「住む町・大阪」のPRが目的

大阪地下鉄の天神橋筋六丁目駅から直結する「大阪くらしの今昔館」。
2001年4月の開館当時、大阪市は働く場所、遊ぶ場所の印象が強く、人口は減少気味だった。そこで、「住む町・大阪」を意識してもらおうと、1999年11月に同じ建物の4階にある「住まい情報センター」を設立。住まいに関する講習会が開催されるほか、「隣が空き家のため不安」など、暮らしに関する相談の窓口にもなっている。そして約1年半後に昔の大阪の町を知ってもらい、どんな知恵をめぐらせながら、どのように住んでいたかを知ってもらおうとの目的で、大阪くらしの今昔館が誕生した。
調整主幹である西明子氏に館内を案内していただいたので、その魅力を紹介しよう。

夏季は江戸時代における天神祭宵宮の飾りつけが再現されている夏季は江戸時代における天神祭宵宮の飾りつけが再現されている

江戸時代の大阪の町並みを忠実に再現した町家の歳時記

嫁入り道具で造られた獅子の「つくりもの」。目は鏡、口は引き出しで表現されている嫁入り道具で造られた獅子の「つくりもの」。目は鏡、口は引き出しで表現されている

「大阪くらしの今昔館」は、江戸時代後期から戦後にかけての大阪の暮らしぶりが、リアルに感じられる仕掛けが施されている。
まずはエスカレーターで、9階の「なにわ町家の歳時記」を見下ろせる展望ゾーンへ。江戸時代(天保初年)の大阪の町並みを一望した後、展示室へ降りていくと、さまざまな資料から忠実に再現された実物大の店々が目の前に広がり、江戸時代にタイムスリップしたような錯覚に陥る。
冬季は商家のにぎわいが再現されているが、夏季は天神祭の宵宮飾りに模様替えし、それぞれの店先には「つくりもの」が飾られている。上方文化の特徴ともいえるつくりものは、ほうきやしゃもじ、花嫁道具といった身近なものを組み合わせて動物などを形作ったもので、創意工夫が楽しい。大阪町人たちがイキイキと生活を楽しんでいる様子が目に浮かぶようだ。
玩具屋の店先には昔ながらのおもちゃが並び、見学者は自由に遊ぶことができるそうで、これらすべてボランティアスタッフの手作りだとか。
「実際に展示物の中に入り込み、触れて、体験するのが目的の施設なので、どうしても、あちらこちらが壊れてしまうんです。おもちゃをすべて購入していたら大変な支出になってしまうので、ボランティアさんが頑張ってくださっています」
と、西氏。常に良い状態で見てもらうため、おもちゃを作り直すだけではなく、日々どこか修繕しているそうだ。

明治から昭和のくらしぶりを知るモダン大阪パノラマ遊覧

8階には、明治から昭和にかけての大阪を再現したパノラマが並ぶ。安治川と木津川に挟まれた立地で、江戸末期の大阪開港に伴い外国人居留地に定められた旧川口居留地や、通天閣とルナパークなどの様子がわかるほか、「空堀商店街」で育った主人公が、戦争で家をなくし、「城北バス住宅」で生活した後、市営住宅の「古市中団地」に転居する物語を、パノラマをみながら追体験できるプログラムもある。
「バス住宅」とは木炭バスをひとところに集め、住宅として利用したもので、大阪には2カ所あったという。
「これだけの木炭バスを集められたのは、この時代の大阪が栄えていたからでしょう」
と、西氏。ほかの都市ではない居住形式だそうだ。
模型は細かい部分まで作り込まれているので、じっと見つめているとその世界に入り込めそうな気持ちになるから、さっさと通り過ぎてしまわず、あちらこちらを観察してほしい。

戦争で焼け出された人々が住んだバス住宅。石炭バスを利用したユニークな居住形式だ戦争で焼け出された人々が住んだバス住宅。石炭バスを利用したユニークな居住形式だ

資料による正確な検証と、楽しんで見学してもらう工夫

今昔館の町並みは、「復元」ではなく「再現」と表現している。町並みを昔のままに作れば復元だが、見学者により楽しんでもらえるよう、建物の順番を変えたりしているので、再現になるそうだ。たとえば、江戸時代の大阪は天満組、北組、南組にわかれており、今昔館が参考にした町並みは北船場(北組)のものだから、天神祭宵宮の飾りつけはしていなかったはずだという。
検地結果が記録された「水帳」をもとに、建物の大きさなどを忠実に再現しながらも、大阪らしい祭の情景を楽しんでもらうため、架空の町並みとなっている。大阪三丁目という存在しない地名がつけられているのはそのためだ。

資料とした底本は数多く、特に興味深いのは『守貞謾稿(もりさだまんこう)』や、『街能噂(ちまたのうわさ)』など。著者の喜田川守貞と平亭銀鶏はともに、上方と江戸での生活を経験した人物で、それぞれの町を比較しているので、上方と江戸の違いがよくわかるのだそうだ。

長屋の賃貸様式に、畳や道具を一切入れない状態の長屋を貸し出す「裸貸し」があるが、これは上方が中心だったそうだ。なぜなら、上方の長屋は柱と柱の間の長さが一定なため、家具の大きさもそれに合わせて作られており、どんな古道具でもぴったりとはまる。一方江戸は柱の芯と芯の距離を一定に決めていたので、柱の太さで室内の広さが変わり、買ってきた道具のサイズが合わない場合もあったからだ。

「裸貸し」の裏長屋。道具はおろか、畳も入っていない「裸貸し」の裏長屋。道具はおろか、畳も入っていない

釘一本もおろそかにしない、徹底した再現ぶりから学ぶ

雨だれでできた穴。たくさんの入場者がこの上を歩くため、定期的に作り直さなければならないそうだ雨だれでできた穴。たくさんの入場者がこの上を歩くため、定期的に作り直さなければならないそうだ

今昔館は多くの学者が集まって検証し、忠実に再現したもの。江戸時代の工法で、釘一本さえ手を抜かず、和釘を使う徹底ぶりだ。数寄屋大工による建造だから、建築学を学ぶ学生はもちろん、落語家が江戸時代の暮らしぶりを見学にくることもあるとか。
着物のレンタルもできるので、江戸時代の大阪町人になりきって見学でき、外国人観光客には特に人気だ。

「旅行で訪れた方が、着物を着て、展示の中で撮影した写真をSNSなどに投稿してくださるので、それを見て興味をもってくださる方が多いようです。PR費用はあまりないので、大々的に宣伝はしていませんが、口コミで集まっていただいている状態です」
と西氏。

現在の入館者は、その半分を外国人観光客が占めるというが、数百年前の大阪を忠実に再現した、他にはない施設だから、日本人にも十分楽しめる。随所に館長やスタッフの遊び心がちりばめられており、軒からしたたり落ちた雨のしずくが地面を穿ってできた穴など、細かいところにも発見があるのだ。また、屋根の上の猫や、辻で遊ぶ犬のほか、お勝手にはやもり、物干し竿にとまるとんぼやつばめの巣などが見つかるから、宝探しのつもりで見つけてみるのも楽しい。
日曜日には、ボランティア町家衆による町家ツアーもあるので、大阪へお越しの際は、ぜひ見学してほしい。

大阪市立住まいのミュージアム 大阪くらしの今昔館
http://konjyakukan.com/

2016年 06月12日 11時00分