中国では地域内で物資の調達・宅配などが行われた

緊急事態宣言が出た頃からマンションの管理組合の対処についての議論を聞くようになった。日常的な管理業務の中に感染症対策を付加できるか、居住者の中に発症者が出た場合の対処は、総会や理事会を開催するべきかなどさまざまな懸念が上がったが、率直なところ、一部の先進的な管理組合が行動指針を出した程度で、多くは試行錯誤しているうちに時間がたってしまった。これは地域でエリアマネジメントにあたる団体なども似たような状態だったはず。管理組合や地域団体のような自治に関わる団体がほぼすべて動けなかったのである。

一方、日中まちぐるみ防災会議で語られた中国での様子は日本とはかなり違っていた。イベントでは南京、上海にそれぞれ拠点を置いて活動する人たちがどのような活動をしたのかが語られたのだが、日本に比べると実践が伴っており、実際の困り事の解決につながっていたのである。

たとえば2009年以降南京市翠竹園社区助け合いの会をきっかけにまちづくりに関与してきた阿甘氏が活動している南京の社区では管理組合、管理会社と社区居民委員会、NPOの4者がそれぞれに役割を分担、正しい情報の伝達や団地内の消毒、住民の健康管理から物資の調達・宅配、デマ対策、余暇を楽しむ講座までを行っていたという。

これが可能になった背景には日本とは違う仕組みがある。関与した4者のうち、多くの日本人に知られていないのが社区居民委員会だと思うが、これを理解するためには中国独自の社区という地域を知る必要がある。

4者が役割を分担して消毒、人の出入りの管理から物資の調達、デマ対策と幅広い業務を分担した4者が役割を分担して消毒、人の出入りの管理から物資の調達、デマ対策と幅広い業務を分担した

地域に関わる4団体が共同してコロナ対策

中国では長らく政府が職場を通して社会的な管理とサービスを提供してきた。だが、どんな社会でもそうだが、生活のレベルが上がるにつれ、国民が望むものは増え、多様化する。そのすべてを国家が提供し続けることは難しい。

そこで考えられたのが、以前からあったものの日本の町内会的な組織だった居民委員会を、より自治的、主体的な組織に変えていき、居民委員会が管轄する地域=社区を単位として住民へのサービスを再編することだった。特に2000年以降、社区建設はある種ブームのようになっており、社区が主体となって行うサービスは高齢者、身体障がい者対応などの福祉面から生活利便施設の運営、文化・スポーツ活動の組織、治安維持や環境衛生の整備などと幅広く横断的だ。

町会、マンション単体などといった小さな単位ではなく、基礎的な行政機関である街道弁事処の指導を受け、国の財政的な支援もあることから実働できる組織であるのが社区の特徴。コロナ禍で日本と違う動きができたのは、そもそもの成り立ち、日常的な業務が大きく違う組織があったからである。

その居民委員会とそれ以外の団体が果たした役割をまとめたものが下の図。阿甘氏によるとロックダウン1週間後に4者が集まる会議を初めて開き、それぞれの役割を話し合って分担したという。最初にやったのはロックダウン期間中、社区からの出入りに必要な証明書を発行することで3日間かけて100人で5,000人以上分の証明書を発行したそうだ。

その他の活動の中で日本とはかなり違うと思ったのは、すぐにマンションごとのチャットグループを作り、情報伝達、共有に使ったという点。NPOもそれらを利用して情報を発信、感染症に関する講座を開いたり、ヨガや太極拳の教室も開催されたりもしたそうである。

4者それぞれの役割をざっと記したもの。特に管理会社とそれ以外を比べてみると明らかに役割が異なることが分かる4者それぞれの役割をざっと記したもの。特に管理会社とそれ以外を比べてみると明らかに役割が異なることが分かる

気軽に参加できる楽しいイベントでまちとつながる

続く上海の事例は社区を超えたITによる活動である。登壇者は東京都立大学でまちづくりを学んだ金静氏で、2018年にさまざまな本業を持つ人たちが副業でまちづくりに関わる団体ビッグフィッシュコミュニティデザインセンターを設立。今回のコロナ禍に際しては社区防疫助け合いネットワーク(Community Anti-coronavirus Network、略してCANプロジェクト)を立ち上げた。

これは自宅に閉じこもらざるを得ない人たちをインターネットを介してつなぎ、オンラインで協働する分散型協力ネットワークで、2月4日から6月初旬までの間に300人規模のオンラインコミュニティを結成。そこから20以上のチームが立ち上がり、「都市生活防疫パッケージ」「反偏見キャンペーン」「ベイビー時間管理ツール」「まちと握手する小さなこと」などの防疫ツールキットが作られた。

個人的に惹かれたのは実用的な課題解決以外の、オンラインで芝居をつくる、24時間連続で詩を読むなどといった芸術関連のプロジェクト。まちづくりと聞くと地域の役に立つことをする、問題を解決するなど努力や専門性が必要な作業のように思われ、ハードルを感じる人もいるのではないかと思う。

だが、まちづくりは人とつながることから始まり、そこで生まれた人間関係が不測の事態に対面したときの社会の強さとなると金氏。そのため、この間は小さくて楽しいことをみんなでたくさんやろうと呼びかけたのだとか。眉間に皺を寄せて考え込むより、気軽に参加できるイベントをというわけで、その姿勢がまちを面白くするのだろうと思った。

24時間連続で詩を読むというイベント。これなら誰でも参加できる24時間連続で詩を読むというイベント。これなら誰でも参加できる

オンライン化についていけない人をどうするか

最後に登壇したのは西東京市・東久留米市にまたがる、かつてのひばりが丘団地周辺のエリアマネジメントを行う一般社団法人まちにわ ひばりが丘の若尾健太郎氏。これまでは地域の約3,000世帯を対象にコミュニティセンターを運営、マルシェや各種イベントを開催するなど幅広い活動を行ってきたが、自粛期間中はほぼ休止状態だったという。

特に機能しなかったのは地域包括支援センターや各マンションの管理組合、周辺自治会などの関連団体とつくってきたプラットフォーム。横に連携して対処しようにもそれができない状態だったのである。一方で住民向けのLINEグループ、メールグループは活用でき、それを利用して情報を発信、感染症に関する講習会やオンライン懇親会などが開かれたという。これまで以上にメッセージのやり取りも行われていたそうで、今回のコロナ禍ではオンライ化があらゆる分野で進展したわけである。

とはいえ、オンライン化についていくのが難しい高齢者も多かったという。これはひばりが丘に限ったことではなく、上海の阿甘氏も活動当初にはチャットの使い方教室を開くなど高齢者向けの活動を行っている。オンライン化が情報格差、ひいては他の格差にも繋がりかねないことを考えると、高齢者だから、環境が整っていないからと諦めるのではなく、社会でサポートを考えていくべき問題かもしれない。

左上から時計回りに阿甘氏、金静氏、主催のHITOTOWAの荒氏、若尾氏左上から時計回りに阿甘氏、金静氏、主催のHITOTOWAの荒氏、若尾氏

オンライン、オフライン両面からまちを考えよう

登壇者はもちろん、参加者からも関心を集めたリスクを考えた行動のための一覧表。プラスとマイナスの両面を考えて作られている登壇者はもちろん、参加者からも関心を集めたリスクを考えた行動のための一覧表。プラスとマイナスの両面を考えて作られている

若尾氏の発表ではまちにわ ひばりが丘が作成した事業内容ごとにリスクを評価した一覧表が注目を集めた。具体的な指標を明示し、それに沿って事業の再開や延期、中止を説明するもので、これがあれば不安がある人に対して対策を説明でき、広く理解を得やすいというのだ。まだまだ先の見えない中、今後の活動をどうするか悩んでいる団体なら、同様の一覧表を作ってみると方針が立てやすいのではないかと思う。

ところで、全体を聞いて思ったことがある。日本ではマンションであれ、一戸建てであれ、加入する自治組織で一番大きいものでも町会、自治会止まり。しかも、いずれもボランティア団体で専門家がいるわけでも、実働部隊がいるわけでもない。お金もさほど持っていないことが多い。それでも日常的には問題はないわけだが、今回のコロナのような災害が起きた場合には誰も動けない。また、地域の価値向上を考えて何か活動をと思ったときにもマンションの管理組合はもちろん、町会、自治会でも範囲が狭すぎる。もっと広い視点で考える必要があるとしても、誰もその立場にはいないのである。

中国の社区は日本では行政がやっている公共サービスも担っている組織のため、そのまま、その形が参考になるわけではないが、町会、自治会よりも広い範囲を対象にしており、かつその地域内の関連団体と協働する力がある。組織として全体を考える力があるわけで、それが今回具体的な行動につながったと考えると、日本でももう少し広い地域で考える実働可能な団体があってもいい気がするのだが、どうだろう。

また、今回の件ではオンラインでも人はつながれること、まちづくりの中にはオンラインでできることがあることも分かった。今後オフラインに戻れる日が戻ってきても、それぞれのやり方の長所を生かし、2つの手を使い分けできれば、まちはもっと楽しく、孤独な人たちを生まない場になるかもしれない。その意味では今回のチャレンジは形は変わったとしても今後も続けてほしいところである。

2020年 07月14日 11時05分