家賃債務保証業の登録制度が2017年中にスタートする見込み

家賃債務保証業の登録制度導入によってどのような効果が期待できるのだろうか家賃債務保証業の登録制度導入によってどのような効果が期待できるのだろうか

国土交通省は賃貸住宅市場の適正化に向けて、いくつかの制度改正に取り組んでいる。2016年9月1日には改正賃貸住宅管理業者登録規定および同業務処理準則が施行されているが、引き続いて検討されているのが家賃債務保証業に対する登録制度の導入である。

これは2016年3月に閣議決定された住生活基本計画(全国計画)における「住宅セーフティネット機能の強化」に関連した動きだが、登録制度そのものは2010年頃から検討が進められてきた経緯がある。2016年10月および12月に開催された「家賃債務保証の情報提供等に関する検討会」でその方向性がまとめられ、2017年中に登録制度がスタートする見込みとなった。

家賃債務保証業の登録制度導入によってどのような効果が期待できるのか、導入が検討される背景となった問題とともにみていくことにしよう。

家賃保証をめぐるトラブルの相談件数は高止まり

家賃債務保証業の現状などについては「家賃保証会社を利用するメリットは? その仕組みと現状の課題」で触れているのでそちらも併せてご覧いただきたいが、家賃債務保証業とは簡単にいえば「賃貸借契約における連帯保証人の代わり」をする事業だ。少子高齢化や人間関係の希薄化などに伴い、親族などによる連帯保証人の確保が困難になっていることから、保証会社のニーズは年々高まっているとされる。

また、国が進める住宅セーフティネットの構築においては、住宅確保要配慮者が民間賃貸住宅へ入居しやすい仕組みづくりも大きな課題だ。そこで活用が期待されているのも保証会社である。

しかし、これまで家賃債務保証業を育成、あるいは規制するための法律や制度はなく、さまざまな問題も生じている。国土交通省の調査によれば、保証会社が業務を開始した年は2006年から2010年の間が最も多い結果となっているようだが、家賃債務保証をめぐる消費者からの相談件数(全国の消費生活センターなど)は2008年に急増し、それ以降は高止まりしている状況だ。

国土交通省のまとめによる家賃債務保証の契約数は、48社で約347万件(2016年3月末時点)である。ただし、現在の住宅市場において賃貸借契約のうち約6割(2014年時点で56%)が保証会社を利用しているとされ、契約実数はさらに多いだろう。それに対して消費者からの相談件数は年間600件台で推移している。この相談件数の数字が多いのか少ないのかについては議論の余地もあるだろうが、公的機関に寄せられることのないトラブルが数多く潜在している可能性も考えなければならない。

家賃債務保証をめぐる相談・苦情の例としては、身に覚えのない請求、不明瞭な請求、法定年率を超える過大な手数料の請求、説明不足なども挙げられているが、入居者が家賃を滞納して保証会社が立て替えた後、保証会社から入居者への取り立てが厳しくなりがちな面は十分に考えられるだろう。

家賃の滞納に対して執拗な督促をしたり、強制的に鍵を交換したり、同意のないまま物件に立ち入って動産の搬出や処分をしたりという事例もあるようだ。

国土交通省「家賃債務保証の情報提供等に関する検討会」資料をもとに作成国土交通省「家賃債務保証の情報提供等に関する検討会」資料をもとに作成

業界団体への加盟は4割未満

もちろん、業界内でも自主規制ルールを策定するなどして業務の適正化に取り組んでいる。2006年に設立された「家賃債務保証事業者協議会(公益財団法人日本賃貸住宅管理協会)」に52社、2009年に設立された「一般社団法人全国賃貸保証業協会(LICC)」に14社、同じく2009年に設立された「一般社団法人賃貸保証機構(LGO)」に4社(いずれも2016年9月時点)が加盟している。

しかし、重複加盟も多く「いずれかの業界団体」に加盟しているのは55社だ。国土交通省が把握している保証会社は147社であり、業界団体への加盟率は3割強にとどまる。加盟していれば良い会社、未加盟ならば悪い会社などというわけではなく、大手住宅会社の子会社が未加盟となっている例もあるが、悪質な業者が未加盟のまま営業しているケースもあるだろう。

また、保証業に関する共通ルールを策定、運用していくうえで、未加盟の保証会社には連絡が行き届かなかったり方向性がまとまりにくかったりする面も否めない。

そこで、検討されているのが家賃債務保証業に対する登録制度の導入だ。登録はあくまでも任意であるが、登録会社は国土交通省のホームページで公開するほか、賃貸仲介会社にもその活用を促すという。

国土交通省「家賃債務保証の情報提供等に関する検討会」資料より引用国土交通省「家賃債務保証の情報提供等に関する検討会」資料より引用

一定の要件を満たす保証会社を登録対象に

「家賃債務保証の情報提供等に関する検討会」は、施策の方向性として「一定の要件を満たす家賃債務保証業者を国に登録し、情報提供する制度を設けることにより、家賃債務保証業の適正な運営の確保、家賃債務保証業の健全な発達、賃借人等の利益の保護に資すること」を示したうえで、登録の要件をいくつか挙げている。

□ 業務の実施に必要な事項を規定した「社内規則」を整備すること
□ コンプライアンス遵守のための「社内研修」を実施すること
□ 役員などに対して適切に報告が行われる体制を整備すること
□ 入居者からの苦情などを受け付ける「相談窓口」を設置すること
□ 一定期間の経験を有する役員等が従事していること
□ 安定的な業務運営のための「財産的基礎」を有すること

また、契約締結の際に「契約内容に関する重要な事項を説明し、当該事項を記載した書面を交付する」など、業務適正化に向けたルールも定めている。実務上は賃貸仲介会社の宅地建物取引士による取引上の重要事項説明に併せて、保証契約に関する説明をすることが多くなりそうだが、仲介会社と保証会社の業務分担についてはさらなる検討も必要だろう。

さらに、登録された保証会社なら事前に契約内容を説明するが、未登録の保証会社なら説明をしないという対応も認められることになるため、消費者への周知が行き届かなければ制度の実効性に疑問が残る結果にもなりかねない。

国土交通省「家賃債務保証の情報提供等に関する検討会」資料より引用国土交通省「家賃債務保証の情報提供等に関する検討会」資料より引用

保証会社の信頼性向上が求められている

家賃債務保証業を「免許制」にして一気にハードルを上げることはせずに「登録制」にとどめるのは、保証会社を有効に活用したい、あるいは保証会社と協調していきたいという国の思惑もありそうだ。生活保護受給者、単身高齢者、障がい者などの「住宅確保要配慮者」に対して大家の拒否感は依然として強く、保証会社がバックアップしなければ入居が困難なケースも多い。

そのため、住宅セーフティネットを構築していくうえで、保証会社が審査を通りやすくするなどの協力をすることが大きな役割を果たすだろう。しかし、単純に「審査基準を緩めてくれ」というわけにはいかないため、一定の水準を満たす保証会社(登録会社)に対して何らかのインセンティブを付与する仕組みなども検討されている。また、住宅確保要配慮者が入居する際の補助制度などについては、登録された保証会社の利用を要件とすることになりそうだ。

すでに一部の自治体や居住支援協議会と、民間の家賃債務保証会社が協定を結んだうえで、住宅確保要配慮者への支援をする取組みが始まっている。一定の要件を満たす場合に、自治体が保証料の一部などを負担するものだ。また、地域のNPO法人や社会福祉協議会、一般財団法人高齢者住宅財団などが家賃債務保証を提供する例もある。

家賃債務保証業の登録制度がスタートすれば、自治体と連携したこれらの枠組みに加わる保証会社も増えるだろう。そのためにも、しっかりとしたルールを根付かせ、保証会社の信頼性を高めることが欠かせないのだ。

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