豊島区のリノベーションスクールで学び、プレゼンを行い、事業化。空き店舗が旅館とカフェに生まれ変わった

2014年5月、民間研究機関「日本創生会議」人口減少問題検討分科会が発表した「消滅可能性都市」。2040年までに全国約1800市町村のうち約半数の896市町村が消滅する恐れがあるとされたものだ。インパクトのある内容だったので覚えている方も多いのではないだろうか。

人口が多い首都圏も例外ではなく、東京23区では唯一豊島区がリストアップされている。また、2013年に総務省統計局が発表した「平成25年住宅・土地統計調査」でも、豊島区は空き家率が東京都内ワーストの15.8%というデータが公開された。

その豊島区において、増加する空き家やまちの中で上手に使われていない場所を活用することでまちの問題を解決し、住み良いまちの実現を目指した、民間主導による公民連携型のまちづくりが始まっている。そのひとつが「リノベーションまちづくり」だ。

「リノベーションまちづくり」の一環として、豊島区で東京初のリノベーションスクールが開催されている。これは遊休不動産を活用した都市再生手法を実践を通して学ぶ3日間の短期集中スクール。所有者から提供された豊島区内の空き物件を対象に事業プランを作成し、最終日に物件所有者へ公開プレゼンテーションを実施。認められれば事業化されるというものだ。

2015年3月、都内で初めて開催された「第1回リノベーションスクール@豊島区」から生まれたのが、株式会社シーナタウンが運営する「シーナと一平」だ。

左/「シーナと一平」外観。とんかつ屋さんだった建物をリノベーションした。まちの人の記憶を受け継いでいくために、とんかつ屋さんの看板を残している 右上/株式会社シーナタウン 代表取締役の日神山晃一さんと、おかみの江本珠理さん  右下/以前この場所にあったとんかつ屋さんの包装紙と、近所の方がつくってくれたコースター。想い出を継承し、地域に愛される旅館と喫茶を目指している左/「シーナと一平」外観。とんかつ屋さんだった建物をリノベーションした。まちの人の記憶を受け継いでいくために、とんかつ屋さんの看板を残している 右上/株式会社シーナタウン 代表取締役の日神山晃一さんと、おかみの江本珠理さん  右下/以前この場所にあったとんかつ屋さんの包装紙と、近所の方がつくってくれたコースター。想い出を継承し、地域に愛される旅館と喫茶を目指している

池袋駅からわずか1駅。椎名町は下町情緒にあふれ、日常生活も普通に送れる住み良いまち

シーナと一平があるサミット通り。椎名町は池袋駅から1駅という便利な場所にありながら、下町の雰囲気も漂う。シーナと一平は、「商店街のお宿と喫茶」シーナと一平があるサミット通り。椎名町は池袋駅から1駅という便利な場所にありながら、下町の雰囲気も漂う。シーナと一平は、「商店街のお宿と喫茶」

西武池袋線「椎名町」駅から徒歩2~3分の場所にあるシーナと一平。椎名町駅は、一大ターミナル駅の池袋駅からわずか1駅。そのような場所とは思えないほど、駅前もゆったりした雰囲気が漂う。
先に紹介したリノベーションスクールで、株式会社シーナタウンの代表を務める日神山さんを含めたグループは、椎名町全体の様々な施設をゲストハウスとしてとらえるという「まちぐるみゲストハウス」の提案を行った。シーナと一平は、そのゲストハウスのひとつという位置づけだ。その提案が不動産オーナーの心を動かし、1階部分をミシンのあるコミュニティカフェに、2階を外国人向けの旅館として、今年3月18日にオープンした。

「かつて椎名町には『池袋モンパルナス』や『ときわ荘』※などがありましたが、これから世に出て行こうとする人たちをやさしく受け入れてくれるまちなのだと思います。谷中から移り住んで3年になりますが、池袋まで徒歩圏内にありながら下町の魅力にあふれていることに加え、商店街があるというある意味当たり前の日常を持ち合わせた、とても住みやすいまちだと思います」と日神山さんは椎名町の魅力を語る。

※池袋モンパルナス/大正の終わり頃から第二次世界大戦終戦頃まで、周辺にいくつものアトリエ村があり、多くの芸術家らが暮らし、活動の拠点にしていた
※ときわ荘/手塚治虫や藤子不二雄、赤塚不二夫など著名な漫画家が暮らしていた木造アパート

「布は世界の共通言語」。地域住民と海外旅行客の交流場所にもなっているミシンカフェ

カフェ内のミシンスペース。モノづくりを通した交流の場を提供する。気さくな江本さんと会話をしながら、色々な人が楽しく交流できる場所カフェ内のミシンスペース。モノづくりを通した交流の場を提供する。気さくな江本さんと会話をしながら、色々な人が楽しく交流できる場所

シーナと一平の建物のコンセプトは「布は世界の共通言語」。
「日本はもちろん海外にも布があります。世界中に布がない文化はないでしょう」と日神山さん。カフェの壁にも布がかかり、レトロな建物に華やかな彩りを加えている。旅館でも日本ならではの布を布団カバーにしたり、鍵に取り付けたりしているという。

「年配の方は、きちんと洋裁を習っていたり花嫁修業の一環として習ったりと、ミシンを上手に使える方が多いですよね。モノづくりを体で覚えながら大きくなった方が多いと思います。そのような皆さんにこの場所で自由にミシンを使っていただきたいという思いがあります。また、子育て世代の方はお子さんのバッグづくりなど、ミシンを使うシチュエーションが結構あると思います。子育て世代のママやパパにもこの場所を使ってもらうことで、世代を越えて人々が集まる場所になったらいいなと思います。
たとえミシンを使わない場合でも、刺繍をつくるなど、ものづくりが行われる場、交流の場として役立てていただければと考えています。さらに、カフェは旅館のコミュニケーションスペースでもあるので、布を介して海外の方と地元の方が交わる、世代と国籍を超えて集える場所をここでつくりたいと思っています」(日神山さん)

カフェにある座布団カバーやコースターは、近隣の方がつくってくれたもの。その手際の良さはプロ級で、手づくりカーテンのワークショップを開催するほどの腕を持つ日神山さんも感嘆したという。また一緒に来たお子さんが懸命につくったであろうコースターなどもあり、見ているだけで微笑ましい気持ちになる。一緒にものづくりをした経験は、シーナと一平と共に、長い間想い出として子ども達の記憶に刻み込まれるだろう。

会社をやめて女将に転身。カフェと旅館の顔として、たくさんの人に笑顔をおすそ分け

カフェで接客をしながら、2階にある旅館を切り盛りするのが、江本珠理さん。名刺には「おかみ」とある。前職は営業職だった。日神山さんがカーテンの手づくりを広めたいとワークショップを行ったところ、最初のメンバーとして参加し、日神山さんと知り合ったという。
「手づくりカーテンのワークショップに参加するぐらいですので、布に興味があるということですよね。布が好きであること、さらに色々な話をして彼女の人間的なポテンシャルの高さを感じたので、『女将』をやって欲しいとスカウトしました」と日神山さん。

「女将としてどうあるべきかは、会社を辞めてから考えました」と笑う江本さん。会社を辞めようか迷っていた時期だったこと、また20代半ばという年齢から「失敗してもやり直しができる」と女将業に踏み切ったそう。普段は1階のカフェでお客様の相手をしながら、住み込みのスタッフと一緒に旅館の業務もこなす。

カフェは、「ゴロンとしたい」「居心地がいい」と、母親と一緒に遊びに来た子どもたちにも好評の様子。母親がミシンで作業しながら、その横で子どもが遊んでいる。近隣の住民が気軽に立ち寄れる場所として、シーナと一平は確実にファンを増やしているようだ。

3月のオープン後、旅館は満室のことが多く出足は上々という。宿泊客は欧米からの旅行客がほとんど。「女将が良かった」「ジャパニーズスタイルがいいね」「このまちが楽しい」などという嬉しい評価が多いそうだ。

「私たちが海外に行く時に、観光地に行ってみたい反面、地元の方が行くような店で食事をしてみたいと思うことがありますよね。海外からの旅行客も、そのような一面を椎名町に感じているのかもしれません。
椎名町を存分に味わっていただきたいので、例えば商店街を歩いて焼き鳥を買い、カフェでビールを飲んでいただいても結構です。シーナと一平単体で完結ではなく、まちや商店街の皆さんを含めて、このまちのすべてを楽しんでいただきたいと考えています」(日神山さん)

リノベーションスクールの開催からわずか1年。空き店舗が地域の人たちの交流場所、そして海外からの旅行者をやさしく迎え入れる旅館へと生まれ変わった。豊島区ではスクールを今年も年に2回開催予定という。公民連携の取り組みが機能し、空き家を活用したシーナと一平のような、魅力あるプランが生まれることを期待したい。

■シーナと一平/http://sheenaandippei.sakura.ne.jp/

1階のカフェスペースは天井が高いため、床面積以上のゆとりが感じられる空間。モルタルの壁は近隣住民の人たちと一緒に塗り上げたもの。壁にかかるカーテンが鮮やかに空間を彩る。取材時もシーナと一平の噂を聞きつけたお客さんがお茶を楽しみに来ていた1階のカフェスペースは天井が高いため、床面積以上のゆとりが感じられる空間。モルタルの壁は近隣住民の人たちと一緒に塗り上げたもの。壁にかかるカーテンが鮮やかに空間を彩る。取材時もシーナと一平の噂を聞きつけたお客さんがお茶を楽しみに来ていた

2016年 05月23日 11時06分