「今の家に住み続けたいけれど、最期まで大丈夫」と考えている人は少ない

タウン誌の編集、高齢者住宅運営会社の広報を経て2003年大阪でコミュニティネットワーク協会が運営する住み替え相談機関として高齢者住宅情報センターを立ち上げる。東京センター長を経て現在、大阪センター長を務める米沢なな子さんタウン誌の編集、高齢者住宅運営会社の広報を経て2003年大阪でコミュニティネットワーク協会が運営する住み替え相談機関として高齢者住宅情報センターを立ち上げる。東京センター長を経て現在、大阪センター長を務める米沢なな子さん

「みなさん、今、住んでいらっしゃる家で、亡くなるまでずっと暮らしたいですか?」
高齢者住宅情報センターの米沢なな子大阪センター長の質問に、セミナー会場からたくさんの手が上がる。
「では、今の家で最期まで大丈夫だと思う人は?」
2つめの問いには、バラバラと手が下がった。
これらは先日、大阪市立住まい情報センターで行われた「シニアライフ予備校〜高齢者住宅編〜」で、「高齢者住宅、ホントのところどうなん?」というテーマで登壇した米沢さんの冒頭の風景だ。

高齢者住宅情報センター(以下、センター)は、一般社団法人コミュニティネットワーク協会の組織で、東京と大阪に事務所を置き、第三者的な立場で高齢者住宅の情報を提供したり、高齢者やその家族の相談に乗ったり、セミナーや講演会を開催している。
設立14年目を迎えた大阪のセンターでは、安心して紹介できる高齢者住宅事業者30社に会員になってもらい、専門の相談員が相談者に「安心・安全・快適」に過ごせそうな高齢者住宅を紹介する。入居や生活設計、介護などの相談にも応じる。すべて無料だ。

住宅見学会、高齢者の住み替えに伴う後見人制度や身元引受人、相続の問題などの勉強会、協会が運営管理する永代供養の「合葬墓」の紹介・募集、「在宅」を支える仕組みづくりの企画・提案などセンターの事業の幅は広い。
それだけ人生の“終活”は盛りだくさんだということだ。

普段からアンテナを張ってこそ、上質な情報は集められる

大阪のセンターで、この13年間に受けた高齢者住宅への住み替え相談事例をまとめた小冊子「自分で決める老後の住まい方」を出版すると、近畿圏だけでなく、中国・四国地方まで700件ほどの問い合わせが相次いだ。冊子の申込者は40代から90代と幅広く、最も多いのは60代、70代で、その8割は女性だ。
冊子にアンケート用紙を付けたところ、さまざまなコメントが返送されてきた。
「今まで子どもの近くに行って看てもらおうと、お金を残すことばかり考えてきたが、高齢者住宅へ入って子どもには負担をかけない方がうまくいきそうな気がしてきた」
「高齢者住宅に入居するのは思っていたより費用がかかることがわかった。私の経済力ではとても無理」

現在、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅、シニア向け分譲マンションなど、さまざまな名称や形態で、高齢者向けの住宅や介護施設が増えている。その特徴や違いをしっかり理解するには、相当の情報収集と勉強が必要だ。
「電話で相談してこられたり、セミナーに参加してくださる人は、これからどこに住んだらいいのか、『ご自分の老後』を見据えて考えておられる一握りの方々。その他大勢の方は、あまり関心をもったり行動したりしません。普段からアンテナを張っているからこそ情報は入ってくるもの。意識の差はまだまだ大きいです」と米沢さんは話す。

高齢者住宅情報センターの大阪センターが2004年から発行している「茶屋町通信」に書いた記事を抜粋した小冊子「自分で決める老後の住まい方」(税込300円)が大きな反響に高齢者住宅情報センターの大阪センターが2004年から発行している「茶屋町通信」に書いた記事を抜粋した小冊子「自分で決める老後の住まい方」(税込300円)が大きな反響に

元気なうちに動き始めると、住み替えも家財処分もスムーズ

高齢者住宅への住み替えを決めても、子どもや親戚、友達が反対することも少なくない。まだまだ高齢者住宅に偏見や誤解が多く、「どうしてそんなところへ」と責められたり、「元気なのにまだ早い」「いずれは親を自分が看る」「住み慣れた町をなぜ離れるのか」と引き止められたりする。
実の子どもであっても、今の親がどんな暮らしをし、どんな余生を望んでいるのかは案外見えづらいものだ。
「娘は親が元気なうちに一緒に高齢者住宅の見学をし始めますが、息子は親が倒れてからあわてる…そんなケースをよくみかけます」と米沢さん。
まずは普段から親子や兄弟で腹を割って話し合っておく。高齢者自身も、早いうちから情報収集を始める。子どもと一緒に見学に行って、実際にどんな住環境なのかを見てもらうのもいい。
高齢になってからの家財の整理や処分、引っ越しには相当の体力が要る。「体力に余裕のある70代半ばまでに、が見極めどきでしょうね」と米沢さんは言う。要介護状態になってからでは、高齢者自身が選択できる余地は少なくなり、片付けも引っ越しも自分一人ではもうできない。“家族に入れられた場所“で我慢するのは少々つらい。

一方、高齢者住宅に入居しさえすれば、安泰なのだろうか。
入居後に「こんなはずじゃなかった」「自分の希望する住宅は他にある」と、高齢者住宅を転々と移る人もいる。
「何に対しても不平を言う人、至れり尽くせりを求め自分では何もしない人は、共同生活を伴う高齢者住宅には向きません。いつも不満を吐いて何度も住み替えている人は、入居を拒まれる可能性もあります」と指摘する。

高齢者住宅に“向いている、失敗しにくい“のはどんな人だろう。
人の意見に左右され過ぎず、自分の考えで行動できる人。
他の入居者との適度な距離感がとれ、人間関係をうまく築ける人。プライベートに踏み込みすぎない姿勢も大切だ。
新しい住環境になじむまでには少々時間がかかる。柔軟に考えられるよう、少しでも若い時期に行動を起こす方がいい。
「この町を離れたくないから」「このスーパーでしか買物したくないから」「病院を変えたくないから」など、高齢者住宅へ住み替えできない理由を縷々と挙げる人も少なくない。最期まで今の住まいで問題なく暮らせればいいが、決断できないことで住み替えのチャンスを失ってしまうのも残念だ。

高齢者住宅情報センターのみならず、自治体や金融機関、老人会などでも行われる高齢者住宅のセミナーや講演会に行ってみては?高齢者住宅情報センターのみならず、自治体や金融機関、老人会などでも行われる高齢者住宅のセミナーや講演会に行ってみては?

高齢者住宅の種類にとらわれず、仕組みやサービスの内容を見極める

コミュニティネットワーク協会は、さまざまな高齢者のニーズに応えていこうと、高齢者住宅「ゆいま〜る」シリーズの企画・開発にも携わっている。現在、全国で9棟が開設された。開発のあり方としては駅前再開発型、団地再生型、過疎地再生型、住宅の形態としてはサービス付き高齢者向け住宅、住宅型有料老人ホーム、介護付有料老人ホームなどいろいろある。
関西圏では2016年10月、2棟目となるサービス付き高齢者向け住宅「ゆいま〜る福」(大阪市阪市西淀川区、53戸)がオープンした。
入居条件は「入居時に満60歳以上」。家賃は、一括前払い(1,183万~2,668万円/31.99~58.99m2)か毎月払い(73,000~164,700円、入居時の敷金として家賃2ヶ月分)を選べる。加えて、1人入居の場合、生活支援サービス費と共益費で月額5万6,280円を支払う。
「ゆいま〜る」を企画する際には、入居検討者やコミュニティづくりに関心のある人を招いて会合を開き、意見を取り入れながら建物や仕組みを作り上げていく。ニーズの大きいのは「食堂がある」「24時間365日スタッフが常駐」「最期まで看てもらえる」の3つだ。

ゆいま〜る福に入居した人にはシングルの女性が多い。「身内に迷惑をかけたくない。自分のことは自分で」「元気なうちは気ままに。もしもの時に頼れる人がほしい」「気の合う人と出会えたらおもしろい」の声が集まった。
「外部に配布するちらしをつくる時に、入居予定者の人がみなさん、自分の顔写真を載せていいよ、とおっしゃってくださいました。満足のゆく選択ができたからなのではないでしょうか」と米沢さん。

これからの生活を描き、無理のない資金計画をたてる。ぎりぎりではなく元気なうちに住み替える。事業者が健全経営をし、経営者にしっかりした理念があるか見極める。最期まで看てもらいたいなら医療連携や看取りの体制があるかを確かめる。
「高齢者住宅の種類にとらわれず、どんな仕組みやサービスがあるかなど内容で選ぶといいと思います。自分の足下をみて、自分で老後の住まい方を考え、自分で選ぶことのできる人になっていただくお手伝いを」と米沢さんはセンターの意義を説く。

一般社団法人コミュニティネットワーク協会高齢者住宅情報センター
http://www.kurashi-sumai.jp

「ゆいま〜る福」の見学会に来た入居予定者や入居検討者たち。ここに自分が暮らしたら、と思い描きながら細部をチェックする「ゆいま〜る福」の見学会に来た入居予定者や入居検討者たち。ここに自分が暮らしたら、と思い描きながら細部をチェックする

2017年 01月04日 11時05分