秋田県の過疎のまち、五城目町ではじまった『シェアビレッジ』

「年貢を納めると村民になれる、村の寄り合いや一揆にも参加できる」
そんなシェアビレッジが、いま都会で暮らす若者たちを中心に人気を集めている。

今回取材した『シェアビレッジ町村(まちむら)』は、 秋田県中央部に位置する南秋田郡五城目町 町村地区の小さな集落のなかにあった。

築133年の茅葺屋根の古民家そのものを“ひとつの村”に見立て、『年貢』=年会費を納めた人たちを“村民”と呼び、『寄合』=飲み会を開いたり、年に一度の『一揆』=フェスをおこなって、県外から多くの人たちを集める場所にする…この何ともユニークな仕組みを考えたのは、地元秋田県出身・東京在住の元ゲームプランナーだ。

▲秋田駅・秋田空港から車で約40分。秋田市北部にある五城目(ごじょうめ)町は、<br />520年続く五城目朝市で知られる人口1万人の町。<br />今回訪れた『シェアビレッジ町村』は朝市発祥の地である町村地区にあり、秋田県の農家民宿として登録されている。<br />面積982m2の広大な敷地の中に、まるで昔話から抜け出したような茅葺屋根の古民家が残されており、<br />3,000円の年貢を納めた村民は一泊3,000円で宿泊施設として利用することができる。<br />取材時には、庭のあちこちに春を告げるつくしやふきのとうが顔を出していた。夏には野菜も収穫できるという▲秋田駅・秋田空港から車で約40分。秋田市北部にある五城目(ごじょうめ)町は、
520年続く五城目朝市で知られる人口1万人の町。
今回訪れた『シェアビレッジ町村』は朝市発祥の地である町村地区にあり、秋田県の農家民宿として登録されている。
面積982m2の広大な敷地の中に、まるで昔話から抜け出したような茅葺屋根の古民家が残されており、
3,000円の年貢を納めた村民は一泊3,000円で宿泊施設として利用することができる。
取材時には、庭のあちこちに春を告げるつくしやふきのとうが顔を出していた。夏には野菜も収穫できるという

解体寸前だった茅葺屋根の古民家を守るために思いついたアイデア

▲『シェアビレッジ町村』村長の武田昌大さん。「村長のキャラクターにぴったりだと思って」と着用しているどてらは、シェアビレッジ滞在中の武田さんの村長服だ。秋田愛に溢れる武田さんだが、現在も東京暮らしで月に数回秋田~東京を往復する生活を続けている。「都会のひとたちが何を考え、何を欲しているのか、最新の情報をキャッチして地元に持ち帰るために東京で暮らしています」と武田さん▲『シェアビレッジ町村』村長の武田昌大さん。「村長のキャラクターにぴったりだと思って」と着用しているどてらは、シェアビレッジ滞在中の武田さんの村長服だ。秋田愛に溢れる武田さんだが、現在も東京暮らしで月に数回秋田~東京を往復する生活を続けている。「都会のひとたちが何を考え、何を欲しているのか、最新の情報をキャッチして地元に持ち帰るために東京で暮らしています」と武田さん

「小さな頃から東京に出るのが夢だったので、大学卒業後は東京のゲーム会社に就職してプランナーとして働いていたのですが、25歳の時の正月だったでしょうか?久々に秋田の実家に帰省したら、街のなかに人がいない…お店のシャッターは閉まっている…うちの地元、大丈夫か?!と心配になったことがそもそものきっかけでした」。

『シェアビレッジ町村』の発起人で、村長を務めている武田昌大さんは現在31歳。

“地元のために何かをしたい”という想いに駆られて調査活動をおこなううちに、同じ志を持つ農家の若者たちと出会い、単一農家100%の純米あきたこまちをブランディングして販売する通販サイトを起ち上げた。

「通販サイトの名称は『トラ男』。トラクターに乗った男前集団、略して『トラ男』です(笑)。ゲームプランナーの仕事に携わっていたので、ストーリーやキャラクターを作ることは僕の得意分野なんです」と語る通り、武田さんのアイデアには元ゲームプランナーならではのセンスが各所に光る。

「秋田県は、100年以内に人口がゼロになるかもしれないと言われるほど人口減少が著しい地域です。それに危機感を感じて、都会と田舎の人々が交流できるような拠点を秋田に作りたいと考えていたところ、たまたま『トラ男』を通じて知り合った方から“五城目にすごい古民家がある”と聞いて視察に訪れました。そこで出会ったのが、町村の集落に建っていた築133年の茅葺屋根の古民家だったのです。“茅葺屋根を補修するのに年間300万円ほどかかり、維持費が厳しいのでそろそろ解体しようと思っている”という70代のオーナーさんの話を聞いて、これはマズイぞ!とショックを受けてしまって…古き良き日本の暮らしが残る家、そして、日本の田舎の原風景を次の100年先まで残したいと真剣に思いました」と武田さん。

どうしたらあの古民家を残すことができるのか?秋田から東京へ戻る夜行バスの中で、次から次へと頭の中に思い浮かぶアイデアを一睡もせずにまとめあげた。その結果たどり着いたのが、シェアハウスではなく、民泊でもない、『シェアビレッジ』という新しい発想だった。

「年間300万円の維持費を捻出することができれば、建物を残すことができる。でも、一人で300万円を支払うのは難しいので、多くの人たちでちょっとずつ払うためには何をすれば良いのかを考えました。すると、村・村民・年貢・一揆・寄合というキーワードが頭の中に浮かんできて、多くの村民が集まってひとつの村をつくるという『シェアビレッジ』のアイデアが生まれました。居ても立ってもいられず、翌週また秋田に戻ってオーナーさんにプレゼンをしたところ、“この家を残してくれるなら”と、ご理解いただいたのです」(武田さん談)。

「わしも年貢を納めたい」と訪ねてくる地元のお年寄りも

『シェアビレッジ町村』の村民は、クラウドファンディングサイトを通じて募集がおこなわれ、わずか3ヶ月で目標額である100万円を大きく上回る571万7,000円の『年貢』を集めた。

『村民』や『年貢』というキャッチーなネーミングも功を奏したのだろう。SNSでの拡散効果は絶大で、村民の中心となっているのは20代~30代後半の若い世代。中には、村民となったことをきっかけにして五城目で働きはじめた若者や移住を決断したファミリーもいるという。

「当初、地元の方たちの反応としては賛否両論ありました。“本当にこんなところに都会から人が来るのか?”と半信半疑だったと思いますが、2015年5月の村開きのイベントでは、全国から100人の村民たちが集まり、8月の一揆には300人が集まりました。エリア人口が150人のところに倍の人数が訪れたものですから宿泊施設が足りず、地元の方たちに宿を提供してもらいました。地元テレビ局も全局取材に来たので、その盛り上がりを見てみなさんビックリしていましたね。最近では近所のおじいさんが3,000円を握りしめて、“わしも年貢を納めたい”と訪ねてきてくださったり…都会の若者たちと交流する時間を楽しいと感じている高齢者の方も多いようです」(武田さん談)。

▲昔懐かしい土間にはまだちゃんと使える竈があり、ここでご飯を炊くこともある。<br />宿泊は基本素泊まりとなっているが、台所を利用することができるため、<br />宿泊者が朝市で買った食材や庭の畑で採れた野菜などを持ち寄ってご飯を作り、皆で朝食・夕食を共にする▲昔懐かしい土間にはまだちゃんと使える竈があり、ここでご飯を炊くこともある。
宿泊は基本素泊まりとなっているが、台所を利用することができるため、
宿泊者が朝市で買った食材や庭の畑で採れた野菜などを持ち寄ってご飯を作り、皆で朝食・夕食を共にする

シェアビレッジ2村目は四国・香川で開村!今後は全国で展開予定

▲居間や台所を含む全9部屋のうち、2部屋が男女別の宿泊専用和室。寒さが厳しい冬場は利用者が減少するが、夏休みシーズンにはほぼ連日稼動しているという。チェックイン・チェックアウトなどの宿泊手続きは『家守』と呼ばれるスタッフが対応してくれる▲居間や台所を含む全9部屋のうち、2部屋が男女別の宿泊専用和室。寒さが厳しい冬場は利用者が減少するが、夏休みシーズンにはほぼ連日稼動しているという。チェックイン・チェックアウトなどの宿泊手続きは『家守』と呼ばれるスタッフが対応してくれる

こうして誕生した『シェアビレッジ町村』は、優れたコミュニティデザインと地域づくりが評価され『グッドデザイン賞2015』を受賞した。その成功を受けて、いま武田さんの元には全国の過疎化地域から地元の古民家を活用したシェアビレッジ展開の依頼がきているそうだが、実際に現地を視察してみると展開が困難だと感じるケースも多いという。

シェアビレッジ開村に向いている地域とそうでない地域の違いはどこにあるのだろうか?

「シェアビレッジに必要な最大の条件は『その場所が地域の原風景であること』です。単に古民家があれば良いというわけではなく、家も、まわりの景色も、食文化も、歴史も、その地域のものがちゃんと残されていることが大切ですね。そしてもうひとつ、どうしても欠かせないのは『地元の若者たち』の存在です。地元を何とかしたいという情熱を持った若者たちがいるからこそ、はじめて都会と田舎の橋渡し役を担うことができ、シェアビレッジが成り立つのだと思います。これから減っていくばかりの古民家を“守りたい”という使命感と、エンターテインメント的な楽しさの両方を、地元の方たちと分かち合っていけると良いですね」(武田さん談)。

武田さんのお眼鏡にかなった2村目は、四国の香川県三豊市仁尾町。『シェアビレッジ仁尾』が2016年5月21日に開村予定だ。『シェアビレッジ町村』ですでに年貢を納めている人は、新たな年貢は不要で『シェアビレッジ町村』同様に仁尾でも宿泊利用が可能となる。

全国100万人の村づくりを目指して

現在の村民数は1,200人。全国47都道府県中43の地域から集まっており、「シェアビレッジの村民になったことで、もうひとつ故郷が増えたような気がするからうれしい」という感想が多く聞かれるそうだ。シェアビレッジを訪問できない期間には、東京をはじめ都会で暮らす村民たちが集まる定期飲み会『寄合』を各地で開催するなどして、都市部でも村民同士のネットワークが広がっている。

「次の3村目ですか?ふふふ…すでに構想はまとまっているのですが、詳細はまだ秘密です」と、いたずらっ子のように微笑んだ武田さん。今後は全国の古民家を『村』に変えながら、“100万人の村づくり”を目標にして過疎化地域の活性化に取り組んでいく。

■取材協力/シェアビレッジ町村
http://sharevillage.jp/

▲取材時は旧暦のひな祭りに合わせてお雛様が飾られていた。<br />築133年の古民家を宿泊施設として登録するためには、水まわりの改修と痛んでしまった茅葺屋根の補修が必要だったが、<br />外壁や間取りについてはリノベーションはおこなわず、本来の姿のままで残されている▲取材時は旧暦のひな祭りに合わせてお雛様が飾られていた。
築133年の古民家を宿泊施設として登録するためには、水まわりの改修と痛んでしまった茅葺屋根の補修が必要だったが、
外壁や間取りについてはリノベーションはおこなわず、本来の姿のままで残されている

2016年 05月12日 11時08分