移住希望者に役立つ「Uターン・Iターン相談会」

近年、都市部から地方への移住を希望する人が増加している。2014年に内閣府が行った「農村漁村に関する世論調査」(内閣府世論調査2014年6月実施)でも「農山漁村地域に定住してみたいという願望がある」と回答した人の割合は、2005年の前回調査の20.6%から31.6%と増加している。

もちろん、これはあくまでも希望であり、実際に地方への移住・定住に踏み切るには現実的なハードルがあるのだろう。しかし、都市部に住む人々の地方移住願望は確実に増えているようだ。

こうした希望者のために、地方自治体でも移住促進のための施策を打ち出したり、情報提供にも努めている。都市部に赴いての「Uターン・Iターン相談会」などもその一つだ。こうした相談会では、どのような情報を得ることができて、どのような相談が行えるのだろうか。

今回は、2月27日に東京で行われた「しまねU・Iターン相談会in東京」に実際に参加してきた。

東京交通会館で行われた「しまねU・Iターン相談会in東京」。ひっきりなしに来場者が訪れる盛況ぶり東京交通会館で行われた「しまねU・Iターン相談会in東京」。ひっきりなしに来場者が訪れる盛況ぶり

漠然とした移住希望でも、相談会に参加できる?

市町村が発行しているフリーペーパーなどを集めたコーナー。デザインが美しいもの、コミュニティのイベント情報などさまざまなものがあり、見ているとなんとなく市町村の暮らしが見えてくる市町村が発行しているフリーペーパーなどを集めたコーナー。デザインが美しいもの、コミュニティのイベント情報などさまざまなものがあり、見ているとなんとなく市町村の暮らしが見えてくる

今回訪れた「しまねU・Iターン相談会in東京」は、「公益財団法人ふるさと島根定住財団」が主催するもので、この日は島根県の19市町村のうち、14市町村がブースを構えていた。財団では年に1度大規模なU・Iターンフェアを開催しており、今回のものは年2回開催される比較的小規模な相談会ということだったが、会場は多くの人で賑わっていた。各市町村ブースでも順番待ちをするほどの盛況ぶりだ。

会場で、取材に対応してくれた「公益財団法人 ふるさと島根定住財団 」UIターン推進課の植田和枝氏によれば、こうした相談会に訪れるのは、Iターン希望者が主流だという。
「Uターンの方々は、地元とのコミュニケーションが元々あるので情報は個別で入手されている方が多いと思います。一方Iターンの方々は情報をどこかで得る必要があるので、こうした相談会にはIターン希望の方が多くいらっしゃいます」

来場者を見ていると、シニア層の御夫婦から小さな子供連れのファミリー、単身で訪れる若者とさまざまだ。相談会のシステムは、市町村の各ブースに分かれていて自分で選んだ市町村に個別で相談をする形をとっている。そうなると、まだ住みたい地域まで確定できていない漠然とした移住希望を持っている者にとっては、少し敷居が高いようにも感じられたが、植田氏は「それほど気負わずにご相談いただける場を心がけています」という。

会場では、まず受付と同時に簡単な「相談カード」を書くようになっている。ここで、家族形態や移住希望時期、どんな移住のイメージがあるのかを書き込む。この時に移住時期やイメージがまだまだ固まってなかったとしても問題はないという。個別の市町村ブースとは別にフリースタッフがアテンドをしているため、どの個別ブースに行くべきか検討がつかなかったとしても、来場者の暮らしのイメージを聞きながら相談に乗ってくれるからだ。

また、会場では、各市町村別に「どんな仕事があるのか」「おすすめの定住プラン」などが書かれたチラシを展示するコーナーもある。例えば、紙漉き職人の後継者を求めるチラシや農家や牧場の担い手を求めるもの、温泉ソムリエの募集やITや介護士の急募など。このコーナーを眺めていると、その地域でどのような仕事があり、どのような暮らしができるのかがなんとなく見えてくる。

ほかにも、各市町村が発刊しているフリーペーパーを一堂に介したコーナーもある。デザイン的におしゃれにつくり込まれた冊子などを見ていると、その地域にどんな人々が暮らしているのかを感じることもできる。

移住地探しで必要な条件はどうやって見つける?

各市町村の募集人材やおすすめ定住プランを集めたコーナー。こちらでは、どういった仕事があるのかが一覧できて便利だ各市町村の募集人材やおすすめ定住プランを集めたコーナー。こちらでは、どういった仕事があるのかが一覧できて便利だ

実は筆者も、漠然とながら地方移住に憧れを持っているので、この機会に相談をしてみた。まずは、どの市町村ブースを訪れればよいのか、植田氏にアドバイスを求めた。ファーストステップの相談に挙げた移住イメージは、以下のようなものだ。

・両親が東京在住であり、仕事上東京に行く機会もあることを想定しての空港へのアクセスが良い地域
・夫婦ともども車の運転に慣れていないため、あまり雪が深くない地域
・夫は転職が必要になるため、都市部へのアクセスも良い場所
・子供が小学校低学年のため、小学校・中学校が近隣にある地域
・ある程度、自給自足ができるように「畑」が借りられる場所であること

「細部のイメージがなくとも、みなさん暮らしのイメージや必然的な環境というのはお持ちになっていらっしゃいます。車の運転ができるのか? 仕事を自営で考えているのか、これから就職先を探すのか? お子さんの年齢など……。漠然としたイメージでも、意外と必要な条件は出てくるものです」(植田氏)

植田氏によれば、島根では主要な空港は出雲市と益田市にある。出雲市のお隣、松江市が県庁所在地でもあり、企業への就職となると松江市が探しやすい。そして、この出雲市と松江市にアクセスのよいのが雲南市になるという。また、おしゃれなフリーペーパーを目にして気になった江津市は、最近若い人材の移住が増えている地域だという。

そこで、次の市町村個別ブース相談では、「出雲市」「雲南市」「江津市」のブースで相談をしてみることにした。

インターネット情報では見えてこない地域情報

市町村の個別ブースでは、先ほど植田氏からのアドバイスをもとに出てきた条件などを「相談カード」に追記して、見てもらいながらの相談だ。

出雲市では、やはり積雪量が少ない気候、総合病院や教育機関の充実、移住支援の現状などの話がきけた。筆者の状況とは離れるが、出雲市では現在「縁結び定住課」が設けられ独身のIターン女性を支援する助成もあるという。

出雲市に移住(居住)し出雲市内事業所に雇用される20歳以上の独身女性を対象に、上限5万円の引越助成金、月に上限2万円の家賃助成金、そして対象者を雇用する出雲市内事業者に月3万円の就業助成金を提供するものだ。定員15名のうち、現在9名の助成が決定しているという。

雲南市のブースでは、道路整備が進んでいるため空港へ車で30分、松江にも20分と交通の便がよいこと、さらに移住者の受け入れ体制として市がどのようなバックアップをしているのかを聞くことができた。

雲南市では、申請型の「空き家バンク」制度を設けているが、単にこれも空き家の情報を提供するだけでなく、市の「うんなん暮らし推進課」が総合窓口となり、住民と定住希望者をつなぐバックアップをしているそうだ。空き家情報だけでは見えない、移住者が溶け込みやすいコミュニティの状況なども情報提供するほか、自治会への挨拶などにも一緒に出かけるといったアフターフォローも行っているという。

実際に、現地の状況を体験してみたければ、1泊2日の「うんなん暮らし体験プログラム」も用意しているそうだ。このプログラムは、参加者のニーズに合わせてカスタマイズができるのがポイント。例えば農業をしてみたいのなら農家での野菜収穫などを経験できる「農業体験プラン」、子育て環境を確かめたいのであれば、保育園や支援センターを見学する「子育てプラン」、実際にU・Iターン者の声を聞きたいのであれば「U・Iターン者訪問プラン」など、独自にプランを作成してくれるという。

雲南市内では今、古民家を改装したシェアオフィスが創設されているなど、若者を中心としたチャレンジプロジェクトも活発化しているという情報も得ることができた。

一方、若手の移住が増えているという江津市では、どういった移住ケースがあるのかを中心にお話を聞くことができた。江津市では、2010年から地域おこしの最先端として、新たな事業プランを提案する「ビジネスプランコンテスト」を実施している。2015年には東京在住者のゲストハウス事業プランが大賞を受賞、賞金100万円を手にし、現在Iターンとして江津市に定住しながら事業展開を進めているという。

こうした取り組みなどを元に、人が人を呼び、江津市ではU・Iターン者が作るショップや企業が増えているそうだ。移住者が作ったカフェなどでのイベント情報も豊富にあり、移住で心配になるコミュニティへの参加というのも感じることができた。

島根県の地図。今回市町村ブースで相談したのは、出雲市・雲南市・江津市の3エリア。</br>気候や市町村の取り組みなど、それぞれ特徴がある島根県の地図。今回市町村ブースで相談したのは、出雲市・雲南市・江津市の3エリア。
気候や市町村の取り組みなど、それぞれ特徴がある

理想の暮らしに近づくため、活用したい相談会

半日ほどの開催時間で行われた「しまねU・Iターン相談会in東京」。相談会と聞くとどうしても、移住の詳細をある程度固めていないと敷居が高い気がしていたが、実際に参加してみると、思いのほか気軽に相談に乗ってもらえる。

市町村の情報も集約されているため、点在するインターネット情報を探すよりも、相対的に有益な情報を手にすることもできる。また、各市町村のカラーというのも、実際にブースで話を聞くと見えてくるので、自分のイメージをより具体的にしていくのに役立つだろう。
体験プログラムの情報なども、大々的には告知されていない情報を得ることができるので、移住地探しの次のステップにもつなげやすいと思う。

やはり、移住に大切なのは人と人のつながり。移住の考えが頭の中にチラリとでもある方は、まずはファーストステップとしてこうした相談会に足を運んでみると次の展開が開けるのではないだろうか。

今回お話をうかがった公益財団法人 ふるさと島根定住財団 UIターン推進課の植田和枝氏今回お話をうかがった公益財団法人 ふるさと島根定住財団 UIターン推進課の植田和枝氏

2016年 04月27日 11時06分