地域に貢献できる土地活用とは何か

建設中の風景もすべて公開するというのが鵠ノ杜舎。竣工は2017年9月末を予定している建設中の風景もすべて公開するというのが鵠ノ杜舎。竣工は2017年9月末を予定している

湘南・藤沢は、かつて藤沢宿と呼ばれた東海道6番目の宿場町で、門前町として栄えていた。全国にも名の知られた江の島をはじめ、海岸も多く有し、訪れる観光客は年間1,300万人を超える。

藤沢市は海が豊かなまちでありながら、少し離れると閑静な住宅街に畑が多く広がる光景も見ることができる土地で、今回訪れたのは「神明さん」と親しまれている鵠沼皇大神宮が見守るあたり。そんな場所に地域を巻き込んだ新たな賃貸コミュニティが誕生する。
そこは『鵠ノ杜舎(くげのもりしゃ)』という名前が付けられた。

「名付けの理由はまず、地名である鵠沼(くげぬま)の"鵠"から。そして湘南といえば海ですが、ここはむしろ山に近く、農地も多い場所なので、木がたくさん茂っています。あわせてここに多くの人が集うイメージを"杜(もり)"とし、『鵠ノ杜』としました」
そう語るのは株式会社ブルースタジオの大島芳彦氏。まだ建設中の敷地を案内していただきながら、鵠ノ杜舎についていろいろとお話を伺うことができた。

この土地は、もともと畑だった。元のオーナーが土地の売却を考えた時に、どこにでもあるような集合住宅やまちにとって安心できないものは作りたくない。作るなら地域景観にも配慮し、地域に寄与できる形で利用してもらいたいと、ユーミーらいふグループ(以下ユーミー)に相談した。
ユーミーは湘南エリアに管理物件を多く持つだけでなく、地域やまちづくりにも精通している会社。コミュニティ形式も含めた家づくりを得意とする株式会社ブルースタジオと共に湘南・大磯の「稜文舘」なども手掛けている。どちらもその地域をよく理解し、その地域に寄り添ったものを作り上げることに力をいれている会社である。
ユーミーの進める「まちと共に生きる」というコンセプトに賛同したオーナーは、土地を任せることにした。こうしてユーミーとブルースタジオが再びタッグを組み、新たなプロジェクトが始動したのである。

人と人をつなぐ路地

今回お話を伺った、株式会社ブルースタジオ 専務取締役の大島芳彦氏(右)と、施主である株式会社湘南ユーミーまちづくりコンソーシアム 代表取締役の西山和成氏(左)今回お話を伺った、株式会社ブルースタジオ 専務取締役の大島芳彦氏(右)と、施主である株式会社湘南ユーミーまちづくりコンソーシアム 代表取締役の西山和成氏(左)

鵠ノ杜舎の大きな特徴は、コミュニケーションに比重を置いているというところだ。

「アパートのような場所は、人との関係性が希薄になりがちです。住人同士だけでなく、家を持っている地元住人(一戸建て)と新住人(賃貸住宅)では、ことに関係性を持ちにくい。

特に湘南エリアというのは、まちに対して強い想いを持っている住民が多い。それは憧れだったり、アイデンティティーだったり、プライドだったりと様々です。それは同じ湘南でも、藤沢と大磯じゃまったく色も違うんです」

そういうまちは、地域コミュニティに新しい人の入りにくい環境が形成されがちだという。鵠ノ杜舎では、建設の段階からすべての工程を見えるようにすることで地域とのコミュニケーションを図り、距離を近づけている。
そんな住人だけでなく地域とつながるための工夫は、敷地全体に広がっている。

「通路と路地の違いってわかりますか?通路は点と点を結ぶただの動線だけど、路地は人が集まるんです。立ち話をしたり、子どもが遊んだり、そういうコミュニティの場所でもあります。だからここ(建物の間に伸びる道)は通路ではなく路地です。路地は庭であり"まちなみ"なんです。交差点は広場。住民だけでなく近所の人がいつでも遊びにこれるように、鵠ノ杜舎には門を設けません」と大島氏。

周囲を高校、小学校、保育園に囲まれた立地をみても想像がつくように、このあたりはファミリー層が多い。市でも子育て支援事業には力をいれており、ファミリー層が暮らしやすいまちともいえる。鵠ノ杜舎を、子どもが多いこの地域の遊び場にしたい。そんな願いが込められていた。

心地よく暮らすために配慮されたデザイン

住居になる建物は、1LDKと2LDKからなる木造テラスハウス。今回は4棟13戸が完成する。秋の竣工に向け工事が進んでいる、モデルルームを拝見した。

部屋に一歩入って驚いた。空調が一切入っていないにも関わらず、涼しく感じる。折しもこの日は梅雨時でありながら、30℃を超える晴天で蒸し暑い日だった。玄関から窓まで風が通る設計になっており、建物の外が畑であることも手伝って、吹き抜ける風がとても心地よい。玄関は引き戸で、開け放ちやすいのが特徴だ。
玄関前のデッキスペースも広くとられている。椅子やテーブルを置いてくつろぐだけでなく、コミュニティスペースとして利用できる。

大島氏は「玄関は正面の建物と向かい合うようにデザインしています。今日みたいな暑い日は開けたくなるでしょ?こうやって玄関を開けておくことでお隣と顔を合わせやすくなるから。日本は南向き信仰が強いけれど、それにこだわるよりもコミュニケーションを取りやすい環境にしたほうが生活環境は改善します。これは災害時の仮設住宅のような場所でも結果が出ています」と説明してくれた。

さらにこの家は、入居者による居住スペースのカスタマイズも歓迎している。もしカスタマイズの方法に困っても、大家さんに相談すればよい。
「施工している株式会社marukanさんは、施主であるユーミーさんの子会社なんです。だから『大家=大工』と言わせてもらっています」
と大島氏が言うように、大家さんは大工さんでもあるため、細部までサポートしてもらえるのだ。建物を熟知したプロが直接相談に乗ってくれるのはなんとも心強い。DIYが難しい場合、カスタマイズを依頼することも可能だとのこと。より「自分らしい暮らし」の実現が近づきそうだ。

2LDKタイプの室内は63.12m2の2階建て。床は岡山西粟倉産のヒノキを使用。(左上)1階は風の吹き抜けるリビングとキッチン。(右上)2階へ続く螺旋階段。(左下)2階の部屋は大きな窓で天空光を活かしながら、直射日光が入らないことで過ごしやすい環境。(右下)寝室は天井を高くとり、広さを感じる設計2LDKタイプの室内は63.12m2の2階建て。床は岡山西粟倉産のヒノキを使用。(左上)1階は風の吹き抜けるリビングとキッチン。(右上)2階へ続く螺旋階段。(左下)2階の部屋は大きな窓で天空光を活かしながら、直射日光が入らないことで過ごしやすい環境。(右下)寝室は天井を高くとり、広さを感じる設計

地元愛あふれるイベントの開催で、地域とつながる

取材の当日は、夏まつり「鵠ノ杜とれたて市」の開催日。過去に行われた餅つき、棟上式と数えて、鵠ノ杜舎では3回目のイベントである。
地元で採れた「湘南野菜」の直売や、marukanの大工さんに竹細工を教わるワークショップ、カブトムシの販売など盛りだくさんな内容。モデルルームの内覧者だけでなく、近所の人も多数訪れて賑わっていた。ちなみにカブトムシはユーミーのオフィスで、スタッフが繁殖させたものなのだとか。
鵠ノ杜ではこういったイベントを重ねて見せることで、場所を作るという過程を含めたすべてを公開している。

この日の目玉は、流しそうめんならぬ"流しうどん"。
コミュニティスペースである路地に設置された竹製のレーンは、大工さんの手によるものだ。この立派な竹を提供してくれたのは周辺地域の地主さんである。
威勢のよい掛け声とともにうどんが流されると、周囲からは歓声が上がった。流されたうどんを、竹を切った器でいただくという趣向。
イベントを主導するのも大工さん。パワフルにどんどんうどんを流していく。こうしたイベントを通じて、施工者の顔が見えるというのも「建てるところからすべて見せる」というコンセプトに沿っている。

みんなで美味しくいただいたこのうどんは、藤沢産の粉を使っている。マルシェの出展者も湘南で活躍する人々で、普段から湘南地域を回る活動をしているのだそう。イベント全体が地元愛に包まれていて、地域とつながる鵠ノ杜舎らしいイベントになっていた。

(左上)明るい大工さんたちの主導で大いに盛り上がる流しうどん。(右上)獲れたての無農薬野菜が手に入るマルシェ。湘南野菜のよさを伝えるべく有志が集まっているそうだ。頻繁にワークショップなども行っているとか。(左下)地元愛満載の「ハッピーショウナン」のTシャツも人気。(右下)職人による竹細工ワークショップ。穴をあけるだけの簡単ランプシェードや、懐かしの「竹ぽっくり」の制作が体験できた(左上)明るい大工さんたちの主導で大いに盛り上がる流しうどん。(右上)獲れたての無農薬野菜が手に入るマルシェ。湘南野菜のよさを伝えるべく有志が集まっているそうだ。頻繁にワークショップなども行っているとか。(左下)地元愛満載の「ハッピーショウナン」のTシャツも人気。(右下)職人による竹細工ワークショップ。穴をあけるだけの簡単ランプシェードや、懐かしの「竹ぽっくり」の制作が体験できた

『ゆっくりと日常を耕す舎(むら)』で形成されていくもの

畑を挟んだ裏手には高校が見える。海とは一味ちがう湘南の自然のなかで育まれるコミュニティは、どんな風に成長していくのだろう畑を挟んだ裏手には高校が見える。海とは一味ちがう湘南の自然のなかで育まれるコミュニティは、どんな風に成長していくのだろう

鵠ノ杜舎は、ブルースタジオの手掛ける物件のなかでも珍しい新築住宅。ここを賃貸住宅にした理由について、大島氏に尋ねてみた。

「ここで地域愛を育んでもらいたいんです。将来、家族が増えたり子どもが成長したり、環境が変化したら近くの家に移り住んでもらう。そんなライフスタイルを想定しています。ファミリー向けの部屋だけでなく、1人やカップルサイズの部屋を用意したのもそういう理由から。藤沢市にも空き家は多い。そうやって家が循環していったらいいと思っています。このゆったりとした環境でコミュニティを形成していってもらいたいです」

農地の広がるのどかな地域に生まれる新しい暮らし。周囲の畑は地域の人の所有なのだが、いずれは住人も利用できる環境を目指すそうだ。

入居開始は10月を予定。すでに2組の入居が決まっている。今回の完成はエリア南西側の13戸だが、今後時間をかけてさらに広がる予定だ。

"むらのような賃貸住宅"である鵠ノ杜舎は、多くの人や地域を巻き込んで、いずれ「舎(むら)」から「まち」へ成長する日がくるのかもしれない。

■取材協力
株式会社ブルースタジオ:http://www.bluestudio.jp/
株式会社湘南ユーミーまちづくりコンソーシアム:
  http://www.you-me-machidukuri.co.jp/
鵠ノ杜舎:http://kugenomori-sya.com/

2017年 08月30日 11時05分