昭和13年に建てられた古民家を再生。昭和レトロな街並みが味わえる場所

2015年3月、谷根千からほど近い閑静な住宅街にレトロな複合施設「上野桜木あたり」が誕生し、人気を集めている。上野桜木あたりは昭和13年に建てられた古民家を再生したもので、1・2号棟には、天然酵母を使ったビアホールや手づくりパンの店、塩とオリーブオイルの専門店、ヴィンテージのアパレルショップなどのこだわり満載の店舗のほか、事務所などが入居。3号棟は賃貸住宅とコミュニティスペースになっている。
「あたり」というネーミングも愉快だ。これは、「あいまいだからこそ、どこまでもひろげていける可能性がある」という意味でつけられたそう。

「再生された古民家は1~3号棟まであり、3号棟は父が生まれ育った場所。近年は住居やシェアハウスなどとして貸し出していたのですが、5年ほど前に空き家となってからは、そのまま放置していました。解体して駐車場や賃貸住宅などとして土地活用を考えていたところ、NPO たいとう歴史都市研究会さんからお話をいただき、このような活用方法に至りました」と、物件を所有する塚越商事株式会社 専務取締役の塚越良太さん。

解体予定だった3軒家が一転再生され、味わい深いショップなどに生まれ変わったのには、どのような理由があったのかを、もう少し詳しく紹介しよう。

左/地域の人も遠方から訪れる人も、大人も子どももお年寄りも一緒に楽しめる上野桜木あたり。外国人観光客の姿も目立った。路地ではイベントも開催される 右上/上野桜木あたりを管理する、塚越商事株式会社 専務取締役の塚越良太さん 右下/昭和の雰囲気を大切に再生された左/地域の人も遠方から訪れる人も、大人も子どももお年寄りも一緒に楽しめる上野桜木あたり。外国人観光客の姿も目立った。路地ではイベントも開催される 右上/上野桜木あたりを管理する、塚越商事株式会社 専務取締役の塚越良太さん 右下/昭和の雰囲気を大切に再生された

ドラマのロケ地や建物保全のために残したいとの声を受け、古民家再生を決断

上野桜木あたりに生まれ変わった3軒家は、もともと貴重なロケ地としてテレビドラマの収録場所となっていたそうだ。
「テレビドラマのロケ地として使われたことがきっかけとなり、昭和の建物を残したいというNPOたいとう歴史都市研究会の方々、また昭和の貴重な家を自ら活用したいという人々との出会いが、建物の再生を後押ししました。明治や大正時代の建物は多く残っていますが、昭和に建てられた長屋風の建物は珍しいそうで、建物保全という面でもお役に立てていれば嬉しく思います。
父が生まれ育った家でもありますので、更地にして賃貸住宅などをつくるよりも、残せるのなら残したいという想いもありました」と、古民家再生の理由を語る塚越さん。

通りから入った閑静な住宅街ということもあり、ショップがある場所としては少し目立ちにくい面も否めないが、その点は問題なかったのだろうか。
「ショップを誘致してくれたのはNPOたいとう歴史都市研究会なのですが、『一歩奥まった住宅地がいい』『味わいのある古い建物を使って商売をしたい』という方々から申し出があり、すぐに誘致が決まったと聞いています」

取材時は平日の午後にもかかわらず、大勢の人が行き交っていた。外国人観光客の姿も多い。
「この周辺は戦争時に空襲の被害がなかったため、古い寺社仏閣がたくさん残っています。その寺社仏閣巡りの観光ルートの近くに上野桜木あたりがあるため、たくさんの外国人観光客が訪れてくださっているのだと思います」

職人の手で生まれ変わった上野桜木あたり。新しくて懐かしい、多くの人が行き交う場になった。その昭和レトロな雰囲気をぜひ感じていただきたい職人の手で生まれ変わった上野桜木あたり。新しくて懐かしい、多くの人が行き交う場になった。その昭和レトロな雰囲気をぜひ感じていただきたい

ここでしか味わえない、手に入らない4軒のショップが好評

上野桜木あたりには、天然酵母のビアホール、手づくりパン、塩とオリーブの専門店、ヴィンテージのアパレルショップがテナントとして入っている。
1号棟の1階にあるのが「谷中ビアホール」。ここでしか飲めない谷中ビールがウリだ。熱処理をせず、酵母が生きている状態で提供されるため、コクや滑らかな喉越しが楽しめる。
1号棟の2階は「でも俺5時間だからユウスケ」という、変わったネーミングのショップ。西ヨーロッパ20世紀初頭から中期の衣類を中心に、アジアの衣類や雑貨などを販売している。
2号棟の1階は「Kayaba Bakery(カヤバベーカリー)」。谷中の有名店「カヤバ珈琲」が経営するパン屋さんだ。日本の食材や食文化を意識したパンが好評で、「しっとり、もちもちした食感が楽しめます」と塚越さん。
1階にもうひとつあるのが「塩とオリーブの店 おしおりーぶ」。立ち飲みカウンターを併設したオリーブオイルの試飲販売と塩の量り売りの店。「日本初の塩とオリーブオイルの専門店です」(塚越さん)

地元の方の普段使いに、遊びに行った人の楽しみに、そして外国人観光客にも日本を感じることができる、まさに多用途な古き良き複合施設といえるだろう。

左上/「谷中ビアホール」。ここでしか飲めないビールを飲みに行ってみよう 右上/「でも俺5時間だからユウスケ」。店主の個性が感じられるネーミングとプレート 左下/日本がコンセプトのパンが人気の「Kayaba Bakery」は「おしおりーぶ」の奥にある。近所にある「カヤバ珈琲」とハシゴしても楽しい 右下/こだわりの塩やオリーブオイルを揃える「塩とオリーブの店 おしおりーぶ」。店外から注文して、ベンチなどでドリンクを飲むこともできる左上/「谷中ビアホール」。ここでしか飲めないビールを飲みに行ってみよう 右上/「でも俺5時間だからユウスケ」。店主の個性が感じられるネーミングとプレート 左下/日本がコンセプトのパンが人気の「Kayaba Bakery」は「おしおりーぶ」の奥にある。近所にある「カヤバ珈琲」とハシゴしても楽しい 右下/こだわりの塩やオリーブオイルを揃える「塩とオリーブの店 おしおりーぶ」。店外から注文して、ベンチなどでドリンクを飲むこともできる

路地や座敷は貸し出しOK。地域に根ざし、貢献する施設として認知されてきた

3号棟の「みんなのざしき」。以前は茶道の先生が住んでいたそう。奥にはキッチンがあり、料理教室などにも使える。気軽に問い合わせてみよう3号棟の「みんなのざしき」。以前は茶道の先生が住んでいたそう。奥にはキッチンがあり、料理教室などにも使える。気軽に問い合わせてみよう

上野桜木あたりは、地域の方や訪れる方が自ら企画を立て、発信できる場として、「みんなのろじ」や「みんなのざしき」を用意し、手頃な価格で貸し出している。最近では東日本大震災で甚大な被害を受けた宮城県南三陸町の方々による海産物の販売などが行われた。また取材当日は3号棟でお茶会が開催されているなど、地域に根ざした活動が行われているのも特徴だ。

「『みんなのろじ』や『みんなのざしき』は、地域のお子さんやお年寄りにもぜひ立ち寄っていただきたいと考案したもので、料理教室ほか様々なイベント活用されています。興味のある方は、ぜひご連絡をいただきたいですね」(塚越さん)

上野桜木あたりがオープンして約1年。古民家再生について、塚越さんはどのように考えているのだろうか。
「新しい建物に魅力があることを否定しませんが、新しい建物が必ずしも良いということではないのではないでしょうか。古い建物を残せるなら、それもひとつの選択肢だということです。この上野桜木あたりをひとつのモデルケースとして、空き物件を上手に再生していただけると嬉しく思います」

老若男女すべての人が楽しめ、交流できる上野桜木あたり。谷根千からほど近く、ゆったりとした時間を感じられるこの場所に、散策がてらぜひ出かけてみてはいかがだろう。

■上野桜木あたり/http://uenosakuragiatari.jp/

2016年 06月07日 11時08分