約2500年前の弥生遺跡の上に京都大学付属農場という歴史の地

大阪と京都のちょうど真ん中にある高槻市。JR京都線、阪急京都線にはさまれた、どちらの駅からも歩いて10分ちょっという場所に新しい公園が誕生した。安満遺跡公園(あまいせきこうえん)である。約2500年前の弥生時代の環濠集落跡を含む広大な集落遺跡の上に作られており、同遺跡は1993年に国の史跡に指定(その後2011年に追加指定)されている。集落のみならず、水田跡、方形周溝墓が揃う、当時の生活のすべてが分かる貴重な遺跡である。

総面積は約22ha、甲子園球場の5個分と非常に広く、2019年3月にオープンしたのはそのうちの4.1haほど。駅から近い便利な場所にこれだけの土地が手つかずで残っていたのには理由がある。1928(昭和3)年以来、ここには京都大学の付属農場があり、周辺では開発の動きもあったものの、かなりの部分が大きな影響を受けずに残されていたのである。農場の移転が2016年に行われることが決まり、跡地の使い方が検討された。利便性の高い、広大な土地である。住宅地はもちろん、プロスポーツの拠点となるグラウンドなどさまざまな案があったそうだが、市長の強い意向もあり、最終的には防災拠点ともなる公園として整備されることになった。

一次開園したのは両駅に近い部分で、メインエントランスを入ると左手にはサンスター広場、事務所棟、その奥には芝生広場があり、右手にはランチからディナーまでが楽しめるトラットリア、その裏側には駐輪場、駐車場、せせらぎ。正面奥に見える白い塀の向こうはこれから整備される区画である。

左上から時計回りに、公園全体の掲示。まだ、一部しかできていないこと、防災公園であることが分かる。タワーマンションが並ぶ駅から歩いて10分ほど。農業用水を利用したせせらぎも。塀の向こうに再生を待つ建物が見えていた左上から時計回りに、公園全体の掲示。まだ、一部しかできていないこと、防災公園であることが分かる。タワーマンションが並ぶ駅から歩いて10分ほど。農業用水を利用したせせらぎも。塀の向こうに再生を待つ建物が見えていた

民間の商業施設が賑わいの一端

事務所棟には子どもの遊び場があり、それとは反対側にトラットリアが事務所棟には子どもの遊び場があり、それとは反対側にトラットリアが

広さと遺跡、京大農場という歴史に加え、ここには他の公園にないものがいくつもある。まず、見えている、分かりやすいものでいえばトラットリアであり、事務所棟の3分の1ほどを占めているボーネルンドプレイヴィル(子どもの遊び場)である。民間の商業施設が入り、しかも、それが人気スポットになっているのだ。今後、2021年の全面開園時には、1930(昭和5)年に建設され大阪府の近代化遺産にも選ばれているモダンな旧農場本館がレストランになる予定もある。

日本の近代公園制度は1873(明治6)年の太政官布達に端を発しているのだが、その当時は公園が税金で設置、維持・管理されるものという考え方はなく、公園内に料亭や旅館などが存在していた例が少なくない。身近なところでは1903(明治36)年に誕生した日比谷公園内に当初からレストラン「日比谷松本楼」があったのが分かりやすい例だろう。ところが、戦後になり、公共の空間である公園に民間の商業施設が立地するのは公平性の面からいかがなものだろうという考えが一般的になり、長らく、公園はそうした施設のない、空間と訪れる人に必要な施設だけがある場所となってきた。

ところが、近年、それだけで良いのかという議論がある。もっと多機能で幅広い年代の人たちがそれぞれに楽しめる場にすべきではないかというのである。実際、都市公園法も2004年、2017年と改正されてきており、これまでとは異なる公園も少しずつ出てきている。安満遺跡公園はその点での最先端をいく公園なのである。

公園に泊まる!他では開催できないだろうイベントも可能な先進性

施設があるだけではない。他の多くの公園は民間企業主催、あるいは利用料金を取るイベントでは利用できないことが多いのだが、この公園ではそうしたイベントも開催可能。

「企業主催ではトヨタ自動車、BMWなどのイベントが開催されており、2019年11月にはミニクーパーのイベントが開催されました。屋外以外でも事務所棟内にある貸室を利用、スーツの販売会や墓石の相談会、その他に人を集めるイベントなども開かれています。主催者が公園の利用料を支払い、イベント参加者から参加料を取るケースも。少し前に2日間行われたフラダンスイベントでは67組が参加、盛況でした」と指定管理に当たる安満遺跡公園パートナーズの植木孝行氏。

企業主催、有料イベントだけでなく、他の公園ではまず、ほとんど開催されないようなイベントも行われている。これまでに春、秋と2回行われた、公園にテントを張って泊まるというイベントだ。限定50組で参加者がテント持参で集まり、公園に泊まるというものでキャンセル待ちが出たほど希望者が殺到した。公園内なので火は使えないが、キッチンカーが出て食事はそれを利用。ご近所の公園に寝泊まりするという滅多にない経験を楽しんだという。

「普通には危ない、うるさいなどと懸念が先立ち、無難に収めようとすることが多いと思いますが、高槻市の場合、熱意のある担当者の皆さんが前向きで、他でやっていないことにチャレンジしようという気風があります。音楽イベントで周囲の1軒から苦情が出るなど反省したこともありますが、それでも、禁止を前提にせず、まずやってみようと。コンパクトなまちで市長との距離が近く、現場の声が伝わりやすいという背景もプラスに働いているようです」

事務所棟内部。入口にはさまざまなイベントのパンフレットが置かれ、入ったところには絵本の掲示。座ってお茶ができたり、お弁当を広げる家族がいたりと自由な雰囲気。地元産物の販売も行われている事務所棟内部。入口にはさまざまなイベントのパンフレットが置かれ、入ったところには絵本の掲示。座ってお茶ができたり、お弁当を広げる家族がいたりと自由な雰囲気。地元産物の販売も行われている

「市民とともに育てつづける」公園という強さ

事務所棟にはシャワーのあるランニングステーション、工作・調理室、多目的スタジオ、多目的室などもあり、そうした空間を使ったイベントも事務所棟にはシャワーのあるランニングステーション、工作・調理室、多目的スタジオ、多目的室などもあり、そうした空間を使ったイベントも

公園の禁止事項ではよく、ボール遊びが挙げられる。だが、安満遺跡公園では人の多い、事務所棟前の屋根のある人工芝部分では禁止されているものの、それ以外の場所では「周りに注意してやりましょう」。離れた場所には喫煙所もあり、できるだけ禁止を作らないようにしているという。

「公園のような、多くの人が集まり、憩う場では曖昧さ、ファジーさも大事だと思っています。自転車、バイクは禁止ですが、幼い子に自転車の乗り方を教えているお父さんを排除するのが正しいかどうか。公園は管理者がいて苦情を言いやすいこともあり、正論が振りかざされやすい場所です。まちの中で煙草を吸う人に苦情を言う人はいませんが、公園内だと言える。でも、がちがちに禁止事項ばかりの公園で良いのか。考える必要がありますね」

この姿勢は公園全体のハーフメイドという考え方に沿ったもの。最初から全部を決めこんでしまうのではなく、使い勝手を見ながら変えていこう、成長していこうというもので、市のパンフレットは「『市民とともに育てつづける』をコンセプトに」と謳っている。そのため、この公園では行政の担当者、管理者以外に市民が大きな担い手になっている。中心になっているのは2014年に誕生した「安満人倶楽部」。公園誕生前からこの公園をどんな場にするか、どう使っていくかを検討してきた人たちで、テーマごとに9つのグループに分かれて活動するボランティアである。

これからの公園はもっと楽しい、訪れたい場所に

安満人倶楽部への参加を呼びかけるポスター、活動の拠点など。地域の歴史を知り、自然に親しむ良いきっかけになりそうだ安満人倶楽部への参加を呼びかけるポスター、活動の拠点など。地域の歴史を知り、自然に親しむ良いきっかけになりそうだ

安満遺跡公園では毎月20近いイベントが行われているが、そうしたイベントを主催、呼び込む中心となっているのも彼らである。市主催または市がセールスしてのイベントも少なからずあるそうだが、植木氏はそれ以上に市民の力がすごいと感嘆する。

「お月見のイベントでは地元名店の弁当を販売したり、地元高校の天文部と連携したり、自分たちだけではなく、地元を巻き込んだものになっており、その企画力、実行力には驚かされます」

立地、広さ、歴史に加え、行政、市民、管理者が一体となって作り続けていく公園というわけで、それが人を集めないわけはない。子ども連れの若いお母さんはもちろん、高齢者、カップル、若者と幅広い年代の人が集まるようになっており、特に印象的なのは夕方から夜にかけて集まってくる高校生だと植木氏。建物のガラス面を鏡として使い、団体でダンスの練習に励んでいるのだとか。これまでの公園とは違う使い方かもしれないが、社会とともに公園も変わると考えると新しい使い方をする人が生まれるのは歓迎すべきことだろう。

これから2021年の全面開園に向けて工事と同時に使い方、運用の検討も進む。市のパンフレットには大道芸のパフォーマンスや熱気球体験、パークウェディング、キャンドルナイトと楽しそうな公園活用の未来予想図が描かれている。いつ行っても面白いことがある公園へ。高槻市のセントラルパークのさらなる進化を楽しみにしたい。

ちなみに取材時、公園で何がやりたい?という話になり、私は豚の丸焼きパーティーという馬鹿な一言を口にした。言いながら「あ、火はダメだった」と思ったが、植木氏はまじめに「ホントはやる気になればできるんです」と一言。消防署とのやりとりその他面倒は山ほどあるものの、本気でやるつもりなら公園でも豚は焼ける。それを多くの人は知らないし、やりたがらない。でも、ひょっとしたら……。ぜひ、豚を焼いて欲しい。

2020年 01月04日 11時00分