失恋、食の安全、ごみ問題に田舎でのビジネスチャンスが移住を後押し

引っ越した先には誰一人知り合いはいなかったという柏木さん。初日の近所への挨拶やボランティアその他いろいろな活動を通じて人間関係を作っていったそうだ引っ越した先には誰一人知り合いはいなかったという柏木さん。初日の近所への挨拶やボランティアその他いろいろな活動を通じて人間関係を作っていったそうだ

このところ、田舎暮らしを始める人が増えている。といっても中心になっているのは自然の中で子育てをしたいというファミリーや定年退職後の夫婦などだが、すそ野が広がるにつれ、単身で移り住む人も出てきている。今回、取り上げる柏木珠希さんもその一人。千葉県柏市生まれで、その後も勝どきのタワーマンションなど都会暮らしが長く、田舎との接点は全くなかったという、フリーライターの柏木さんだが、2011年に東信州の畑付10DK、築150年という家賃3万円の古民家に引っ越し、田舎暮らしを始めた。

「きっかけとなったのは長く付き合っていた彼氏との同棲解消。別れて出ていくことになり、ふと、私の仕事は東京にいなくてもできると思ったのです。加えて、当時から食の安全が気になっていたので、無農薬野菜を定期的に宅配してもらっていたのですが、梱包資材やらなんやらととにかくゴミが出る。だったら、自分で作れば食とゴミ、2つの問題が解決できるんじゃないかと思いました」。

もうひとつ、その時に聞いた田舎でのビジネスの可能性もヒントになった。「田舎で行列ができるような人気飲食店の多くは移住者がやっていると聞きました。家賃は東京の5分の1、うっかりしたら10分の1と安く、でも、だからといって食べ物の価格はそこまで安くはない。食べる時間はどこでも変わらない。つまり、固定費をあまりかけずに商売ができるわけで、これは面白いかもしれないと考えたのです」。

2008年から2010年にかけて都内で取り壊し予定の民家を借り、古民家カフェをやっていたこともある柏木さん。次にやるなら田舎でやってみてもいいかもと思ったわけだ。

おひとりさま女子ならではの場所選び4条件

借りた家には自分でも手を入れたそうで、遊びに来る友人たちにも手伝ってもらった借りた家には自分でも手を入れたそうで、遊びに来る友人たちにも手伝ってもらった

そんなところに房総と東京で二拠点生活を送っている人と知り合い、まずは住んでみようと千葉県のいすみ市へ。ここには移住者をサポートするNPOもあり、女性のおひとりさま居住も少なくないのだとか。だが、畑付きの農家を探していたため、家探しは難航。仕方なく、アパートを借りて暮らしていたところに東信州で手頃な物件を発見。地縁もない東信州に移住することになった。

「田舎には一軒家の貸家は全くといっていいほどありません。投資を考えるならアパートを建ててしまいますし、空き家はあっても貸す意思がない人も少なくない様子。また、もし、一軒家があってもいわゆる文化住宅というのでしょうか、庭など全くない、コンパクトなものしかありません。私はたまたま、ネットで良い物件を探せましたが、古民家、庭付き、畑付きなどの条件で探すなら、そこに住んでじっくり探すのが手でしょうね」。

畑付きの農家という以外に柏木さんが移住にあたって条件としたのは
①電車や車で2時間ほどで東京に行けるよう、東京100キロ圏であること
②無農薬で栽培している意識の高い農家さんがいること
③すでに移住している人がいること
④すてきなカフェやパン屋さんがあること

の4点。①の東京との距離はその人の考え方次第だが、食に関心があるなら②は大事だろうし、③からはその場所の移住者への許容度が推測できると思う。また、④は女子ならではの観点だが、カフェがあるところには生活を楽しむゆとりのある人たちがいると考えれば、その地域を判断するひとつの指標になるのではないだろうか。

東京2時間圏なら朝スノボ、午後から東京でコンサートも可能

住んでいるところはそれほど雪は降らないそうで、雪かき不要なところが女子向きとか。でも、車で30分も行けばこの世界である。羨ましい住んでいるところはそれほど雪は降らないそうで、雪かき不要なところが女子向きとか。でも、車で30分も行けばこの世界である。羨ましい

さて、田舎での暮らしはどんなものなのだろう。一人、地縁のない場所で暮らすのは都会でも大変。それが田舎となると、さらに大変という気がするが、柏木さんは飄々と田舎暮らしの楽しさを挙げてくれた。

「なんといっても食べ物がおいしいし、静かでよく眠れます。インターネット、宅配便のおかげで生活はそんなに不便ではありません。人間関係は都会に比べれば濃いのかもしれないけれど、今住んでいる場所は排他的ではないのでそれほど気にはなりません。元からの、都会に住む友達ともSNSのおかげで会っていないけれど、いつも会っているような感じで、リアルに会わなくても問題はないですね」。

とはいえ、最初にいすみ市に引っ越した時にはツィッターを通じて流れてくる東京の友人たちの華やかな暮らしを羨ましく感じ、鬱な気分になったこともあると柏木さん。「寂しいというのではないのですが、隣の芝生は青く見えるんですよね。しばらくしたら、気にならなくなりましたが」。

また、東京からドアツードアで2時間弱とそれほど遠くない場所なので、午前中スノボをして、午後から東京に出て、夕方コンサートを楽しんで帰るというような楽しみ方もできるそうで、これは聞いているだけで羨ましい。「いすみ市の時には朝、サーフィンをしてから都会に通勤している人たちもいました。アウトドアの趣味のある人なら田舎暮らしは楽しいですよね」。

依存心の強い人には田舎暮らしは向いていない?

元々食の安全、ごみなどに関心があったため、保存食品のみならず、手作りできる様々な食品を作ってみたそうだ元々食の安全、ごみなどに関心があったため、保存食品のみならず、手作りできる様々な食品を作ってみたそうだ

もちろん、大変なこともある。「信州は夏は涼しいので、ほぼ毎日のように友達が遊びに来ていて楽しいのですが、11月以降春まではとても寒いので、誰も来なくなります。寝ていて自分の息が白くなるほどですから、そういうのが苦手な人は辛いでしょうね」。

寒さでいえば冬の水道管破裂対策も忘れてはならない作業。「普段は凍結防止帯を水道管に巻いて電気を流し続けなくてはいけませんし、長期不在にする時には水を抜いておかないといけないのですが、それを知らずに破裂させたことが2回ほど。一度は給湯器の中の水が貯まる部分が破裂、2週間ほどお風呂に入れなかったことも。そんなことが起きると自分で修理の手配をしなければならないので、けっこう手間もかかります」。都会にいると誰かがやってくれることも田舎では自分でやらなくてはいけないのである。

家の中でも事情は同じ。「想像できると思いますが、虫が多いんです。そして自分で退治しなければ誰も退治してくれない。私は蛙が大嫌いで、見るだけで気持ち悪くなってしまうんですが、それでもつまんで出さなければいつまでも家の中に居座られる。田舎に住んで強くなりましたよ」。もちろん、都会でも虫は出るが、田舎では頻度が違うし、むかでのように刺すものもいる。誰かになんでもやってもらいたいという依存心の強い人には田舎暮らしは難しいかもしれない。

また、意外に大変なのはご近所からもらう大量の野菜。「もらえるなんて羨ましいと思われるかもしれませんが、一人暮らしに何百個ものミニトマトは厳しい。その分、保存食品の作り方には詳しくなりましたが」。

選り好みしなければ仕事も、出会いのチャンスも

正式に農業をやる場合にはいろいろな手続きが必要になるが、自分が食べるくらいを作る程度ならなんとかなることも多いとか。東京から訪れる友人にも手伝ってもらい、畑作りも正式に農業をやる場合にはいろいろな手続きが必要になるが、自分が食べるくらいを作る程度ならなんとかなることも多いとか。東京から訪れる友人にも手伝ってもらい、畑作りも

柏木さんの場合、フリーランスで、かつ東京に常時いなくてもできる仕事であり、移住しても問題は少ないが、会社勤めの人の場合にはそうもいかない。だが「いすみ市のNPOの方に伺ったところ、大きな会社が少ないので正社員の口は少ないものの、派遣、パートの仕事はあり、また、自宅で起業という例もあるようで、都会にさほど遠くない田舎であれば仕事はあります。私も地元のハローワークで求人を探してみましたが、けっこうあってびっくりしたほどです」。

もちろん、収入は減るが、その分、家賃や食費、交際費などは減るので、生活の質が落ちることはないと柏木さん。「家賃が安いのはもちろん、野菜はもらったり、自分で育てたりできるので、食費は安くなりますし、徒歩圏に飲食店が少ないので車で行かざるを得ないのですが、そうすると飲めないのでウチで飲んで食べることになり、交際費、娯楽費も減りました。おしゃれして出かけるところが少ないので被服費も減。ただ、車とインターネットは必須なので、車関連の支出と通信費は増えました」。

ちなみに柏木さんの1カ月の生活費は13万円ちょっと(冬には光熱費が1万円アップ)。これならパートなどの仕事でもなんとかなりそうだ。

もうひとつ、おひとりさま女子なら出会いのチャンスがあるかどうかも気になるところ。地元の女子たちに聞いてみたところ、街コンや紹介など、意外に出会いのチャンスはあるのだとか。「たくさん人のいる都会にいても出会わないと言う人は多いので、住む場所とチャンスは関係ないと思います。ただ、大企業に勤める人で、収入がこのくらいでと言い始めると難しい。仕事同様、選り好みせず、実質で考えれば田舎にいても十分出会えるのだと思いますね」。

虫が大嫌いだったり、運転が苦手など、いくつか田舎暮らしには不向きと思われる人もいないではないが、食いしん坊だったり、モノをつくる過程を楽しめるような人なら田舎暮らしは楽しいと柏木さん。アパートを借りてのお試し居住から始めれば、おひとりさま女子でもなんとか実現できそうだ。


■取材させていただいた柏木さんの移住体験記
おひとりさま女子の田舎移住計画(書籍)

2015年 01月22日 11時06分