンライン対応

とはいえ、オンライン対応はPCの扱いに多少慣れているスタッフが必要であったり、内見などでは現地にスタッフが赴くため、事業者側での負荷の軽減といったメリットは見出しにくい。そのため、「これまでは二の足を踏む事業者も少なくなかった」とLIFULL HOME'S 西日本エリアで賃貸部門の組織長を務める高宮氏は説明する。

「実際、コロナ禍を経験しても、店舗にアクリル板などを設置するリアルな接客への対応のみを進めることのほうが多いのも現状です。ただ、オンライン対応は、マイナスから企業活動をこれまでのものに戻すのではなく、新たなビジネスチャンスを生む術と捉えるべきと考えます」と高宮氏は言う。

今回のコロナ禍では、多くの企業でテレワークが導入され、オンライン対応が市民権を得たといってよいだろう。様々なオンライン対応は、これまで若年層やITリテラシーの高い人でなければ積極的な活用に至らなかったといってよい。それが半ば強制的に活用せざるを得ない状況に直面し、多くの人がその利便性を実感したことになる。

確かに生活者側にとってオンライン対応はメリットがある。例えば、社会人になってからの引越しは、仕事をしながら内見に回ろうと思うと休日しか動けないし、1日に回れるエリアも限られていた。これがオンラインとなればハードルは下がる。もちろん最終的には足を運んで決めたいニーズもあるだろうが、候補を絞るまでの検討が楽になるのではないだろうか。

「今回の自粛期間は、既に大学生や新社会人の移動に伴う物件選びは終えていた時期だったため、オンラインの活用というのは数多くは見られませんでした。ですが、今後は地元で上京先の物件を探すといったニーズは増えてくるはずです」と高宮氏は言う。

生活者はこのコロナ禍でオンラインを利用するのが当たり前になった。事業者側はそんなユーザーのニーズに応えていくことで、新たなビジネスチャンスが生まれるはずだ。

LIFULL HOME'Sから予約したオンライン対応物件を、「LIFULL HOME'S LIVE」アプリでオンライン内見・相談する流れLIFULL HOME'Sから予約したオンライン対応物件を、「LIFULL HOME'S LIVE」アプリでオンライン内見・相談する流れ

今後、オンライン対応は事業者側のメリットも

現在は事業所側のメリットが見えにくい傾向もあるが、「今後はメリットが顕著に出てくる」と予想するのが、売買案件を担当する藤原氏だ。

「例えば、一度に多くの戸数を販売する新築物件などでは、オンライン内覧会を“1対多”で行うことも可能になってくると思います。内覧会の様子の動画をアーカイブすれば、販売ツールとして活用することも考えられます」(藤原氏)

「また、IT重説の対応の際には、資格を持つパートさんにその業務だけを担当してもらうなど、人材不足への課題解消にも貢献できるのでは」と「LIFULL HOME'S LIVE」の事業戦略を担う平田氏はオンライン化の推進は社会課題へ対応しうるものだ、と語る。

既に大手のデベロッパーなどでは、VR(仮想現実)を利用したオンライン相談などにより、脱モデルルームを標榜する企業もある。オンラインの対応には主に内見、相談、重説のカテゴリーがあることから、事業者のサポートを行う松尾氏は、「“相談”のみのスタートであっても、段階的にできる対応から模索していく姿勢が重要」としている。

オンライン対応のハードルを下げるサポート体制

オンライン内見のイメージオンライン内見のイメージ

LIFULL HOME'Sではオンライン対応をサポートするための仕組みやサービスを計画している。平田氏によると、サービス導入時にコールセンターで初期設定をこまやかにサポートするほか、使用時の不満点なども吸い上げているそうだ。マニュアルの動画を検討したり、今後は勉強会を企画するなどIT利用のハードルをできる限り下げる努力をしている。

「また、導入後のサポートにも力を入れています。例えば、生活者側が内見で見たいポイントや契約後にクレームになりやすい点などには傾向があります。そうした点をまとめてチェックリストとして提供することも考えています」(平田氏)。

ちなみに期間限定ではあるが、現在LIFULL HOME'S加盟店向けにオンラインサービスの無償提供を行っている。

生活者がオンライン利用の利便性を見出し、自然に使えるようになったアフターコロナの時代、オンラインサービスの拡充の可能性も予測できる。「お部屋探しの新しい常識」になりそうな不動産業界のオンラインサービスは、今後どのように発展していくのだろうか。


※1:
LIFULL HOME'S緊急実施<新型コロナウイルス感染症に対する不動産事業者の意識調査>https://lifull.com/news/17124/
LIFULL HOME'S調査<第2回 新型コロナウイルス感染症に対する不動産事業者の意識調査>https://lifull.com/news/17247/

※2:
「新型コロナウイルス感染症の影響による生活者の住み替え行動に関する調査」
https://lifull.com/news/17436/

※3:住まいの購入や賃貸の契約時には「重要事項説明」を行うことが義務付けられている。従来は宅地建物取引士が対面で説明を行わなければならなかったが、賃貸のみ先行して2017年10月よりパソコンやスマートフォンのIT機器を活用しオンラインでの対応が可能となった。

2020年 07月06日 11時05分