宿泊という枠を超え、ゲストハウスの可能性を探る3日間
2019年2月15~17日の3日間、東京駅近くにあるtravel hub mix(トラベル・ハブ・ミックス)において、「ゲストハウスサミット2019」が開催された。全国のゲストハウスのオーナーやゲストハウス好きの一般参加者も含め、延べ800人が集まった。
1日目は、「オーナーズセッション」で、ゲストハウスのオーナーのつながりを構築したり連携について話したりするクローズドの会合が行われた。さまざまなゲストハウスが行っている先進的な取組みや日々の運営での悩みの共有と、その解決策が検討された。
2日目と3日目は、一般参加も可能な「オープンセッション」で、3つのステージで全24のセッションが行われた。
セッションごとに、「ゲストハウス×地方創生」「ゲストハウス×観光」、ほかにも民泊、アドレスホッピング、防災など、ゲストハウスとかけ合わせたテーマを設定。主催者によれば、宿泊という枠を超え、ゲストハウスの魅力や可能性をより多くの方に知ってもらうことを目指したそうだ。
各セッションにはその道の専門家が登壇し、多彩なディスカッションが展開された。その中から今回は、「ゲストハウス×地方創生」についてのセッションを中心に紹介したい。
古民家を中心としたコミュニティづくりで田舎に人を集める
「ゲストハウス×地方創生」のセッションには4名が登場。シェアビレッジの武田昌大村長、シティプロモーションに取組む株式会社フラクタルの亀岡勇人代表取締役、会場を提供した株式会社パソナの加藤遼ソーシャルイノベーション部長、そしてよんなな会主催で神奈川県庁勤務の脇雅昭氏と、いずれも第一線で活躍する方々が、各自の活動のプレゼンテーションとパネルディスカッションを展開。ファシリテーションは、事務局の一員で自らもゲストハウスなどを運営する柚木理雄氏が担当した。
最初に登壇した武田氏は、自身の出身地である秋田県からスタートして全国展開を目指している「シェアビレッジ」というコミュニティについて紹介した。
「シェアビレッジを始めたきっかけは、故郷である秋田県の将来への危機感からです」と武田氏。
氏によると、秋田県は行ったことがない県ランキングで全国1位で、県の公式Facebookページのユーザー数は全国で一番少ない。少子高齢化率も全国1位で、人口は7ヶ月で1万人も減っており、このままいくと100年以内に0人になる計算だという。
一方で、火の縄をまわす「火振りかまくら祭り」、紙ふうせんに蝋燭をつけて空に上げる祭り「紙風船上げ」など、全国には知られていないが魅力的なコンテンツがあり、観光資源は多い。
全国の人たちと田舎を結ぶコミュニティづくりによって、こうした地域のことを知ってもらえる機会をつくろうと考えた武田氏。「ニッチな場所にあるリッチな田舎をつなぎ、新しい村をつくる」ことを目指して、古民家を村に見立てて再生させていくプロジェクトとして、シェアビレッジを立ち上げたそうだ。
シェアビレッジでは、どこに住んでいても、年会費の3,000円を支払えば村民(会員)になれ、好きな時に自分の村(=古民家)を訪れることができる。ちなみに年会費のことを「年貢」、古民家を訪ねることを「里帰」、音楽イベント等のフェスを開くことを「一揆」、都市部での飲み会を「寄合」と呼ぶなど、遊び心を持たせている。
第一の村として、秋田県五城目町で茅葺き屋根の築136年の古民家を活用。この古民家は厳密にはゲストハウスではないが、シェアビレッジの拠点となっており、会員のみ宿泊が可能だ。
さらに第二の村として、香川県仁尾町の古民家活用がスタート。この2軒を含め、全国に合計12拠点の開設が進行中だ。
ゲストハウスを通じて地方の「本当のファン」をつくっていく
亀岡氏は、成田空港にカプセルトイを導入した企画マンだ。外国人旅行客が帰国時にポケットが小銭でパンパンになって困っていた課題を解決した。小銭は、推定毎年250億円が海外に流出しているという話で、現在は、10の空港に置かれ、約2億円の売り上げになっているそうだ次に登壇した亀岡氏は、アイデア次第で、ゲストハウスを中心とした地方の活性化が可能だと言う。
人口減少の時代、国内マーケットは小さくなるばかりだが、「マスではなく、一人でもよいので本当のファンをつくっていくことが、今後の重要なポイントだろう」と亀岡氏。具体的な事例として、柚木氏が代表を務めるゲストハウスLittle Japanと株式会社フラクタルとの共同事業である、都内の「蔵前 Local Lounge」の例を挙げた。
「蔵前 Local Lounge」とは、自治体の担当者を招いて地域の現状や課題を来場者に対してプレゼンしてもらい、来場者と共に語り合うことで、地域内では生まれにくいアイデアを導き、地域課題の解決につなげていくという取組みだ。
その中のイベントの一つで、昨年末には秋田県から羽後町企画商工課の佐藤正和氏を招き、地域の課題解決について都内の人々と語り合った。参加者は羽後町とは縁がないにもかかわらず、とことん本気で意見を出しており、亀岡氏や佐藤氏は期待以上の手応えを感じたという。その後、参加者と現地に赴く機会があり、羽後町との関係性ができ、現地との交流を増やすきっかけにもなったそうだ。
また別の企画では、ある地域おこし協力隊とのプロジェクトがあり、現地の拠点になったのが農家の方々やその奥さまたちの寄り合い所になっているゲストハウスだった。イベント当日、そこに集まってもらって、東京の「蔵前 Local Lounge」とネット中継をつないだ。東京サイドではその地域から駆けつけた人が、地元の食材で料理をつくり、地元の方と東京サイドとの対話の場を持った。そんな体験によって、東京の参加者と地元との垣根がなくなり、その地域を好きになるきっかけにも貢献。亀岡氏は、「交流の場があることで、イベントを点として終わらせず、その後、都内の人々が地域を訪ねて特産品の収穫を手伝うなど、新しい関係づくりができます」と言う。ゲストハウスは、そのためのハブになれるのだ。
ゲストハウスは「人が出会える場所」
4名のプレゼンテーションの後、パネルディスカッションが行われた。柚木氏の「ゲストハウスと地方創生の可能性はあるのか、ズバリいかがでしょうか?」との問いかけに対し、パネリストからは多彩な意見が飛び出した。
「シェアビレッジは、ゲストハウスではありません。ある意味、ゲストハウスの先をいっているのかなと思います」と話したのは武田氏。
「宿は、観光地やその近隣での宿泊が目的ですが、シェアビレッジには『村民』というコミュニティがあり、単に泊まって地域にお金を落としてもらうだけではなく、地域に足りない労働などもする。これは『助太刀』と呼んでいるスキルシェアなのですが、それが地方創生にもつながると考えています。具体的には、村民が古民家の茅葺き屋根を復活させる作業を行ったことや、地元の朝市のポスターのデザインをしたこともあります。小さな地方創生をしていると言えるでしょう」と、シェアビレッジで既に行っている活動を紹介した。
加藤氏は、「徳島県美馬市の『うだつの町並み』にゲストハウスがあるのですが、そこのオーナーと仲良くなって一緒に会社をつくり、新しいプロジェクトを立ち上げました」と話す。
「その方には、徳島の文化、歴史、地域課題などを教えてもらいましたが、実は徳島には世界最先端のテクノロジーがあるなど、訪ねるたびに学ぶことがあった。このように、ゲストハウスに宿泊することで、人との出会いがあり、気が合えば『一緒に何かやろう』ということもある。普通の旅ではこんな出会いはなかなかありません。出会いの拠点となるゲストハウスはエキサイティングな場所ですね」
加藤氏の言うように、旅から仕事につながることもある。例えば、5~10人ぐらいの小規模な会社がもっと規模を拡大したいと思っても、地方では人材が足りないということが起こりうる。そんなとき、スキルのある旅人がいれば、一緒に事業を行える可能性もあるのだ。日本で労働人口が減っているなか、地方でフルタイム雇用できる人材を探すのは難しいのが現状だ。そんなときに、ゲストハウスを利用する旅人が増えれば、協業するという選択肢も増えるだろう。
地域のハブであり、集まって楽しめる空間がゲストハウス
「地方創生には、東京への人口の一極集中を分散化して、地域経済を活性化させるというお題目がある。いろいろな自治体とイベントやシティプロモーション戦略を練るなかで、宿泊が観光入込客数を増やすキーになると感じています」
亀岡氏はそのように話し、
「宿泊は地方創生の重要なポイントであり、ゲストハウスはその最前線です。滞在する地域に対して興味がある人々が集う場所で、その空気感は前向きな意見が出てくる場だと思います。ゲストハウスには異業種の人材が集まってきて、本気でまちのことを考えてアイデアを出してくれる。仕事、友達、家庭以外の語り場として、自分の強みを活かして世の中に役立ちたいという人が集まってくるコミュニティなのだと思います」とゲストハウスの果たす役割について述べた。
地方公務員である脇氏は、「自治体のイベントを公民館などで開催すると場が固くなってしまいますが、ゲストハウスでは、大いに盛り上がります。昨年、浅草のブンカホステルトーキョーで開いたイベントはまさにその好例でした。これは非日常的な空間であり、ワクワクする場所だったことや、照明、音響、内装など、五感に訴える要素が多かったのが良かったと思います」と、ゲストハウスを活用したイベント開催の経験を話した。
「私は公務員には無限の可能性があると思っています。公務員は全国に約330万人いて、人口の2~3%を占めます。そのうちの1%でもやる気になれば、世の中は良くなると思う。やる気になる仕組みとして、地方公務員と中央省庁で働く官僚をつなぐよんなな会を立ち上げ、イベントも開催しています。よんなな会のイベントとゲストハウスの相性もいいと思う。企業とのコラボも広がってきているので、ゲストハウスとのコラボの可能性も楽しみですね」
1時間半に及ぶゲストハウスと地方創生をテーマにしたセッションを通じて、ゲストハウスが地域のハブとして、地方創生に貢献できる可能性を感じた。今回は地方自治体からの参加者もいて、参考になったという声もあった。今後のゲストハウスの進化も楽しみだ。
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