性根を入れて、町おこしに取り組む

かつては山陰を誇る賑わいをみせた商店街「サンロード」。現在は夜からの営業店舗は多いが昼間はシャッターを閉める店がほとんどかつては山陰を誇る賑わいをみせた商店街「サンロード」。現在は夜からの営業店舗は多いが昼間はシャッターを閉める店がほとんど

全国の市町村では、ゆるキャラなどで町おこしが図られているが、全国でもめずらしく「神話」を活かしたまちづくりが行われている場所がある。それが、出雲市の中心市街地となる「今市町」だ。

古事記や出雲風土記に描かれる出雲神話は、この出雲を舞台にさまざまな物語が伝承されている。これを活用し、まちの活性化を図ろうとしているのがNPO団体「シャーネ・エレーテ今市」なのだ。

「シャーネ・エレーテ」はフランス語からとったのかと思わせるネーミングだが、実はこれ、この地方の方言で「性根を入れて(しゃーねえれて)」のこと。本気の気概を表現した名前だ。

今回は、このシャーネ・エレーテ今市にうかがって、神話を活かしたまちづくりの様子を聞いてみた。

山陰NO1商店街も後継者不足が深刻に

お話をうかがった「NPO法人 シャーネ・エレーテ」のみなさん。右から理事長の石橋正吉氏、副理事長 武田睦弘氏、事務局長の持田和枝氏お話をうかがった「NPO法人 シャーネ・エレーテ」のみなさん。右から理事長の石橋正吉氏、副理事長 武田睦弘氏、事務局長の持田和枝氏

「もともと今市町は出雲市の中心市街で商店街なども山陰の中でもNO1を誇っていました」とは、自身もこの地のメイン商店街で呉服店を経営するNPO法人シャーネ・エレーテ今市 理事長の石橋正吉氏だ。

同法人 事務局長の持田和枝氏も賑わいのある商店街の様子を次のように振り返る。「土曜市などが有名でしたが、市の日になれば、商店街のアーケードは肩をぶつけあいながらでないと通れないほどの賑わいを見せていたほどです」

しかし1980年代に入ると、郊外に大型店ができたことなどから徐々に商店街離れが進んだという。メイン商店街の「サンロード」を歩いてみたが、シャッターのおりた店が多く、人通りはほとんどない状況。居酒屋などが多く夜になれば営業をする店も増えてくるのだろうが、昼間の商店街はまさに閑散とした状況だ。

「既に郊外に1つ大型ショッピングセンターがありますが、またもう1つ別の有名ショッピングセンターが近くに出店をするそうです。人口の少ない土地で潰し合いのようなことをしています。サンロードは今市でも一番賑やかな商店街でしたが、昔からある店は後継者がいないことからどんどんと店じまいし、居酒屋など飲み屋になっています。夜の店をやっているのは外部から店に通う人々でこの土地に住んでいるわけではありません。もはや240メートルもあるアーケードの中で小学生が1人もいなくなってしまいました。最後の小学生がウチの孫だったのですが、昨年中学生になってしまいました」(石橋氏)

かつて、山陰でもナンバーワンの賑わいを誇った商店街も、郊外に人口が移るドーナツ化現象が進み、いまでは地元に残っているのは高齢者ばかりという状況。なんとかかつての活気を取り戻せないものかと新しいまちづくりを目指したのがシャーネ・エレーテの始まりだった。

地元民も知らなくなった出雲神話を啓発し、観光客への語り部に

「くにびき中央通り」に並ぶ、出雲神話をモチーフにしたブロンズ像。デザイナーは、鳥取の「水木しげるロード」の妖怪をデザインした方と同一人物だとか「くにびき中央通り」に並ぶ、出雲神話をモチーフにしたブロンズ像。デザイナーは、鳥取の「水木しげるロード」の妖怪をデザインした方と同一人物だとか

性根を入れてまちづくりに挑むには、どうするべきか? 同法人が目をつけたのが「出雲の神話」という他県にはない宝だったと同法人 副理事長の武田睦弘氏は説明する。

「出雲神話は、古事記の神話でも1/3を占めます。また風土記にいたっては、現在5ヵ所で現存していますが全巻揃っているのは出雲風土記のみです。これはまさに出雲の宝といえます。ですが、いまはこうした神話などを地元の人々も知りません。戦後は教科書に載ることもなく、忘れさられてしまったのです」

「そこで、地域の方々に神話に関心をもっていただき、観光客への語り部になっていただきたいと考えたのです」(持田氏)

シャーネ・エレーテでは、まず手始めに出雲市駅から新市庁舎に伸びる「くにびき中央通り」が拡幅整備され観光客の集客に対応できる街並みが整ったことから、この通りに出雲神話を題材にしたブロンズ像を設置。全21体を予定し、現在「スサノオのオロチ退治」「兎を助けるオオナムチ」「ネズミに助けられるオオナムチ」「スセリを背負ったオオナムチ」「黍の穂から跳ぶスクナビコナ」の5体が建てられている。スセリを背負ったオオナムチ像では、二人の愛にあやかって「縁結び」にとこの像に触れにくるカップルもいるそうだ。

このほかにも、同法人では、出雲神話の描かれた行灯(あんどん)の作成を地元の小学校などに要請し、夏の出雲市のキャンドルナイトにあわせ「出雲神灯路」をつくり、地元や観光客へ出雲神話をアピール。さらには「スサノオの誕生」から「国譲り」までの出雲神話のガイドブックや出雲神話のかるたなどを作成し、地元の子どもたちへの啓発活動を行っている。

「戦後、神話は荒唐無稽の産物とされ、単なる空想物語として扱われてきました。ですが、考古学的な発見が進んだこともあり、最近では神話と事実が符号する事例も多くあります。例えば、出雲大社に祀られている『大国主命(おおくにぬしのみこと、もとはオオナムチ)』は、現在の新潟県糸魚川市近辺を統治していた『奴奈川姫(ぬながわひめ)』と結婚をする記述があるのですが、出雲大社近くの「命主社」からは、実際に糸魚川の翡翠を原料とした勾玉が出土しています。つまり、神話に描かれているような出雲と新潟の交流が実際にあったわけです。こうした歴史的事実も踏まえた神話を、まずは地元の人々がきちんと知る必要があるのです」(武田氏)

悪循環の流れを変えるきっかけに

もちろん、神話を活かしたまちづくりといっても、現実問題としての地元の高齢化やドーナツ化現象を止めるのはなかなか難しい。

「数年前に『中央公論』で『壊死する地方都市』というセンセーショナルなタイトルの特集が組まれ売れに売れていましたが、まさにそんな戦慄のシミュレーションが現実化しようとしています。地域の購買力が落ちてくると、商店の後継の若者が家業を捨て会社勤めを選び地元からでていく。そうなると子どもがいない。購買力がさらに落ちる。もうぐるぐると悪循環から抜け出せなくなります」(武田氏)

「すでに、この近辺でもガソリンスタンドがなくなり、ガソリンを買いに何キロも離れた場所に行かなければならない、といったこともおこっています」(石橋氏)

だからこそ、どこでその流れを変えていけるか、まちの魅力を「神話」の力を借りて再定義しようとしているのだ。

神話の認知度は向上、今後は観光客へ向けたアピールを

夏に開催されるキャンドルナイトでは、地元の子どもたちが描いた出雲神話の行灯が道々を照らす夏に開催されるキャンドルナイトでは、地元の子どもたちが描いた出雲神話の行灯が道々を照らす

「まずは、地元の人たちへの神話の認知度というのは確実にあがってきています。断片的にでも出雲神話に興味を持ってもらえるようになってきました。今後は外部の人にいかにアピールしていくか、地元の方々が語り部として力を発揮できる機会をつくれるような施策を考えていきたいと思っています」(持田氏)

出雲神話の舞台になった場所というのは、かなりの広範囲に分布していてなかなか観光客が1度に巡ることは難しい。いっそのこと「くにびき中央通り」に並ぶブロンズ像の後ろにお社でも立てて、四国のお遍路ではないが出雲大社の前の巡礼地として打ち出すのはいかがだろうか?

筆者の単なる思いつきはさておき、ゆるキャラやご当地アイドルなどで活性化を図るケースが多いなか、「神話」というしっかりとしたバックボーンを持つコンテンツがあるだけに、ぜひこの「神話を活かしたまちづくり」には成功を収めていただきたいと思う。

2015年 03月30日 11時08分